【Album Of The Year 2025】 Best Album 50 2025年のベストアルバムセレクション Vol.4 

 【Album Of The Year 2025】  Best Album 50   2025年のベストアルバムセレクション   Vol.4 


 

31.Alex G   『Headlights』- RCA/Sony Music(Album of The Year 2025)



アメリカの名うての名門レーベル、RCAに移籍して最初のアルバム『Headlights』をリリースしたAlex G。すでに来日公演を行っており、馴染みのあるリスナーも多いのではないかと思う。

 

Alex Gの全般的なソングライターとしての価値は、従来はバンド単位で行っていたインディーロックやアメリカーナを個人のアーティストとして(ときにはバンドアンサンブルを交えて)パッケージすることにある。ニューアルバムも素晴らしい出来で、ハイライト曲もしっかり収録されていた。アレックスGの代表的なアルバムが登場したと言っても差し支えないだろう。ソングライターとしての手腕も年々高い水準に達しつつあり、今後の活躍も楽しみでしようがない。

 

さて、『Headlights』は、近年の男性ミュージシャンの中でも傑出した作品といえるだろう。前作ではアメリカーナやフォークミュージックをベースに温和なロックワールドを展開させたが、それらの個性的な音楽性を引き継いだ上で、ソングライティングはより円熟味を増している。現代的なポップ/ロックミュージックの流れを踏まえた上で、彼は普遍的な音楽を探求する。


前作アルバムはくっきりとした音像が重視され、ドラムテイクが強めに出力されていたという点で、ソロアーティストのバンド性を重視している。その中で幻想的なカントリー/フォークの要素をもとにした、ポピュラーなロックソングが多かった。最新作では前作の延長線上を行きながら、さらに深い領域に達した。円熟味のあるソングライティングが堪能できるグッドアルバム。

 

「Afterlife」

 

 

32. Benefits 『Constant Noise』 - Invada 


 

ミドルスブラのデュオ、Benefitsは2023年のデビューアルバム『Nails』で衝撃的なデビューを果たし、グラストンベリーへの出演、国内メディアへの露出など着実にステップアップを図ってきた。メンバーチェンジを経て、デビュー当時はバンド編成だったが、現在はデュオとして活動している。


当初インダストリアルな響きを持つポストハードコアバンド/ノイズコアバンドとして登場したが、その中には、ヒップホップやエレクトロニックのニュアンスも含まれていた。ベネフィッツは新しい時代のポストパンクバンドであり、いわば、Joy Divisionがイアン・カーティスの死後、New Orderに変身して、エレクトロの性質を強めていったのと同じようなものだろう。もしくはそのあとのヨーロッパのクラブを吸収したChemical Brotersのテクノのようでもある。


全体としては、メンバーチェンジを経たせいもあり、音楽性が定まらなかった印象であるが、やはり依然としてベネフィッツらしさは健在である。スティーヴ・アルビニへの追悼「Lord of The Tyrants」、Libertinesのピーター・ドハーティをフィーチャーした「Relentless」、このユニットの重要なコアであるヒップホップナンバー「Divide」も強烈な印象を放ってやまない。

 

「Relentless」 

 

 

33.Water From Your Eyes 『It's A Beautiful Place』 - Matador



ニューヨークのWater From Your Eyesは、2023年のアルバム『Everyone's Crushed』に続いて、Matadorから二作目のアルバム『It's A Beautiful Place』をリリースした。前作は、アートポップやエクスペリメンタルポップが中心の先鋭的なアルバムだったが、本作ではよりロック/メタル的なアプローチが優勢となっている。もちろん、それだけではない。このアルバムの魅力は音楽文化の混在化にある。

 

ネイト・アトモスとレイチェル・ブラウンの両者は、この2年ほど、ソロプロジェクトやサイドプロジェクトでしばらくリリースをちょこちょこと重ねていたが、デュオとして戻ってくると、収まるべきところに収まったという感じがする。このアルバムを聴くかぎりでは、ジャンルにとらわれないで、自由度の高い音楽性を発揮している。

 

表向きの音楽性が大幅に変更されたことは旧来のファンであればお気づきになられるだろう。Y2Kの組み直した作品と聞いて、実際の音源に触れると、びっくり仰天するかもしれない。しかし、ウォーター・フロム・ユア・アイズらしさがないかといえば、そうではあるまい。アルバムのオープニング「One Small Step」では、タイムリープするかのようなシンセの効果音で始まり、レトロゲームのオープニングのような遊び心で、聞き手を別の世界に導くかのようである。

