Rat Boys 『The Window』 -New Album Review

 Rat Boys 『The Window』

 

Label: Topshelf

Release: 2023/8/25

 


 

Review

 

2015年から4作のフルレングスをリリースしているRatboys。5作目のアルバムは、拠点とするシカゴを離れ、シアトルで録音を行い、プロデューサーのクリス・ワラと組んだ。ここ数年で、バンドは新たにベースのショーン・ノイマンとドラムのマーカス・ヌッチオをフルタイムのメンバーに加えた。


最初期はその限りではなかったが、このアルバムの音楽性は明らかに4ADの伝説的なオルトロック・バンド、Throwing Muses(スローイング・ミュージズ)の系譜にあるのは自明で、セルフ・タイトルのデビューアルバムを彷彿とさせる音作り。それのみならず、 アメリカーナの要素が多分に入り込んでいる。これが、カナダのAlvvaysの志向するような、パンキッシュな音作りと融合している。現在のUSインディーのトレンドに沿うような無理のないプロダクションとなっている。



オープニング曲「Making The Noise For The Ones You Love」は、以前よりもバンド・アンサンブル寄りのリアルな録音を提示している。Alvvaysにも近い、パンキッシュなオルト・ロックとして楽しめる。ボーカリストのジュリア・スタイナーのメロディーラインにはアメリカーナの要素がある。ノイジーでパンチが効いているが、ほっとさせるような安心感もある。このあたりの音楽性がピタリとハマるかが、バンドの音楽性に親近感を覚えるかの瀬戸際となるのではないか。アメリカーナの要素は、#2「Morning Zoo」でさらに顕著になり、Throwing Muses直系のミドルテンポの温和なインディーロックサウンドに昇華されている。この曲に満ちる陽だまりに浸されるかのような温和さは、多くのインディーロック・ファンの渇望に応えるものとなろう。

 

冒頭のオープニングと同様、#3「Crossed That Line」はパンキッシュなインディーロックソングとして楽しめる。ボーカリストのスタイナーの少しユニークな性質がボーカルのメロディーラインに乗り移り、楽しげなイメージを生み出している。曲の中盤ではギターリフが縦横無尽に暴れまわり、自由闊達さをみせている。ライブ・セッションの楽しみが凝縮された一曲である。


#4「It's Alive」は、本作の中の重要なハイライトとなる。デビュー・アルバムの中にその影響が見受けられたベッドルームポップとアメリカーナの要素が絡むことにより、未曾有の音楽が生み出されている。ここには、メロディーセンスとソングライティングの技術の高さが窺い知れる。スタイナーの声にはエモーションが漂い、微かな余韻を残す。曲の中盤にかけて、ノイジーなオルトロックへと移行していくが、この辺りにバンドの充実した時間が留められている。

 

#5「No Way」では、現行のUSインディーのトレンドを抑えている。例えば、ワクサハッチーあたりが追求しているアメリカーナとバラードの融合が見出される。



しかし、その後、前の曲と同様、カントリーの要素はノイジーなオルトロックとして発展する。ここには、現時点でバンドとしての一体感やスタジオライブに見られる密な熱狂性を重視していることが伺い知れる。上記した序盤から中盤にかけての展開は、少し遅れてやってきたパンデミックの反動なのかもしれない。

 

Rat Boysはアルバムを通じて、良いメロディーを書くことに専念している。#6「The Window」ではそのことが顕著になる。アコースティック・ギターの繊細なアルペジオを介して紡がれる伴奏に加わるスタイナーは、他曲とは異なり、カントリーシンガーとしての歌を丹念に紡ぐ。繊細な一面は中盤のロック調の展開の中で少し変化している。しかし、バンドの演奏がイントロから中盤にかけてロックに変遷しようとも、スタイナーはフォーク/カントリーの領域にとどまる。


スタイナーは、それらのノイジーな性質から一歩距離を置くような形で琴線に触れるような精細なボーカルを丹念に紡いでいく。その後、曲の後半でよりパーカッションを強化する形で盛り上がりをみせるが、ボーカルの繊細なメロディーは、その後も維持される。いわばバンドサウンドに引きずられそうになる瞬間も、スタイナーは自分の立ち位置にとどまり続ける。これは自らのアイデンティティが確立されているからこそ、こういったテクニックが駆使できるのだ。

 

ノイジーな性質が押し出された#7「Empty」もインディーロックファンの要請に的確に応えている。ここでは、スノビズムよりも、オーバーグラウンドの共感性に重点を絞り、ポップバンガーとしても聴ける一曲を生み出した。この曲に充溢する人生を謳歌しようという姿勢は、大いに賞賛されるべきだ。それらの感覚的な声質がギターのストロークとドラムの軽快なスネアと重なり合った時、ラットボーイズにしか持ち得ない強固なオリジナリティーが生じている。それは言い換えれば、アルバムの収録曲の中で最も良質なエネルギーが発生した瞬間とも言える。


#8「Break」でもThrowing Musesの系譜にあるザラザラしたUSインディーを再現している。 ただ、それは単なるイミテーションとはならず、中盤から終盤にかけて、奇妙な開放感のある曲展開へと移行する。ここにバンドとしての妙というべきか、迫力のある瞬間が留められている。#9「Black Earth Ⅲ」は、アメリカーナとオルトロックを融合させ、USインディーの威信を示す。

 

#10「I Want You」では、スター・ミュージシャンの感覚と彼らの感覚が乖離したものではないことを示す。クローズ「Bad Reaction」では、アコースティックギターを中心とする静かなフォーク/カントリーの広大な世界観を留める。ここに弦楽の演奏を交えている点からも分かる通り、ドラマティックかつダイナミックな音楽性へ進もうという、バンドの未来の青写真をみいだすことができる。特に、「It's Alive」はソングライティングの側面で素晴らしい才質が示されている。

 


75/100



0 comments:

コメントを投稿