【Album Of The Year 2025】 Best Album 50 2025年のベストアルバムセレクション Vol.5 

【Album Of The Year 2025】  Best Album 50   2025年のベストアルバムセレクション   Vol.5 



41.  Big Thief 『Double Infinity』- 4AD



2024年、ニューヨーク市のパワー・ステーションで録音された『Double Infinity』は、ビックシーフの代表的なアルバム『Dragon New Warm Mountain〜』の続編となっている。 

 

彼らは、ブルックリンとマンハッタンを自転車で移動しながら、毎日のように9時間に及ぶ録音を行った。ドム・モンクスがプロデューサーを務め、アンビエント/ニューエイジの音楽家Laraajiが参加している。録音は同時にトラックを録音しながら、即興でアレンジを組み立て、最小限のオーバーダビングが施されている。

 

基本的なアルトフォークの方向性に大きな変更はないが、先行シングルのコメントを見るとわかる通り、ニューエイジ思想のようなものが込められている。従来のエレクトロニックの要素は維持されている一方で、普遍的なフォーク・ミュージックやボーカルメロディーの良さが強調されている。ビッグ・シーフの中では最も渋いアルバムと言える。


アルバムは最小限のオーバーダビングでライヴ録音された。  プロデュース、エンジニアリング、ミックスは、長年ビッグ・シーフとコラボレートしてきたドム・モンクスが担当した。"生きている美しさとは真実以外の何ものでもないのだろうか?" アルバムでは、アドリアン・レンカーがグラミー賞にノミネートされたことに対する名声への戸惑いがストレートに歌い上げられる。

 

今回のアルバムで、ビックシーフはモダンなフォーク・ソングを主体に制作している。その中には新しく電子音楽とフォークの融合という試みも見いだせる。しかし、新体制で臨んだ本作は、従来のビックシーフのメロディセンスやフォークソングの妙味を受け継ぐものである。次作のアルバム制作の噂もあるなか、続く作品がどのようになるのか、楽しみに待ちたいと思う。

 

「Incomprehensible」 

 

 

42.Shame 『Cutthroat』 - Dead Oceans


 

ロンドンのShameのニューアルバムは、メタリックな雰囲気を持つ硬派のポストパンクのスタイルを選んでいる。とはいえ、2025年の世界のミュージックシーンの中でも、彼らは最もロックなバンドにあげられる。もっといえば、ボーカリストのチャーリー・スティーンの歌詞には、国際的な政治問題に関する思想が込められているが、十代の若者のような純粋な眼差しが注がれている。若い頃の''なぜ''という疑問は、いつしか世の中の体制的な概念に絡め取られてしまう。年齢を重ねるにつれ、それが当たり前のことになり、ある意味では感覚が鈍化してしまう。どうにもならないのだから仕方がない。だが、Shameの面々にはそのような言葉は当てはまらない。

 

Shameの音楽が期待感を抱かせる理由は、彼らは基本的には主流派に対して、カウンターの役割を担っているからである。



前作アルバムと同様に、ブリット・ポップやポストブリット・ポップのサウンドを織り交ぜながら、2025年のロックソングとはかくあるべきという理想形を突きつける。チャーリー・スティーンのユーモア満載のボーカルも最高なのだが、コイル・スミスが中心となる電子音楽のトリッピーなサウンドも目の覚めるような輝きを放つ。重厚なギターやベースが織りなす骨太のサウンドは聴いていて惚れ惚れするほど。現代ロックの最高のエンジニア、コングルトンの手腕が表れ出た瞬間。

 

ダンサンブルなロックは、全盛期のBlurのような響きを持ち、ボーカルの扇動的なアジテーションと混在している。これはおそらく、かれらがライブを意識したレコーディングを心がけているから、こういったドライブ感のあるサウンドが出てくるのだろう。他のバンドが、若干の路線変更を試みる中、シェイムだけは従来と同様にパンクであり、また、ヤンチャでもある。

 

 

 「Cowards Around」

 

 

43. Jay Som 『Belong』 - Lucky Number/Polyvinyl

 



今年のシューゲイズのベストアルバムで、予想以上の出来だったのが、Jay Somの新作アルバム『Belong』だった。ソングライターとして、そしてプロデュース的な側面でも優れた力量を示してみせた。

 

ロサンゼルスのメリナ・ドゥテルテによるニューアルバム『Belong』は、Jimmy Eat Worldのジム・アトキンス、そして、Paramoreのヘイリー・ウィリアムズが参加した話題作である。