 

その後、何が始まるのかと言えば、グランジ風のロックソング「Life Signs」が続く。今回のアルバムでは、デュオというよりもバンド形式で制作を行ったという話で、その効果が一瞬で出ている。イントロはマスロックのようだが、J Mascisのような恐竜みたいな轟音のディストーションギターが煙の向こうから出現、炸裂し、身構える聞き手を一瞬でノックアウトし、アートポップバンドなどという馬鹿げた呼称を一瞬で吹き飛ばす。その様子はあまりにも痛快だ。ロック、ポップ、ヒップホップを始め、様々なカルチャーが混在するニューヨークらしい作品。

 

「Life Signs」 

 

 

 

34.Marissa Nadler 『New Radiations』 - Bella Union/ Sacred Bones  



最近は、国内外を問わず、マイナー・スケール(単調)の音楽というのが倦厭されつつある傾向にあるように思える。暗い印象を与える音楽は、いわば音楽に明るいイメージを求める聞き手にとっては面食らうものがあるのかもしれない。

 

ナッシュビルを拠点に活動を行うマリッサ・ナドラーは古き良きフォークシンガーの系譜に属する。彼女は、レナード・コーエン、ジョニ・ミッチェルのような普遍的な音楽を発表してきたミュージシャンに影響を受けてきた。暗い感情をそのまま吐露するかのように、淡々と歌を紡ぐ。歌手は、物悲しいバラッドを最も得意としていて、それらの曲を涼しげにさらりと歌う。全般的には、このミュージシャンの表向きにイメージであるモノトーンのゴシック調の雰囲気に彩られている。


ただ、そのフォークバラッドに内在するのは、暗さだけではない。その暗さの向こうから静かに、そしてゆっくりと癒やされるようなカタルシスが生じることがある。ナドラーのキャリアハイの象徴的なアルバム『New Radiations』は光と影のコントラストから生じている。学生時代から絵画を専門に専攻し、絵をサイドワークに据えてきた人物らしい抜群のコントラストーー色彩感覚がこのアルバムのハイライトになっているのである。

 

「Light Years」 

 

 

 

35.TOPS『Bury The Key』Ghostly International  



 

トップスは”最も優れたインディーポップバンド"としての称号をほしいままにしてきた存在である。しかし、このアルバム全体を聴くとわかる通り、フラットな作品を作ろうというような生半可な姿勢を反映するものではない。この点において、2012年頃から彼らはコアな音楽ファンからの支持を獲得してきたが、音楽性を半ば曲解されてきた部分もあったのではないだろうか。

 

ニューアルバム『Bury the Key』はソフィスティポップ(AOR/ソフトロック)を中心に構成され、そしてヨットロックの音楽性も盛り込まれている。 しかし、実際の音楽は表向きの印象とは対照的に軽いわけではない。ギター、ベース、ドラム、フルート、シンセの器楽的なアンサンブルは、無駄な音がなく、研ぎ澄まされている。メロディーの良さが取り上げられることが多いが、TOPSのアンサンブルは、EW&F(アースウィンド&ファイア)に匹敵するものがあり、グルーヴやリズムでも、複数の楽器やボーカルが連鎖的な役割を担い、演奏において高い連携が取れている。


TOPSのサウンドは、Tears For Fears、Freetwood Macといった、70、80年代のサウンドを如実に反映させているが、実際的なサウンドはどこまでもモダンな雰囲気が漂い、スウェーデンのLittle Dragonに近い。表向きに現れるのは、ライトな印象を持つポップソングであるが、ディスコ、アフロソウル、R&B、ファンク等、様々な要素が紛れ込み、それらの広範さがTOPSの音楽に奥行きをもたらしている。これが、音楽に説得力をもたせている要因である。しかし、それらのミュージシャンとしての試行錯誤や労苦をほとんど感じさせないのが、このアルバムの凄さといえる。

 

TOPSの曲が魅力的に聴こえる理由はなぜなのかといえば、それは音楽そのものが平坦にならず、セクションごとの楽器の演奏の意図が明確だからである。さらにヴァースやコーラスの構成のつなぎ目のような細部でも一切手を抜かないでやり抜くということに尽きる。 

 

「Wheels At Night」 

 

 

