Soccer Mommy USインディーロックの最前線  ディスクガイド

 Soccer Mommy


Soccer Mommy


サッカー・マミーは、ソフィー・アリソンのソロ・プロジェクト。ライブパフォーマンスにおいてはサポートメンバーを交えて四人組ロックバンドの形態を取る。ソフィー・アリソンはスイス生まれで、その後、米、テネシー州ナッシュビルにて育つ。六歳の頃からギターを始め、ソングライティングに親しんだ。ナッシュビルの芸術学校に学び、ジャズのスイングバンドに属した。


ソフィー・アリソンは、その後、ニューヨーク大学に進学、音楽ビジネスを中心に専攻するが、在学中、ベッドルームポップ、宅録プロジェクトを立ち上げて、サッカー・マミーとしてバンド活動開始する。2015年から、WEB上のインディーズ音楽視聴サイト、BandCamp上で楽曲の発表を行い、後に「Collection」として収録される楽曲をインターネット上で展開させていく。


大学在学中、サッカー・マミーとしての最初のギグをNYブルックリン区のブッシュウィックにて行う。その後、故郷ナッシュビルに戻り、サッカー・マミーとしての活動を本格的に開始する。2016年には、ベッドルームポップシーンを牽引するNYのインディーレーベル、”Orchid Tapes”から「For Young Heart」をリリース。


その後、デビュー・アルバム「Clean」2017をFat Possum Recordから発表する。これまで、カルフォルニア州インディオで二週間に渡って行われる野外音楽フェスティヴァル”Coachella”、そして、スペイン、バルセロナにて年一度開催される十万人規模の音楽フェスティヴァル”Primavera Sound”に出演し、サッカーマミーは着実にインディー・ロックアーティストとして知名度を高めていく。


これまでMitski,Jay Som,Slowdive,Frankie Cosmos,Phair Phebe Bridgersらと共演している。また、追記として、今年には、イギリスのテクノポップトリオ、Kero Kero Bonito(フロントマンは日本人)とコラボ作品「Rom Com 2021」をリリースしている。


その音楽性は、ローファイ、インディー・ポップ寄りのカテゴリに属する。親しみやすい楽曲が多い。Garaxie 500、Guide By Voices,Superchunk、Pavementといった80、90年代のアメリカの良きインディー・ロックバンドの趣向性を彷彿とさせ、またそこに、クレイロのような現代的なベッドルーム・ポップの音楽性も持ち合わせている。特に、「For Young Hearts」「Clean」はローファイの良作といえ、アメリカのインディーロックバンドの音楽性を思い起こさせる。


Fender社のムスタングを介してのギターの音色作りは職人的であり、穏やかで心地よい音色に重点を置く。スコットランドのバンド、The Pastelsの方向性に近い温和な雰囲気が感じられ、ネオアコ、ギターポップバンドとの共通点も見いだされるはずである。

 

 

1.「For Young Hearts」 2016

 


デジタル、カセット形式でリリースされた「For Young Heart」」はベッドルームポップとして聴くことも出来なくないものの、彼女の実質的なデビュー作にして最良のローファイ作品として挙げても良いはず。


ここではアメリカのインディー・ロック、カレッジ・ロックの系譜、それを見事に受け継いでおり、上記したように、Garaxie 500、Superchunkを彷彿とさせるような穏やかなギターロックを堪能できる。後の作品に比べると、こじんまりとしているようにも思えるが、特にメロディー面でのソングライティングの才覚は他のアーティストに比べて頭ひとつ抜きん出ている。テネシーの雄大な自然を思わせるような穏やかで和やかな良質なギターロックで、そこにまた内省的な詩情を漂わせる。つまり、今作はギターを介しての詩的表現ともいえる。


こういった音楽性は、実のところ、80、90年代のアメリカのインディー・シーンにはありふれていたはずなのに、2000年代から、ぱたりと途絶えていったような印象を受けなくもない。しかし、サッカー・マミーは、音楽フリークとして、その80、90年代のアメリカンインディーの旨味を巧みに抽出し、宅録、ベッドルームポップとして2010年の時代に見事にリバイバルさせている。


今作「For Young Heart」は、以後の作品と比べ、大げさな感じや派手さはない。しかし、音楽性においては純朴で良質なのである。この作品に収録されている多くの楽曲では、メロディーやフレーズの中には音楽フリークとしての深い矜持が滲んでいるように思え、サッカー・マミーという表向きのキャラクターの印象とはまた異なり、硬派な音楽家としての佇まいが感じられる。アルバム作品の最初を美しく彩る「Henry」をはじめ、どことなく切ない質感に彩られた叙情的な楽曲で埋め尽くされている。


これはエモという類型的な言葉で言い表し難いなにかで、詩的なテネシーの大自然への慕情が現れた新しい時代のフォーク音楽といえるかもしれない。本作「For Young Heart」は、アメリカらしいインディー・ロックの醍醐味の旨味が凝縮されていると言っておきたい。特に、この音源で見られるFender、ジャズマスター、ムスタングらしいプリミティヴな音の質感は本当にグレイト!!


