Sufjan Stevens&Angelo De Augustine 3 singles

 今回、ご紹介させていただくのは、スフィアン・スティーヴンスとアンジェロ・デ・オーガスティンの共作となる9月末リリースされるアルバム「Beginner’s Mind」の三つの先行シングル作品となります。三つのシングル作品は、アルバムリリースに先駆ける形でAthmatic Recordsから発表されています。

 

7月7日「Reach Out/Olympus」、8月10日「Back To Oz/Fictional California」、9月8日「Cimmerian Shade/You Give Death A Bad Name」がリリースされています。この三部作ともいいえるシングル作は、音源制作の背景に興味深いエピソードが見いだされる作品。

 

音楽性としては、サイモン&ガーファンクルの活躍した時代の往年のフォーク性を引き継ぎ、穏やかな自然味にあふれたナチュラル感のある雰囲気が漂っており、このシングル三部作、そして、続いて9月末リリースされるこのシングル曲を含め、十四曲が収録されたアルバム形式の作品「Begginer’s Mind」は、2020年代のアメリカのフォーク・ブームのリバイバルの到来を予感させるような期待感溢れる傑作と言えそうです。

 

さて、この三つのシングル作の紹介に移る前に、日本ではそれほど馴染みのないこの二人のSSWのごく簡単なバイオグラフィーを紹介しておきましょう!!


 

 Surfjan Stevens&Angelo De Augustine


スフィアン・スティーヴンスの方は、ミシガン州デトロイト出身のインディーフォークシーンではベテランアーティスト。

1999年、義父と設立したレーベルAthmatic Recordsから「A Sun Came」でデビューを飾り、その後、自主レーベルから「Enjoy Your Rabbit」「Michigan」「Seven Swans」「lllinois」「The Avalanche」を一年のサイクルでリリースしてきています。それから、目立ったブランクもなく、派手な宣伝活動を行わないで、作品リリースを続ける傍ら、米インディーシーンで着実にリスナーの人気を獲得していったアーティスト。2021年までに二十作品以上のアルバムをリリースしている創作意欲活発の多作なSSWです。

既に、アメリカ国内では、大きな功績を上げている。2005年リリースされたスタジオ・アルバム「lllinois」は、ビルボードのトップ・ヒートシーカーズ・チャートで一位を獲得しています。また、映画「Call Me By Your Name」では、サウンドトラックとして提供した「Mistery of Love」でアカデミー賞、オリジナルソング部門にノミネート。また同作品で、グラミーのビジュアル・メディア・ライティング・ソング部門にノミネート、授賞式で楽曲を披露しています。2010年のスタジオ・アルバム「The Age Of Adz」は、米ビルボードで7位を記録、2015年「Carrie&Lowell」では全米7位を記録。今や、アメリカ国内では押しも押されぬ人気を誇るアーティストといえそうです。

スフィアン・スティーヴンスの音楽性は、基本的に、アメリカの古典的なギターフォークを主要なバックボーンとしつつ、その中にも、ピアノ、バンジョーといった楽器も作曲の中に織り交ぜているのが特徴です。また、スティーブンスのソングライティングには、独特な古いルーツを持つ民謡的な音楽が取り入れられており、作品自体にストーリーテリング的な要素、物語の要素、文学性が込められてます。それは、ときに、フォークロアにおける神話のごとき神秘的な音の世界が繰り広げられており、アイスランドのエクトロニカ、トイトロニカ勢とは又異なる幻想的な雰囲気を併せもっています。

 

一方、アンジェロ・デ・オーガスティンは、インディー・フォーク、オルタナティヴ、ローファイの分野で活躍するアメリカのアーティストであり、カルフォルニアのサウザンドオークスを拠点に活動するSSWです。2014年、自主制作盤「Spiral of Silence」をスフィアン・スティーブンスが義父と設立したレーベル「Athmatic Records」からリリースしてデビューを飾る。続いて、二作目となるスタジオ・アルバム「Swim Inside the Moon」、また、三作目のスタジオ・アルバム「Tomb」を同レーベルから2019年にリリースしています。上記のスティーヴンスほどの知名度はまだないものの、これまで、彼の作品は、National PublicやIrish Timesによって称賛されています。

