Bret McKenzie 『Songs Without Jokes』

Bret McKenzie 『Songs Without Jokes』

 


Label:  Sub Pop

Release:  2022年8月26日


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『Songs Without Jokes』は、ハリー・ポッター、ロード・オブ・ザ・リング等、名作映画への出演、フライト・オブ・ザ・コンコルズとして活動し、既に俳優、コメディアンとしては一流のブレット・マッケンジーが華麗なる歌手への転身を果たした記念すべきソロ・アルバム第一作となります。

 

ニュージーランド出身のブレット・マッケンジーは、フライト・オブ・ザ・コンコルズの活動に戻るつもりはないと話している。その覚悟のようなものは決して無駄ではなかったとこの作品は物語っている。そして、今作で、彼はコメディアンとしてでなく、真摯なシンガーソングライターとして曲を書き上げてみせた。さらに、マッケンジーは、このアルバムにおいて、コメディーのニュアンスを込めることを出来るかぎり避けたと話していますが、その言葉は、このアルバムの古き良きポッピュラーミュージックを彷彿とさせる良質な楽曲として体現されています。

 

このデビューアルバムの全貌は、クラシカルなポピュラー・ミュージック、ソフトロックがメインに展開されていますが、そこにミュージカルやジャズ調の作風を取り入れたり、この人物のユニークな人生観のようなものが音楽性に色濃く反映されていることもまた事実といえるでしょう。音楽的には、ビートルズ、ビリー・ジョエルを彷彿とさせる王道のポピュラー・ソングが繰り広げられる。彼は最も難易度の高い音楽にこのデビュー・アルバムにおいて挑戦するわけですが、この人物のバックグランドにあるユニークな人柄が音楽を通して楽しむことが出来ます。

 

映画のサウンドトラック、ミュージカルのような雰囲気を醸し出すドラマティックかつユニークな曲調に乗せられるブレット・マッケンジーの親しみやすいボーカルは、まるで舞台劇での独演のようでもあり、そこには、このシンガーの力量が余すところなく体現されており、抒情性やしみじみとした哀愁が歌声そのものに反映されています。その他、彼は、この作品において複数の声色を駆使し、渋みのある歌声、ユニークな歌声、軽やかな歌声、様々なアプローチを介し多様な音楽性を体現しようと試みています。この辺りは、やはり、世界的な俳優、コメディアンとしての背景を持つ人物にしか生み出せない巧みな技量を見て取ることが出来るはずです。

 

アルバムにはピアノとオーケストラアレンジを交えた「This World」、「Carry on」といったじっくり聴かせる曲が複数収録されています。ブレット・マッケンジーはこれらの曲で手探りで自分しかなしえない歌い方を探している最中であると思われますが、音楽を奏でること、歌をうたうことを心底楽しんでいる雰囲気を伺わせるものがある。

 

シンガーソングライターとしての並々ならぬ力量を感じさせるのがデビューアルバム『Songs Without Joke』の最後の収録曲「Crazy Time」で、アコースティックギターとピアノ、そしてマッケンジーの潤いのある歌声が絶妙な合致を果たした美麗な雰囲気を生み出している。このラストトラックにおいて、ブレット・マッケンジーは、米国の名シンガー、ビリー・ジョエルのような温かみのあるバラードソングに挑戦しています。この曲でのブレット・マッケンジーの歌声は、深く、豊かな情感によって紡がれており、最終的に、涙を誘うような上質なバラードソングとして結実しています。


78/100

 

 

Featured Track 「Crazy Time」