Ulrika Spacek 『EXPO』
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Label: Full Time Hobby
Release: 2026年2月6日
Review
ロンドンの五人組アートロックバンド、Ulrica Spacekは先週末、ニューアルバム『EXPO』をFull Time Hobbyから発表した。『EXPO』は、タイトルに違わぬ印象で、斬新な音楽が見本市のようにずらりと並ぶ。
日に日に強まるソーシャルメディアの絶大な影響力、その中で個性的であるということは、とりも直さず孤独を選ばすには居れないことを、ウルリカ・スペイセックの五人組は示唆する。例えば、かつてレディオヘッドが2000年代以降の個人監視社会を主題に選んだロックソングで一世を風靡したことがあるが、ウルリカ・スペイックは『OK Computer』『KID A』が生み落とした次世代の申し子である。そのサウンドの中には、ポストロック風の響きも含まれる。しかし、同時に、最初期のレディオヘッドのような閉塞感のあるボーカルがテクノ、ロックの中間にあるサウンドに揺らめく。最新鋭のロックなのか、それとも2000年代のリバイバル運動なのか。確かにそこには既視感のあるジャズ的なリズムとトム・ヨーク的な幽玄なボーカルが併存し、なにかしら新鮮な響きに縁取られている。
「孤立と疎外感の歌。周囲の誰もが絶えず自己を晒し、公の場で生き、見られたり聞かれることを求める、過度にオンライン化された世界において、『個性』の時代はひどく孤独だ。それは凹面鏡の部屋のようなもの。このことを念頭に、バンドは集合的な努力を捧げることに決めた」
独特な孤独感、また、それはときに勇敢さを意味する。『EXPO』の音楽には、''和して同ぜず''という論語の故事成語がぴったりと当てはまる。時流に乗っているようで、また、流行りのポストパンクにも共鳴する何かがあるが、彼らのサウンドは同時代のバンドとは異なっている。2016年から二年ごとのサイクルでアルバムを発表してきた彼らはついに最新作で高みに到達した。
「Intro」から強烈で、AIのテーマを暗示させたインスト曲で始まり、マニュピレーターを用いたアヴァンギャルドなテクノがブレイクビーツやスポークンワードのサンプリングと連動する。そこには近未来的なイディオムもある。しかし、それは同時に現代社会の同化現象に鳴らされた警鐘でもある。
「Picto」では16ビートのドラムの中で、ポストロック/マスロックの混雑したギターが、緻密なストラクチャーを構築する。ボーカルは『OK Computer』や『KID A』のような閉塞感のあるサウンドを担う。最近のポストパンクやスロウコアも吸収していると思うが、独特な浮遊感のあるサウンドは他の何物にも例えがたい。90年代のUSオルタナティヴロックからの影響もわずかに感じられるが、マニュピレイトされたRolandのシンセで出力されるテクノサウンドがそれらの既視感を帳消しにする。複雑なサウンドは変化し、中近東のパーカッションなどをドラムに重ね、エキゾチズムを増す。いわば、Squidのような複雑なサウンドであるが、こちらの方が一体感がある。
中盤は、King Kruleを彷彿とさせるようなごった煮のサウンドの曲があったり、レディオヘッドの中期のようなサウンドがあったり、『EXPO』のコアらしきものがほのめかされる。それはまるでインターネット空間をぼんやりと彷徨うような感覚がある。意図せぬ情報やアルゴリズムの投稿が目の前に矢継ぎ早に示され、それをさながら命題のように考え、時々振り回されたり、翻弄される個人。『EXPO』には現代社会の縮図とも呼ぶべき広汎な音楽が居並ぶ。
