Water From Your Eyes 『Everyone’s Crushed』 / Review

 Water From Your Eyes 『Everyone’s Crushed』

 

Label: Matador

Release: Matador

 




Review 

 

SFのようなコミカルな世界観、AKIRA風のアニメーションのアルバムジャケットとMV、エレクトロニックの周りを縦横無尽に駆け巡る次世代のシンセ・ポップ。今年、マタドールと契約を結んでニューアルバムを発表したネイト・エイモスとレイチェル・ブラウンによるWater From Your Eyesには様々な呼称が与えられて然るべきだろう。とにかく彼らが志すのは、次世代のシンセ・ポップで、近未来のエレクトロニックである。しかし、その中にはB級映画のようなニッチな二人の興味や好奇心が取り巻き、それらがなんとも良い味を出しまくっているのである。

 

デュオの音楽性には、YYY'sのローファイっぽさやカレッジロックの影響も少しだけ見受けられるが、シュットゥックハウゼンのセリアリズムのような実験的な電子音楽とも無縁ではないことはオープニングを飾る「Structure」を見ると分かることだろう。かつてのオルタナティヴのようにちょっとしたひねりを加えたシンセサイザーのシークエンスに浮遊感のあるネイト・エイモスとレイチェル・ブラウンのボーカルがたゆたう。それはいくらかチープではあるのだけれど、その一方で聞き手をその音の擁する世界に惹き込む力を持ち合わせているのだ。

 

X-Ray Specsを彷彿とさせる一昔前のレトロな感じのシンセにR.E.Mのカレッジ・ロックの渋さを加味した「Barley」は、新たな時代のSFポップの台頭を予感させる。フラッシュ映像のように切り替わるフレーズは、クラフト・ワークやデペッシュ・モードに対する親和性もあり、テクノの次世代にあるポスト・テクノを体現している。レイチェル・ブラウンの声はバックトラックにパンチを加え、ポスト・パンクのような風味をもたらす。それがスチームパンクのようなコミカルな雰囲気を生み出すことに成功している。

 

その後、アルバムはよりポストパンク性の強い展開へと結びつき、「Out There」では同じようにレトロな音色のリードシンセとディスコポップを融合させ、聴きやすく親しみやすい音楽で初見のリスナーを魅惑する。金属的なパーカッションはシンセで構成されるが、ここにデュオの『No New York』に近い旧来のニューヨークのナンセンスなポスト・パンクへのコアな偏愛も読み解くことが出来る。さらにこの曲で手の内をさり気なくみせておいた上で、ノイズパンクの要素は「Open」でより顕著になる。ここではUKのニューウェイブに対するNYのノーウェイブの残映を旧来のリスナーは捉えることに成功することだろう。しかし、それは実験的ではあるが、その音楽は飽くまでポピュラーミュージックの範疇に留められていることが肝といえるのだ。

 

同じく、ジャーマンテクノをギターロックという観点から捉えた「Everyone's Crushed」でこのアルバムの楽しさは最高潮に達する。ディオは自分たちのコアな趣味を交えながら、それらにコミカルな要素をまぶすことでSFポップの新境地を開拓している。グルーブ感のあるベースラインに続いて、レイチェル・ブラウンの程よく力の抜けたスポークンワードに近いボーカル、シンセ・ストリングスのピチカート、パンチの聴いたギターのリフは曲の中盤にかけて跡形もなく解体されていき、やがてギターとブレイクビーツが混沌としたノイズの中に曲そのものを飲み込んでいき、その最後はそれ以前の要素を一緒くたにしたドイツ・インダストリアルのごとく尖ったカオティックな実験音楽風の終盤の展開に直結してゆく。音楽性のニュアンスはかつてのNYのノーウェイヴのようにナンセンスではあるのだが、奇妙なほどその音楽には親しみやすさがある。それはデュオは現実性というよりも、現実の中にあるコミカルさを鋭く抉ってみせているからなのだろう。


再び、その後、最もノイジーなポストパンクの最深部へと達する「True Life」もまたデュオがNYのノーウェイヴの最後の生き残りであることを示すとともに、現代のポスト・パンクの刺激的な瞬間を刻印している。ノイズ・アヴァンギャルドとして最もパンチの聴いたトラックとして楽しめるはずだ。


アルバムの終盤になると、中盤までのポスト・パンクデュオとしての性質はいくらか薄れ、「14」には現代音楽に近いアプローチが取り入れられている。ストリングスとシンセサイザーのオシレータートーンが織りなす奇妙なエモーションは、レイチェル・ブラウンの同じような繊細かつふてぶてしさのあるボーカルにより、ダイナミクスは最大限に高められていく。このトラックはアルバムの中でもデュオがアヴァン・ポップに最接近した瞬間となろう。しかし、そのドラマティックな展開も束の間、最後の「Buy My Product」ではふてぶてしいポスト・パンクへと立ち返るのが素晴らしい。センスのみならず実力も兼ね備えたブルックリンのデュオの最新作に注目すべし。

 

 

80/100

 

 

Featured Track「True Life」