フレッシュ・アーティスト  サウスコリアの新星 Parannoul

 サウスコリアの新星 Parannoul


 

Parannoulは、サウスコリア、ソウルを拠点に活動するソロシューゲイズ/ポストロックミュージシャン。今、韓国だけではなく、世界的にインディーシーンで注目を集めているアーティストだ。

 

詳細プロフィールは公表されておらず、謎に包まれたアーティストで、彼自身はParanoulというプロジェクトについて、「ベッドルームで作曲をしている学生に過ぎない」と説明している。

 

ひとつわかっているのは、Parannoulは、一人の学生であるということ、宅録のミュージシャンであるということ。そして、内省的ではあるが、外側に向けて強いエナジーの放つサウンドを特徴とするインディーロック界の期待の新星であるということ。想像を掻き立てられると言うか、様々な憶測を呼ぶソウルのアーティストだ。 そして、デビューから二年という短いキャリアではあるものの、凄まじい才覚の煌めきを感じさせるアーティストとして、簡単にパラノウルの作品について御紹介しておましょう。

 

パラノウルは、これまでの二年のキャリアで二作のアルバムをリリースしている。2020年に最初のアルバム形式の作品「Let's Walk on the path of a Blue Cat」を、WEB上の視聴サイトBandcampで発表している。

 

 

 

 「Let's Walk on the path of a Blue Cat」  2020

 

 

「Let's Walk on the path of a Blue Cat」 2020  

 

TrackListing

 

1. Today's Sky Clear

2. Dream Halluciation

3. Path of a Blue Cat

4. Meaning Of Change

5. Bright Dark,Lost Shoelaces,One Year of Falure

6. Alone In the Forest

7. Tone After Tone

8. Reincarnation

9. Meaning of Disappear

10. The Next Day

 

 

この最初のリリースに対して、例えば他のベッドルームポップ勢のような大きなリアクションがあったとか、ストリーミング何万再生といった付加的なエピソードを添えることは脚色となるので辞めておくが、宅録のデビュー作とは思えないほどの迫力のあるポストロックを展開させている。原題はハングルであるが、英題もつけられている。このデビューアルバムの全体的な印象としては、ボーカル無しのインストゥルメンタル曲がずらりと並び、徹頭徹尾、冷静沈着な精細感のある叙情的なギターロックが展開されている。

 

宅録のソロプロジェクトとは思えないほどの完成度の高さで、一人でこれだけの音を作り上げられるという不可能を可能にした超絶的なクオリティーといえる。少なくとも、このデビューアルバムは、非常に理知的な音作りがなされており、楽曲の展開もそれほど目立った変拍子はないけれども、想像性による展開力は抜群だ。

 

数学的な音の運び方をするので、理系の学生ではないか?と勘ぐるほど。(実際は分からないと断っておきたい)アメリカのドン・キャバレロを初め、ToeやLiteのような昨今の日本のポスト・ロック勢とも共通点が見いだされる。数学的に計算されつくしたまさにポストロック/マスロックの代名詞ともいえるサウンドで、そのあたりのポストロックファンにはドンピシャな音楽性であるように思える。

 

しかし、このパラノウルのサウンドは、近年のポストロックの潮流の音楽とはちょっと異なる面白いユニークな質感を持っている。楽曲自体の複雑性、巧緻性に重きを置く、例えば、イギリスのBlack Country,New Road、近年のToeやLiteのような日本のポストロック勢とは異なる独自の音楽性が貫かれているように思える。それはなんなのかと推察してみると、このパラノウルのデビューアルバムには、近年流行りのマスロックらしいスティーブ・ライヒ的なミニマリスムの要素もありながら、独特な内向的なサウンドが展開されている点である。これが近年のマスロックとは異なる。そこには何か悶々とした内向きのエネルギーの放出がひたひたと内側にむけて静かに連なり、複雑な綾を描きながら放たれていく。そして、青春の息吹が感じられる。これがエモとか、シューゲイズとい称されるゆえんなのだろうけれども、これはそのような簡単なジャンル分けによって定義づけられるサウンドではない。それよりも遥かに凄いエネルギーを感じるのである。

 

もちろん、そのエナジーは内向きである一方、聴いているリスナーに、一種の爽快感ともいえる情感をもたらすのは不思議でならない。これは何らかの音に対するスカっとするようなカタストロフィーを感じさせる音楽なのではないだろうか。それは上記したパラノウルというミュージシャンがベッドルームでの作曲者でしかないと自負している通り、自身の芸術性の外向きな部分を完全に廃し、徹底して内向きな轟音性を追求している。このサウンドはむしろ突き抜けているからこそ格好良いという感覚を聞き手に齎す。そして、癒やしにも似た不思議な感覚を聞き手に呼びさますのである。このパラノウルの独特な音楽性のバックグランドとしては、いかにも宅録らしい電子音楽からの色濃い影響が伺える。それは、例えば、電子音楽家であり数学者でもあるアメリカのCaribouを彷彿とさせる独特なテクノサウンドに近い雰囲気を滲ませる。

