エモいの源流 AMERICAN FOOTBALL 「american football」

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昨今、”エモい”というワードが一般的に流行し、浸透していくようになりました。しかし、一部の音楽愛好家間では、十数年も前から、エモいという言葉自体は親しまれているようなところもあったので、いまさら流行るのかというような感慨をおぼえる方もいらっしゃったかもしれません。  

とにかく、まずはじめに、この”エモ”という、なんだかよく分かりづらい言葉の語源をかんたんに説明しておきましょう。 

もともと、”Emo”という言葉の由来を探ると、"エモコア"というロック音楽の一ジャンルを指し示し、これはアメリカの中西部、シカゴあたりで、一時期かなり若者の間で支持を集めた音楽でした。

そのシカゴ地域一帯から正式に言うと、「エモーショナル・ハードコア」と言われるちょっとした音楽ムーブメントが起こるわけです。

 
1980年代終わりから、アメリカ、Midwest界隈で鳴らされていた「エモコア」というジャンルに分類される音楽は、 粗野な印象のあるパンク・ハードコアに比して、その音楽性とは真逆ともいえる叙情性のあるメロディーが押し出されています。
 
 
これらエモというジャンルでは、jimmy eat worldSunny Day Real Estate、BRAID、Promise Ring,GET UP KIDS、がそのバンドの代表格として挙げられます。 
 
一般的に、エモは、パンク・ロックというジャンルに属しながらも、いわゆる、ロンドンやニューヨークの初期パンクの外向きな音楽性とは全く相容れないものであり、どちらかといえば、極めて内省的で叙情性のあるロックの特色があります。
 
又、その音楽性においては、スタンダードなロックに近いニュアンスがあります。もし、往年のロックミュージックの中で、この”エモ”というジャンルに近い音を探すのなら、たとえば、ザ・ビートルズの後期の名曲「Dear Prudence」、もしくは、Led Zeppelinの「Rain Song」あたりがかなり近い雰囲気で、そのあたりに”エモ”という音楽性の萌芽のようなものが見られます。もちろん、必ずしもこれらのバンドが、そういった往年のロックに影響を受けているとは限りません。
しかし、楽曲に受ける印象において共通しているのは、なぜだかしれず、切なくなってくる。これは青春のはかない情感のような雰囲気が、かつての初期パンクのような衝動性という感情表現によって示されているわけです。
 
上に挙げたバンドには、きわめて激しい内的感情の発露がなされているのが楽曲中に見受けられます。

ときにそれは、度しがたいほど激情的な表現となっていき、この一連の流れがハードコアとの間の子ともいえる”スクリーモ”というジャンルを後に形成していきました。これは確かにパンク・ハードコアとは異なる形での内的な衝動性が「音楽」として表現されたものなのでしょう。つまり、どことなく「抒情詩」のような風味を感じさせる音楽性を有しているのが、これらのバンドの主要な特徴。
 
それを当時の、つまり1980年代後半から1990年代初頭の概念として「現代的な音楽」として解釈しなおしたのがこのジャンルの正体。 
 
そこには、若いがゆえの苦悩、どうにもならない恋のジレンマであるとか、もっと哲学的な意義においては、人生のなかで、生きるとはなんなのだろうかといような、いうなれば、若者らしい内的な悶々たるエモーション、つまり、叙情性が内側から外側に吐露されて、楽曲の中で詩的な音楽性により表現されるようになったのが「エモ」というジャンル。その唯一無二の独特の音楽性が、特に当時のアメリカの一部の若者たちの心を捉えたのでしょう。
 
 
ロック音楽史の観点からいえば、一般的に「エモ」というジャンルの草分け的存在となったのは、”Cap’ n Jazz”というシカゴのバンドだといわれています。
むろん、それ以前にも類するような音楽は数多くあったでしょうが、エモという音楽を語る上においては、この”Cap 'n Jazz”は外すことの出来ない存在であり、おそらく「エモの元祖」と言っても差し支えないバンドだと断言できるでしょう。
このバンドはシカゴのバンドらしく、ロック、フォーク、ジャズ、その他様々なジャンルをごった煮にした実験音楽を奏でていましたが、残念ながらCap n jazz自体の活動は「Analphabetapolothology」一作リリースしただけで解散してしまいます。

そして、このバンドのメンバー中に、マイク・キンセラなる人物がいて、いよいよ彼は、次なるバンド”American Football”で、そのエモという楽曲ジャンルを完全な形式として昇華していきます。

このアメリカン・フットボールというバンドは、1990年代初頭、お世辞にも、それほど知名度があったというわけではありませんでした。
実に、玄人好みのするバンドで、正直なところリアルタイムでは、そこまでブレイクしたバンドではなかったです。これはあくまで憶測に過ぎませんけれども、本人たちも、当時はそれほど自分たちの演奏している曲に絶対的な自身を持って演奏していたとは言えず、自分たちの曲が世界中の人々に受けいられるとは思っていなかったかもしれません。
 
