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 Nilufer Yanya 『My Method Actor』

 

Label: Ninja Tune

Release: 2024年9月13日

 


Review

 

『Method Actor(メソッド・アクター)』について、ニルファーは、曲のコンセプトがどのように生まれたかを次のように語っている。「メソッド演技について調べていたんだけど、読んだところによると、メソッド演技は、人生を左右するような、人生を変えるような思い出を見つけることに基づいているんだ。メソッド演技がトラウマになったり、精神的に安全でないと感じる人がいるのは、常にその瞬間に立ち戻るからなんだ。良いことも悪いこともあるけれど、常にそのエネルギー、自分を定義づける何かを糧にしている。それはミュージシャンになるのと少し似ている。演奏しているときも、最初に書いたときのエネルギーや感情を、その瞬間に呼び起こそうとしている。その瞬間、その瞬間のエネルギーや感情を呼び起こそうとして試みた」

 

ロンドンのシンガーソングライター/ギタリスト、Nilufer Yanya(ニルファー・ヤンヤ)は、多彩な表情を持つ。多角的なクロスオーバー性とハイブリットな音楽性により、2022年頃から熱心な音楽ファンの注目を集めてきた。そして、The Faderが「衝撃的な復活」と称したように、今年の5月頃に、「Like I Say(I Runaway)」を引っ提げて、久しぶりのカムバックを果たした。

 

このシングルでは、2022年のアルバム「Painless」のR&B、ベッドルームポップ、ブレイクビーツ、ラップ、オルタナティヴ・ロック(グランジ)を劇的に結びつけた。歌詞の中では少し棘のあるリリックの表現を取り入れている。それはミュージシャンとしての深化を意味し、人間的に一歩先へと踏み込んだことへの表れでもある。これはアルバムのオープニングを飾る「Keep On Dancing」にも顕著に表れ出ているかもしれない。表向きをなぞらえるソングライティングの影は立ち消え、より深い領域に踏み込むことをためらわなくなった。おそらくそれがシンガーソングライターをして、「より過激なアルバム」と言わしめることになった。過激さとは、表現性において、今までよりも一歩先に踏み込み、未知の領域へと差し掛かることを意味している。実際的に、それは、轟音性の強いディストーションギターに反映される場合がある。しかし、2022年頃の音楽と同様、エレクトリックギターによるサウンド・デザインの趣旨が強い。ヤーニャのギターの演奏の趣旨は、まごうことなきサウンド・デザインなのであり、それらのイメージを的確に体現させ、強調させるのが彼女自身のボーカルというわけである。

 

もうひとつ、これらのサウンド・デザインの方向性は、トラック制作全般にも適用され、ブレイクビーツを反映させたビートメイク、そして、しなるようなリズムに組み合わされるソフトな感覚を持つR&Bのテイストを加え、独立した音楽を構築していく。ヤンヤのソングライティングは、ビートを組み合わせることにより、それらにグルーヴ感を付与し、最終的に、そのグルーブにどのようなギターやボーカルを乗せるべきか、デザインやテキスタイルのような観点から幾つかの可能性を検討するという趣旨である。ゼロからイチを作り出すというよりも、複数ある選択肢からソングライターにとって最善のものを選び、それらを聞きやすく、乗りやすいキャッチーなナンバーへ昇華させる。これらは、人物的なセンスを象徴づけるだけではなく、歌手がファッション的なセンスを重視していることを表す。他の一般的なミュージシャンとは異なり、ニルファー・ヤンヤにとって音楽制作とは、自分に最も似合う服を選び、それらをデコレート、つまり装飾し、まったく想像だにしえない音楽作品へと仕上げるということである。

 

このアルバムでは、本来の自分とは別の何かを演ずることにより、別の視点から本来の自己の姿を見出すという概念的なテーマも含まれていることは事実なのだろうが、それは音楽性の基底にある肉付けのような要素、スクリプトのように内側に埋め込まれており、表面的に表れ出てくることはほとんどない。このアルバムの中に含まれているテーマやイデアは、それはもっと言えば、聞き手側がやって来るのを口を開けて待つだけでは不十分で、自分の方から近づいていかないと発見出来ないのである。つまり、より的確に言えば、受動的なポピュラーアルバムではなく、能動的なリスニングを促されるポピュラーミュージックなのである。このアルバムの真価を求めるためには、みずから、アルバムのジャングルのなかに分け入っていかないといけないかもしれない。それは、表面的な音楽の響きの奥底に、観念的なものが情念の炎のように揺らめき、その炎の幻影を、聞き手は表面的な掴みやすく親しみやすいポピュラーミュージックの渦中に発見することを意味する。つまり、ニルファーの『My Method Actor』は、ミルフィールのような構造を持った奇妙なアルバムなのである。フォークをひとつその表面に差し込むと、その先に別の何かが見出だせる。言い換えれば、音楽というページをめくるたびに、別のストーリーや局面が見つかるという、これまでにあまりなかったタイプの音楽なのである。


 

音楽的に言えば、ベッドルームポップや、エレクトリックギターの細かな演奏をコラージュのように組み合わせ、それらをトラック全体の背景となるヒップホップのビートとかけ合わせる、というスタイルが際立っている。これはしかし、何も最近生み出されたものではなく、2022年のアルバムから続いているスタイルである。ところが、『My Method Actor』では、前作アルバムよりも音楽的な選択肢が広がり、そしてアウトプットの受け皿のようなものが多くなった。それらは、序盤の流れを形づくる「Binding」、「Mutations」という2曲において、メロウでアーバンなネオソウルという形にはっきりと表れている。特に、「Mutations」は前作アルバムの収録曲ほどには派手さはないけれど、よりソングライターとして深い領域へと踏み入れたことを象徴付けている。それはオルタナティヴロック/マス・ロックのギターとネオソウルの艷やかなボーカル、及び、コーラスというフランク・オーシャンの次世代に位置づけられるポスト・ネオソウルのスタイルに立ち表れている。さらに曲の後半では、シンセサイザーによるストリングスを配置させ、R&Bミュージックの中に複数の新しい要素をもたらそうとしている。

 

