Weekly Recommendation 蓮沼執太 U-zhaan 「Good News」




蓮沼執太

 

 

蓮沼執太さんは、東京都出身のミュージシャン兼アーティスト。蓮沼執太フィルの主宰者でもあり、国内外でのコンサートをはじめ、映画、ドラマといった劇伴音楽から、ダンス、音楽プロデュースと幅広い制作分野に携わっている。この他にも、展覧会やプロジェクトを同時進行している。

 

2014年には、アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の助成を受け渡米。2017年には、文化庁東アジア文化交流使の指名を受け、中国北京に向かう。また、音楽家だけではなくアートの領域でも活躍なさっており、「Compositons」(NY Pioneer Works)、「〜ing」(資生堂ギャラリー)と二回個展を開催している。2019年には、「〜ing」で第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞している。


2006年には「Self Titled」を米、テキサスのインディーレーベル「Western Vinyle」からリリースしてデビューを飾った。その後、最初のアルバム「Shuta Hasunuma」を同レーベルから同年に発表した。これまで、メジャー、インディーと形態を問わず作品のリリースをおこなっている。オーケストラを率いて活動を行う”蓮沼執太フィル”としては、Space Shower Musicから「時が奏でるTime plays-and so do we」、日本コロンビアから「アントロポセン」をリリースしている。また、劇伴音楽の主な仕事として、NHKドラマ「Kireinokuni」のサントラなどを手掛けている。



 

U-Zhaan

 

 

ユザーンさんは、埼玉県出身のタブラ奏者。1996年からインドの民族打楽器タブラの演奏を始める。1998年、インドに向かい、コルカタの伝説的なタブラ奏者アニンド・チャタルジーに師事する。

 

翌年、BoredomsのYoshimio(横田佳美),日本国内のシタール奏者、ヨシダ・ダイキチと共に、”Alaya Vijana”を結成する。日本のポピュラーシンガー、UAをフューチャリングした楽曲「Alaya Vjana」をリリースするが、翌年脱退している。その後、毎年のように、インド・コルカタに出向き、タブラの演奏技術に磨きをかけるかたわら、江崎グリコのCMにも出演。これまで、Rei Harakamiをはじめ,坂本龍一、Cornelius、ハナレグミ、HIFANA,環ROY,鎮座DOPENESS、DE DE MOUSEらと共同作業を行い、電子音楽、現代音楽、J-POP,ヒップホップ、ジャンルを問わず、数々のアーティストとのコラボレーションの機会を積極的に設けている。

 

2017年、蓮沼執太との共同制作を行い、「2 Tone」を自主制作としてリリース、電子音楽と民族楽器を見事に融合させた新たな音楽性を確立している。また、同作「2 Tone」には、坂本龍一、NYノーウェイヴの祖、アート・リンゼイ、デヴェンドラ・ハンバートらがゲスト参加している。

 

 

 

 

「Good News」 Gold Harvest Recording 

 

 

 

 

 

Tracklisting

 

1.Good News

2.Go Around

3.6 Perspectives

4.Septem

5.Guess Who

6.Dawning

7.Mister D

8.NWF

9.Overtakes

10.Door

 

 

今週の一枚としてご紹介させていただくのは、2月16日に発表された蓮沼執太とU-zhaanの新作アルバム「Good News」となります。

 

今回、蓮沼さんとU-zhaanさんがデュオとして作品を発表したのは、2017年に坂本龍一やアート・リンゼイをゲストに迎えて制作されたスタジオアルバム「2 Tone」以来、二度目のことです。

 

時間をかけて丁寧に作った10曲の吉報をお届けします。これは僕たちの耳に心地よく響く音だけで作られたインスト楽曲集です。謂わば、「言葉のない手紙」のようなアルバムとなっています。皆さんにとっての「いいニュース」がこのアルバムと共にやってきますように

 

今回の作品について、蓮沼さんは公式ホームページにおいて上記のコメントを掲載しています。 作品のマスタリングを手掛けたのは木村健太郎さん。そして、どことなく手作り感のある可愛らしい封筒のようなデザインがあしらわれたアートワークを手掛けたのは、village Rの長島りかこさんです。


