Weekly Recommendation / Shame 『Food for Worms』

Weekly Recommendation  Shame 『Food for Worms』

 

 

Label: Dead Oceans

 

Release Date: 2023年2月24日



 Shameは、デビュー当時からずっと常に純粋な青春の旅行者であり続けて来たわけで、そこには青写真のようなものは何もなかった。


彼らの20代前半のキャリアにおける難局は、国内の"ポスト・パンクの最大の希望のひとつ"と大きなプレッシャーをかけられたことによって訪れたのです。2018年、彼らはデビュー・アルバム『Songs of Praise』を携えて、大陸を横断するツアーで約350泊という凄まじく多忙な一年を過ごしました。


その後、Shameのフロントマン、チャーリー・スティーンはパニック発作に襲われて、ツアーをキャンセルせざるを得なくなった。The Windmillのステージから引き抜かれ、一躍有名になって以来初めて、shameは世間の脚光や注目とはかけ離れた場所にいる自分たちを見出すことになった。しかしながら、他方、現実と社会で起こる恐怖への忍耐を強いられた苦難の数年間が、shameの2021年の『Drunk Tank Pink』以後のバンドの改革を促すこととなりました。


 仮に、デビューアルバム『Songs of Praise』が小指を立てるようなティーンエイジャー特有の戯れであったのだとすれば、2ndアルバム『Drunk Tank Pink』は別の種類の感情の激しさを掘り下げることになった。未知の音楽の領域に足を踏み入れて、ウィットとシニシズムで勇気づけられた彼らは、もはや失うものは何もないという思いで何かを作り上げた。そして、アイデンティティの危機を乗り越えて、ようやく成熟した境地に到達しました。『Food for Worms』は、チャーリー・スティーンが「恥ずべきレコードのランボルギーニ」とシニカルに断言する作品です。


 バンドは初めて、内面を掘り下げるのではなくて、自分たちを取り巻く世界をあるがままに捉えようとした。「自分の頭の中にずっといることはできないと思うんだ」とチャーリー・スティーンは語る。あるライブの後、友人と交わした会話がきっかけで、迷いを抱くようになった。「変な話だよ。ポピュラーな音楽は、いつも愛や失恋、自分自身について歌ってばかりいる」つまり、このアルバムは多くの点で、他者との共感性、友情への賛歌であり、また、共に成長し、あらゆる困難を乗り越えてここまで仲良くなった5人のメンバーのみが共有できるダイナミズムの実録なのです。


 また、『Food for Worms』は、結局はバンドメンバーがお互いを必要としているという、究極の生命における讃歌を表現しています。また、このアルバムは「恥」そのものの核心を突いている。彼らは結成当初から、現実の不条理の中にも何らかの光を見出すことをライフワークに位置付けてきたのです。


 パンデミックに見舞われ、一度挫折を経験したバンド。彼らは再び結成当初の原点に立ち返り、アルバムの制作に取り組んだ。プレッシャーや最終的なゴールがなければ何も始まりません。3週間以内にThe Windmillで2回の公演を行い、そこで新しい曲をステージで2セット披露することが期待されたのです。


 この機会は、バンドをこの高みへと押し上げた時と同じイデオロギー、つまり、ライブで演奏すること、自分たちの言葉でしっかりと演奏すること、そしてそれを聴くオーディエンスに支えられている感覚を、バンドの手に取り戻すことを意味していた。このようにし、『Food for Worms』は、彼らがこれまでに作ったどの作品よりも溌剌とした生命を吹き込むことになりました。


 このアルバムは、彼らにとって初めての完全なライブレコーディング作品となる。バンドは、ヨーロッパ中のフェスティバルで演奏しながら『Food for Worms』を録音し、彼らの新曲が受けたオーディエンスの反応の強さに勇気づけられもした。そして、そのライブのエネルギー、つまり、本領を発揮するShameを目の当たりにする感覚がレコードに完璧に収められています。


 彼らは、有名なプロデューサーFlood(Nick Cave、U2、Foals)に彼らのビジョンを実行するよう依頼しました。各トラックをライブでレコーディングすることは、レコーディング・アーティストであることの全面的な否定を意味します。ここでは、ラフなエッジがアルバムにザラザラとした質感を与え、ミスは完璧であるよりも興味深いことを示す。このアルバムはタイトル通り、バンドが自分たちの弱さを受け入れ、そうすることで新たな勇気の源泉に触れていることを示唆しているのです。