別のジャンルからの引用や影響を元の自分の音楽的なスタイルとかけ合わせるというこのアルバムのソングライティングの方向性は、続く「Ready For Sun」を聞くとより瞭然かもしれない。オーケストラストリングスをシンセサイザーのシーケンスのように敷き詰め、その空間的な音の処理の中で、何が出来るのかというのが、この曲の目論見であると推測される。それはやはり、前作アルバムの延長線上にあるネオソウルとオルタナティヴ・ヒップホップの中間にある形式をとって繰り広げられる。しかし、注目すべきは、今回のアルバムでは、ヤンヤは必ずしも彼女自身の声を主体としているとは限らないということである。ときには、優雅なオーケストラストリングが前面に出てきたり、ビートがそれと立ち代わりに主体になったりと、流動的な音楽を重視している。もちろん、歌手の声がメインになることもあるのだが、必要以上にその音楽的な空間を専有するということがないのである。そしてこれは、内的な感覚の告白ともいうべき際どい感覚を持つリリックの印象とは異なり、非常に控えめな音楽的な態度を取り、主体となる音楽に対して、一歩距離を置くような姿勢を全面的に維持し続けている。いわばそういった柔軟性のある音楽性が、このアルバムに一度聴いただけでは分からない深みを付与する。

 

ニルファー・ヤンヤの音楽は、制作時の観点における難易度とは裏腹に、それほど難しくなりすぎることはない。基本的には、誰にでも親しめるようなポピュラーアルバムを制作しようとしているのは明らかで、たとえソングライターとしての視点が高い水準にあろうとも、初歩的なリスナーにも聞きやすい曲を制作することを最優先事項にしている。これは作曲家としての親切心であり、過度なサウンドエフェクトや、難解な展開を極力避けて、一貫してグルーヴ感を意識した曲構成を心がけている。これはまた、ニルファー・ヤンヤが構成的な側面に心を配りながらも、感覚的な側面を軽視しないことに理由がある。「なんとなく良い感じ」とヤンヤが言うように、理想的な音楽とは、言葉では言い表せず、また、文章にも出来ない部分があることを踏まえ、それらをしなやかな感覚を持つポピュラー・ミュージックに仕上げる。この感覚的なポピュラー、ロック、R&Bを制作する手腕にかけては、現時点のところ、このシンガーソングライターに比肩する存在は見当たらない。「Call It Love」、「Faith's Late」は、このアルバムにおいて、制作者が単に曲の寄せ集めではなく、音楽性のバリエーションを基にし、一連の流れを持つレコードを制作しようとしたことを伺わせる。そして、反面、少し意外なことに、それは同時に、名曲とまではいかないかもしれないが、良曲を輩出させる重要な契機ともなった。

 

このアルバムでは、音楽そのものが個人的な告白や軽薄なロマンチシズムに終始するのを避けている傾向がある。それでもなお、一貫して、人生の中から引き出される感覚的なものはコントロールされているが、終盤になって、それらの何かに恋い焦がれたり、理想的な人生の側面を追い求めるような、夢想的な感覚が堰を切るようにして溢れ出る。AOR(ソフィスティ・ポップ)、ヨットロック、ボサノヴァを題材にし、80年代のポップのフィルターに通した「Faith's Late」、オルタナティヴフォークをシリアスな風味を持つネオソウルとして解釈した「Just A Woman」に反映させている。これは古典的なポップやソウルをアーティストが咀嚼していることの証でもある。現代的なものを作り上げるためには、時々、過去にも目を向けねばならない。

 

現代的なサウンド・プロダクションによって、表向きには隠されているが、後者のトラックには、ザ・スプリームスのようなディスコソウルの古典的なR&Bに対する憧れが示されている。ニルファー・ヤンヤのディスコの概念とは、きらびやかなミラーボールの華やかさにあるのではなく、フロアのサイドにあるメロウでまったりとした空間なのだろうか。それはまた、このアーティストがチルウェイブに近い音楽を推していることを示唆し、表面的なオルタナティヴ・ポップの裏側にある、ヨット・ロック、AOR、あるいは、ブラック・コンテンポラリー/アーバン・コンテンポラリーといった、複数の音楽的な文脈を浮かび上がらせる。もうひとつのギターヒーローのアーティストとしての表情は「Wingspan」に見出せる。もしかすると、性別こそ異なれ、ニルファー・ヤンヤはフランク・オーシャンの次世代の立場を担うかもしれない。時代が変わり、ソロアーティストでもバンドのような音楽を制作することは困難ではなくなっている。これは今後の音楽シーンで一層顕著になっていく可能性がある。それを受け、ソロアーティストとバンドは一体何が違うのかを示す必要がある。『My Method Actor』は、密林のカメレオンのように多彩な保護色に変化する。従来の音楽の聴き方の常識を覆すような作品。

 

 

 

88/100


 

 

Best Track 「Faith's Late」






On ‘Method Actor’, Nilufer Yanya explains how the concept for the song came about. 'I've been researching Method Acting and from what I've read, Method Acting is based on finding life-altering, life-altering memories. The reason why some people find method acting traumatic or mentally unsafe is because they always go back to that moment. There are good and bad moments, but you always feed off that energy, something that defines you. It's a bit like being a musician. Even when I'm playing, I'm trying to evoke the energy and emotion that I had when I first wrote it, in that moment. I try to try and evoke the energy and emotion of that moment, that moment in time.’

 
London singer-songwriter/guitarist Nilufer Yanya is a man of many faces. His multifaceted crossover and hybrid musicality has attracted the attention of dedicated music fans since around 2022. Then, around May this year, in what The Fader called a ‘shocking comeback’, they made their first comeback in a long time with the song ‘Like I Say (I Runaway)’.

 
The single dramatically links R&B, bedroom pop, breakbeats, rap and alternative rock (grunge) from the 2022 album ‘Painless’. The lyrics incorporate a slightly thorny lyrical expression. It signifies a deepening as a musician and a sign that he has taken a step further as a human being. This may be most evident in the album's opener ‘Keep On Dancing’. 

 

The shadows of songwriting that traced the surface have disappeared, and the band no longer hesitates to venture into deeper territory. Perhaps that is what led the singer-songwriter to call it a ‘more radical album’. Radicality means going one step further than before in terms of expressiveness and entering uncharted territory. Practically, this is sometimes reflected in the roaring distortion guitars. However, as with the music of around 2022, the aim of sound design with electric guitars is strong. The intent of Janya's guitar playing is unmistakably sound design, and it is her own vocals that embody and emphasise these images precisely.


