Guided By Voices 『Nowhere To Go But Up』- New Album Review

 Guided By Voices 『Nowhere To Go But Up』
 


Label: Guided By Voices Inc.

Release: 2023/11/24



Review

 

1980年代、当時、学校教師をしていたロバート・ポラードを中心に結成されたオハイオの伝説的なオルタナティヴロックバンド、GBV(Guided By Voices)は、最も活躍した年代こそ不明であるが、90年代、00年代のUSオルタナティヴ・ロックの大御所と見なされてもおかしくない。

 

このシーンには、Pixies、Superchunk、Dinasour Jr.(J. Mascis)のオルタナ御三家を筆頭に、Pavement、Archers Of The Loaf、Sebadoh,そして、Guided By Voicesが並んでいる。さらに、マニアックになると、4ADに所属するThrowing Muses、Breeders、Amps(双方ともに、Pixiesのベーシスト/ボーカル、キム・ディールのバンド)、Drive Like Jehu、Galaxie 500、さらにはシカゴのレーベル、タッチ・アンド・ゴー界隈のインディーロックバンドというように無数のバンドがいる。もちろん、さらにアンダーグランドに潜っていくと、オーバーグラウンドのグランジの対抗勢力である、Red House Painters、Codeineといったスロウコアのバンドに繋がるということになる。サッドコアやインディーフォークの代表格であるElliot Smithあたりも挙げられるだろう。

 

サブ・ポップのレーベル紹介でも書いた事があるが、そもそも80年代後半くらいまでは、米国にはインディーズシーンというのが明確に存在しなかったという。例外としてはThe Sonics等、ガレージロックの原点にあるバンドがいる。ただ単体でやっているバンドはいても、象徴的なシーンが存在しなかったということは、ポスト・パンクとハードコア・パンクという二つのファクターを介してであるが、「インディーズ」という概念が明確に存在したイギリスの音楽シーンとは対照的である。そこで、サブ・ポップのファウンダーとカート・コバーンは協力して、サブ・ポップを立ち上げ、独立のラジオ局でしか流れていなかったメジャーと契約していないインディペンデントのアーティストを支援した。当初、サブ・ポップはシングル・コレクションというのを企画し、『Nevermind』以前のGreen Riverを始めとするグランジの源流を形成した。

 

これは、それ以前に、アバディーンのMelvinsが呼び込もうとしていた流れでもあったのだが、その流れを汲み、90年代以降のR.E.Mに代表されるようなカレッジ・ロック(大学生に親しまれるラジオでオンエアされるロック)が流行るようになったというのが個人的な見解である。以後、インディーズシーンというのが形成され、90年代にはメジャーと契約せずに活動するバンドというのが、米国でも主流となっていったというような印象がある。おそらく当時は、インディーズで活動するということに何かしらメインストリームに対する反骨的な意味が含まれていたものと思われる。しかし、現在では、Dead Oceans、ANTI、Matador、Merge等、主要なインディーズレーベルが群雄割拠している米国のレコード業界であるが、インディーズはインディーズとしての原初的な意義を失いつつあるということで、たとえば、メジャーリーグの始球式にインディーズ・レーベルが所属するアーティストをブッキング出来ることを鑑みると、メジャー、インディーズの垣根が2010年代頃から取り払われた、もしくは、取り払われつつあるというような流れを捉えられる。

 

そういった昨今のミュージック・シーンの動向の中、主流になりつつあるのが以前とは正反対のスタイルである。つまり、メジャーに所属することも出来るけれど、あえてバンドのインプリントのレーベルからリリースを行うバンドがいる。例えば、大御所でいえば、メタリカ等が挙げられるが、これは商業的な側面では、その限りではないものの、セルフリリースに近い趣旨で作品を発表してきたいという、バンドメンバーやマネージメント側の思惑があるのかもしれない。『Nowhere To Go But Up』を発表したGuided By Voicesも、バンドの独立したレーベルから昨今、リリースを行い、よりコアなファンを取り込もうとしている。


『Nowhere To Go But Up』は、バンドがR.E.Mに代表されるカレッジロックやオルタナティブロックの原点に回帰したアルバムである。近年、過去のリイシューを含め、ガレージ・ロック的な荒削りな作風を発表していたGBVだが、今作ではよりキャッチーで親しみやすい作風へと転じている。

 