Shame

 サウスロンドンのShameは、Foalsとともに、イギリスのポストパンクバンドの代表格というキャッチフレーズで宣伝されることが多い。けれども、彼らはポスト・パンクバンドから脱却を図りつつあるのではないかという意見も見受けられます。そして、彼らの通算三作目のフルレングス『Food For Worms』は、そのことを実際の音楽によって如実に物語る作品となっています。

 

 シンプルにこの作品に突き当たると、以前からのファンは、その意外性ーー音楽性の変化ーーに驚く可能性もあるはずです。このバンドの持ち味であるオーバードライブをかけた存在感抜群のベースライン、切れ味の鋭いギターライン、タム、ハイハットとシンバルがしなるドラム、パワフルさと繊細さを兼ね備えたボーカル、これらが掛け合わさり、ライブレコーディングという方向性を通じラフに制作されたのがサード・アルバム『Food For Worms』の正体といえます。


 しかし、先にも述べたように、今作には、以前のバンドの音楽性は見られなかった要素、Pavementのような乾いたオルタナティヴロック性の影響とエモの雰囲気がわずかに漂っています。エモは、青臭い雰囲気、洗練されていない雰囲気、つまり、荒削りであること、これらの要素がなければ、エモとは言いがたい。そういった観点から、レビューにおいて、この言葉を使うことを避けて来ましたが、このフルアルバムには明らかにエモい感じが全編に漂っています。

 

 ただ、Shameのニューアルバムは、単なる荒削りな試作ではなく、それ以上の価値が込められていることは、ロックに長く親しんできたリスナーであれば、すぐにお気づきになられるはずです。ボーカルのチャーリー・スティーンは、ブライアン・イーノの言葉を引き合いに出して、「ライブで演奏されて初めて曲は曲として成立するようになる」という奥深い言葉をPaste Magazineの取材に対して語っています。


そして、これは健康上な理由でフロントマンが”恥”という概念を厭わず、全力を込めてパフォーマンスを行うバンドにとって、ライブというものがいかほど大きな意味を持つのかをあらわしています。ライブを行うこと、バンドとともに楽しみ、観客と一体になりきること・・・、それはおそらく彼らの最も理想とする生き方でもあるのです。そして、Shameの音楽性をはっきりと象徴付ける意味において、録音とライブがオーバーラップしながら、実際のツアーで上手く機能するような内容となっている。つまり、スティーンが語るように、三作目のアルバムの多くの楽曲は、実際のステージで披露された時、本来の真価を発揮するようになるかもしれません。


 『Food For Worms』の中で力強い印象を放つ曲はいくつもある。オープニングを飾る「Fingers of Steel」は、ピアノから始まり、勢いだけで押しまくるバンドではなく、説得力で語りかけるバンドであることを示しています。そして、そこから繰り広げられるサウンドはスリリングであり、テンションの上昇と下降を繰り返しながら、まるで近年のバンドの置かれた状況を顕著に象徴するかのように、淡い叙情性を交えながら振れ幅の大きなダイナミックなロックサウンドへと行き着く。確かにそこには、Foalsのように、わかりやすさ、痛快さやノリやすさという側面も幾分か重視されてはいますが、Shameは、ライブ・レコーディングの醍醐味を失わずに、立ち止まり、何かをふと考えこませるような深い感慨を多面的に提示しているのです。


 

 King CrimsonやRUSHのようなプログレッシヴ・ロックの構造性と変拍子の影響を交えた「Six Pack」は、シンプルなパンクの要素と合わさり、この上ないユニーク性と痛快味が引き出されている。さらに「制作前には内省的になることがあった」と実直に語るチャーリー・スティーンの言葉を色濃く反映させたのが、アルバム発売前の先行シングルとして発売された「Adderall」となるでしょう。この曲は、Pavementを始めとするUSオルタナティヴロックの轟音性と、それと対極にある静寂性が掛け合わさって、特異なエモーションが曲の終盤になって立ち現れてくる。叙情性に縁取られた淡い切なさは、きっと彼らの怒りや寂しさ、喜びといった相反する感慨が複雑に絡み合った末に出来上がった美しい結晶なのである。そして曲の終わりにかけての不思議な虚脱感は、なぜか聞き手を心地よい境地に巧みに誘い込んでいくのです。