ロックやパンクに傾倒するかと思いきや、意外とそうでもなかった。ポップ、ロック、パンクの中間に位置する作品である。Lucky Numberによると、ドゥテルテは十代の頃には、サンフランシスコのロックラジオをよく聴いていたそうで、2000年代のポップ・パンクや、エモのヒット曲を好んでいたという。その中には、Bloc Party、Death Cab For Cutieなど誰もが聴いた覚えのあるインディーズロックバンドのアンセムが潜んでいたのだった。今作において、ジェイソムはまるでラックからお気に入りのレコードを取り出すかのように、それらのサウンドを織り込んだ良質なポップロックを提供している。人間関係の変化や人生の主題など、特に変化することなどを盛り込み、その中で普遍的なポップ・ロックの輝きを導き出そうとする。

 
ただ、それは、思い出にすがるというわけでもない。アルバムのオープナー「Cards On The Table」は間違いなくモダンなポップソングだ。K-POPやY2Kの影響を取り込み、電子音楽を中心としたポップソングを提供している。甘口のポップソングの類稀なるセンスはアジアにルーツを持つこのシンガーの重要な特性であり、また、ベッドルームポップに根ざしたZ世代以降の音楽のイディオムを的確に体現させるものだ。簡単に作れそうで作れない、このアルバムのオープナーはジェイソムのソングライティングの傑出した手腕が遺憾なく発揮された瞬間である。


しかし、そうかと思えば、「Float」はジム・アトキンスへの賛歌であり、Jimmy Eat Worldの代表曲「The Middle」の音楽的なテイストを踏襲し、見事なリスペクトを示す。 しかし、ロック的ではなく、ポップソングの位置からエモを再考しているのが面白い。これこそ、Jay SomがBeabadoobee、boygeniusといった象徴的なミュージシャンと関わってきた理由なのだろう。

 

「D.H.」

 

 

44.Bar Italia 『Bar Italia』 



Matadorの今年の最後のリリースは、Bar Italiaのレーベル移籍後第三作だった。バー・イタリアは、劇的な傑作も出さないけれども、同時に、凡作も基本的に出さない。そういったニュートラルな魅力に満ちたロックバンドである。しかし、もちろん、それは非凡であるという意味ではない。それどころか、今作は、近年の”バー・イタ”の中で最も個性的な作品といえる。

 

ニーナ・クリスタンテ、ジェズミ・タリク・フェミ、サム・フェントンによるロンドンの三人組のロックバンドは、2023年から一年間、160本もの過酷なツアーをこなし、プロのロックバンドとしての修行を積んできた。不安定な日程から生み出されたこの作品だが、彼らはデビュー時から多作なバンドであるため、今後も曲を作ることを遠慮するつもりはないだろう。多作であることは、バー・イタリアの強みであり、それは今後も変わらないものと思われる。

 

『Some Like It Hot』は、ジャンル的にもバランスの良い収録曲が並んでいる。マタドール移籍後三作目のアルバムでは、ライブで瞬間的に受ける即効性にポイントを置きつつも、全体的にソングライティングに力を入れ、じっくり聴かせる曲をロンドンの三人組は探求している。しかし、それは基本的には、聴いて楽しむためのロックソングという面では、従来と同様である。 



Bar Italiaといえば、最初期はドリーム・ポップやシューゲイズ風のサウンド、そして何と言ってもローファイなサウンドを特徴としていた。前二作のアルバムでは、依然としてローファイで荒削りなロックサウンドを引き継いでいたが、今回のアルバムに関してはローファイとは言えないだろう。彼らがより本格的で輝かしいロックバンドとしての道を歩み始めた瞬間である。

 

 「Omni Shambles」

 


45. Yazmin Lacey 『Teal Dreams』-AMF 



 ロンドンに活動拠点を移したヤスミン・レイシーは、前作『Voice Notes』では、レゲエのリバイバルを試みていたが、最新作『Teal Dremas』はダンサンブルなビートを生かしたネオソウルアルバムを制作した。ダンストラックとして楽しめる曲がある一方、ディープなソウルミュージック、それからクラシカルなレゲエソングもある。

 

ネオソウルとしては、実際の制作者の実像はさておき、作品としてはファッションスターのような、きらびやかな印象があることが重要です。その点において、「Teal Dreams」には、スターへの羨望的な雰囲気、バブリーな空気感が漂っている。

 