36. Jaywood 『Leo Negro』- Captured Tracks



ジェイウッドはカナダ/ウィニペグから登場したソングライターで、ヒップホップやインディーソウルを融合させ、これらのジャンルを次世代に導く。『Slingshot』では自己のアイデンティティを探求し、繊細な側面をとどめていたが、今作にその面影はない。現在の音楽の最前線であるモントリオールに活動拠点を移し、先鋭的なネオソウル/ヒップホップアルバムを制作した。ここで"ヒップホップはアートだ"ということを強烈に意識させてくれたことに感謝したい。

 

全般的な楽曲からは強いエナジーとエフィカシーがみなぎり、このアルバムにふれるリスナーを圧倒する。ジェイウッドは、電話のメッセージなど音楽的なストーリーテリングの要素を用い、起伏に富んだソウル/ヒップホップソングアルバムを提供している。また、その中には、デ・ラ・ソウル、Dr.Dreなどが好んで用いた古典的なチョップやサンプリングの技法も登場したりする。


直近のヒップホップ・アルバムの中では、圧倒的にリズムトラックがかっこいい。彼は、このアルバムで、トロイ・モアの系譜にあるメロディアスなチルウェイブとキング・ダビーが乗り移ったかのような激烈なダブのテクニックを披露し、ドラムンベースらベースラインを含めるダブステップの音楽性と連鎖させる。彼は次世代の音楽を『Leo Negro』で部分的に予見している。

 

アルバムには古典から最新の形式に至るまで、ソウルミュージックへの普遍的な愛着が感じられ、それらはビンテージのアナログレコードのようなミックスやマスターに明瞭に表れ出ている。ギターのリサンプリング、そしてサンプル、ボーカルが混在し、サイケでカオスな音響空間を形成する。しかし、その抽象的な音の運びの中には、メロウなファンクソウルが偏在している。

 
全体的には2000年代前後のヒップホップをベースにし、ピアノのサンプリングを織り交ぜ、ジャズの響きを作り出す。モントリオールの音楽が新しく加わり、ジェイウッドの音楽は驚くほどゴージャスになっている。実際的にジャズ和声を組み合わせ、それをリズムと連動させ、強固なグルーブを作り出す、ニューヨークの前衛的なヒップホップの影響を織り交ぜられ、激烈な印象を持つギターが入ることもある。これらの古典性と先進性が混在したヒップホップソングは、スクラッチの技法を挟みながら、時空の流れを軽々と飛び越えていく。これは本当にすごい。

 

「Sun Baby」

 

 

37.Nation Of Language  『In Another Life』- SUB POP



ネイション・オブ・ランゲージの新作アルバムは現代社会のテーマを鋭く反映していて、興味を惹かれる。テクノロジーという無限世界に放たれ、道標を見失う現代人の心を、明確に、そして的確に捉えているのが感歎すべき点である。


イアン・デヴァニー(ボーカル/ギター)を中心とする三人組は、テクノロジーを逆手にとったような音楽を探求している。そこから浮かび上がるのは、デジタル社会における人間性とは何かという点である。


また、いいかえれば、目覚ましく発展するIT社会で、人間的な感性はいかなる価値を持ちうるのか、という問いなのである。デヴァーニー、ノエル(ドラム)、マッケイ(シンセ)の三者は、それらを「テクノ・ポップ」という近代と未来の双方を象徴付ける音楽で表現しようとする。

 

 最新作『Dance Called Memory』はデジタルとアナログが混合した不可思議な音楽世界を醸成する。彼らがハードウェアのシンセサイザーを使用するのは周知の通りで、本作の冒頭から終盤にかけて、エレクトロニクスの楽器がミステリアスな世界観を確立している。本作を機に、バンドはPIASからSub Popへと移籍したが、相変わらず素晴らしい楽曲を書くグループだ。

 

「I'm Not Ready For The Change」 

 

 

 

38.Automatics 『Is It Now』- Stone Throw 



オートマティックの自称する「Deviant Pop」とは、''逸脱したポップ''のことを指すが、ロスの三人組の三作目のアルバムを聴けば、どのような音楽か理解出来るだろうと思われる。ニューウェイブのポスト世代に属する音楽であり、その中には、ディスコやクラウトロック、エレクトロニック、ダブ、デトロイトの古典的なハウス、ヨットロックなどが盛り込まれているが、明らかにオートマティックは、最新アルバム『Is It Now?』で未来志向の音楽を発現させている。



