Yumi Zouma 『EP Ⅳ』- New Album Review

Yumi Zouma 『EP Ⅳ』

 

Label: Yumi Zouma

Release: 2023/12/6



Review

 

オセアニア圏は、インディーポップバンドの宝庫であり、もし、未知の傑出したポップバンドを探したい場合は、オーストラリア、ニュージーランド、もしくはヨーロッパをくまなく探すしかない。

 

Yumi Zoumaもまたニュージーランド/クライストチャーチの四人組グループで、男女混合編成らしいバランスの取れたオルトポップサウンドを作り出すことで知られる。通算9枚目となるミニアルバム『EP IV』は驚くべきことに、日本の目黒区の祐天寺にあるスタジオで録音されたという。

 

本作はスタジオ・メックでクロエ・プーがエンジニアを務めた。ミックスはケニー・ギルモア(Weyes Blood、Julia Holter、Chris Cohen)、ジェイク・アロン (Grizzly Bear, Snail Mail, Solange)、Simon Gooding (Fazerdaze, Dua Lipa)。マスタリングはアントワーヌ・シャベイユ(Daft Punk、Charlotte Gainsbourg、Christine & The Queens)が担当したとのこと。

 

本作はオリジナル曲に加え、リミックスとインストバージョンが併録されている。2022年の最新アルバム『Present Tense』の延長線上にあるYumi Zoumaらしいサウンドが満載で、ドリーム・ポップ、ベッドルームポップ、シンセポップを基軸に、セッションに重点を置いたインディーポップサウンドが繰り広げられる。いわば遠心力により、ぶんぶん外側に振っていくようなユニークなサウンドが彼らの醍醐味である。さらにユミ・ゾウマのサウンドは、クリスティー・シンプソンのボーカル、クランチさとフェーザーの淡いギターサウンド、それらのメロディーラインを尊重したシンプルなビートを持つ軽妙なドラム、シックなベースラインを中心に構成される。

 

オープニングを飾る「KPR」は、Yumi Zoumaらしいサウンドで、旧来のファンを安堵させる。甘口のメロディーと軽快なインディーロックサウンドが展開される。シンプソンのボーカルはドリーム・ポップの夢想的なメロディー性を付加している。内省的なサウンドがあったかと思えば、それとは対象的なアンセミックなボーカルラインを交え、そしてスポークンワードにも挑戦している。

 

続く「be okay」は外交的なサウンドの雰囲気を持つオープニングとは対象的に、バンドやフロントパーソンの内省的な気質を反映した涼やかなポップ・バラードとなっている。ポピュラー性を重視したクリスティ・シンプソンのボーカルに、ドリーム・ポップの影響を絡めたギターラインが叙情性を付加している。特に、ギターラインとボーカルラインの兼ね合いが絶妙で、その合間にスネア/バスとタンバリンのような金物(パーカッション)の音響を生かしたシンプルかつタイトなドラムが心地よいビートを刻む。ライブセッションの心地よさを追求したともとれ、実際にそのコンセプトはコンフォタブルなインディーポップサウンドを生み出している。

 

「Kicking Up Daisies」はシンセ・ピアノを基調にしたインディーロックサンドに挑戦した一曲。Yumi Zoumaの代名詞の軽やかなインディーポップサウンドではあるものの、その中には奇妙な熱狂性とファイティングスピリットが感じられる。これらはバンドの内省的なオルトポップ・サウンドに、ロック的なウェイブを付加している。もうひとつ、アップビートな曲調と、それとは正反対のサイレンスを生かした曲調がたえず入れ替わりながら、メリハリの効いた流動的なバンドサウンドが繰り広げられる。前の2曲に比べると、シンプソンのボーカルにはかすかなペーソスが漂い、時に、それがバンドサウンドから奇妙な質感を持って立ち上がる瞬間がある。しかし、曲そのものがヘヴィネスに傾いたかと思われた瞬間、バンドはすぐさまそこから踵を返し、やはりバンドらしい軽妙で親しみやすい甘口のインディーポップサウンドへ立ち返る。どのような音楽性の種類を選ぼうとも、Yumi Zoumaの中核となるサウンドに変更はないのだ。


アルバムの冒頭は、お馴染みのインディーポップ・サウンドが提示される。続いて、「Desert Mine」は表向きの印象こそ変わらないものの、ジョニ・ミッチェルのようなコンテンポラリーなフォークサウンドを吸収し、現代的なポップサウンドの中にクラシカルな色合いを漂わせている。特に部分的に導入されるアコースティックギターはビート的な効果はもちろん、懐古的な気分を呼び起こす。それらがバンドの根幹となるサウンドとシンプソンの軽やかなボーカルと合致を果たし、独特な雰囲気を生み出す。後腐れのない爽やかなサウンドで、曲を聞いた後、驚くほど余韻が残らない。上質な日本料理のように「後味を残さない」ことが、本曲の醍醐味だ。そして曲にはライブセッションの楽しみや遊び心もある。バンドサウンドを緊張させず、緩やかなサウンドをバンド全体で組み立てようとしている。もちろん、バンドの代名詞であるエモーショナルな空気感も曲全体を通じて還流しており、くつろいだ感覚にひたされている。

 

他の収録曲に関しては、リミックス、インストであるため、残念ながら詳述を控えたい。しかし、ミックスやインストバージョンについては、数合わせや隙間を埋めるために録音されたものではないことは、耳の聡いリスナーの方であれば気づくはず。バンドは、原曲をもとにし、Yumi Zoumaの新しい音楽性を探求している最中なのかもしれず、彼らの未知の可能性はそれらのリミックスやインストに断片的に現れることがある。アートワークの予めのイメージを裏切られる作品である。ニュージーランドは、今まさに夏真っ盛りを迎えつつある。そして、彼らの音楽の気風は北半球に暮らすリスナーに、ほのかな太陽の明るさと爽快さをもたらすに違いない!?



82/100

 


Best Track 「KPR」