また、それは80年代のソウルミュージックと呼応するようなスタイリッシュな音楽が示されている。次いで注目すべきは、前作の全体的なレゲエの要素に加え、アンダーグランドのダンスミュージックを絡め、センスの良いブラックミュージックを制作していることだろう。

 

ビンテージなレゲエの要素も登場するが、モダンなネオソウルやダンスミュージックをレイシーは追求している。それ加えて、夢見るような音楽を、ヤスミンは制作しようとしたように感じられる。しかし、夢見るような音楽とは言っても、それは千差万別です。今回のアルバムの場合、それは、クラバー向けのDJサウンドを、全般的なディープソウルの要素と結びつけたと言える。

 

「Two Steps」 

 


46.Noso 『When Are You Leaving』- Partisan



Nosoの音楽は、米国のミュージックシーンにおいて、日に日に存在感を増しつつあるソフィスティポップの系譜にある。もともと、中性的な歌声を持っていて、それが清涼感のあるソングライティングと結びついていた。


ボーカリストとしてだけではなく、ギタリストとしての性質が強いNoSoであるが、バランスの取れた音楽性が主な特徴である。西海岸の音楽の影響下にあることは事実だと思うが、その中には独特なオリジナリティが込められている。フォンのソングライティングは、聴きやすさを維持した上で、暗い感情から晴れやかな感情をくまなく表現し、起伏のある音楽性をもたらす。


『When Are You Leaving?』ではプラトニックな失恋、人間関係や職場における力関係といったテーマが、鮮烈で具体的なイメージで描き出され、ジャンルや年齢、性的を超えた普遍的な共感を聴き手に呼び起こす。 その中には、やはり、性別の葛藤という主題が織り交ぜられている。女性とベッドを共にするが、自分自身として認識されない。他の曲では自分自身として認識されるが、愛されていると感じられない。これらが投影された不安なのか、相手の真の感情なのかは決して明かされない。しかし、それがアルバムの歌詞に潜むずれに拍車をかける。


洗練されたサウンドメイクと棘のある歌詞は互いに補完し合い、ペク・ホンという人物のより豊かな肖像を描き出す。しかし、それもまた、ホン自身の言葉通り「自分のエネルギーは依然として女性的だと気づいた。でも、ある時期、自分の見せ方ゆえに男らしさのステレオタイプを体現しようとしていた」と語るように、決して完全にはフィットせず、齟齬のようなものがある。そう考えると、Nosoは、こういった認識下にある違和感を音楽により体現させてきたのだ。

 

本作の核心にあるのは「よりよく理解されたい」という誰でも持ちうる切望だ。矛盾するように見える要素は撞着などではなく、一人の人間を構成する異なる側面である。この趣旨を捉える手腕こそが、『When Are You Leaving?』を人生の複雑さの細部を詳細に描き出す唯一無二の作品にしている。そして、このアルバムは内的な葛藤を描きながらも、ときに軽快さを併せ持つ。


「Don't Hurt Me, I'm Trying」

 

 

47.Alice Phoebe Lou 『Oblivision』



 

アリス・イザベルの6作目となるアルバム『Oblivion』は、世界と内面の両方を探求する彼女の旅路を深く掘り下げた、極めてパーソナルな作品集となっている。過去5枚のアルバムで、アリスは表現力豊かな歌声と魅惑的な楽曲制作の新たな側面を次々と披露し、音楽界の重鎮としての地位を確立してきた。『Oblivion』でイザベルが求めたのは、地に足がついた作品で、芸術性によって導かれた成果であった。全11曲からなる本作は、初期のサウンドへのオマージュを捧げつつ、これまでになく深い領域に踏み込んでみせる。アリスはさらにこう語る。 


「音楽業界では『より大きく』『自分を凌駕するように』なんて強調されるけど、私は路上演奏という原点に戻りたかった。これらの曲は、私の深層意識、夢、眠りの忘却、つまり、受け取られ方を気にせず、最も深い思考や欲望、記憶、真の感情にアクセスできる場所から出てきた」


2023年発表の『Shelter』以来となる新作アルバム『Oblivion』は、全曲自身による初のセルフプロデュース作品で、その洗練された質感は、初期キャリアの路上演奏の純粋さを思い起こさせる。楽曲には新たな輝きを放つ女性の成熟と率直さがにじむ。アリスはこのアルバムの制作の全般について次のように語っている。「バンドセクションでの5枚のアルバムの制作を経て、10年かけて積み上げてきた個人的な物語を紡いだ楽曲の宝箱を開けた。他の作品に収まらなかった曲、日の目を見るとは思っていなかった曲もある。愛と遊び心を持って、シンプルに、そして自分らしく、こういった曲をあるがままに録音するという、勇気と興奮に満ちた旅に出てみた。自分の不完全さを受け入れて、私に大きな影響を受けた人々ーー時代を超えたフォーク・アコースティック・アルバムを生み出した人々ーーからインスピレーションを得た」

