De De Mouse ☓ Maejima Soshi 『Summer End's Girl』

 De De Mouse ☓ Maejima Soshi 『Summer End's Girl』


 

Label: Lonely Girl

Release: 2023/8/16

 

 


Review 


De De MouseとMaejima Soshi、国内のエレクトロニカを代表するプロデューサーによるコラボ・EP。アートワークのイラストは大島智子による。宇宙ネコ子のアルバムなどを手掛けるイラストレーターだ。

 

昨年、De Deこと遠藤さんは、国内のポストロックバンド、LITEとの新規で立ち上げたコラボ・プロジェクト、Fake Creatorsとしてフジロック '22のステージに出演した。出演前夜から遠藤さんは意気揚々と現地レポートを行っており、LITEのメンバーと一緒に宿泊したホテル先から、とんでもない現地報告をソーシャルで公開していた。正直、LITEのメンバーの泥酔具合を見ると、(あるメンバーは、その夜、トイレから出られなくなっていた。それをDe Deさんは動画のスニペットとしてソーシャルの投稿で公開していた)その様子は、男子高校の修学旅行の夜にしか思えず、本番は大丈夫なのか、と外野から心配していたが、翌日、難なくDJセットやFCのステージをサラッとこなしていたところを見ると、やはりそこはプロミュージシャン、真夜中の苗場のステージをガツンと湧かせた。De Deさんだけはなぜかいつもシラフに見えたのは余談だ。


本作はまさに2023年の夏の思い出にふさわしい一枚。De De Mouseといえば、Avex所属の時代から、また、その後の時期にかけて、「サマー」と題された作品を発表してきた経緯がある。また、同じように「ガール」と題された作品を発表してきたのも旧来のファンの知るところだろう。

 

De De Mouseは、以前からボーカロイドを駆使し、エレクトロニカとの融合に取り組んできたアーティストであるが、今回、それらの活動期の集大成を形成するようなミニアルバムとなっている。ローファイ・ヒップホップや、チルアウト、テクノあたりを基調として、Bonobo(サイモン・グリーン)の『Migration』、『The North Borders』周辺の涼やかなエレクトロニカを彷彿とさせる音作りに取り組み、コラボレーターのMaejima Soshiとともにセンス抜群の電子音楽を制作している。

 

またオープニングを飾る「Sparkle Girl」を見ても分かる通り、単なる方法論としてのエレクトロニカにとどまらず、情感を大切にした電子音楽が今作の魅力である。もちろん、歌ものではないにしても、シンセのフレーズには間違いなく歌心がある。そこにヒップホップ風のリズムトラック、ピアノの音色を交え、安らいだリラックス感を作り出している。これは、Kota The Friendあたりのコアなローファイを思わせる。また、パーカッションの音作りの方向性は、ナチュラルな雰囲気があり、2000年代のエレクトロニカの象徴であるHeliosの『Eingya』を彷彿とさせる。


「Memory Lane」の映画のサントラのようなストーリー性のある音の運びにも注目したい。イントロのピアノは、北野武の「菊次郎の夏」のテーマ曲を思わせ、それらの淡い感覚が洗練されたローファイヒップホップとして昇華されている。重要な点は、メロディーはテクノであるにも関わらず、リズムはヒップホップであるということ。これらの旋律の良さとリズム感の巧みさを掛け合せたトラックは、一聴に値する。しっとりとしたエレクトロサウンドを作りだすことにかけては比類なき、日本のエレクトロニカを象徴する両プロデューサーのコラボの妙を楽しめる。アウトロにかけてのしんみりとした感じは、夏の花火の後のセンチメンタリズムを思わせる。

 

特に今作では、以前よりもヒップホップに親和性のあるトラックメイクが際立つ。「Hitori」では、DJのスクラッチの技法を交え、それをエレクトロニカとして昇華している。そこにはターンテーブルのチョップの影響も見られるが、それがいかにもDe De Mouseらしいノスタルジックな電子音楽としてアウトプットされている。この曲では、このアーティストの代名詞ともいえる名曲「East End」の頃を思わせるテクノとハウスの中間にあるサウンドを楽しむことができる。

 

他にもMaejima Soshiが手掛けた「2 Return」は、世界的なエレクトロニカとして聴いてもなんら違和感がない。Bonoboに近いミニマル・テクノな音作りはもちろん、チルアウトの涼やかなビートが深いグルーブを生み出し、Nujabesのようなピアノのサンプリングを散りばめ、軽やかなクラブ・ミュージックとして昇華している。サイモン・グリーンの「Citrus」のように、パーカーションの要素を夏らしい清涼感のあるサウンドに仕上げた。この手腕には脱帽するよりほかない。

 

同じく続く「PANGG」は、Maejima Soshiが手掛けている。フィルターを掛けたイントロはヒップホップ/ローファイを下地にし、また、それらのサイケなリズムトラックと落ち着いたピアノのスニペットが散りばめられていく。それはキラキラしたネオン、つまり、東京の都心部の真夜中の裏路地を思わせる。この曲では、リズムを重視した乗りやすいヒップホップ・サウンドが貫かれているが、同時に、アルバムの主要なテーマであるリラックスした感覚がリズム・トラックに折り重なり、心地よいローファイ・ヒップホップ・サウンドが生み出されている。アウトロではピアノのフレーズが美麗な雰囲気を形成し、最もロマンティックな瞬間を見出せる。


「Lyra, Vega」はMaejima SoshiのトラックをDe De Mouseが受け継いだ連作のような楽曲である。前の曲のチルアウトの雰囲気を引き継いで、それを、らしさのあるテクノという局面から組み直している。時折、導入されるボーカルのサンプリングや、しなるようなリズムトラックは、前曲と同じく心地よいリラックス感にあふれている。曲の終盤では、エモーショナルな雰囲気が最高潮に達し、ほろりとさせる淡い切ない感じすら漂い始める。英国/米国のエレクトロとは異なる、わびさびのあるテクノ・サウンドが、一番の聞かせどころといえるかもしれない。

 

「Sayo_Nara」は唯一ボーカル・トラックとして収録。De De Mouseらしいテクノとハウスの中間にある曲調に夢想的なボーカルが揺らめく。曲を聴いてどんな夏の風景を思い浮かべるのかはリスナー次第。 

 

10代の頃の青春時代を想いうかべても良いし、それとは別に、家族や友人との夏の休暇を思い浮かべても良い。さらに、記憶の底に置き去られた、誰かとのひと夏の別れを思い浮かべるのも自由だ。このボーカル・トラックには、現行のエクスペリメンタル・ポップともハイパー・ポップとも異なる、J-Popを下地にした日本固有の珠玉のポピュラー・サウンドが貫かれている。

 


79/100

 


「Sayo_ Nara」(feat. Misi Ke)