Fresh Artist ネオ・ニューウェイブの筆頭格 Geese

Geese

  

Geese

 

ギースはキャメロン・ウィンターを中心に学生時代の友人によってブルックリンで結成されたロックバンドである。

 

彼ら五人組のバンドとしての出発は、ガレージの演奏ではなく、小さな地下室でのジャム・セッションに始まった。最初、この五人組がリハーサルスタジオ代わりにしていた地下室には、スニーカーと毛布のブランケットの乗っかったマイクロフォン、そして、安っぽいアンブリフィターが置かれていた。


それらのアイテム、PA機材を足がかりにして、ハイスクールが終わった放課後に、このブルックリンの五人組は、ひとしれず地下室での演奏、ベースメント・ロックを奏ではじめた。幸いなことには、彼らが活動する以前のNYには、偉大なロックンロールアーティストたちのサウンドが存在していた。メンバーがすべて十代で構成されるGeeseは、これらのNYの往年のロックンロールの系譜を受け継ぐアーティストとして自らの個性的なサウンドの骨格を形作っていく。

 

往年のNYのオールド・パンクスの偉大なパイオニア、Televisionにはじまり、No New YorkのDNAのアートノイズ、近年のザ・ストロークスをはじめとするガレージロック・リバイバルのアーティスト、これらのプリミティヴないかにもニューヨークらしいロックンロールを、ブルックリンの地下室に活動拠点を置くGeeseは、2020年代に持ち越そうというのである。これは、なんということだ!? 多彩なニューウェイブとポスト・ロックを中間を行くような最新鋭のブルックリン・サウンドの切れ味はどのバンドもかなわないほどの強力なエネルギーによって彩られている。彼らのサウンドの特性ともいうべきものはまさに、オーディオ・インターフェイス”Line 6”のZen Masterのホームレコーディングのローファイ感満載のギターロックサウンドに裏打ちされた音楽なのである。

 

Geeseの生み出す新しい未来のロックサウンドは、きわめて刺激的であり、そして、若さゆえの周りのエナジーを飲み込むようなパワフルさが宿っている。そして、ネオニューウェイブの筆頭格であるIDLESと同じように、「宇宙的な拡張性を持つロック、Sci-fi-Rock」とも喩えるべき目のくらむほどの壮大さが感じられる。旧来のロックンロールに慣れ親しんできたリスナーにとって、このブルックリンの若者たちの新鮮味あふれる音楽には、目からウロコともいうべき驚きをおぼえることはまず間違いなしである。

 

今年10月29日に、Pertisans Recordsから1stアルバム「Projecter」を引っさげて鮮烈なデビューを果たしたGeeseのサウンドを初めて聴いたときには、「ついに、シカゴのドン・キャバレロの再来か!?」と思い、ストロークスが現れた瞬間や、アークティック・モンキーズが出現した瞬間にも似た奇妙な興奮を覚えたことだけは事実である。そしてノイズ、ガレージ性を感じさせながら、「ガチョウの走り」のようなスピード感を持つ。とりわけ不思議でならないのは、BPM自体はそれほど早くはないのに、ミドルテンポの楽曲であっても、奇妙な焦燥感や速さを感じさせる音楽でもあるのだ。これがブルックリンの時の流れなのかと感じさせる何かが存在しているかのようである。

 

もちろん、このGeeseが衝撃的なデビューを果たし、NMEをはじめとする著名な音楽誌が今年の再注目のアーティストと目するのには大きな理由があるはず。それは表面上の音楽性だけにはとどまらず、綿密な技法によって楽曲が構成されているからでもある。

 

シカゴのドン・キャバレロのようなよれたテープのような音響性、ラップのDJのスクラッチをロックで再現しようという新たなポストロックの実験性、前衛的な手法が取り入れられていることにも注目である。

 