しかし、これらの現代史の博物館(EXPO)の展示中に、バンドが言うところの本当の自己やアイデンティティが発見できる瞬間がある。それが「Showroom Poetry」である。ローファイやスラッカーロックを基本に展開されるが、それらの混沌としたサウンドの向こうに歌われる、もしくは呟かれる言葉に一体感が生じ、バラバラに散らばっていたはずの破片が集まり、奇妙な一体感のような感覚が生み出される。ボーカルや全体的なバンドサウンドには今作のテーマである孤独の空気感が揺らめくが、その中には得難い安心感やひりひりするような情熱がちらついている。誰もそんなとこにはいないだろうと思っていた場所に結構な人がいたというような瞬間。とまあ、なんやかんやで、この曲は聴いてみると分かる通り、アルトロックの秀曲となっている。Galaxie 500のような内省的なインディーロックサウンドがアンセミックに変貌していく。
本作の後半はさらに多彩さが増すが、同時に序盤の収録曲に比べると求心力に乏しいところもある。レディオヘッドの次世代のアートロックサウンドが展開されたり、Ulrica Spacekの持ち味の一つであるジャズの影響を取り入れた動きのあるアートロックが繰り広げられる。 また、ブレイクビーツとアートロックの融合を試みた「Weight & Measures」なる次世代のロックソングも収録されている。この曲では弦楽器を取りれたりしながら、イギリス的なポストロックのイディオムを定めた瞬間が訪れる。テクノや電子音楽を中心としたバラード「A Modern Low」もまたレディオヘッドの次世代のサウンドに位置づけられる。ただ、そんな中、単なるフォロワーに収まりきらず、独創的なロックサウンドが出てくるときがやはり最も面白い瞬間であろう。
アルバムのクローズを飾る「Incomplete Symphony」は、バロックポップやチェンバーポップを下地にした次世代のサウンドで、ビートルズ、ローリング・ストーンズからブリットポップまでを吸収し、現代版に置き換える。また、こういった最後の曲を聴くと分かる通り、彼らがMOGWAIの初期のようなサウンドを吸収していることはおそらく間違いないだろうと思われる。一方で『EXPO』はモグワイのような反復的で恍惚とした轟音ロックサウンドにはならない。アンセミックなボーカルやコーラスを通じて現代社会を鋭く風刺するかのようなギターの不協和音が背後を突き抜け、次いでアンセミックなボーカルとシンセが追走するように通り過ぎていく。そこには飾らない生々しいリアリティが内在する。それこそが『EXPO』の醍醐味なのだろう。
80/100
「Showroom Poetry」-Best Track
▪Ulrica Spacek『EXPO』- Listen/Stream: https://ulrikaspacek.ffm.to/expo
Ulrica Spacek:
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「リビングルームは自然な残響をあまり生み出さないし、人工的に作り出すのも我々の意図ではない」
ウルリカ・スペイセックはベルリンで一夜にして結成された。14年来の友人であるリース・エドワーズとリース・ウィリアムズが『ウルリカ・スペイセック』というコンセプトを思いつき、デビューアルバムのタイトルとして『The Album Paranoia』を考案した。 ロンドンに戻りレコーディングを開始すると、ジョセフ・ストーン(ギター、オルガン、シンセサイザー、ヴァイオリン)、ベン・ホワイト(ベース)、カラム・ブラウン(ドラム、パーカッション)が加わり、現在の5人編成が固まった。
アルバムはほとんど予告なく、大々的な宣伝もなくリリースされ、バンドがキュレーションと出演を兼ねる「オイスターランド」と題したほぼ月1回のクラブナイトが1年間続いた。18ヶ月も経たぬうちに、不気味なほど完成された続編が登場。エドワーズによればこれは必然だったという。
「曲を一括で作り上げてから順番を決める手法には、我々はあまり興味がない」と語るように、3分間のシングル10曲を書き上げる誘惑を避け、より開放的で広がりのあるスタイルを志向している。書きながらアレンジを重ね、楽曲がセットリストの中で自然な位置を見つけることを意図しつつ、自己満足に陥らない方向性を常に保っている。現在はロンドンで活動している。


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