Another of these sound design directions is applied to track production in general, with beat-making reflecting breakbeats and adding a soft feel of R&B flavours combined with sinewy rhythms to build independent music. Janya's songwriting is about combining beats to give them a groove, and then finally considering several possibilities in terms of what kind of guitars and vocals to put on top of the groove, like design and textiles. Rather than creating something from scratch, the songwriter chooses the best of several options and sublimates them into a catchy number that is easy to listen to and ride. These not only symbolise a sense of personhood, but also a singer's emphasis on fashionable taste. Unlike most musicians, for Nilufer Janja, making music means choosing the clothes that suit her best, decorating them and turning them into a completely unimaginable piece of music.


It may be true that the album also contains a conceptual theme of finding one's true self from a different perspective by playing something other than one's true self, but it is embedded inside like a script, a fleshed-out element at the base of the musicality, and rarely surfaces on the surface. It rarely surfaces. The themes and ideas contained within the album are, moreover, not enough to wait with open mouth for the listener to come to them; they can only be discovered if you approach them yourself. In other words, to be more precise, this is not a passive popular album, but popular music that encourages active listening. 

 

To find the true value of this album, you may have to wade into the jungle of the album yourself. This means that deep within the superficial musical resonance, the conceptual flickers like a flame of emotion, and the listener discovers a phantom of that flame within the superficial, easy-to-grasp, familiar whirlpool of popular music. In other words, Nilufer's My Method Actor is a strange album with a milfoil-like structure. Insert one fork into its surface and you find something else beyond it. In other words, it is a type of music that has rarely been heard before, where each turn of the musical page reveals a different story or aspect.

 

Musically speaking, the style is marked by a collage-like combination of bedroom pop and detailed electric guitar playing, which is interlaced with hip-hop beats that form the backdrop to the track as a whole. This is not, however, a recent development, but a style that has continued since the 2022 album. However, My Method Actor offers more musical options and more receptacles for output than the previous album. This is clearly evident in the form of mellow, urban neo-soul in the two tracks ‘Binding’ and ‘Mutations’, which shape the flow of the early part of the album. ‘Mutations’, in particular, is not as flashy as the songs on the previous album, but it symbolises the band's entry into deeper songwriting territory. This is evident in the post-neo-soul style of Frank Ocean's next generation, with alternative rock/math-rock guitars and neo-soul lustrous vocals and choruses. In the second half of the song, he attempts to bring multiple new elements into R&B music by placing synthesised strings.



The direction of the album's songwriting, in which references and influences from other genres are crossed with his original musical style, may be more apparent in the following track ‘Ready For Sun’. Laying down orchestral strings like a synthesiser sequence, the song is presumably intended to show what can be done with that spatial treatment of sound. It still unfolds in a format somewhere between neo-soul and alternative hip-hop, an extension of the previous album. It is worth noting, however, that on this album, Yanya does not necessarily use her own voice as the main instrument. At times, the emphasis is on fluid music, with graceful orchestral strings coming to the fore and beats taking their place. Of course, the singer's voice is sometimes the main focus, but it does not occupy the musical space any more than necessary. And this is different from the impression given by the lyric, which has a harsh sense of confession of inner feeling, and adopts a very reserved musical attitude, maintaining an overall attitude of keeping one step away from the music as the main subject. This musical flexibility, so to speak, gives the album a depth that cannot be understood after just one listen.


Nilufer Yanya's music is not overly difficult, despite the level of difficulty from a production point of view. Basically, it is clear that he is trying to produce a popular album that is accessible to everyone, and even if his songwriting perspective is of a high standard, he makes it a priority to produce songs that are easy to listen to for even the most rudimentary listener. This is a kindness as a composer, and he tries to avoid excessive sound effects and esoteric developments as much as possible, and to consistently structure his songs with a groove in mind. This is also the reason why Nilufer Janja pays attention to the compositional aspect but does not neglect the sensory aspect. As Yanya says, ‘It's kind of nice’, he is aware that there are aspects of ideal music that cannot be described in words, nor can they be put into writing, and he turns them into supple sensory popular music. At the moment, no singer-songwriter can compare to her skill in creating sensual popular, rock and R&B music. ‘Call It Love’ and ‘Faith's Late’ suggest that, on this album, the producers have tried to create a record that is not simply a collection of songs, but a series of records based on variations in musicality. On the other hand, somewhat surprisingly, it was also an important opportunity to produce good songs, if not masterpieces.
 

On this album, the music itself tends to avoid being all about personal confessions and frivolous romanticism. Nevertheless, the sensuality drawn from life is consistently under control, but towards the end of the album, a dreamy sense of longing for something of those things and the pursuit of idealised aspects of life floods in like a weir: AOR (sophisti-pop), yacht rock, and the album is a perfect example of the kind of music that is often used in the music of the late 1960s and early 1970s, Bossa Nova as reflected in ‘Faith's Late’, which takes its subject matter and passes it through the filter of 80s pop, and ‘Just A Woman’, which interprets alternative folk as neo-soul with a serious flavour. This is also a testament to the artist's mastication of classic pop and soul. In order to create something contemporary, one has to look to the past from time to time.


Although ostensibly hidden by the contemporary sound production, the latter tracks show a yearning for classic R&B disco-soul classics such as The Supremes. Is Nilufer Yanya's concept of disco not in the glitz and glamour of glittering mirror balls, but in the mellow and mellow space on the side of the floor? It also suggests that the artist is pushing music closer to chillwave, bringing up the multiple musical contexts behind the superficial alternative pop: yacht rock, AOR or black contemporary/urban contemporary. Another expression of Guitar Hero as an artist can be found in ‘Wingspan’. 

 

Perhaps Nilufer Yanya, although of a different gender, could take the place of Frank Ocean's next generation. Times have changed and it is no longer difficult for solo artists to produce music like a band. This is likely to become even more pronounced in the music scene in the future. In response, it is necessary to show what the difference is between a solo artist and a band. ‘My Method Actor’ is as diverse as a chameleon in a jungle. This is a work that breaks with conventional ways of listening to music.