今回、ゴールデン・ハーヴェストから発表されたインストゥルメンタルアルバム「Good News」は、蓮沼執太とユザーンという本来全然趣向の異なる二人のアーティストの息がピタリとあった作品です。電子音楽と民族音楽が見事な融合を果たし、テクノとも、ニューエイジとも、民族音楽ともつかない、これまで存在しなかったタイプの音楽をお二人はものの見事に生み出しています。


北インドの弦楽器サロードの奏者Babuiを迎えて制作されたタイトル曲「Good News」、あるいは、民族音楽とテクノをスタイリッシュにかけ合わせ、サロードとタブラのメロディーをユニゾンさせた異国情緒あふれる作風の「Go Around」、これらの二曲は、アメリカの電子音楽家、天才数学者でもあるCaribouの「Start Breaking My Heart」、さらには、Isanの「plans drawn in pencil」のグリッチに肉薄し、二人は緻密なシンセサイザーの音色にタブラの涼し気な演奏をマッチしてみせています。

 

その他にも、このインストアルバムの聞き所を挙げると、北インド古典音楽の伝統的なリズムRupakの「七拍子」という西洋音楽にはあまり見られない独特なリズム感を打ちだした「Septem」。インドネシアのガムランのような涼し気な雰囲気をタブラとシンセサイザー、トランペットの演奏をフーチャーした「Mister D」。さらに、ポリリズムを導入、実験性の強い音響を追求したテクノグリッチの未来を形作ったといえる「NWF」。アルバムの導入から最後にいたるまで、二人の音楽の実験性が遺憾なく発揮された作品と言えるかもしれません。

 

この作品の最大の魅力は、「2 Tone」では、ゲスト参加した坂本龍一、アート・リンゼイといった大御所のミュージシャンに遠慮して少し見えづらかった蓮沼執太とユザーン、お二人のミュージシャンとしての個性が顕著に表れ出ていることに尽きるでしょう。


特に、蓮沼さんのグリッチテクノに対する強いアプローチ、そして、ユザーンさんのインドの民族打楽器タブラの演奏により、果たしてどこまで行けるのか、未知への挑戦をいどんだ意欲作ともいえるかもしれません。そして、シンセとタブラの演奏は白熱味を帯び、生きた質感となり、ときに、ジャズのインプロヴァイゼーション、フリー・ジャズのようなアバンギャルドな領域に入り込んでいく場合もある。表向きには、爽やかさ、涼やかさ、掴みやすさが感じられる一方で、聴き応えのあるインスト楽曲が勢揃いしたアルバムとなっているのではないでしょうか?

 

さらに、個人的な感慨を述べるなら、この二人の演奏には何か、シンセサイザーとタブラを介して対話をしているようにも感じられ、ライブセッションのような緊迫感が込められています。それがこのアルバムを聴いて、なんとなく読み取ることが出来た二人の「メッセージ」のようなものでした。

 

「シンセサイザー」ー「タブラ」=「人工機械」ー「手作りの楽器」、本来、この2つの楽器は相容れないはずなのに、今回、二度目となるインストアルバムにおけるお二人の演奏は、そういった、機械と人の間にある距離を無くして、本来、分離した何かを一つに融合させているように思えます。


これは、以前、レイ・ハラカミとユザーンのコラボレーションの過程において実験段階に過ぎなかった概念、謂わば、遺志のようなものを引き継いで、今回、蓮沼さんとユザーンさんが完成させたようにも思えます。


特に、レイ・ハラカミの雰囲気を感じさせるのが、「Go Around」「Dawning」です。


ここで、お二人は、日本らしい侘び寂び、間のとれた電子音楽を生み出しています。その他、「Guess Who」は、蓮沼執太のピアノ演奏の才覚が遺憾なく発揮された作品。爽やかで、明るく、華やいだ心地に導いてくれ、最初のコラボレーション作品「2 Tone」よりもはるかに奥深さをました未知の音響空間が無辺にひろがっています。


これはまさしく、「欧米のグリッチテクノ」に対する「アジアのグリッチテクノ」が誕生した記念すべき瞬間、と称せるかもしれません。少なくとも、今回、リリースされたインスト楽曲集は、多くの音楽ファンにとって、この上ない至福の瞬間をもたらす「Good News」となりそうな作品です。

 


 

 


 

 

・「Good News」のリリース情報詳細につきましては、以下、蓮沼執太公式ホームページを御覧ください。

 

http://www.shutahasunuma.com/ 

 

 

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