JUNGLE 『Volcano』

 JUNGLE 『Volcano』



Label: AWAL Recording

Release: 2023/8/11



Reivew


今をトキメク、ロンドンのソウル・デュオ、JUNGLEはネオソウルの旗手として活躍している。ブルースを噛んだアーシー・ソウルをサンプリングとして処理し、ブレイクビーツ的なソウル・ミュージックを生み出している。それらのサンプリング・ソウルとしての成果が前作アルバム『Love In Stereo』で顕著に現れることになった。

 

ジャングルのサンプリングの元ネタは、その多くがアース・ウインド&ファイアをはじめとするミラーボールのディスコサウンドではあるが、古びた印象を与えることはない。サンプリングは、ブレイクビーツ的な処理を介し、グルーヴを生み出すための断片的なスニペットとして使用される。


もちろん、彼らの音楽性の命題は、単にミラーボールのディスコサウンドのリヴァイヴァルにあるわけではなく、それをモダンなヒップホップ風の音楽として、どのようにアウトプットするかという点にある。ロンドンのベースメントのクラブ・ミュージックのコアな部分を喉元から飲み込んで、最終的には、UKガラージを中心とするダンス・ミュージックを織り混ぜたディスコ・サウンドというかたちで吐き出される。つまり、ダンス・フロア向けの音楽をJUNGLEは志向しているが、そこには、DJのチョップ的な嗜好性がふんだんに取り入れられているのだ。

 

 

もちろん、最新作『Volcano』でもサンプリングを中心とする彼らのディスコサウンドは健在である。ボールルーム・ディスコのノリの良さと多幸感を抽出したオープニング「Us Against The World』は、JUNGLEらしい一曲と言える。アース・ウィンド&ファイアーのアーシー・ソウルの女性コーラスを織り交ぜ、全般を通して、享楽のダンスフロアへとリスナーを誘おうとしている。


表面的には軽いノリを意識しているが、ファンクに根ざしたハネの強いベースライン、サンプラーの音色が複雑に絡み合い、上辺のキャッチーな女性コーラスと劇的に混ざり合う。ジャングルは、DJ、プロデューサーとして遠巻きにディスコ・サウンドの妙をコントロールしている。モダンなソウルではありながら、多幸感に加え、懐古的なビンテージ・ソウルの風味が匂い立つ感じに溢れている。どことなくレコードのソウルの懐かしさが、プンプンに漂っているのだ。

 

最初のトラックでファンの気持ちを掴んだ後、「Holding On」を通じて正体不明のダンスミュージックを展開させていく。ロンドンのクラブ・ミュージックの要素を取り入れ、ダブの影響を織り交ぜながら、やはりアーシー・ソウルというゴールへと向かっていく。70年代のクラブ・ミュージックとして出尽くした感のあるコーラスのフレーズも、なぜかデュオの手にかかると、モダンでオシャレな音楽ということになってしまうのが不思議だ。これはきっと、彼らの音楽が「ターンテーブルのソウル」という一定の指針を持って制作されているがゆえなのだろう。

 

ひとつ、重要な点を挙げると、JUNGLEはアルバムを通じて、起伏のあるソウルミュージックを構想の中に取り入れている。特に、バラードとしての雰囲気を持つ「Candle Flame」は、以前よりもロマンチックな感じに満ちている。続く「Dominoes」は一転してモータウン・サウンドや、その時代にまつわるサザン・ソウルをブレイクビーツ的に処理しようとしている。ここには、ビンテージ・ソウルやレコードのノイズにまみれたソウルへ偏愛が余すところなく示され、JUNGLEらしい、まったりとしたスタイリッシュなソウルとしてアプトプットされている。 

 


デュオは、アルバムの中盤においても、マニアックかつニッチなヴィンテージ・ソウルの無限の領域を探求しているが、Channel Tresの参加をみると分かるとおり、それらのソウル/ファンクは、モダンなヒップホップに強いインスピレーションを受けていることが分かる。中盤の展開では、ラップから見たソウルではなく、それとは逆に、ソウルから見たラップの手法が示されているのが興味深い。取り分け、「Back On 74」では、70年代のR&Bの影響が取り入れながらも、メロディーやコーラスという点において、モダンな雰囲気を生み出すことに成功している。

 

DJのスクラッチの影響については、以後さらに鮮明になっていく。「You Ain't No Celebrity」はターンテーブルのコアなスクラッチで始まり、ビートにダブやブレイクビーツの技法を取り入れ、独特なリズム感を生みだしている。しかし、これらのリズムトラックの上を、アーシーソウル風のコーラスが軽やかに舞う。この絶妙なコントラストに関しては、ソウルの華やかさすら感じ取る事もできる。ネオ・ソウルのシーンの最前線を行くデュオの真骨頂とも称すべきだ。

 

その後、ボールルーム・ディスコへの回帰とヒップホップの融合性は、続く「Don't Play」において見出せる。その基本形に、バレアリックのセレブ・ディスコの軽さを、ボーカル・トラックのデチューンにより再現させる。この曲を通じ、JUNGLEの面々は、レコードの逆回転の音の変調の面白さをソウルという局面で追求している。分けても、ベースラインのブレイクビーツ的な処理については瞠目すべき。リズムを配置しなおすことで、奇妙なグルーブ感を造出している。サンプラーやターンテーブルの卓越した技術が表れ出たトラックと言えるのではないか。

 

アフロソウルとディスコを融合させ、モダンなサウンドとして抽出した「Every Night」も何かしら異質な空気感が漂っている。リズム・トラックの上に女性のコーラスがサンプリングとして挿入されているが、前曲と同様に、レコードの逆回転のようなエフェクトを掛けているのがかなりエグい。ここでは、ソウルの甘さとは別のサイケデリアを彼らは示そうとしている。そして、アフリカの音楽に触発されたと思われるパーカッションは、そのエグみを消し、曲自体にリラックス感をもたらしている。アウトロでは、やはりディスコ・サウンドへ立ち返っている。

 

アース・ウィンド・アンド・ファイアーの復刻である「Problemz」は従来のスタイルの楽曲だが、続く「Good At Breaking Hearts」はバラードに近い、しっとりとした感覚を示している。これは中盤の起伏のある展開を引き継ぎ、アルバム全体になだらかなアクセントをもたらしている。旧来よりもソウル・アルバムとして、若干コンセプチュアルな概念を取り入れようとしている。

 

その後、クールダウンの効果を発揮する「Palm Tree」が続き、クローズ曲「Pretty Little Thing」に限っては、ネオ・ソウルを離れて、まったりとしたラップでこのアルバムは幕引きを迎える。


これらの収録曲は、アルバムを通じてJUNGLEのDJのフルセットを見たような錯覚を覚えさせるものがある。


2022年を過ぎ、ライブ・サウンドとしてのソウルという形をとって、JUNGLEの音楽性は作品ごとに様変わりして来ている。アース・ウィンド・アンド・ファイアーのサンプリングの手法については既視感があるので、次なる未知のサウンドを生み出せるかが、今後のJUNGLEの命運を占うだろう。もちろん、それについては何ひとつも憂慮することはない。ネオ・ソウルの先にある音楽性は、「Don't Play」、「Every Night」においてわかりやすく示されているではないか。

 

 

78/100

 


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