 

アリス・フィービー・ルーの最新作「Oblivion」は、黄昏の雰囲気を擁するフォーク・ソング集である。このアルバムの全般的な楽曲は、昼下がりの心地よい白昼夢のような感覚から、日が暮れ始めて、夜に移ろい変わる時間に感じるほのかな切なさまでを網羅した時の流れの反映である。この作品は、明るくも暗くもなく、その中間層の感情領域を探ったおしゃれさと渋さを併せ持つ音楽が中心となっている。だからこそ、音楽そのものに淡い印象が付随し、奥深い魅力を持ったレコードとなっているわけである。昨日に一度聴いたところ、これは一度だけではよくわからない作品だと、私自身は感じた。何度も聴くうち、別の側面が次々に表れてくる不思議なアルバムである。また、それはソングライターの別の人物像を垣間見させると共に、聞き手自身の未知の自己との遭遇を意味するといっても、過言ではない。

 

「You and I」 

 

 

 

48.The Belair Lip Bombs 『Again』- Third Man 



The Belair Lip Bombs(ザ・ベレア・リップ・ボムズ)は、ギタリスト/ボーカリストのメイジー・エヴァレット(パンクトリオ「CLAMM」ではベースも担当)、ギタリストのマイク・ブラドヴィカ、ベーシストのジミー・ドラウトン、ドラマーのリアム・デ・ブルイン(自身の名義でメルボルンのレーベル「Heard& Felt」からエレクトロニックミュージックもリリース)で構成されている。

 

今年、ジャック・ホワイト氏がレーベルオーナーを務めるレーベル、Third Manより発売されたメルボルンで活動するバンドの待望の二作目のアルバム『Again』は、「パンチのある、フック満載のロック・レコード…。サウンドはストレートだが、その構築はほとんど完璧である」とガーディアンに評されたデビューアルバムに続く作品である。『Again』は、オーストラリアの隠れた名物的なバンドにとって新たな章の始まりとなる。結成8年目を迎えた彼らは、真摯な姿勢と強烈に耳に残るパワーポップの楽曲構成で、地元に確固たるファン層を築いてきた。


結成10年の記念すべき節目を迎えるにあたって、ザ・ベレア・リップ・ボムズは情熱的でキレのあるシングル曲を通じて、ボーカル兼ギタリストのメイジーが「恋慕ロック」と表現する独自の美学を磨き上げている。

 

『Again』の制作全般を通じて、バンドはこれまで以上に個々の影響を融合させ、スキップなしのストレートなインディーロック・アンセム集を創り上げた。10曲の躍動感あふれる新曲群は、バンドのDIYインディーロックスタイルを力強く洗練させている。聞きやすいインディーロックをお探しの方は注目しておきたいアルバムである。個人的にもイチオシのバンドです。

 

「Hey You」 

 

 

 

49.Rocket 『R Is for Rocket」Transgressive/ Canvasback (Breakthrough Album) 



ロサンゼルスのRocketは、Tuttle(ヴォーカル、ベース)、Baron Rinzler(ギター)、Cooper Ladomade(ドラムス)、Desi Scaglione(ギター)からなる。2021年頃から公式のリリースを続けているが、高校時代の同級生や幼馴染を中心に2015年頃からインディペンデントな活動を続けている。2025年に入り、バンドはTransgressiveと契約を結び、スマッシング・パンプキンズのツアーサポートを務め、一躍西海岸の注目のロックバンドとみなされるようになった。

 

四人組の音楽には、グランジ、エモ、またLAの80年代のハードロックなどが含まれ、それらが渾然一体となって、強固な世界観を形成している。ラウドロックとしての重力を持ち合わせながらも、適度なポップネスがあり、驚くほどその楽曲の印象は軽やかである。これらは結局、Nirvana亡き後に発足したデイブ・グロール率いる、Foo Fightersの登場を彷彿とさせる。

 

