New Album Review  Parannoul 「After the Magic』

Parannoul 「After the Magic』

 

 


 

 

Label: POCLANOS

Release: 2023年1月28日

 

 

Review

 

韓国/ソウルを拠点に活動するプロデューサー、パラノウルは、これまでオーバーグラウンドのK-POP勢とは明らかに異なるスタンスを採ってきた。

 

デビュー・アルバム『To See The Next Part Of The Dreams』ではシューゲイズとノイズとエレクトロニカ、『Let's Walk on The Path Of A Blue Cat』ではギターロック/ポスト・ロック、そして『Down Fall Of The Neon Youth」ではエレクトロニカ中心のインスト曲、これまで作品ごとにパラノウルはその音楽性を微妙に変化させてきた。


そして、以前にも指摘したように、パラノウルは、日本語のサンプリングを曲の中に導入し、エレクトロ・サウンドの中には、コーネリアスの影響が感じられる。彼は日本文化やそのミュージック・シーンに愛着を感じてくれているように思える。これはとてもありがたいことである。さらに言えば、パラノウルの音楽性に内包されているのは、令和時代のJ-Popではなく、一世代古い平成時代のJ-Pop、特に、シティ・ポップの後の時代の渋谷系(Shibuya-Kei)の影響である。

 

二、三年の間に自主制作という形ではあるが、四作のフルアルバム、それに付随するEPのリリースはこのアーティストの多彩な才能を示している。特に最初期の作品では、青春の憂鬱の色合いを感じさせる疾走感のあるドリームポップ/シューゲイズ・サウンドがパラノウルというアーティストの重要なキャラクター性を形成していた。


しかし、今回の最新作『After The Magic』と銘打たれた最新のフル・レングスでは、最初期の青春性ーーエバー・グリーンな感じを与えるラフな音楽性ーーから脱却を試み、よりミドルテンポのオルタナティヴ・ロックを作品の中心に据えた。題名に込められた「After the Magic」の意味は、以前の作品がストリーミングやカセットテープ形式の発売であったにもかかわらず、海外の大手音楽メディアに取り上げられ、存外な注目を受けたことに対する感謝の思いがきっと込められているのだろう。

 

ホーム・レコーディングにより制作された既存のアルバムに比べると、この最新作はじっくり腰を据えて作り込まれた作品であるように感じられる。それはミュージシャンとしての精神的な成長ともいえる。楽曲の節々には、以前にはなかったフックのような取っ掛かりがあるし、その歌声には以前よりフレーズそのものを大切に歌い上げようという意図も見受けられるようになった。そのことによって、より壮大なスケールを持つポストロック曲「Arrival」も生み出された。これは、より彼が音楽というものに対する印象が、憧憬から敬意に変じた瞬間と言える。そして、以前のコーネリアスのような平成時代の渋谷系のJ-POPの要素を残しつつ、加えて、MBVやMogwaiのようなレイヴ・ミュージックからの影響、Alex G、Jockstrapに象徴されるストリングスのような楽器を取り入れたモダン・オルタナティヴ・サウンドをここに導きだしている。

 

今回、三部作のような形であった最初期の時代を超えて、ソウルのパラノウルは、既存の成功に耽溺することなく、次なる創造的な領域へと進み始めている。この最新作において、米国のオルタナティヴの最前線のアーティストの音楽に引けをとらない音楽性となったのも、パラノウル自身がカルト的ではありながらも、世界的に注目されるようになったことを自覚したからなのだ。


アーティストは、まだインディーズシーンで予想外の注目を受けていることに戸惑いながらも、着実にミュージシャンとしての階段を一歩ずつ上っている。ファンとしてはこの新作アルバムを聞きながら、パラノウルが今後どのようなアーティストに成長していくのか楽しみにしていきたいところだ。彼の掲げる「夢の続き」は、これからもきっと素敵な形で続いていくだろう。

 

82/100

 


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