Album Review  Owen 「Live At The Lexington(The Complete Collection)」

Owen

 

 

オーウェンは、シカゴ出身のインディー・ロックシーンの大御所、マイク・キンセラのソロ・プロジェクト。マイク・キンセラの音楽活動の原点は1980年代後半、Cap ’N Jazz、American Football、Jane Of Ark、Owls、Their/They're/There、といったシカゴの伝説的なインディーロックバンドで研鑽を積んだ後、キンセラが辿り着いたアコースティック・プロジェクトです。

 

オーウェンは、2002年にセルフタイトル「Owen」をPolyvinyl Recordsからリリース。マイク・キンセラは、自身のメインプロジェクト、アメリカン・フットボールの活動が休止されている間、このソロ・プロジェクトの活動をしぶとく続け、2021年までに九作のスタジオ・アルバムを発表しています。


オーウェンは、ソングライティング、レコーディング、総合的なアート・ディレクションをまとめ上げるのを目的としており、音楽性については、基本的に、アコースティックギターを介し、コンテンポラリー・フォークに近い叙情的なアプローチが採られています。

 

楽曲中において、マイク・キンセラは、自分の家族との人間関係、個人的な体験について焦点を絞り、歌詞を生み出しています。

 

オーウェンでのマイク・キンセラのアプローチは、表面上においては、穏やか、和やか、ゆったりとしているものの、又、時に、知的で、機知に富み、生々しく、真理を抉るような鋭さを併せ持っているのが特徴です。




「Live At The Lexington(Complete Collection)」 Polyvinyl 

 



 

Scoring 





Tracklisting 

 

1.Lovers Come and Go

2.Where Do I Begin?

3.Oh Evelyn

4.Nobody's Nothing

5.Love Is Not Enough

6.Saltwater

7.The Ghost of What Should've Been

8.The Sad Waltzes of Pietro Crespi

9.The Desperate Act

10.Playing Possum for a Peek

11.Too Many Moons 

12.Lost

13.An Island


 

「Live At The Lexington (Complete Collection)は昨年12月21日にリリースされたライブアルバム。


このアコースティックライブ音源は、2019年のイギリス、ロンドン、ペントンヴィルにあるレキシントンというパブで録音された作品となります。アルバムとして収録されているのは、オーウェンの既存の発表曲のレパートリーで占められ、ファンにとってはお馴染み「The Ghost of What Should've Been」「The Sad Waltzes of Pietro Crespi」といった楽曲も演奏されています。この録音が行われたのは、パンデミックが発生する以前で、人との距離を獲るとか、マスクをするとか、そういった社会的な驚愕するべき出来事が起こる以前に録音された作品です。 

  

 

 

サブスクリプション配信においても再生数がガンガン上がっているわけではないので、さほど話題になっている作品とは言い難いですけれど、エモというジャンルを考えてみれば当然かもしれません。皆が聞く音楽に飽きて、さらに奥深い音楽を探す人のための音楽が、エモというジャンルの醍醐味です。

 

もちろん、この作品には、そういったエモファンの期待に添うような素晴らしい楽曲が並んでいます。


「Live At The Lexington」で聴くことが出来るのは、マイク・キンセラの演奏の生々しさ、スタジオ・ライブのような演奏の近さ。アコースティックギターのみのライブでありながら、いかにもライブだという感じの迫力が宿っているのが、このアルバムの魅力でもある。

 

何と言っても、今考えてみれば、観客とアーティストの距離の近いライブというのは、現在、希少価値があり、平然とした時代の温和さを懐かしんでみるのもありです。


ライブは、マイク・キンセラとイギリスの観客の間に、別け隔てのない温和な空気が流れ、時に、アーティストと観客の些細な会話のやりとりにより、観客と空気感を大切にして楽曲が穏やかに進行していきます。

 

特に、そのハイライトと呼べるのが「The Ghost of What Should've Been」でのキンセラとイギリスの観客のやり取り。

 

曲のイントロが始まると、ある観客が「プレミアリーグのお気に入りのチームを聞かせてくれ!!」とキンセラに呼びかけるあたりが謎めいていて最高に笑える。はっきり言って、なんでいきなり、プレミアリーグの話を持ちかけたのか謎めいてますよね。他の観客も、その謎めいた野次に対して、おっかなびっくりというべきか、「おい、やめとけよ、やめとけよ!!」というニュアンスの苦笑を漏らしています。


この観客の問いかけに対して、マイク・キンセラはマイク越しに苦笑しつつ、何と答えようかと迷ったあげく、最後に「フットボール!!」と投げやりに叫ぶだけなのが微笑ましいです。

 

こういったライブパフォーマンスは、他のライブパフォーマンスではなかなか味わえないものでしょうし、即効性とか刺激性とかインスタントな音楽とはかけ離れた観客との心の距離を何より大切にした貴重なライブアルバムと言えるはずです。


他の主要な音楽メディアでは取り上げられていない作品ではありますが、長く、ゆっくり聴ける、渋い作品として、ご紹介しておきます。

 

 

 

・Apple Music Link

 

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