アンジェロ・デ・オーガスティンの音楽性としては、爽やかで涼し気な雰囲気のあるインディーフォーク。聴いていると、心が清涼感に満ち溢れるような穏やかなフォーク音楽。それは、往年のサイモン&ガーファンクルのような古典的なフォークに、電子音楽の手法を付加したような印象です。古典的でありながら現代的なサウンドを特徴としています。 そして特にこのオーガスティンの歌声というのは、非常にやさしげで、琴線に触れる温かみがあります。また、スタジオアルバム「Tomb」での成功により、近年、インディー・フォーク界で知名度を上げつつある再注目のアーティストです。

  

 「Reach Out/Olympus」

  

 

 

TrackListing

 

1.Reach Out

2.Olympus

 

「Back To Oz/Foctional California」

  


 


TrackListing

 

1.Back to Oz

2.Fictional California

 

「Cimmerian Shade/You Give Death A Bad Name」

 



TrackListing

 

1.Cimmerian Shade

2.You Give Death A Bad Name

 

先行リリースされたシングルの三作品は、2020年代のアメリカで最もコアなインディー・フォークの誕生の瞬間を告げています。音楽性についても考えさせられるところがあり、「Athmatic Records」のレーベルメイト、スフィアン・スティーヴンスの物語性、そして、アンジェロ・デ・アウグスティンの良質なメロディーメイカーとしての才覚が見事な融合を果たし、両者のエナジーが上手く昇華された作品といえそうです。

この一連のアルバム作品としての制作リリースの際のエピソードには興味深い物語性が見いだされます。

そもそもこの作品は、コロナウイルス禍という時代における人間の生き方に重点的なテーマが置かれており、「壊れた時代に人間として生きること」という哲学的な二人のミュージシャンらしい疑問が掲げられています。作品制作の出発点も、初めてコラボレートしたこの二人のSSWは、約一ヶ月間の休暇をとり、ニューヨーク州北部の知り合いの山小屋を借りて、全ての音楽をその山小屋で短期集中して制作されました。つまり、現代版「ウォールデン 森の生活」のような大自然に包まれながら作製された作品という点で、自然の癒やしの恩恵を最大限に受け、ナチュラルな雰囲気を活かし、現代社会の暮らしの多忙さ、無数の情報とは一定の距離をとり、作られた音源です。

このアルバム制作に際して、スフィアン・スティーヴンスとアンジェロ・デ・オーガスティンは、様々な実験性を音楽制作の中に取り入れています。またなおかつ、他のメディア媒体からのインスピレーションを創作の根源としました。つまり、毎晩毎夜、様々な映画を見、翌朝、山小屋で起きた際、メロディーやコーラスを相携えて制作に励みました。つまり、映画という藝術媒体を、固定観念のない子供のような純粋な眼差しで捉えることで、その映像からもたらされる断片的印象を音として丹念に組み上げていったのです。

彼等二人が共に鑑賞した映画には、様々なジャンルがあり、 中でも、ゾンビ映画やホラー映画が多く、このあたりは、三部作のシングル、そして「Begginer's Mind」のユニークなホラーテイストのアートワークにかなり大きな影響を及ぼしているようです。彼等が一ヶ月間の山小屋生活の中で鑑賞した映画というのは、個性的な作品が多く、ナイト・オブ・ザ・リング、羊たちの沈黙、ポイント・ブレイク、イヴの総て、等。これらの作品のインスピレーションを元にして、フォーク音楽の骨格が何度も入念な手直しが加えられながら、シングル、アルバム制作は完成へ導かれていったようです。また、ジョン・カーペンターのザ・シング、次いで、なんと言っても、ドイツの巨匠監督、ヴィム・ヴェンダースの「欲望の翼」が列挙されているあたりは、この二人が相当な映画フリークらしい様子が伺えます。スティーヴンスとオーガスティンは、毎晩毎夜、これらの名画をニューヨーク北部の山小屋で真摯に鑑賞を繰り返し、その映像からもたらされるインスピレーションを翌朝に持ち越し、さらにそれを概念というフィルターを通して、最終的に「音楽」として見事に作り上げていきました。

また、この制作のプロセスにおいては、中国の古典「易経」やブライアン・イーノの考案した作曲法「Oblique Strategies」が取り入れられているのも興味深い点でしょう。つまり、作曲の過程での気の迷いが生じた際、易経にある占いによる偶然性の概念、あるいはイーノの考えの方向性を示したカードを導入し、それらの道具を活用しながら、またそこにある概念を借り受けながら見事な作品として仕上げていったというわけです。音楽性としては、すごく聞きやすいナチュラルなフォークであるものの、そこには映画音楽のサントラのようなドラマティックなストリングスアレンジメントが施されていたり、また、物語性により、奥行きのあるシークエンスが取り入れられていたりと、少なからずの実験性、しかも前衛的な概念がこの作品には感じられます。