ウェールズ/チャーチ・ヴィレッジが生んだ新星、CVC(チャーチ・ヴィレッジ・コレクティヴ)がニューシングル「The Lowrider (Just About Meant To Be)」を発表した。「サタデー・ナイト・フィーバー」を思わせるノスタルジックなディスコロックに酔いしれよう。

 

彼らは2023年のデビューアルバム『Get Real』で未知の可能性を示した。70年代のハードロック、ディスコソウルを結びつけた求心力のあるサウンドはコレクティブの異次元のパワーを感じさせてくれた。


昨年、CVCは、「世界で活躍するようなバンドになりたい!」と表明していたが、その野望は現実のものに。ライヴスペースでじわじわと影響力を持つようになり、地元ウェールズの公演は軒並みソールドアウト。ニューヨーク公演も実現させた。ライヴは熱気に溢れ、素晴らしく驚異的であるという。ラグビー場とパブを特色とするウェールズの町の魅力とロックバンドの野心を融合させたCVCは、新しい作品を生み出すため、スタジオ入りした。愛とロマンスへの夢の賛歌「The Lowrider (Just About Meant To Be)」は、2人が完璧にシンクロする瞬間を歌っているという。


この曲の共同ソングライター/ヴォーカリストであるデイヴ・バッシーは次のように説明している。

 

『The Lowrider』は、昔住んでいた地元(カーディフのThe City Arms)で、遠距離恋愛中の恋人のこと、僕らがいかに "Just about meant to be "であるかについて、長いセッションの後に書いた! 家に帰ってシンセの "ベース "セッティングをしたら、曲の続きが出てきた。曲のタイトルは『The Lowrider』なんだけど、これはスヌープ・ドッグに参加してもらったら最高だと思ったから!」

 

 

「The Lowrider (Just About Meant To Be)」





【REVIEW】  CVC 「GET REAL」 ウェールズの新星によるデビュー・アルバム

 


イギリスの人気シンガー、Michael Kiwanuka(マイケル・キワヌカ)がニューアルバム『Small Changes』を発表し、その中から2曲の新曲「Lowdown (part i)」と「Lowdown (part ii)」を共同ミュージックビデオで公開した。

 

『Small Changes』はGeffenから11月15日にリリース予定。Small Changes』は11月15日にGeffenからリリースされる。ビデオは以下から。

 

『Small Changes』はキワヌカの4枚目のアルバムで、2020年のマーキュリー賞を受賞し、グラミー賞の最優秀ロック・アルバム賞にもノミネートされた2019年の『Kiwanuka』に続く待望の作品。

 


「Lowdown (part i)」「Lowdown (part ii)」

 

 

 

Michael Kiwanuka  『Small Changes』

 

Label: Geffen

Release: 2024年11月15日


 Tracklist:


1. Floating Parade

2. Small Changes

3. One and Only

4. Rebel Soul

5. Lowdown (part i)

6. Lowdown (part ii)

7. Follow your Dreams

8. Live For Your Love

9. Stay By My Side

10. The Rest of Me

11. Four Long Years

 Jessie Murph 『That Ain't No Man That's The Devil』

 

 

 Label: Columbia

Release: 2024年9月6日

 

Review  

 

アラバマ州出身のジェシー・マーフは、驚くべきことに若干19歳のシンガーだ。2021年、コロンビア・レコードとレコード契約を結び、デビューシングル「Upgrade」をリリースした。現代的なシンガーソングライターと同様に、TikTokやYoutubeから登場したシンガーである。すでに彼女の楽曲「Pray」は、UKチャート、ビルボードチャート、それからカナダのチャートの100位以内にランクインしている。今後ブレイクする可能性の高い歌手と見るのが妥当だろうか。


ジェシー・マーフは、エイミー・ワインハウスのポスト世代の歌手である。喉を潰したような、この年齢からは想像の出来ないハスキーな声の性質は、むしろこの歌手の最大の強みであり、スペシャリティとも言えるだろう。そして、巧みなビブラートを駆使することによって、ハスキーな声は、人間的な奥深さや業へと変化する。そして、アラバマ出身という長所は、「サザン・ソウルの継承」という音楽的なテーマに転化し、カントリー、ブルース、R&Bを変幻自在に横断する。さながら今は亡きエイミー・ワインハウスの歌声が現代に蘇ったかのようでもあり、リリックの内容も歌手のプライベートのきわどい話題に触れている。実際的にオープナー「Gotta Hold」でのブレイクビーツに反映されているように、ヒップホップのビートからの影響も含まれていることがわかる。ソーシャルメディア全盛期に登場したシンガーと言うと、耳障りの良いライトな感じのインディーポップを思い浮かべる方もいるかもしれないが、ジェシー・マーフの音楽性はそれとは対極にあり、現代のミュージックシーンから孤絶している。マーフは、むしろ自分自身の声色のダーティーさや醜さをいとわず、米国南部的な感覚を徹底して押し出そうと試みる。それもまたワインハウスの人間的な業のようなものを引き継いでいると言える。近年のR&Bの流れに与せず、70年代のソウルミュージックのヘヴィーさに重点が置かれている。この点に、並み居るシンガーとはまったく異なる個性を見出すことが出来る。

 

ジェシー・マーフの曲は、お世辞にもきれいだとか都会的に洗練されているとは言いがたい。いや、むしろその粗削りで、どこまで行くか分からない、潜在的な凄みがデビューアルバムの醍醐味でもある。現代の歌手は、どこにいようと、インターネットで楽曲をオープンにすると、音楽ファンやレーベルに見出されてしまうが、コロンビアがこういったある意味、現代性とは対極にある古典的なR&Bシンガーに期待していることは、この名門レーベルが時代を超越するような存在、そして現代の音楽シーンを変えうる存在、さらに宣伝的なアイコンではなく、本物の歌のパワーで音楽そのものの意味を塗り替えてしまう存在を待望していることの証でもある。トラックの編集や他の楽器による脚色、ないしは、マスタリングのエフェクトとは関連のない「音楽そのものの良さ」を表現することが、2020年代後半の音楽家やアーティストの使命である。そういった重圧にジェシー・マーフが応えられるかどうかはまだ定かではない。

 

しかしながら、このデビューアルバムでポップスターとしての前兆は十分見えはじめている。もちろん、ラディカルな側面だけが歌手の魅力ではあるまい。「Dirty」では、Teddy Swimsとの華麗なデュエットを披露し、カントリーやアメリカーナ、そしてロックをR&Bと結びつけて、古典的な音楽から現代への架橋をする素晴らしい楽曲を制作している。ジェシー・マーフの歌声には偉大な力が存在し、そしてどこまでも伸びやかで、太陽の逆光を浴びるかのような美しさと雄大さを内含している。この曲こそ、南部のソウル・ミュージックの本筋であり、メンフィスのR&Bを次世代へと受け継ぐものである。そこにブルースの影響があることは言うまでもない。さらに「Son Of A Bitch」も、バンジョーの演奏を織り交ぜ、カントリーをベースにして、ロック的な文脈からヒップホップ、そしてモダンなR&Bへ、まるで1970年代から50年のブラック・ミュージックの歩みや変遷を再確認するような奥深い音楽的な試みがなされている。