アルバムのタイトル、オープニング「The Race Is On,The King is Dead」を始め、啓示的な題名が目立つが、楽曲そのものは90、00年代のオルタナティヴロックの王道の音楽性である。ここにはGuided By Voicesとしてのスタンダードなインディーロックのスタイルにとどまらず、Superchunk、Archers Of The Loafのようなロックバンドに近いアプローチも綿密に取り入れている。特に、ロバート・ポラードのボーカルのメロディーは、Superchunkの90年代ごろの懐かしさを思わせ、また、じんわりとした温かみがあり、琴線に触れるものがある。

 

例えば、二曲目の「Puncher's Parade」はそのことを物語っている。この年代のバンドとしては珍しく深い叙情性を失っていないし、デビュー間もないバンドに見られる荒削りな側面もある。ポラードのボーカルラインには、90、00年代の懐かしさが漂う。そして、ひねりのあるオルタナのギターのコード進行に対し、驚くほど丹念にボーカルを紡いでいる。ここにはメンバー間の信頼関係を読み取れる。それと同じように、三曲目「Local Master Airline」でも、バンドは米国のインディーズの源流を捉え、ガレージ・ロックやグランジのようなオーバードライブをかけたイントロから、円熟味と渋さを兼ね備えたロックソングへと移行する。


ただ、この曲に関しては、オルタナティヴとは断定しきれないものがある。どちらかと言えば、普遍的なアメリカンロックという感じで、スプリングスティーンのような安定感のあるソングライティングである。ただ、それはスタジアム級のアンセムではなく、少人数のライブスペースを意識したロックという範疇に収められている。つまり、Husker Duのボブ・モールドがSUGARで追求した抒情的なアメリカンロックに近い。


昨年あたりのGBVのリリースから継続して行われていたことだったが、例えば、Big Muffを思わせるファジーな音作りはこのアルバムでも健在で、「How Did He Get Up There?」はその先鋒となるトラックだろう。ミドルテンポのカレッジ・ロックというフィルターを通して、適度なクランチさと心地よさを兼ね備えたロックソングを提示している。そしてここには、ガレージ・ロックの傍流であるストーナーロックのようなワイルドさもあり、キャッチーさを意識した上で、パンチとフックの聴いた曲を書こうというバンドの思惑も感じられる。


他にもバンドやロバート・ポラードのボーカルの指針として、ボブ・モールドのSUGARのスタイルが念頭にあるという気がする。「Stabbing at Fanctions」では、バンドとしてのパンチやフックを失わずに、それをゆったりとした安定感のあるロックソングに濾過し、それをさらに、Green River、Mother Love Boneといったグランジの出発点にあるプリミティヴなロック性に焦点を当てている。しかし、最終的にボラードのボーカルはボブ・モールドのようなメロディー性に重点が置かれ、それほど暗くはならず、重苦しくもならず、カレッジロックのように気軽な曲として楽しめるはず。

 

中盤まではいつものGBVと思えるが、オルタナティヴロックバンドとしての新しい試みをいくつか行われている。「Love Set」では、シンセサイザーでバグパイプのような音色を生み出し、それをクラウト・ロックやプログレッシヴ・バンドのような手法で組み直している。バンドはセッションの面白みに重点を置き、テンポをスローダウンさせたり、変拍子的な展開を込めたりと、かなり工夫を凝らしている。しかし、やはり、ポラードのボーカルについては変わらず、温和なインディーロックというアーティスト独自の個性を付け加えている。

 

ただ、中盤まではそれなりに良曲も収録されているが、アルバムの終盤では、序盤の野心的なアプローチが薄れる瞬間もある。これは使い古されたスタイルをアルバムの空白を埋めるような感じで収録してしまったことに要因がある。ハードロック的なアプローチを図った「Jack Of Legs」、民族音楽の要素を取り入れ、Led Zeppelinのインディーロックバージョンとも称せる「For The Home」は、バンドが新しい方向性に進んだと解釈出来なくもないが、デビュー時のMarz Voltaのような鮮烈な印象をもたらすまでには至っていないのが残念だ。

 

ただ、アルバムの最終盤で持ち直す瞬間もある。「Cruel For Rats」では貫禄のあるロックバンドの風格を漂わせる。相変わらずバンドのロックは渋さがあり、聞き入らせる。


そして、アルバムのクローズ「Song and Dance」は、本作の唯一のインディーロックのアンセムとも称すべきか。ギターとボーカルコーラスの調和的な意味合いを持つ最後の曲の効果もあってか、『Nowhere To Go But Up』は、バンドの数あるカタログの中でも聴かせる作品となっている。GBVは最高のロックバンドではないのかもしれないが、平均的な水準以上の音楽を提供し、今も世界のファンを魅了しつづけている。

 

 


75/100



Featured Track 「Puncher's Parade」

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