 

近年、他のポストロック/マスロック勢が捨ててきた抒情性も感じられる。もちろん、そのテクノに近いアプローチは、ダイナミックなドラミング、そして、シンセサイザーの色付けによって、また重層的な音の作り込み、そして積み上げにより、一人のミュージシャンの手から生み出されるとは思えないほど、壮大な宇宙的なバンドサウンドに様変わりを果たし、万華鏡を覗き込むかのような、色とりどりの摩訶不思議な世界をリスナーに魅せてくれるというわけなのである。


 

その後、パラノウルは、WEB上で自身の音楽を公表していき、Rate Your Music,Redditといったサイトを活用し、インディーらしい活動を行い、徐々に知名度を高めていく。

 

また2021年には、二作目となるアルバム「To See the Next Part of the Dream」をリリース。このアルバムは、カセットテープ形式でもリリースされた作品というのは特筆すべき点だろう。

 

また、この二作目のアルバムリリースにより、パラノウルはインディーズ音楽限定ではあるものの、徐々にその音自体の、センスの良さ、オリジナリティー、また、ジャンルにおさまらりきらない幅広い音楽性によって注目を集める。その過程において、特にアメリカのニューヨークの耳聡さのあるメディア、ピッチフォーク、ゼクエンツオブサウンドなどで、この作品が取り上げられるようになった。

 

 

 「To See the Next Part of the Dream」 2021

 

 

「To See the Next Part of the Dream」2021

 

 

TrackListing

 

1.Beautiful World

2.Excuse

3.Analog Sentimentalism

4.White Ceiling

5.To See the next Part Of the Dream

6.Age Of Fluctuation

7.  Youth Rebellion

8.  Extra Story

9.  Chicken

10. I Can Feel My Heart  Touching You



特にこのパラノウルのセカンド・アルバム「To See the Next Part of the Dream」は要注目の作品である。 一作目のインストゥルメンタルで占められていた作風とは打って変わり、轟音ポストロックサウンドに大変身を果たした。それに加え、韓国語のボーカル?が追加され、よりソングトラックとして聞きやすくなったように思える。

 

一曲目の「Beautiful World」のイントロには「何聴いているの?」という日本語のサンプリングが取り入れられているのも非常に面白い点である。しかし、ヴォーカル入りになったからといって、パラノウルの激烈なサウンドが鳴りを潜めたというわけではない。いや、むしろリードトラックからすでに、凄まじい疾走感、そして轟音感のあるサウンドが全力で繰り広げられ、そして、ものすごい迫力で突き抜けていく。そこには何となく淡い青春の息吹を感じざるを得ない。また、ここで表現されているのは、アルバムジャケットとしてイラストで描かれている青空にたちのぼる工場の煙のような日常の風景の中にある一コマに感じられるようなエモ的な情感なのである。

 

そして、そのサウンドは、ムーグシンセサイザーの導入をはじめ、一作目のポストロック/マスロックのアプローチに比べると、電子音楽としてロックが実に痛快に、いや、爽快感をおぼえるほどに展開されていくのだ。

 

とりわけ、このセカンド・アルバムの中では、#3「Analog Sentimentalism」だけは聴き逃がせません。

 

きわめて感慨深く、ほとんど感涙にむせばずにはいられないのは、ここでソウルのミュージシャン、パラノウルが大きな誇りを持って展開しているのは、コーネリアスのような、まさに往年に日本でよく聴かれていた渋谷系といわれた平成の日本のポップスに近い疾走感のある電子音楽性である。それが見事に、実に、見事に、現代の轟音的なポスト・ロック性、そしてダンサンブルなポリリズムと融合を果たし、未来の2020年代のサウンドを形作っているのである。ここでパラノウルが描き出そうと試みる音楽の世界は必ずしも外向きなものとはいえない。

 

しかし、その内向きの強いエレルギーが一種の爽快感を持って極限に達した時、もはや彼が存在するのはベッドルームではない、音というひとつの媒体を介して広がりを見せた大きな世界なのである。一つのベッドルームからはじまったパラノウルの轟音の物語はこれからも彼の音楽が途絶えぬ限り続いていくだろう。狭い世界から始まった音楽がどこまで広がりを見せていくのかたのしみにしたい。

 

兎にも角にも非常に期待の若手のインディー・ロックミュージシャンとして期待したい、サウスコリア、ソウルのアーティストとして、パラノウルの作品にはこれからも注目してきたいところです。