Avalon Emerson  『& the Charm』  Review

 Avalon Emerson   『& the Charm』

 

 

Label: Another Dove/One House

Release: 2023/4/28



Review

 

アヴァロン・エマーソンは元々、テクノシーンでは著名なDJである。カルフォルニア出身であり、2014年からはベルリンに活動拠点を移し、ヨーロッパのクラブカルチャーの活性化に貢献してきた。またかつて日本にもDJとして来日しており、そのときはチケット売り切れ続出だったという。


そして、一般的にエマーソンが才媛と呼ばれるのには正当な理由がある。フロアに出演する傍ら、ソフトウェア開発に携わり、さらに、後継の若手の育成にも取り組んできた。エマーソンが支援したのは、Minor Science,Erckonwrong,Lanark Artefaxといったミュージシャン。ソロ活動に転ずる以前は、優良レーベル、Whitiesからテクノ作品をリリースしていた。

 

今作は、正確に言えば、デビュー・アルバムではない。2020年に『DJ KIcks』をリリースしている。しかし、前作は明らかにテクノアーティストとしての作品であったのに対して、今週リリースされた『& The Charm』はアヴァロン・エマーソンがポップアーティスト/シンガーソングライターの劇的な転身を果たした作品として注目しておきたい。エマーソンはボーカリストとしての道を模索することを選んだのである。


『& the Charm』は、コアなDJとしての矜持がアルバムのいたるところに散りばめられている。テクノ、ディープハウス、オールドスクールのUKエレクトロ、グライム、2 Step、Dub Step、とフロアシーンで鳴らしてきた人物であるからこそ、バックトラックは単体で聴いたとしても高い完成度を誇っている。さらにエマーソンの清涼感のあるボーカルは、彼女をDJと見くびるリスナーの期待を良い意味で裏切るに違いない。今回、アヴァン・ポップ界でその名をよく知られるブリオンをプロデューサーに起用したことからも、エマーソンがこのジャンルを志向した作曲を行おうとしたことはそれほど想像には難くない。そして何より、これらの曲は、踊りやすさと聞きやすいメロディーに裏打ちされポピュラーミュージックを志向していることが理解出来る。

 

エマーソンは、極力、トラックメイクの存在感を抑えつつ、AOR/ソフト・ロックのような爽やかな音楽性を追求している。その成果が最も素晴らしい形で現れたのが、オープニング曲である「Sandrail Silhouette」、二曲目の「Entombed In Ice」となるだろうか。ここでは、The Cars、The Police、TOTOの持つ清涼感に充ちたポップワールドを再現し、それをフロア寄りのダンサンブルな楽曲として昇華している。特に前者は、ストリングスのアレンジを交え、叙情的な音楽性を探ろうとしている。もちろん、テクノミュージックが必ずしも叙情的ではないとは言えないけれども、ボーカルトラック(自分の声)を交えることで、エマーソンは音楽性の中にある奥深い感情的な側面を探究しようとしたとも解釈出来る。


ただし、テクノシーンから台頭したミュージシャンとしてのキャリアを完全に度外視しているわけではない。「Dreamliner」では4つ打ちのシンプルなテクノ/ハウスをベースに、コアなダンスミュージックに取り組んでいる。他にも、「Hot Evening」では、DJのキャリアを踏まえたテクノ・ポップが収録されている。ここでは2 Steps/Dub Stepのビートを取り入れ、それをキャッチーなポップスとして昇華している。アヴァロン・エマーソンのボーカルは器楽的な響きを持つが、現時点ではボーカルとしてどのようなスタイルを確立していくか、模索している段階にあるようにも思える。

 

シンガーとしてのデビュー作の中で、意外な曲を挙げるとするなら、クローズ曲「A Dam Will Always Diviede」となるだろうか。楽曲自体はUKエレクトロに根ざしたものであると思われるが、少しドリーム・ポップに近いスタイルを追い求めているように感じられる。依然としてバックトラックに依拠するようなボーカルである一方、非凡なセンスを感じさせるのも事実だろう。



78/100


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