New Album Review KEG 「Girders」

 KEG  「Girders」


 

 Label: BMG/Alcopop!

 

 Release: 2022年9月2日


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Review

 


イギリスの港町、ブライトンの海岸で結成された七人組のポスト・パンク/アートパンクバンド、KEGは、デビュー当時からユニークな音楽性でリスナーを惹きつけることに成功しています。

 

バンド・アンサンブルの基本的な編成に加えて、シンセサイザー、トロンボーンを始めとするジャズやクラシックの素養のあるメンバーを擁する。バンドは、自分たちの音楽について、「ファインアート」もしくは「ファイン...アート」と説明しているようですが、まさに商業主義とは異なる実験性を擁するバンドとして注目です。

 

昨年リリースされたデビューEP「Assembly」ではディーヴォに触発された分厚いバンドアンサンブルを展開し、凄まじいハイテンションを擁するポストパンクの楽曲により、ロックダウン下の暗い社会に一筋の光を与えてくれました。

 

2ndEP「Girders」においても、KEGの明るいユニーク性は引き継がれています。独特な不協和音を擁する楽曲は、現代の世界の縮図のようでもある。楽曲のあちらこちらに、シンセサイザーやトロンボーンの現代音楽のような不協和音が世界の軋轢のようなものを暗示的に込められている。それはオープニングトラック「5/4」で始まり、分厚いアンサンブル、ディーヴォを彷彿とさせるシニカルボーカル、対比的な激したスクリームがアルバムの世界観を牽引していく。


UKポスト・パンクの流れを汲んだ表題曲は、そういった苛烈な部分と繊細性が綯い交ぜとなって、ユニークな世界観が展開されていきます。KEGは、シリアスになることを極力避け、それらを独特なユーモアによって彩ってみせている。これらは、彼らが常に社会的に置かれるポジション、あるいは一般的な立場から見るイギリス社会全体を、ファインアート、もしくはファイン...アートとして刻印したものとなっています。ポスト・パンクバンドとしてのエクストリーム性を主体に置きつつも、その中には、ギターのディストーションに対比的に配置されるクリーントーンの流麗なアルペジオには、黎明期の米国のポスト・ロックバンドのような繊細性が漂っている。つまり、外向きのエネルギーと内向きのエネルギー、これらの二律背反の要素を、時に変拍子を交え綿密に組み合せることにより、このアルバムの印象を強固にしています。

 

全体的には、デビューEP「Assembly」に比べると、掴みやすさの要素は少なくなったように思えるものの、これらのサウンドの中には、KEGしか生み出せない強かなユーモアが込められているように伺えます。それは尖ったギターサウンド、ディーヴォよりもさらにハイテンションのボーカルによってKEGらしい音楽、心の表現が汲み出される。パンクバンドとしての先鋭性を保持しつつも、ブライトン流の特異な抒情性が僅かに漂う。このアルバムのブロックを1つずつ積み上げるようにして繰り広げられる実験性は、クライマックスの「NPC」で最高潮を迎える。

 

ここには、ブラック・ミディのデビュー当時を彷彿とさせるアバンギャルド性の強い、捻くれた感のあるポスト・ロックサウンドが展開される。先述したように、「Girders」は、商業主義の音楽とは決して言い難い。でも、商業主義の音楽しかこの世に存在しなくなったら、それは「芸術表現の死」であり、音楽をはじめとする芸術全般の存在意義が衰退する原因ともなりかねない。


日々接する生活における実感を、自分達にしかなしえない方法で何らかの表現にさまざまな形で込めようとする。そして、それこそが、KEGの言うように、ファインアートの本質でもあると思せい

 

 

68/100

 

 

 

Featured Track 「Grinders」


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