ヒップホップに近いボーカルのニュアンスが披露されるケースもある。「It Ain't Right」は、背景となるソウルミュージックのトラックに、ポピュラー、ラップ、ロックの中間にある歌声を披露している。音楽としての軸足がラップに置かれたかと思うと、次の瞬間にはロックへと向かい、そしてポップスへと向かう。これらの変幻自在のアプローチが音楽そのものに開放的な感覚を付与し、聞き手側にもリラックスした感覚を授けることは疑いがない。一つの形式に拘泥せず、テーマとなる音楽を取り巻くように音楽を緩やかに展開させていることが素晴らしい。


アルバムの冒頭では、マスタリング的なサウンドは多くは登場しないが、反面、中盤にはエクスペリメンタルポップの範疇にある前衛的なポップスの楽曲が登場する。例えば、「I Hope It Hurts」はノイズポップの編集的なサウンドを織り交ぜ、シネマティックなR&Bを展開させている。また、続く「Love Lies」では、ヒップホップの文脈の中で、ロックやカントリーといった音楽を敷衍させていく。これらは、「ビルボードびいきのサウンド」とも言えるのだが、やはり聞かせる何かが存在する。単に耳障りの良い音楽で終わらず、リスナーを一つ先の世界に引き連れるような扇動力と深み、そして音楽における奥行きのようなものを持ち合わせているのだ。

 

アルバムの中盤の2曲では、形骸化したサウンドに陥っているが、終盤になって音楽的な核心を取り戻す。いや、むしろ19歳という若さで音楽的な主題を持っているというのが尋常なことではない。探しあぐねるはずの年代に、ジェシー・マーフは一般的な歌手が知らない何かを知っている。それらは、「High Road」を聞くと明らかではないだろうか。マーフはこの曲で基本的には、主役から脇役へと役柄を変えながら、デュエットを披露している。実際的に、Koe Wetzelのボーカルは、80年代のMTVの全盛期のブラック・コンテンポラリー/アーバン・コンテンポラリーのR&Bの世界へと聞き手を誘うのである。サビやコーラス、そしてその合間のギター・ソロも曲の美しさを引き立てている。何より清涼感と開放感を持ち合わせた素晴らしいポップスだ。さらに、Baily Zimmmermanとのデュエット曲「Someone In The Room」では、アコースティックギターの演奏を基にこの年代らしいナイーヴさ、そしてセンチメンタルな感覚を織り交ぜ、見事なポップソングとして昇華させている。また、マーフのボーカルには、やはり、南部のR&Bの歌唱法やビブラートが登場する。もちろん、デュエットとしての息もピッタリ。二人のボーカリストの相性の良さ、そして録音現場の温和な雰囲気が目に浮かんできそうだ。

 

 

アルバムの最終盤では、エイミー・ワインハウスのポスト世代としての声明代わりのアンセム「Bang Bang」が登場する。この曲では、自身のダーティーな歌声や独特なトーンを活かして、フックの効いたR&Bを生み出している。やはり19歳とは思えない渋みと力感のある歌声であり、ただならぬ存在感を見せつける。デビューアルバムでは、そのアーティストが何者なのかを対外的に明示する必要があるが、『That Ain't No Man That's The Devil』では、その水準を難なくクリアしている。何より、商業主義の音楽でありながら、一度聴いて終わりという代物ではない。

 

本作のクローズでは、現代のトレンドであるアメリカーナを主体とし、アラバマの大地を思い浮かばせるような幽玄なカントリー/フォークでアルバムを締めくくっている。音楽や歌の素晴らしさとは、同じ表現性を示す均一化にあるわけではなく、他者とは異なる相違点に存在する。最新の音楽は「特別なキャラクターが尊重される」ということを「I Could Go Bad」は暗示する。2020年代後半の音楽シーンに必要視されるのは、一般化や標準化ではなく、他者とは異なる性質を披瀝すること。誰かから弱点と指摘されようとも、徹底して弱点を押し出せば、意味が反転し、最終的には大きな武器ともなりえる。そのことをジェシー・マーフのデビュー作は教唆してくれる。文句なしの素晴らしいアルバム。名門コロンビアから渾身の一作の登場だ。



 

90/100




Best Track 「Dirty」




Jessie Murphのデビューアルバム『That Ain't No Man That's The Devil』はコロンビアから発売中。ストリーミングはこちらから。

Best New Tracks-  Dawn Richard & Spencer Zahn 「Diet」 (Sep. Week 2)



Dawn Richard(ドーン・リチャード)、Spencer Zahn(スペンサー・ザーン)はともにマルチ奏者として活躍している。リチャードは、R&Bやエレクトロニックを得意とし、ボーカリストとして主に活躍する。他方、ザーンは器楽奏者の性質が強く、昨年、モダン・クラシカルの連作アルバム『Statues Ⅰ』、『Statues Ⅱ』を立て続けに発表。ピアノ、ギターを中心とする鍵盤楽器や弦楽器を得意とする。二人はともに、トラック制作の名手でもあるが、今回のコラボレーターでは、まさしく両者の長所を活かしながら、短所を補うという意義が込められている。

 

「Traditions」と「Breath Out」に続く三作目のシングル「Diet」は、Teddy Swimsをフィーチャーしている。スペンサー・ザーンの美しいピアノにエレクトロニックやミニマルの効果を加えて、ドーン・リチャードのソウルフルなボーカルに洗練された響きをもたらす。秋の夜長にじっくりと耳を澄ませたい良曲である。近日リリース予定のアルバム『Quiet in a World Full of Noise』の第3弾となる。試聴は以下から。


『Quiet in a World Full of Noise』は、このデュオの2022年のコラボレーションアルバム「Pigments」に続く作品で、Merge Recordsから10月4日にリリース予定。

 

 

 「Diet」

Nilüfer Yanya、新作アルバム『My Method Actor』を発表    



  ロンドンのNilüfer Yanya(ニルファー・ヤンヤ)はクラブビートからネオソウル、ラテンミュージック、ヒップホップ、グランジをはじめとするオルタナティヴロックまでセンス良く吸収、2020年代のニュー・ミュージックの境地を切り拓く。ステージでの佇まいからは偉大なロックスターの雰囲気が醸し出されている。

 

すでに前作アルバム『Painless』はピッチフォークのBest New Albumに選ばれているが、ピッチによる見立ては的中だったかもしれない。ともあれ、次のアルバムでロンドンのアーティスト、ニルファーヤーニャは、ほぼ確実に世界的なロックシンガーとして目されるようになるだろう。