 

2.「Collection」 2017



一作目「For Young Heart」の後に、WEB上の音楽配信サイトBandCampで最初に発表を行っていた最初期の音源をコレクションとして集めた作品。ファットボッサムレコードからリリースされている。


もちろん、これらの作品の多くはニューヨーク大学の在学中に録音された宅録作品ともえいるが、そういったデビュー前のレア・トラックスという先入観を持って聴くと、完全に実際の楽曲の良さに面食らうはずである。音楽の方向性は「For Young Heart」と通じるものがあり、インディーロック、あるいはネオアコにも近い音楽性である。どことなくひねくれたようなポップセンスが加わっている辺り、オルタナティヴロックとして聴くことも出来なくもない。


特に、朗らかな印象のある「For Young Heart」と比べると、より内省的な雰囲気を持ったセンチメンタルな楽曲が多く見受けられるように思え、独特な行き場の見つからない揺れ動くような心情がギターロックとして描かれた作品。最初の方向性としてはベッドルームポップを志していた雰囲気。


後に若干の音楽上にモデルチェンジを果たすサッカー・マミーであるが、この作品は、彼女のデビュー前のレア・トラックとしてのみならず、その音楽性のルーツが伺える快作。この「Collection」の中では「Allison」「3AM at a Party」の出来が際立っているように思える。ここに垣間見える女性的な内向性は切なげな爽やかさに彩られている。


3.「Clean」 2018


本作は、ミシシッピのファットボッサムレコードからリリースされたサッカー・マミーの正式なデビュー作。


ここでは上記の二作品と比べ、プロダクションとしての音楽性に重点が置かれている。つまり、聴き応えがある作品に仕上がったと言うべきか、エフェクトにしてもマスタリング処理にしても現代のアメリカのポップスの王道を行くようなスタイリッシュでクールな雰囲気を漂わせている。 


最初期の作品の中では、このデビュー作がポピュラー音楽性が強く、ローファイ色は他の作品に比してちょっとだけ薄められている。しかし、最初期のサッカー・マミーらしいローファイな音楽性が消えているわけではない。たとえば、リードトラックの「Still Clean」は、よりマーケティングを意識した楽曲でありながら、素朴なインディーロックシンガーとしての音楽性が伺える。

最初期のインディー・フォークとしての最初の集大成が「Blossom(Wasting All Time)」で既に表れ出ており、ニューヨークの都会性、テネシーの自然性、この二つの大きく隔たった土地の間を常に揺れ動くかのような楽曲で、雄大な自然を思わせる楽曲があったかと思えば、「Your Dog」に代表されるように、InterpolのようないかにもNY的な雰囲気を持つコアな楽曲も収録されている。


エレクトリック、そして、アコースティックギターの双方が楽曲中には主に取り入れられており、アメリカのインディーロックの王道を行く作風といえるかもしれない。マスタリングにおいて深くディレイエフェクトを掛けたりと、独特なサウンド処理も伺え、音楽上の実験性も少なからず込められている。特にシンガーとしてのサッカーマミーの魅力が最もつかみやすい作品といえ、特に、ヴィブラートの高音部において、他のシンガーと違う独特なギューンという伸び方をするのがこのサッカー・マミーのシンガーとしての声質の最大の魅力のように思える。


「Color Theory」2020


アメリカの主要な音楽メディアでも大きく取り上げられた「Color Theory」はこれまでの内向きなエネルギーを外側に転換してみせた作品。ソングライティングの面では、よりこのアーティストらしい独特な個性が滲み出ている。一曲の中で、ドラッギーというべきなのか、普通では考えられないようなエフェクトを施し、楽曲の中にキラーチューンとして多次元性をもたらしている。 

初めてこの作品を聴くと、驚く場合もあるかもしれない。しかし、最初期からのポップセンス、メロディーセンスは健在、いや、さらに磨きがかけられ、作曲面でも洗練された印象である。もちろん、その洗練性がこのアーティストの個性を帳消しにしたわけではなく、楽曲面での親しみやすさ、深みがましただけにすぎない。特に、歌手としての才覚は以前よりはるかに魅力的なものが感じられ、ビックアーティストへの道のりを歩みだしたという雰囲気も伺える。


このスタジオアルバムに表されている楽曲の性質は、ややもすると、以前、誰かしらが書いてきたものなのかもしれない。しかし、それは新しくこの秀逸なソングライターの手によりアップデートされている。今作は、2020年のインディー・ロックという音楽の歩みを一歩先に進めた革新性に溢れた楽曲ばかり。往年のポピュラー音楽と未来のポピュラー音楽を、サッカーマミーは今作を起点として、希望に満ち溢れた橋を架けるような役割をはたしているように思える。


「rom com 2004ーsingle」


そして、 もう一作ぜひとも紹介しておきたいのがシングル「rom com 2004-single」である。 これはJapanese Breakfastがゲーム・サントラを手掛けたのと関連があるのかまでは定かでないものの、特に、PVが8ビットの古いドットゲームのようなコンセプトで制作されたユニークなシングル作品。


少し、ゲーム音楽をモチーフにした電子音楽のひとつチップチューンに対する果敢なアプローチを感じるユニークなリリースといえるかもしれないが、凄くシンプルな楽曲ではあるものの、サッカー・マミーのポップセンスの敏腕性が感じられる超がつくほどの快作。


独特なドラッギーな感覚として描かれる多次元性というのもこのミュージシャンの大きな魅力、それは、少し妙な喩えかも知れないが、ケンドリック・ラマーのトラックメイクにも比する痛快なぶっ飛び具合なのである。


最後に、もちろん言うまでもなく、ポップソングを書く技術にかけて、サッカー・マミーは並み居るインディーロックアーティストの中で秀抜しており、これからどのような楽曲をリリースしてくれるのか、たのしみで仕方がないシンガーソングライターであることに変わりないように思える。もちろん、後にリミックスとしてリリースされた日本人女性シンガー擁するイギリスのポップ・トリオ、Kero Kero Bonitoとのコラボ作「rom com2021」も注目したい作品である。

 

 

References

 

Virgin MUSIC carolineinternational.jp

https://carolineinternational.jp/soccer-mommy/soccer-mommy/

last.fm  

https://www.last.fm/music/Soccer%20Mommy

 

 

 

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