そのせいか、アメリカンフットボールの最初の活動というのも、上記のCap ’n Jazzと同じように、この「american football」一作をリリースした後、一度は解散となってしまいます。
 
しかし、本当に良い音楽というのは、(かつてのバッハがベートーベンの発掘によって再びスポットライトを浴びたように)たとえ時代の中に埋もれてしまいそうになっても、やがては、一般的に知られる音楽として広まっていく運命なのかもしれません。
 
彼らが、このバンドを離れている間に、アメリカン・フットボール、いわゆるアメフト人気というのは、世界中で浸透していくようになります。いつしか、この伝説的なファースト・アルバムは、一部の愛好家たちのマストアイテムとなり、”エモ”というジャンルを知る上で欠かすことの出来ないアルバムとなりました。
 

 
アメリカンフットボールは、その後、順調にリリースをかさね、バンドの知名度を徐々に高め、レディング・フェスティバル、フジロック、といった国際的なフェスにも出演を果たしていくようになります。
  
 あらためて、こんなふうに書いてみると、なんとも麗しいシンデレラストーリのようにも見えますが、彼ら、とくにフロントマン、マイク・キンセラという人は、エモという音楽をはじめるのが早すぎた、時代を先んじすぎていたがゆえ、大衆に理解されなかった天才だったのだろうと思われます。

 今や三十年前近くにリリースされたこのファーストアルバムの輝きは、今なお失われていません。

「Never Meant」から「The Summer Ends」「For Sure」。そして「Stay Home」が終わってからすぐエピローグのように続く「The One With The Wurlitzer」まで、のちの彼らのライブのレパートリーの中核をなす粒ぞろいの楽曲がズラリとならんでいます。
 
このおよそ”エモ国立博物館”と形容されても不思議ではない、愛好者にとってたまらない名曲の並びようを見ると、ため息すらハアと漏れてしまいそうです。
 
あらためて、彼らの楽曲を聴いてみると、何度聞いても飽きのこない渋みのある楽曲ばかり。音の輝きが日に日に増している錯覚すらおぼえ、今、ようやく時代の方が彼らの音楽性に追いついて来たという感じもしますね。
 
彼らの楽曲の特徴というのは、ミニマル的な手法とドラムのジャズ・フュージョン的な技巧、ネイト・キンセラの単純でこそあるが、きわめてどっしりしたベースライン。そのリズム隊に、複雑に絡み合うスティーブ・ホルムズの繊細なクリーントーンのギターのアルペジオ、さらに、その上から糸が複雑にからみあうように、キンセラのギターのフレーズが重なってくることで、同じ反復フレーズが展開されていき、ミニマルミュージックの元祖、スティーブ・ライヒのようなきわめて複雑な立体構造をなしている。
 
面白いのが、最初は、単純であったはずのフレーズが、曲の中盤から終盤にさしかかるにつれ、いつの間にか大掛かりなハーモニを形作り、四人という少人数で演奏しているとは思えないほど堅固で甘美なハーモニクスを作り上げていきます。
 
なんといっても彼らの楽曲で反復される清らかなスティーブ・ホルムスのクリーントーンのギターフレーズの美しさは何に喩えらましょう。その上に乗るマイク・キンセラの包み込むような温かい歌声に、おもわずうっとりとせずにはいられなくなってしまいます。

曲の合間を縫って、技巧派ドラマー、スティーブ・ラモスのたおやかなトランペットがゆったり乗ってきます。彼がドラムスティックを置いて、ドラムセットの前にセットされたマイクにトランペットを吹く光景というのは、既にライブでもお馴染みの光景となっていますが、このECMサウンドを彷彿とさせるような、なんともいえない蠱惑的な空間的な奥行きのあるトランペットの美しい音色が、他のエモコアバンドにはない独特なニュアンスをこのバンドの音楽性に添えています。

そして、これらの特性こそが、アメリカン・フットボールをエモというジャンルにとどまらず、ロックという、さらに広い領域で認知されるほどのバンドにまで引き上げられた主たる理由といえるのでしょう。

このアメリカンフットボールの1stアルバムは、「エモコア」なるジャンル体系の基礎を形作ったという面で、音楽史的にも無視できないのはもちろん、「エモい」という言葉の語源をよく知りたいという知的探究心に富んだ人々にも、ぜひおすすめしておきたい伝説的な名盤です。


(参考資料) Last .fm アメリカン・フットボール バイオグラフィー  https://www.last.fm/ja/music/American+Football/+wiki

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