 

ロンドンのシンガーソングライターNilüfer Yanya(ニルファー・ヤーニャ)は2024年4月下旬に、イギリスのレーベル、Ninja Tuneとの契約を結んだ。この契約ははっきりいうと、晴天の霹靂である。なぜならブレインフィーダーのような傘下からの昇格ではなく、横のスライドのような意味を持つからだ。もっと言えば、ロンドンのダンスミュージックの老舗への浮気とも言える。もしかすると、ニルファーによる”オルタナティヴ宣言”と言っても差し支えないかもしれない。

 

『Painless』まではATO/PIASに所属していたシンガーの新契約は、アーティストにとって新しい旅の始まりを意味する。このニュースとともに新曲「Like I Say (I runaway)」を発表した。

 

この新曲は、2022年リリースのアルバム『PAINLESS』以来の作品である。「Like I Say (I runaway)」は、ヤーニャの妹モリー・ダニエルが監督したミュージック・ビデオと共に発表された。ニルファーが家出した花嫁に扮するこの曲は歪んだディストーションギターが特徴的。 90年代のオルタナティヴ・ラジオを彷彿とさせるコーラスの下で歪んだギターのクランチが強調されている。

 

シングルのテーマについて、ニルファーは次のように語っている。


「時間は通貨のようなもの。二度と取り戻せない。それに気づくのはとても大変なことなの」


ニューシングルは、ヤンヤのクリエイティブ・パートナーであるウィルマ・アーチャー(スーダン・アーカイブス、MFドゥーム、セレステ)との共同作業で書かれた。これらのミュージシャンは過去に『PAINLESS』やデビューアルバム『Miss Universe』でコラボレーションしている。

 

 

「Like I Say (I runaway)」- Best New Tracks

 

 

2nd Single- 「Method  Actor」

 

  ニルファー・ヤンヤは「Method Actor」の発表とともに『My Method Actor』を正式に発表した。ニューヨーク・タイムズ紙が「対照的なテクスチャーを楽しむ」と評したほか、ザ・フェイダー紙が "衝撃的な復活 "と評した最近のシングル「Like I Say (I runaway)」に続くものだ。


ヤンヤはクラブビートからネオソウル、オルタナまでをセンス良く吸収し、2020年代のニューミュージックの境地を切り拓く。簡潔性に焦点を当てたソングライティングを行う彼女だが、そのなかにはスタイリッシュな響きがある。そして音楽そのものにウィットに富んだ温かさがある。それは、シニカルでやや刺々しい表現の中に含まれる奥深いハートウォーミングな感覚でもある。これはアルバムの前に発表された「Like I Say(I Runaway)」によく表れている。


アルバムのリードカットでタイトル曲でもある「メソッド・アクター」は、イントロから次に何が起きるのかとワクワクさせるものがある。やがてオルタナティブロックから多角的なサウンドへとつながり、先が読めない。アウトロでは予想外の展開が待ち受けている。それはたとえば、ショートストーリーのフィルムの流れをぼんやりと眺めるかのような不可思議な感覚に満ちている。


このシングルではアーティストが無名の登場人物の立場になって、4分弱のミニ・ライフ・ストーリーを描いている。付属のビジュアライザーは、スペインのベニドームにある古いホテルで撮影され、ニルファーが曲のストーリーを共有するために座っている様子を捉えたワンテイクのビデオである。このビデオは下記よりご覧いただける。

 


「Method  Actor」- Best New Tracks


 

3rd Single -  「Call It Love」

©︎Molly Daniel


  ニルファー・ヤンヤがニューアルバム『My Method Actor』の第3弾シングル「Call It Love」を公開した。この曲は先行シングル2曲とは異なり、R&Bテイストのアプローチが組み入れられ、涼し気な印象を放つ。ギターやシンセ、ストリングス、スティールパンなどを導入し、オルトフォークにトロピカルなイメージを添えている。しかし、こういったゴージャスなアレンジは旧来にはそれほど多くなかった。以前よりも遥かにトラック自体が作り込まれている印象を受ける。

 

ヤンヤはプレスリリースでこの曲についてこう語っている。

 

「自分の直感を完全に信じるには、ある種の勇気が必要だ。この曲は、自分の天職に身を任せ、その天職が自分をどこかに導いてくれる。それがあなたを蝕み、破滅させるのです」


ヤンヤは、いつものクリエイティブ・パートナーであるウィルマ・アーチャーと二人きりでこのアルバムに取り組んだ。ヤンヤは以前のプレスリリースで、「このアルバムは、その点で最も強烈なアルバムです。なぜなら、私たち2人だけだから。私たちは誰もバブルの中に入れなかった」と説明する。


このアルバムを書いているとき、ヤンヤは20代後半にさしかかり、ミュージシャンとしてのプレッシャーと格闘していた。

 

「夢見ることは問題解決に似ていると言われるようにね。ああ、いい感じ。いい感じ。理にかなっている。でも、なぜそうなのかはわからない。これは創造的な脳の一部を使っているようなもの」

 

  「Call It Love」

 



 4th Single 「Mutations」




ニルファー・ヤンヤはプレスリリースでこの曲について次のように語っている。「 "Mutations "は状況によってもたらされる変化を扱っています。これは灰の中から蘇る不死鳥のようなものではなくて、何百万という小さな決断や行動が自分の存在を形成していく中で常に起こる微妙な変化でもある。私にとってそれは、サバイバルのようなものを意味している。単なる変容の過程というよりは、環境や周囲の環境から生まれるもので、生き残るために必要なものだ。突然変異は、あなたが経験しなければならないこと、つまり進化しなければならないことなのです」

 

『My Method Actor』はヤーニャのサード・アルバムで、2022年のアルバム『PAINLESS』と2019年のデビュー・アルバム『Miss Universe』(いずれもATOからリリース)に続くものだ。


ヤンヤは、いつものクリエイティブ・パートナーであるウィルマ・アーチャーと二人きりでこのアルバムに取り組んだ。「その点で、これは最も強烈なアルバムです」とヤンヤは語っている。


ニルファー・ヤンヤの妹、モリー・ダニエルが「Mutations」のビジュアライザー・ビデオを監督した。

 

 

「Mutations」


5th Single 「Made Out of Memory



ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライター、ニルファー・ヤンヤが、ジャック・サンダースと共にBBCラジオ1のニュー・ミュージック・ショーで新曲「Made Out Of Memory」を公開した。