ローリング・ストーン紙は、Geeseのサウンドを詳細に説明するに当たって、ネオ・ニューウェイブ、ダンス・ロックというカテゴライズを与えており、Strokes、DNA,Deerhoof、The Rapture、Black Midiの名を列挙し、なんとかこのGeeseの新しいサウンドに説得力を与えようしている。もちろんそれだけの言葉だけでは、このロックバンドの魅力は伝わるはずもない。それほどまで、奥行き、伸び、自由を感じさせる新鮮味あふれるフレッシュなロックバンドである。

 

三作のシングルと一作のアルバムをリリースしているGeese。本日、IDLESとともにヨーロッパツアーに出ている最中で、きわめて話題性に富んだグループであることは疑いを入れる余地はないように思える。

 

まだまだ、これからどのような活躍をするのかは未知数、なんとも末恐ろしいような可能性に満ちたロックバンドがブルックリンから出現してしまったことに戸惑いを感じざるをえない。今回、このGeeseのデビュー・アルバムについてごく簡単に触れておきたいと思う。

 

 

 



「Projecter」2021  Pertisan Records

 

 

「Projecter」2021  Pertisan Records


 

「Projecter」は、10月下旬にリリースされたGeeseのデビュー・アルバムである。Pertisans RecordsとPlay It Again Samから共同リリースされた作品。また、このアルバムのプロデューサーに、Fountains D.C、Squid,Black Midiのマスタリングを手掛けたダン・キャリーを抜擢し製作がなされている。

 

既に、このデビュー作がリリースされる前から、先行シングル「Disco」がリリースされ、またたく間に世界で大きな話題を呼び、全く無名の新人インディーアーティストであるのにも関わらず、Stereogumの「Songs Of The Week」、Faderの「Best Rock Songs」、Under The Raderの「Songs Of the Week」などをはじめ、イギリスの大手音楽誌NMEは「First On」に選出している。

 

そういった話題性もさることながら、このアルバムには18歳と19歳の若者たちの強いエネルギー、そして果敢に新たなサウンドに対してチャレンジを図る冒険心のようなものが満ち溢れていることがこれらの高評価を受けている要因のように思える。

 

もちろん、そこには、ポストロックバンドとしての表向きの印象があり、イギリスのBlack Country,New RoadやBlack Midiのようなアヴァンギャルド性が取り入れられていることに注目である。特に一曲目の「 Rain Dance」や九曲目の「Exploding House」といった楽曲には、ミニマリズムの影響性も見いだされてるが、何かこれらのサウンドには、旧来のポスト・ロックサウンドとは異なる空間の移動とも呼ぶべきScifi感が滲んでいるのがこれまでのライヒ、グラスなどの現代音楽に影響を受けたロックバンドと明らかに異なる特性といえるかもしれない。

 

その次世代の未来をいくSci-fi-Rockのサウンドは、イギリスのIDLESと同じく、ダンス要素のあるロックサウンドであることは、ローリングストーン誌が指摘しているとおりである。それは彼らのサウンドのルーツが地下室のホームレコーディングにあるからで、Line 6で生み出された生音というのを、あるがままの音楽としてパッケージすることにさほどためらいがないからこそ生み出せる「リアル感」ともいえる。つまり、「Projecter」は、スタジオ・アルバムでありながら、ライブを目の前で体験しているような仮想的なSF感を与えてくれる作品なのである。

 

その他にも、2000年代のガレージロックの雰囲気を漂わせた「Low Era」には、ストロークスやホワイト・ストライプスのファンをニヤリとさせるだろうし、また、4曲目の「First World Warrior」では、、Deerhoofのようなインディー・ローファイ感あふれるアプローチを見せていることにも言及しておきたい。デビューアルバムとして欠かさざるべき、ひときわ強いエナジー、周囲を巻き込んでいくような勢いという重要な要素も充分である。また、それと真逆の音を大事に噛みしめるかのような玄人感も持ち合わせた風変わりで特異なデビュー・アルバムである。

 

今、ヨーロッパツアーを敢行中、明日はオランダ、アムステルダムに向かうNYのGeeseの五人組。これから、どのような魅力的な作品がリリースされるのかロックファンとしては目が離せない。

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