彼女たちは、ギターレスの特殊なバンド編成を長所と捉えることで、複合的なリズムとグルーヴをつくりだす。オートマティックは、ジナ・バーチ擁するニューウェイブバンド、The Slitsの再来であり、彼女たちが生み出すのは内輪向けのパーティソングともいえる。しかし、その内輪向けのポップソングは、同時に今後のミュージックシーンの流行のサウンドを象徴づけている。



今年のアルバムの中では鮮烈な印象を放つ。『Is It Now?』はニューウェイブの次の世代となるネオウェイブの台頭が予感される。三者のボーカルが入り乱れる音楽は、どこから何が出てくるかまったくわからない。現代社会への提言を織り込んだ痛撃なアルバムが登場したと言える。

 

 

 

 

 

39.Leisure 『Welcome To The Mood』(Album of The Year 2025)



NZ/オークランドの6人組グループ、Leisure。TOPSのようなヨットロックから、80年代初頭のStylistics、Commodoresのような、マーヴィン・ゲイやスティーリー・ダン、クインシー・ジョーンズらが登場する前夜のソウルミュージックを織り交ぜ、トロピカルな雰囲気に満ちたポップソングを制作している。

 

新作『Welcome To The Mood』は相当練り上げられたかなり完成度の高い作品である。もちろん、ミックスやマスターで磨き上げられ、現代的なデジタルレコーディングの精華である”艶のあるクリアな音質”が特徴で、聴きやすい作品。

 

ドラムの演奏が際立ち、レジャーの楽曲全体を司令塔のようにコントロールしている。ドラムが冗長なくらい反復的なリズムを刻むなか、6人組という、コレクティブに近い分厚いバンド構成による多角的なアンサンブルが繰り広げられ、音楽そのもののバリエーションが増していく。

 

レジャーの音楽は、表面的には、ポップネスの要素が強い反面、その内実はファンクソウル/ディスコソウルを濾過したポップソングである。ジェイムス・ブラウンの系統にあるファンクのビートが礎になり、軽快で清涼感のあるポップソングが形作られる。

 

レジャーの音楽は、ポップをベースにしているが、ロックの性質を帯びる場合がある。ただ、レジャーはどちらかと言えば、The Doobie Brothers、Earth Wind & Fireのような白人と黒人の融合したロックソングの性質を受け継いでいる。彼らのソウルのイディオムは必ずしも、ブルー・アイド・ソウルに根ざしているとはかぎらず、サザンソウルやサザンロックなど、米国南部のロックやR&Bの要素をうまく取り込んで、それらを日本とシティポップや米国西海岸のソフィスティポップと撚り合わせて、安定感に満ちた聴き応えのある音楽を提供しています。

 

「The Colour Of The Sound」 

 

 

 

40. Geese  『Getting Killed』 - Partisan/ PIAS



 

ニューヨークのバンド、Geeseが待望の3rdスタジオアルバム『Getting Killed』で帰還。音楽フェスでケネス・ブルームに声をかけられた彼らは、ロサンゼルスの彼のスタジオで10日間という短期間で本作を録音。


オーバーダビングの時間がほとんどない中、完成した作品は混沌としたコメディのような仕上がりとなった。ガレージ風リフにウクライナ合唱団のサンプルを重ね、ヒス音のするドラムマシンがキーンと鳴るギターの背後で柔らかく脈打つ。奇妙な子守唄のような楽曲と反復実験が交互に現れる。『Getting Killed』でGeeseは、新たな柔らかさと増幅した怒りのバランスを取り、クラシックロックへの愛を音楽そのものへの嫌悪と交換したかのようである。

 

今作は、セカンド・アルバム『3D Country』の延長線上にあるが、より冒険心と遊び心を感じさせる。全般的なロックソングとしては、ローリング・ストーンズの系譜にあるブギーロックを受け継いでいるが、Geeseのデビュー当時のサウンドと同様に、それは混沌とし、錯綜していて、現代社会を暗示するかのようだ。それらはしばしば、「Au Pay Du ocaine」などに象徴されるようにサイケロックやサイケソウルのようなテイストも併せ持つ。そんな中でも、カントリーとロック、ブルース、ソウルなどを組み合わせた楽曲が本作のコアとなっている。「Getting Killed」、「Islands of Man」、「100 Horses」はその象徴ともいうべきトラックだ。また、 ローリングストーンズの名曲「Symphony for The Devil」を彷彿とさせる、アヴァンギャルドなロックソング「Long Island City Here I Come」にも注目したいところです。

 


「100 Horses」 

 

 

・Vol.5に続く

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