 

 その他、フォークサウンドを基調にした親しみやすさのあるオルタナティヴ・ロック「Orchid」、ポストパンクバンドとしての鋭さを感じさせる「The Fall of Paul」、90年代のエモ/スロー・コアを彷彿とさせる「Burning By Design」、同じく内省的な雰囲気を擁する「Different Person」は、序盤のディストーションサウンドに対して鮮やかな対比を作り、強い印象を残している。そして、アルバムのラストを飾る「All The People」では、Shameというバンドが数年間探し求め続け、最終的に自力で辿り着いた答えらしきものが示されていることに気がつくはずです。


バンドはまた、アルバム制作で既存作品の中で、最も強い結束力が生み出されたと話しています。数年間、彼らはパンデミックや健康上の理由を始め、様々な困難な状況に直面してきたのでしたが、そういった難局を五人で協力し乗り越えてきたこと、それが”連帯感や一体感”という他では得難い武器を生み出した理由です。ライブやレコーディングを通じ、彼らが弱さを受け入れつつ、どんなふうに生きてきたのかが最後の曲には分かりやすい形で反映されています。



86/100

 


Weekend Featured Track 「All The People」


 

 

 

Shameの今後のツアー日程は下記の通りです。

 


FEBRUARY:


28 | IE | Dublin – Button Factory


MARCH:

 
01 | IE | Dublin – Button Factory
03 | UK | Glasgow – SWG3
04 | UK | Newcastle – Boiler Shop
05 | UK | Leeds – Stylus
07 | UK | Sheffield – Leadmill
08 | UK | Liverpool – Invisible Wind Factory
09 | UK | Bristol – SWX
11 | UK | Manchester – New Century
12 | UK | Cardiff – Tramshed
14 | FR | Nantes – Stereolux
15 | FR | Paris – Cabaret Sauvage
16 | FR | Bordeaux – Rock School Barbey
18 | PT | Lisbon – LAV
19 | ES | Madrid – Nazca
20 | ES | Barcelona – La 2 de Apolo
22 | FR | Nimes – Paloma
23 | IT | Milan – Magnolia
24 | CH | Zurich – Plaza
26 | DE | Munich, Technikum
27 | DE | Berlin – Festsaal Kreuzberg
28 | DE | Hamburg – Markthalle
31 | SE | Stockholm – Debaser


APRIL:

 
01 | DK | Copenhagen – VEGA
02 | NO | Oslo – John Dee
04 | DE | Cologne – Gloria
05 | BE | Brussels – AB
06 | NL | Amsterdam – Melkweg
28 | UK | London – Troxy
US TOUR


MAY:

 
10 | Durham, NC – Motorco Music Hall
12 | Baltimore, MD – Ottobar
13 | Philadelphia, PA -Union Transfer
15 | Brooklyn, NY – Irving Plaza
16 | Boston, MA – The Sinclair
18 | Montréal, QC – Foufounes Électriques
19 | Ottawa, ON – Club SAW
20 | Toronto, ON – Lee’s Palace
22 | Kalamazoo, MI – Bell’s Eccentric Cafe
24 | Chicago, IL – Thalia Hall
26 | St Louis, MO – Off Broadway
27 | Lawrence, KS – The Bottleneck
28 | Fayetteville, AR – George’s Majestic Lounge
30 | Dallas, TX – Granada Theater


JUNE:


02 | Austin, TX – The Scoot Inn
03 | Houston,T X – White Oak Music Hall
04 | New Orleans, LA – Toulouse Theatre
SEPTEMBER:
28 | Pioneertown, CA – Poppy and Harriet’s
29 | Los Angeles, CA – The Regent Theatre
OCTOBER:
02 | San Francisco, CA – August Hall
04 | Portland, OR – Revolution Hall
06 | Seattle, WA – The Crocodile
07 | Vancouver, BC – Hollywood Theatre

0 comments:

コメントを投稿