ニューオーリンズが生んだジャズの名曲「Basin Street Blues」 誕生の経緯

 


「Basin Street Blues」ーールイ・アームストロングが歌うジャズの不朽の名曲はこのジャンルの重要地であるミシシッピ川近郊の歴史ある同名のストリートから生み出された。


後のピアニスト兼作曲家のスペンサー・ウィリアムズは、この曲を幼少期に叔母と暮らしたストリートの名前に因んで名付けた。彼が住んでいた家は普通の家ではなかった。マホガニー・ホール、ストーリーで有名な売春宿「マホガニー・ホール」であった。さらにスペンサーの叔母は、悪名高い女将ルル・ホワイトであった。

 

ウィリアムズがこの曲を作曲したのは1928年だった。ストーリーヴィルが閉鎖されてから11年後のこと。ストーリーヴィルの「実験」の痕跡を消し去ろうとした市当局によってベイスン・ストリートがノース・サラトガ・ストリートに改名されてから7年後だ。皮肉なことに、1946年にこの通りは元の名前に戻された。その要因は、間違いなくウィリアムズのこの曲にあったのだ。


多くのジャズスタンダードと同様に、トランペット奏者でありボーカリスト、ルイ・アームストロングのバージョンが最高傑作といわれる。彼の6人編成のグループには、彼の完璧な音楽的相棒である偉大なピアニスト、アール・ハインズが参加していた。アームストロングはレコードで歌っていますが、それはバンドの他のメンバーをバックにしたスキャットボーカルです。アームストロングのバージョンには、12小節のブルースであるオリジナルの詩も含まれている。




この曲を演奏したのは、トロンボーン奏者兼ボーカリスト、ジャック・ティーガーデンであった。彼は、1929年にルイジアナ・リズム・キングス(ルイジアナ出身のミュージシャンは 1 人もいないレコーディングバンド)とこの曲を録音したが、「ベイスン・ストリート・ブルース」が本当に大きな影響を与えたのは、1931年2月に別のレコーディングバンド、チャールストン・チェイサーズとともに録音したセッションであった。


一般的に歌詞はスペンサー・ウィリアムズが書いたと言われている。しかし、ジャック・ティーガーデンの回想によれば、彼とグレン・ミラーが新しいヴァースの音楽と歌詞、そしてコーラスの歌詞を担当したという。ビル・クロウの『ジャズ・アネクトーズ』に記された次の記述が真実を伝えている。


「『ベイスン・ストリート・ブルース』のレコーディング前日、私はニューヨークの自宅にいた。するとグレンがジャクソンハイツのアパートから電話をかけてきた。『ジャック、歌詞をまとめて君に歌ってもらえれば、もっと良い作品ができると思う。一緒に考えてみないかい?」…結局、作業が終わったのは早朝。翌日、レコードを録音した。俺が手掛けた中で最も人気を博した曲だ。歌詞は後に楽譜に収録されたが、我々の名前は一切クレジットされなかったよ」


同年、有名なルイ・アームストロングがこの曲を録音し、1931年にリリース。その後、エラ・フィッツジェラルドが曲の再録音を行った。それぞれに異なるテイストが滲み出ている。アームストロングのバージョンは田舎的な雰囲気があり、一方のエラ・フィッツジェラルドのバージョンは、どことなく都会的な香りに満ちている。というのも、フィッツジェラルドのバージョンはディキシーランドから離れ、ビックバンドやスイングジャズの要素を多分に含んでいる。


本当は、グレン・ミラーとティーガーデンの歌詞が描くベイスン・ストリートの姿は、実在するわけではない。ある意味、ウィリアム・フォークナー的な理想が描かれている。ヨクナパトーファ・サーガのニューオリンズ版とも言えようか。「その素晴らしさも、真の意味も、決して知ることはできないだろう」という歌詞の一節は、多数の観光客を「歓迎が自由で、大切な場所」へと導いてきた。ミシシッピ川の蒸気船を降りれば、楽園のような通りに足を踏み入れられるごとき印象を与える。このストリートは川から北西に8ブロック離れた場所に位置する。 


「地上の楽園」あるいは「夢の土地」という点では、1895年から1917年にかけて、このストリートは歓楽街の中心地だった。 しかし、ストーリーヴィル閉鎖後、このストリートの周辺のほとんどの建物は取り壊されたり空き家になったりし、1940年代には残存建物の大半がデパート倉庫と政府住宅プロジェクトのために撤去されることになった。長年の街の再生計画は存在したものの、大型食料品店だけが増加した。近年、フレンチクォーター方面へ一本入ったノースランパート通りでは、優れた音楽クラブが誕生し、復興の前兆を示した。ジャズの名曲を生んだ名物的なストリート「Basin Street」は文化的な遺産として保存及び保護されるべきだろう。



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