フー・ファイターズの最初期のアルバム『Foo Fighters』、『The Colour And The Shape』のように、『R Is For Rocket』は90年代のオルタナティヴロックやミクスチャーの全般的な音楽用語であるラウド・ロックに根ざしている。しかし、ロケットの音楽は新鮮に聞こえる。現代的な感性を織り込んだ秀逸なセンス、それらは、アリシア・タトルのボーカルのメロディアスな叙情性、そして不協和音やクロマティックスケールを強調したバロン・リンズラー、デシ・スカリオーネの轟音ギター、それから何と言っても、現代の音楽シーンで傑出した演奏力を誇るドラムのクーパー・ラドメイドの素晴らしいリズムセクションのすべてに現れ出ている。

 

曲のバランスの良さも際立っている。90年代-00年代のオルタナティヴロックに根ざしたものから、Fountains of Wayneの名曲「Stacy’s Mom」のようなパワーポップ/ジャングルポップの系譜にある甘酸っぱいメロディー、American Footballのような若い年代の象徴的なジレンマなど、幅広さがある。それらにロックソングのヘヴィーさを付加しているのが、Pearl Jamのような重厚なサウンドである。ロック史としては、94年にグランジが死んだと一般的には言われている。だが、他方では、アメリカの音楽シーンでグランジそのものがどこかで生き続けていたことを伺わせる。つまり、ポスト・グランジに該当する音楽は、一般的には脚光を浴びることはなかったものの、ひっそりとアメリカのロックシーンの一端を担ってきた。

 

これらを総合的に網羅し、新たなロックの段階へと導くのが、ロケットのデビューアルバムである。幼馴染で結成されたこのバンドのサウンドは数々の著名なロックバンドのツアーサポートの経験を経て、この上なく洗練され、高い密度を持つロックソングに昇華されることになった。デビューアルバムでありながら、十年間磨き上げられたロックソング集は一聴の価値あり。

 

 「Act Like Your Title」 

 

 

50.Melody's Echo Chamber  『Unclouded』- Domino (Album of The Year 2025)



 

2025年は、何と言っても、ルーズな感覚のあるアルトポップやシンセポップがミュージックシーンを席巻したという印象を持つ。その中で、気炎を吐くロックバンドがわずかにいた。インディーポップと一括りに言っても内実は多様である。ダンスミュージックを絡めたもの、ニューウェイブ/テクノポップに触発されたもの、AOR、ヨットロックを意識したリバイバルもの、アルトロックとの中間に位置するものというように、グループによって音楽性がそれこそぞれ異なっていた。

 

フランスのメロディーズ・エコー・チェンバーは、サイケロックや甘口のインディーポップとの絶妙なラインに位置する。個性的な作風であり、他のアーティストやグループとの差異を作り出す。ダニー・ブラウンの作品を手掛けたスウェーデンのプロデューサー、スヴェン・ヴンダーは、従来のドリームポップの夢想的な空気感に先鋭的な音楽性をもたらしている。このアルバムの随所に見いだせるブレイクビーツ、そしてジャズのシャッフルの手法は本当に見事だ。

 

全般的なプロデュースの面では、デジタルレコーディングの音の艶感を活かしつつ、ローファイ/ギターロック風のマスタリングが施されている。これは全体的に聞きやすさをもたらしているのは事実ではないだろうか。アルバムの冒頭を飾る「The House That Doesn't Exist」は、今年の音楽を象徴するような内容。くつろいだラフな感じのジャグリーなギターロックとなっている。

 

従来では、アルバムのオープナーといえば、身構えさせるような曲も多かった。けれど最近ではビートルズのような感じで、ラフに入っていき、リスナーに親近感をもたらし、また、掴みの部分を作るのが常套手段になっている。それほどかしこまらず、気軽に聞けるロックソングが現代のトレンド。また、この曲は、そういった現代的なリスナーの需要に添う内容となっている。

 

しかし、依然として、メロディ・プロシェらしさが受け継がれている。「ネオサイケデリア」とも称されるサイケのテイストがジャグリーなロックと絡み合い、絶妙なテイストを放つ。そして、マルコム・カトの超絶的なドラムプレイーーしなやかでタイトなドラムーーは、ジャズのリズムやブレイクビーツの切れのあるグルーヴを与え、メロディーズ・エコー・チェンバーのほんわかして和やかなドリームポップに属するボーカルのテイクと見事な融合を果たしている。

 

レオン・ミシェルズを始め、豪華な制作陣は言わずもがな、普遍的な魅力を持つ珠玉のポップソング集が、そのことを雄弁に物語る。アルバムには長い時間が流れ、制作者の人生観がストレートに反映されている。そしてそれは制作者自身が語るように、''自らの人生へのたゆまぬ愛情''にほかならない。

 

「Daisy」

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