Weekly Recommendation  ミツメ 「mitsume Live ”Recording”」

Weekly Recommendation 


ミツメ 「mitsume ”Live Recording”」

 

 

 

 

Label:  Mitsume

Release: 2022年8月3日



Review


今週のベストリリースとしてご紹介する 『Mitsume Live "Recording"』は、今年2月下旬に行われた東京・大手町でのミツメのライブレコーディングを収録した作品。ミツメは、結成から14年目、デビューアルバム『Mitsume』のリリースから昨年で10周年を迎え、バンドとして1つの節目を迎えたと言えるでしょう。

 

2020年、パンデミックの宣言下、東京でもロックダウンが敷かれ、ミツメも他のバンドと同じように対面のライブセッションが出来なかったため、メンバーは音楽理論を勉強したり、改めて自分の音楽のルーツを見つめ直す契機となったのかもしれません。

 

「mitsume Live "Recording"」は、これまでの作品を現時点の音楽的な蓄積でどのようにライブを通してアレンジ出来るのかのチャレンジであるように思えます。その実験性が良い方に働いて、ダイナミックでアグレッシヴなサウンドが提示されています。ミツメの四人は、このライブで、久しぶりの刺激的なセッションであったためか、演奏を心から楽しんでいるようにすら感じられ、スタジオアルバムよりもこのバンドの音楽がより身近に感じられる。ミツメは、この2月26日の大手町のライブにおいて、前作のベストライブ盤の赤坂BLITZで演奏された「Fly Me~」「停滞夜」といった楽曲を中心に、バンドの初期作品を取り上げ、デビュー当時の楽曲をより洗練された形で多角的なアプローチを試みています。また、セッションにおいては、通常のレコーディングした音源をライブ会場に持ち込み、それに実際のライブの演奏を加え、多重録音(ダビング)のような形で、セッションを行っている。この手法は、ダブをはじめとするDJシーンや、エレクトロニックのリミックスとしてはごくありふれたものでありながら、オルタナティヴ・ロックバンドとしては時代を先を行くものであるといえるかもしれません。

 

元々、ミツメは、シティーポップに加え、オルタナティブロックにおけるひねりのようなものを2010年代の最初期から持ち合わせていましたが、この作品ではそれらのオリジナル曲の特性を維持した上で、ライブレコーディングとしての迫力、スライ・ザ・ファミリーストーンのようなR&B/ファンクの要素が強く引き出されているのが大きな魅力です。ライブレコーディングであるためか、このバンドの音楽の影響がスタジオ・アルバムよりも色濃く反映されている。特に面白いのは、カラオケのような強めのディレイがボーカルトラックに施され、スタジオ作品にはなかったLAのローファイ・ヒップホップのようなコアな雰囲気も漂っていることです。

 

このライブレコーディングで注目したいのが、ベースとドラムのセッションの迫力。ファンクを吸収したドライブ感のあるベース、シャッフルリズムを交えたジャズ要素のあるドラミングは、この数年間でバンドとしてより高みを目指している証左となり、それらのミュージシャンとしての強い探求心が実際の演奏にも刺激的なエナジーと淡い叙情性をもたらしている。その他、多重録音のライブセッションならではの実験性の高い演奏も見受けられる。ベストライブには収録されなかった「number」では、オリジナル曲とは別のアプローチに取り組んでおり、調性を変え、昔懐かしのシティ・ポップの雰囲気を押し出し、昭和期のJ-Popを彷彿とさせる魅惑的なアレンジに。さらに「モーメント」では、ホーンセクション、ポンゴといった音色を取り入れ、カリブのトロピカルに近い雰囲気を演出し、原曲よりカラフルな性質が引き出されている。他にも、冒頭の「Fly me to the mars」では、いかにもミツメらしいサウンドを味わえるだけでなく、これまでになかった、チルアルト、ローファイの要素がスタイリッシュに付加されています。


この作品は、ベストライブアルバムの後にリリースされたこともあり、ライブリミックス作品のポジションとして位置づけられるかもしれませんが、実のところ、ここでミツメが実験しているのは全く異なるアプローチであり、彼らは、既存の楽曲の新しい可能性を見出そうと試み、オリジナル楽曲を別の側面から捉えた演奏が行われています。音像の向こうに映る姿・・・、それはまさに、過去の姿を別側面から真摯に捉えるべく挑戦を試みているとも形容出来るでしょう。

 

さらに、ロックダウン中の対面セッションが行えなかったメンバーのジレンマのような思いがこのライブレコーディングで表側に一挙に吹き出し、一般的なスタジオレコーディングとは対極に位置づけられるパッションを帯びた演奏が繰り広げられている。『Mitsume Live "Recording"』は、赤坂BLITZのライブ盤よりも演奏がタイトで、バンドとしての鮮烈なエネルギー、メンバーの結束力が反映されたレコーディングとなっています。ライブレコーディングならではのプレッシャーが課せられたことで、生演奏に淡い情感があると共にほどよい緊張感が漂っている。


デビューから14年目を迎えた東京のオルタナティヴ・ロックバンドーーミツメは、このライブレコーディグにおいて、ロックバンドとしての底力を示したにとどまらず、次なる境地を開拓するための道筋をはっきりと示してみせています。

 

Rating: 87/100

 

 

Weekend Featured Track  「Number」

 

 

 

 

Mitsume Store: https://mitsume-store.com/


 

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