この曲は、2024年9月13日にリリース予定の彼女のサード・スタジオ・アルバム『My Method Actor』からの4枚目のシングルである。ヤンヤは、プロデューサーのウィル・アーチャーと共にこの曲を書いた。


「この曲は、歌詞のアイディアのように、みんなが他の人たちの思い出でできているということについて歌っているんだ。それが私たちを人間たらしめ、私たちを私たちたらしめているようなものなの」。


「歌詞を書くときは、少し深く掘り下げる必要があると思うんだけど、どんな内容になるのか前もって考えることはできないから、後で明らかになるのよ」と彼女は付け加えた。


ニュー・アルバムはウィル・アーチャーがプロデュースした11曲入り。レコーディングはロンドン、イーストボーン、ウェールズで行なわれた。2022年のアルバム『Painless』以来2年ぶりのアルバムで、彼女の新しいレーベルNinja Tuneからの最初のリリースとなる。


「Made Out of Memory

 

 

 

6th Single  「Just a Western」



今週金曜日にリリースされるニューアルバム『My Method Actor』に先駆け、ニルファー・ヤンヤが最終シングル「Just a Western」をリリースした。


「メロディーは自由な感じがするけど、歌詞は "入る道も出る道もない "というもので、自分の運命と向き合うというコンセプトなんだ」とヤーニャはプレスリリースで新曲について語っている。「私が運命を信じているかどうかはわからないが、この曲ではそれがリアルに感じられる」

 

 

「Just a Western」



Nilüfer Yanyaの『My Method Actor』は9月13日にニンジャ・チューンからリリースされる。



Nilüfer Yanya『My Method Actor』



Label: Ninja Tune

Release: 2024/09/13


Tracklist:


Keep On Dancing

Like I Say(I Runaway)

Method Actor

Binging

Mutaitions

Ready For Sun(touch)

Call It Love

Faith's Late

Made Out Of Memory

Just A Western

Wingspan

 

 

 

Nilüfer Yanya 2024 Tour Dates:


North American Tour Dates:


9/28 - Philadelphia, PA @ Underground Arts*


9/30 - Washington, DC @ Black Cat*


10/1 - New York, NY @ Brooklyn Steel*


10/2 - Boston, MA @ Royale*


10/4 - Montreal, QC @ La Tulipe*


10/5 - Toronto, ON @ Phoenix Concert Theatre*


10/6 - Cleveland, OH @ Grog Shop+


10/7 - Chicago, IL @ Metro+


10/9 - Nashville, TN @ Basement East+


10/10 - Carrboro, NC @ Cat’s Cradle+


10/11 - Atlanta, GA @ Terminal West+


10/13 - Lawrence, KS @ Bottleneck+


10/15 - Denver, CO @ Meow Wolf+


10/18 - Vancouver, BC @ Hollywood Theatre+


10/19 - Seattle, WA @ The Crocodile+


10/20 - Portland, OR @ Wonder Ballroom+


10/22 - San Francisco, CA @ August Hall+


10/24 - Los Angeles, CA @ Fonda Theatre+

 


supported by:


Lutalo & Eliza McLamb = *


Angélica Garcia & Lutalo = +


EU & UK Tour Dates:


11/24 - Brussels, BE @ Botanique Orangerie


11/25 - Amsterdam, NE @ Melkweg Old Hall


11/26 - Berlin, GE @ Kesselhaus


11/28 - Paris, FR @ La Bellevilloise


11/30 - Brighton, UK @ Concorde 2


12/2 - Bristol, UK @ Fleece


12/3 - London, UK @ HERE at Outernet


12/4 - Nottingham, UK @ Rescue Rooms


12/5 - Manchester, UK @ Academy 2

Charlotte Day Wilson


カナダのシンガー・ソングライター、Charlotte Day Wilson(シャーロット・デイ・ウィルソン)が、最新アルバム『Cyan Blue』収録曲のリワーク3曲を収録した『Live at Maida Vale EP』をリリースした。このEPでは、ジャズ風のアレンジに加えて、シンガーの圧倒的な歌唱力を堪能できる。


特別バージョンのEPには、「Cyan Blue」、「Sleeper」、「I Don't Love You」のライヴ・バージョンが収録されており、いずれも象徴的なMaida Valeスタジオで行われたベンジーBのBBCラジオ1の番組のために録音された。


シャーロット・ウィルソンの瑞々しいヴォーカルとスタインウェイ・ピアノを前面に押し出したストリップ・ダウン・セットは、多くの人に愛された彼女のアルバムに新鮮なテイクを提供している。最新作『CYAN BLUE』は、長年のコラボレーターであるジャック・ロションとレオン・トーマスと共に制作され、メランコリアとサウンドの実験的なブレンドが賞賛されている。

 

 

  

 


先日、9作目のスタジオ・アルバム『アナザー・サイド・オブ・スキンシェイプ』を9月27日(金)に発売することを発表したイギリスのマルチ奏者でプロデューサー、ウィル・ドーリーのソロ・プロジェクト、スキンシェイプ。本日、収録曲の「Lady Sun (feat. Hollie Cook)」を配信リリースした。


父親はセックス・ピストルズのドラマー、ポール・クック、母親はカルチャー・クラブ&ボーイ・ジョージのバック・ヴォーカルとして活動していた歌手のジェニというサラブレッドであるホリー・クックは、自身もラヴァーズ・ロックの女王として知られ、そのかすれたソウルフルなヴォーカルが特徴だ。


 
ウィル・ドーリーの最新アルバムは、これまでの彼のどの作品とも似つかない内容となっている。
幼少期の思い出やエチオピアのリズムからインスピレーションを得たと言う今作は、ウィルの心の最も難解な部分にアクセスしている。

 

今作について彼は、「1990年代へのオマージュのような曲もあれば、1960年代や1970年代に敬意を表した曲もある。ただし、受け取る側によってはそういった表現だと感じ取れない人もいるかもしれない。いずれにせよ、このアルバムが楽しく、一日の流れにさりげなく溶け込むことを願っているよ」と話している。
 

クルアンビン、テーム・インパラ、エズラ・コレクティヴといったサイケ/フォーク/インディ/ファンク好きに突き刺さること間違いなしのニュー・アルバム『アナザー・サイド・オブ・スキンシェイプ』に乞うご期待!