さらに、アルバムアートワークについても面白いエピソードがあります。この三つの作品、そして、次にリリースされる予定のアルバムの総てのアートワークを手掛けているのは、ガーナのアーティスト、ダニエル・アナム・ジェスパーというアーティスト。

八十年代から九十年代にかけて、ガーナでは、ハリウッド映画をピックアップトラックの荷台で上映する「モバイルシネマ」という独自の文化が流行していた。そしてまた、実際のポスターを作製する場合、少ない情報による漠然としたイマジネーションからポスターを作製するという独特の文化が存在した。そのポスター作製時にもプリンターの輸入が禁止されていたため、小麦袋に直接ポスターを描いていたのだとか。もちろん、それらは殆ど実際の映画を見る前にほとんどデザイン作製者の想像によって描かれていたのだそうです。今回、スティーヴンスが、このガーナのモバイルシネマ文化の第一人者であるダニエル・アナム・ジェスパー氏に、自作品のアルバムアートワークの作製を依頼したゆえんは、今回の自作品の映画との深い関わり方、そして、映画に対する深い愛情によるものでしょう。また、実際、アルバムアートワークというのは、音楽を聞きながら、そのインスピレーションによりデザインを決定する場合が多いですが、この三つのシングル、アルバムではその常識が完全に覆されています。

今回は、スティーブンス側からは、明確なイメージはほとんど伝えられず、デザインを手掛けたダニエル・アナム・ジェスパーの特性を尊重し、彼が自由自在にデザインを行えるよう配慮したそうです。唯一、二人の製作者側からは、神話の神々、怪物、ゾンビ、スカイダイバー、アメリカの映画監督のジョナサン・アデミという人物だけがイメージとして、ダニエル・アナム・ジェスパーに伝えられました。こういった一見、ちぐはぐにも思える断片的なイメージを元に、ダニエル・アナム・ジェスパーはアートワークを自身の「モバイルシネマ」というアート性を介して、アルバムアートワークを手掛けていきました。その結果、この三作品のシングル盤、そして、アルバム「Beginner's Mind」のアルバムジャケットには、ガーナのモバイルシネマ時代のポスターに象徴されるポップアート性が遺憾なく表現されています。神話的、アニメ的、そして、イラスト的、これらの要素が見事に融合したアートワークを完成させたのです。

総じて、フォーク音楽としての秀逸さというのも一つの魅力でありながら、その背後にあるストーリー性、哲学性、またアート性という面でも尋常でない深みが感じられるこの三つのシングル。フォーク音楽としてはニューヨーク北部の山小屋で制作されたというエピソードを見ても分かる通り、商業大量生産から距離を取り、長くじっくり聴くためのアートのしてのアメリカンインディーフォークがここに誕生したといえるでしょう。全体的には、この作品が西洋思想、神話性だけでなく、東洋思想、易及び禅の思想と直結しているため、西洋の幻想性にとどまらず、東洋藝術の源流にある思想が貫流しています。

三つのシングルが東洋絵画でいう三輻画のような役割を果たし、「物語」としての一連の「コンセプト・シングル」という見方も出来るでしょう。しかも、この三つのシングルは、楽曲の奥行きが感じられ、よく聴き比べてみると、一つの流れのようなものが形成されているようなのが理解できます。ただ、単に聞き流すという音楽ではなく、音楽を聴いた上で、これまでにない観念を立ちのぼらせる契機を与えてくれる珍しい音楽です。

たとえば、ウォールデンの森の生活を音楽で表したら、どのような音楽になるのか?という実験の答えがまさにこの三つの作品には示されているように思え、それは単なる往年のサンフランシスコのヒッピー思考ではなく、往年の「羊たちの沈黙」をはじめ思索性のある名画の創作性と密接に結びついて、哲学的な思考により彩られています。

 

 

 

References 

 

 

Wikipedia 

 

 

Sufjan Stevens

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%B3%E3%82%B9 

 

 

Angelo de Augustine

https://en.wikipedia.org/wiki/Angelo_De_Augustine 



Indie native  

https://www.indienative.com/2021/07/a-beginners-mind

 

 

Wrszw.net

https://wrszw.net/albums/sufjan-stevens-angelo-de-augustine-a-beginners-mind/ 


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