New Album Review - Kali Uchis 『ORQUIDEAS』

 


Label: Geffen

Release: 2023/01/12



Review 

 

グラミー賞アーティスト、カリ・ウチスはR&Bの清新なスタイルを模索するシンガーであるとともに、コロンビア、そして、ラテン・カルチャーの重要な継承者でもある。

 

最近では、南米や南欧文化に世界的な目が注がれているのは明らかである。いわば昔は、ボサノバ、サンバ、サルサを筆頭に、「ワールド・ミュージック」というジャンルで語られることが多かったラテン音楽が、世界のポピュラー音楽の最前線になりつつあるのは、時代の流れといえるかもしれない。それらは、レゲトンという形になったかと思えば、アーバン・フラメンコという、ポピュラー・ミュージックのトレンドの形になることもある。ロザリア、バッド・バニーに象徴されるように、南米にルーツを持つポップ・アーティストやラッパーたちに対して、ビルボード、及びレコーディング・アカデミーが軒並み高い評価を与えるようになったという事実は、南米という地域の文化が世界的に浸透するようになってきている証ともいえるかもしれない。

 

カリ・ウチスによる最新作『ORQUIDEAS』は、昨年の『Red Moon In Venus』の続編で、前作と同様にスペイン語で歌われている。上記のアートワークを見ると分かる通り、真の意味で続編のような意味を持ち、原題は、英語で「Orchid」、日本語で「ラン」を意味する。


アーティストみずからの肉体を花そのものに見立てたアートワークは、クリムト、アルチンボルドのパッチワークの技法を模し、肉体そのものにより鮮烈な美を表現しようと試みている。これらの表現性が南米文化の含まれる独特な情熱を秘めた美の表現の一環であることは想像に難くない。


前作のアルバムでは、メロウで、しっとりとしたスロウなR&Bのソングライティングにより、音楽における射幸性と高揚感のみがアーティストの魅力ではないということが示されたが、果たしてその反動によるものなのか、最新作はアップテンポなトラックで占められている。リアルなダンスミュージックのビートを意識し、ライブでの鳴りと観客との協和性を重視している。

 

「Como Asi?」 は、ラテンの文化を音楽というファクターを介し追い求め、ディスコ/バレアリックサウンドを基調とするダンサンブルなビートの中に妖艶さを漂わせる。アルバム全体を通じて、バリエーションの幅広さを意識し、変拍子を交え、プログレッシヴ・テクノのような音楽性を内包させ、曲の全体に起伏を設けている。これはシンガーソングライターとしてのたゆまぬ前進をあらわし、そして、DJとしての意外な表情を伺わせるものである。「Me Pongo Loca」そのアプローチは、ビヨンセやデュア・リパが示すようにハウスとポップの融合にある。そして、カリ・ウチスのダンスミュージックは、表向きからは見えないような形で、ラテンの情熱がその内側に秘められ、それが奥深い領域で、ふつふつとマグマのように煮えたぎっている。

 

 このアルバムのもう一つの際立った特徴は、ジェシー・ウェアが昨年のアルバムで示唆したように、ディスコ・サウンドのエンターテイメント性のリバイバルにある。それらをスペイン語の歌詞とその背後に漂うラテンのテンションが融合を果たし、部分的に清新な音楽が生み出されていることだ。「Iqual Que Un Angel」は、クインシー・ジョーンズのR&B、フュージョンの延長線上にあるノスタルジア溢れるアーバン・ソウルを、ラテンの文化性と結びつけようとしている。この曲は、日本のシティ・ポップにも近い雰囲気があり、バブリーな空気感を心ゆくまでたのしめる。「Pensamientos Intruviors」も「Iqual Que Un Angel」の系譜にあり、ハウスのグルーブ感が押し出され、バレンシア沖のサンゴ礁のエメラルドの輝きを思わせるものがある。

 

旧来のソウルのアプローチの後には、レゲトンに象徴づけられるモダンなサウンドが「Diosa」には見いだせる。しかし、トレンドのアプローチの中にも、モダンなヒップホップの要素を交え、グリッチを織り交ぜたりと、複数のアヴァンギャルドな工夫も見受けられる。その中で、ウチスの同音反復の多いスペイン語のボーカルが中音域の通奏低音のような響きを形成し、その周りに独特のグルーヴ、いわば音のウェイブを呼び起こし、それらがどこまで永続するのかを試行錯誤している。それらは最終的に、グリッチノイズの中にモジュラーシンセの音色がうねりながらその中核を貫いて、強烈なエナジーを生み出している。


ラテン音楽の継承者としてのアウトプットは、現時点で多数のリスナーから支持されている「Te Mata」に登場する。イントロのメロウな響きの後には、フラメンコ・ギター、コンガ/ポンゴ、ギロといった、ラテン音楽のパーカッションを配し、ムードたっぷりに哀感のあるフレーズをカリ・ウチスはポピュラーソングとして紡ぐ。リズムの前衛性は、ラテンのメロディーとともに、この曲にラテン文化の象徴的な意味合いをもたらす。フラメンコ調の流動的なリズムがあったかと思えば、アルゼンチン・タンゴに象徴される二拍子のリズムを複合的に配している。それらの底抜けに陽気なリズムは、最終的にフラメンコ調のスケールに引き立てられ、曲のクライマックスにドラマティックな演出を付与する。アウトロはタンゴ調のピアノでしとやかに終わる。

 

 

「Te Mata」

 

 

続く、「Perdiste」、「Young Rich & In Love」、「Tu Corazon & Es Mio...」は、ハウスとポップの融合というトレンドの形が示される。その中に、チルウェイブの爽やかさ、エレクトロ・サウンドの前衛性が刺激的にミックスされ、風通しのよいクリアなナンバーに昇華されている。これらは、イタロディスコやバレアリックのクラブミュージックの反映が心地良いサウンドとして昇華されている。「Munekita」は、今、最もトレンドな曲といえ、アルバムのアートワークに象徴される艶やかな雰囲気にレゲトンの要素をどのように浸透させるのかを試作しているように思える。この曲でも、エンターテインメント性を重要視しており、ボーカルのテクスチャーに流動的な動きをつけ、展開そのものに変拍子を加え、ビートの革新性に刺激的な響きをもたらす。

 

アルバムの最後の数曲では、序盤や終盤の収録曲で示されたバリエーション豊かな音楽性のミックスが楽しめる。その中に、ポップスの中にあるラテン音楽、ローエンドの強いハリのあるバレアリック・サウンドを基調としたハウス/プログレッシヴ・ハウスのダンスミュージックのアプローチ、続く、「Heladito」では、『Red Moon In Venus』で示されたR&Bのスロウバーナーのモチーフが再登場する。


「Dame Beso// Mueveto」では、サンバ/サルサをダンス・ミュージックという側面から示している。テネリフェ島やリオのカーニバルに見い出せるようなエンターテイメント性は音楽という枠組みをかるがると超越し、最終的にはリアルに近い体験に近づく。ウチスは、これらのダンスミュージックを通じて、ラテン音楽やカルチャーに鮮烈な息吹を吹き込む。本作の一番の醍醐味は、ラテン文化の純粋なエンターテイメント性とその躍動感に求められるのではないでしょうか。


 

 

78/100

 

 

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