New Album Review The Smile 「A Light For Attracting Affection」

 The Smile 「A Light For Attracting Attention」



 


Label:  XL Recordings

 

Release Date: 2022年5月13日

 


ザ・スマイル・サーガの記念すべき出発点


「A Light For Attracting Affection」は、レディオヘッドのフロントマン、トム・ヨーク、ギタリストのジョニー・グリーンウッド、そして、サンズ・オブ・ケメットのドラマー、トム・スキナーによるスリーピースバンドのデビュー作は、結成から約一年を経てリリースされました。先週のケンドリック、フローレンス+ザ・マシーンと並んで先週の大きな話題作であり、新作アルバムは長年のコラボレーター、ナイジェル・ゴールドリッチを迎えて制作が行われています。

 

何か、トム・ヨーク関連のレコードを説明するのに「デビュー作」というのも気分が落ち着かないような気もします。なぜこんな試みをしたのかと言えば、おそらく、トム・ヨークは、最近レディオヘッドとして失いかけていたバンドを立ち上げた際の新鮮な息吹のようなものを、このバンドで再体験したかったのではないでしょうか。そして、彼の思いは、アルバムの中で多種多様な形をとって表れています。およそ、BBCのドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」のサウンドトラックとして提供された「Pana-Vision」に象徴されるように、「トム・ヨーク節」とも称せる独特な旋律を擁する幽玄な雰囲気に満ち溢れています。喩えるなら、手元にあるアンティークの世界地図を取り上げ、その架空の場所を隈なく眺めるかのような文学的な描写も見受けられる。 


音楽的には、トム・ヨークの内省的かつ繊細な雰囲気が醸し出されているのは、これまでのソロやバンドから引き継がれた要素でもある。数年前、レディオヘッドとしてジョイ・デイヴィジョンの「Ceremony」をカバーしていることからも分かる通り、バンドやソロ活動とザ・スマイルズが決定的に異なるのは、三曲目の「You Will Never Work In Television Again」や七曲目の「Thin Thing」にあらわれているように、ジョイ・デイヴィジョンのようなポスト・パンク的な少々荒削りなロックのアプローチが垣間見えること。それは、アルバムの全体的な作風を彩るUKエレクトリックやダブ寄りの楽曲が目立つ中、ガツンとしたスパイスのようなものを付け加えています。

 

その他、ソングライターとしての変身ぶりが見られる楽曲として、「Free In The Knowledge」、それから、アルバムの最大のハイライトである「Speech Bubbles」が挙げられるでしょう。特に、後者の楽曲では、最初期のレディオ・ヘッドを彷彿とさせるものがあり、さらに、そこに独特な彼の人生観、省察、人生哲学がありありと滲み出ています。特に、「Speech Bubbles」は、これまでのレディオヘッドの楽曲よりも、オルガンやストリングスやピアノをフーチャーし、オーケストラ・ポップの新鮮でゴージャスな色合いを出すことに成功しており、おそらく、「The Bends」の伝説的な名曲「Fake Plastic Tree」の内省的なアコースティックな楽曲を好む方にとっては、またひとつ、トム・ヨーク関連ののアンセムソングが付け加えられたと言えるでしょう。 さらに、トム・ヨークは、近年、思索的な音楽性を好むようになっているように思え、以前の「Ok Computer」の時代を彷彿とさせる繊細性に加えて、独特な渋みがにじみ出ています。 


さらに、もう一つ面白い点を挙げるなら、「A Light For Attracting Attention」のクライマックスを彩る「Skirting On The Surface」は、木管楽器が取り入れられており、これまでのレディオヘッドとは異なるポスト・ロック、ノルウェーのJaga Jaggistのようなジャズ・ロックに近いアプローチが図られている事に注目です。そして、やはり、トム・ヨークの歌はこれまでと同様、悲哀、内省といった、壊れやすいガラスのようなデリケートな雰囲気に包まれており、トム・ヨークにしか生み出せない旋律やリズムのひねりが加えられている。


振り返ってみれば、1990年代、元々は、Pixies、NEUの系譜を受け継ぐオルタナティヴの申し子としてロックシーンに出現したレディオ・ヘッドという存在がきわめて革新的だったのは、他のバンドが取り入れていないDTMの要素をロックバンドとして先んじて導入したことでした。コンピュータープログラミングを介して、1990年代から2000年代の初頭にかけて、他の追随を許さない独創的な音楽を生み出していたのは、既に多くの方がご存知の通りです。


しかし、2000年代半ば以降、誰もが簡単にラップトップを通じて気楽に作曲を行うようになってからというもの、レコーディングバンドとしての神々しさが徐々に失われていったように思えます。無論、無類の音楽フリークとして知られるトム・ヨークとしてもそのことは理解しており、「OK Computer」、「Kid A」の時代の輝きを取り戻そうと、様々な方法で試行錯誤している真っ最中なのです。つまり、ザ・スマイルズの旅は、まだ、このデビュー作で始まったばかり、今後、さらなる改善の余地がありそうなプロジェクトともいえるのです。

 

一作品としては、さすがのナイジェル・ゴールドリッチのプロディースというよりほかなく、アーケイド・ファイアの「WE」のダイナミックさとは全く異なるプリミティヴな内向きのロックの質感が提示されていて、物凄い迫力がこもっている。作品としては、ずば抜けて完成度が高く、上記のような聴き応えのある楽曲も収録されていますので、レディオ・ヘッド/トム・ヨークのファン、及び、彼の音楽を聴いたことがないリスナーとしても、ぜひとも手元に置いておきたい作品です。ただ、ひとつ苦言を呈しておきますと、アルバムを聴く前に期待していたような革新性があるかといえば、そうとは言いがたい。彼は、空前絶後のアーティストであり、期待値も飛び抜けて高いため、その点だけが昔からのファンとしては、少しだけ物足りない気が致します。

 

(Score:77/100)

 

 

 

 


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