New Album Review:  Anamanaguchi  『Anyway』 アメリカンフットボールハウスで録音されたNYのバンドの注目作

Anamanaguchi   『Anyway』 


 

Label: Polyvinyl 

Release:2025年8月8日

 

 

 

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Review

 

ポリヴァイナルから新譜をリリースしたニューヨークのパンクロックバンド、Anamanaguchi(アナマナグチ)は、最新アルバム『Anyway』において、まるでデビューバンドのような鮮烈なイメージを与える。ご存知の通り、このアルバムの家は、シカゴのロックバンド、アメリカン・フットボールの『LP1』のアートワークとして写真で使用されている。いわばエモの名物的な物件なのだ。

 

つい数年前、ポリヴァイナル・レコードは、この文化財を救済するため、競売にかけられたこの一軒家をバンドと共同で購入した。私自身は僭越ながら、Anamanaguchiというバンドを今年までよく知らなかったが、どうやらチップチューンの先駆者であると彼らは自称しているらしい。アナマナグチは、このシカゴ郊外でニューアルバム『Anyway』のレコーディングに取り組んでいる。長い間、この物件は、''モラトリアムのメランコリア''ともいうべきシカゴの象徴的な文化財であったが、今回のアナマナグチは、はつらつとしたパンクエナジーでその先例を打破する。

 

アメリカンフットボール・ハウスの中にある改装されたリビングルームでは何が行われていたのか。それを知るためには、このアルバムを聴いてみるのが一番だと思う。『Anyway』では、デジタルプロセスで制作された一般的なアルバムとは少し異なり、''同じ部屋で集まり、そして一緒にアルバムを作り上げた''とピーター・バークマンは述べている。つまり、トラック別のライン録音ではなく、同時録音を中心に構想されたアルバムではないかと推測される。おそらく、ベースとなる録音を制作し、その後にボーカル・トラックなどを被せていったのではないか。


さて、結果的に生み出された産物は、ロック、パンクの激しいエナジーが放たれ、スタジオライブのように緊密な空気感を録音に聴くことが出来る。そのライブサウンドとしての象徴的な音楽性が冒頭曲「Sparkler」から目に見えるような形で炸裂している。ハードロックやパンクの中間にあるギターは、近年インディーズ界隈では倦厭されつつあるギターヒーローらしいサウンド。マーシャルのアンプを積み上げたライブステージのように重厚なイントロを形成している。


ドラムのフィルが入った後、コテコテのインディーズ・パンクサウンドを展開させる。彼らのロックサウンドは疾走感があり、爽快感もある。さらにギターソロがシンボリックに鳴り響く。勢いのあるパンクロックチューンの中で、シンガロングを誘発させるボーカルが織り交ぜられる。オープニングトラックとして申し分のない、素晴らしい楽曲がアルバムをリードしている。


 

 「Sparkler」

 

 

「Rage」は2000年代のUSインディーズロックの時代に回帰したような楽曲だ。このジャンルのファンの心を捉えるであろうと予測される。 Saves The Day、Third Eye Blind、Motion City Soundtrackを彷彿とさせるインディーズロックのリバイバルの楽曲である。全般的なロックの方向性の中で、エモの性質が垣間見えることがある。その中で、エレクトロパンクとエモやパワーポップを融合させた切ないフレーズが骨太のロックソングに内在するという点に注目すべきだ。彼らのロックサウンドは基本的にはインディーズ贔屓であり、USインディーズという概念を実際的なサウンドを介して復刻するような内容である。さらに、''チップチューンの先駆者''を自称するアナマグチであるが、今作では、1990年代のグランジ、ミクスチャーロック、オルタナティヴロックのテイストを吸収し、かなり際どいサウンドにも挑戦していることが分かる。


「Magnet」はアメリカのロックミュージックの多彩さがパワフルに反映されている。彼らのサウンドはメタリックにもなり、パンキッシュにもなり、スタンダードなロックにもなる。曲の中で熱帯雨林の生物のように変色し、セクションごとにまったく別の音楽を聴くような楽しさに満ちあふれている。そして全般的には、1990年代のRage Against The Machineの主要曲を彷彿とさせるミクスチャー・ロックのリズムがベースになっているが、その中には、Pixies、Weezer、Radioheadのようなオルタネイトなベース/ギターが炸裂し、クロマティック・スケールを最大限に活用したクールなロックサウンドが前面に押し出され、オルタナファンをノックアウトする。

 

「Lieday」は、The Gamitsのような2000年代初頭の良質なメロディックパンクサウンドに縁取られている。しかし、こういった曲は、さほど古びておらず、いまだにそれなりの効力を持っているのだ。ただ、アナマナグチの特色はベースメントのパンクサウンドの要素を押し出し、チップチューンのようなサウンドを疾走感のあるパンクソングに散りばめている。アナマナグチのサウンドの運び方は秀逸であり、飽きさせないための工夫が凝らされている。曲の後半のチャントは、1990年代以前のシカゴのエモコア勢に対する愛に満ち溢れている。結局、リバイバルエモへと受け継がれたチャント的なコーラスが、この曲のハイライトになるだろう。その後、商業的なポップパンクソング「Come For Us」では、Get Up Kidsの音楽性を踏襲し、エモパンクのお手本を見せている。「Buckwild」は最近のエモラップへの返答ともいうべき楽曲だ。

 

『Anyway』は、こういったエモ/パンクがアルバムの音楽性の中核部を担っている。一方で、チップチューンを織り交ぜたシンセの近未来的なサウンドが入る時、アナマグチの魅力が顕わとなる。「Sapphire」では、スペーシーなシンセがポップパンク/メロデイックパンクの要素と結びつき、ポップパンクのポスト時代の台頭を予見している。これらはどちらかと言えば、The Offspring、Sum 41のような骨太なロックやメタルの延長線上にあるパンクソングという形でキッズの心を捉えそう。ただ、アナマナグチの多趣味は、ロック/パンクの領域を超える瞬間もある。「Valley Of Silence」はニューヨークのエレクトロポップシーンと共鳴する楽曲である。Porches、Nation of Languageのサウンドを彷彿とさせる清涼感のあるポップソングのフレーズは、アルバムの全体的なノイジーなロックサウンドの中にあるオアシスのような意味をもたらす。

 

ただ、全般的には、Reggie And The Full Effectとポップパンクを結びつけたような個性的なサウンドがアルバムの中枢を担っている。「Fall Away」では、Fall Out Boyのような、やんちゃなパンクスピリットを反映させているが、同じようにスペーシーなシンセサイザーが独特なテイストを添えている。また、楽曲のBPMを下げて、テンポを緩めて、リズムがゆったりすると、彼らのメロディセンスの良さが表側に引き出されて、Weezer、The Rentals、Fountains of Wayneのような甘酸っぱいパワーポップ/ジャングルポップに接近する。「Darcie」は最も親しみやすい曲として楽しめるはず。また、アルバムの終盤でも、荒削りではあるけれども、良いバイブレーションを放つパンク/ロックソングが収録されているため、聴き逃さないようにしていただきたい。


「Really Like to」は、Fall Out Boyのようなシカゴの代名詞への尊敬の念が感じられる。その他、ベテランのバンドらしからぬ鮮烈な勢いを収めた「Nightlife」はアナマナグチの重要な音のダイアログの一つ。多彩なパンクロックを収録したユニークなアルバムがポリヴァイナルから登場。

 

 

 

84/100

 

 

「Magnet」

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