 
【リリース情報】 アルバム


アーティスト名:Skinshape(スキンシェイプ)
タイトル:Another Side Of Skinshape(アナザー・サイド・オブ・スキンシェイプ)
発売日:2024年9月27日(金)
レーベル: Lewis Recordings



Tracklist:


1. Stornoway
2. Mulatu Of Ethiopia
3. Can You Play Me A Song?
4. Lady Sun (feat. Hollie Cook)
5. It’s About Time
6. How Can It Be?
7. Ananda
8. Road
9. Massako
10. There’s Only Hope



アルバム配信予約受付中!


ご予約: https://orcd.co/0db0e46

 

シングル情報 Lady Sun (feat. Hollie Cook)(レディ・サン(フィーチャリング・ホリー・クック))



タイトル:Lady Sun (feat. Hollie Cook)(レディ・サン(フィーチャリング・ホリー・クック))
配信開始日:配信中!
レーベル: Lewis Recordings

<Tracklist>

1. Lady Sun (feat. Hollie Cook)
 
配信リンク: https://orcd.co/40azn73

 
 
 
【バイオグラフィー】

 
ロンドンのインディ・シーンを拠点に活動するマルチ・プロデューサー、ウィル・ドーリーによるソロ・プロジェクト。2012年結成のロンドンのアート・ロック・バンド、パレスの元ベーシストとしても知られている。


これまで、ソウル、ファンク、サイケ、ソフト・ロック、ヒップホップ、アフロビートといった様々なサウンドをキャリアで築いてきた彼は、身近にある楽器はドラム以外、ほぼ全て(ギター、ベース、キーボード、パーカッション、シタール、フルート、そしてヴォーカル)自らが手がけるという、まさにマルチ・プレイヤー。2012年に4曲入りセルフ・タイトルEPでデビューし、2014年には同名のアルバムをリリース。そして、これまでにスキンシェイプとして8枚のアルバムを発表している。

 

2014年にはロンドンのインディー・バンド、パレスにベーシストとして参加し、2015年の『チェイス・ザ・ライト』、2016年の『ソー・ロング・フォーエヴァー』といった2枚のアルバムの制作に携わっている。その後、スキンシェイプの活動に専念するために同バンドを脱退。来る2024年9月に9作目のアルバムとなる『アナザー・サイド・オブ・スキンシェイプ』をリリースした後は、UK/USツアーが決定している。




優れた6人組、ザ・ソリューション・イズ・レストレスを経て、ジョーン・ワッサーがソロ・アルバム『Lemons, Limes & Orchids』をいつもの別名義、ジョーン・アズ・ポリス・ウーマン名義でリリースする。エレガントでリラックスしたサウンド・ミックスはジャンルの境界線上にあり、彼女の紛れもないヴォーカルがアレンジを時代を超えたソウル・R'N'Bの魅力で包み込んでいる。彼女の生涯のリファレンスがニーナ・シモンであることは偶然ではなく、彼女の献身的な姿勢と相まって、ジャズからエッセンスとエレガンスを受け継いだ作品の座標を与えている。


最初のシングル『Long For Ruin』は、セピア色のダウンテンポで、マーク・リボのようなギターがサイケデリックな重厚さと対をなしている。この曲は、アルバム全体と同様、愛と喪失について歌っているが、同時に西洋の崩壊とそれに続く集団的な混乱についても歌っている。


また、この曲は、人類が自分自身から意図的に遠ざかっているように見えることを指している。耳を傾けることも、共通の基盤や思いやり、コミュニケーション、愛を求めることもない。私たちは自滅しようとしているように見える。資源を共有することを望んでいないように見える。私たちは自分自身から、ひいては互いから距離を置いているように見える。


10枚目のスタジオ・アルバムからのセカンド・シングルは『バック・アゲイン』というタイトルで、カーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイの方向性をしっかりと指し示す、ファンクとソウルをミックスしたシンコペーションのベースがドライブする。三作目として紹介するのは、これらの要素を前述のニーナ・シモンの伝統と結びつけた繊細な『フルタイム・ハイスト』だ。ピアノがリードする『ジョーン・アズ・ポリス・ウーマン』は、褒められたいという欲求に溺れた人間との出会いを振り返る。


この曲は、モータウンの名曲の多くがそうであったように、ポップ・ソングの楽観主義とバラードの言葉を融合させている。誰かを説得して戻ってくるのに、これ以上の見込みがあるだろうか?



『Lemons, Limes & Orchids』は、一流のミュージシャンによって作曲された作品であることは、最初の一音で瞭然である。ワッサーの他には、グラミー賞受賞者のメシェル・ンデゲオチェロがベース、クリス・ブルース(シール、トレヴァー・ホーン、アラニス・モリセット)がギター、ダニエル・ミンセリス(セント・ヴィンセント、デヴィッド・バーン、エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ)がキーボード、パーカー・キンドレッド(ジェフ・バックリー、リアム・ギャラガー)とオットー・ハウザーが交互にドラムを叩いている。





 Samm Henshaw    「for someone, somewhere, who isn't us」EP

 

Label: AWAL(Dorm Seven)

Release: 2024年8月2日

 

Review

 

実を言うと、UKソウルの重要な担い手、ブラックミュージックの本物の継承者は、ロンドンに登場している。サム・ヘンショーは、2022年の1stアルバム『Untidy Soul』において、古典的なソウルミュージックの魅力を探訪していたが、続くEPでも彼の音楽的なテーマにもそれほど大きな変更はない。

 

現在のソウルミュージックは、数知れない形式に枝分かれしている。ジェシー・ウェアのように、ミラーボール華やかりし時代のバブリーな雰囲気を持つディスコソウルの刺激性を追い求める一派、ロイシン・マーフィーのように、エレクトロニックやベースメントのクラブミュージックを反映させたソウルに取り組む一派、その他にも、ファビアーナ・パラディーノのように、80年代のアーバン・コンテンポラリー的な手法を交えた編集的なサウンドをもたらす一派、ガール・レイのように、バンドアンサンブルを通じてディスコ・ソウルを追求する一派、さらに、ターンテーブル/DJの手法交えてソウルの醍醐味をもたらすJUNGLEのような一派、その他にも、ヒップホップとソウルの融合を主題に据えるサンファ......。事例を挙げるときりがない。モダン・ソウルの手法は無数に分岐していて、アーティストの数だけ答えが用意されている。

 

ヘンショーのソウルミュージックは素直で聴きやすい。彼の掲げる現代的なR&B運動とは、70年代のファンクソウルを、それ以前の古典的なソウルと結びつけ、トランペット等の演奏を交え、陽気なジャズのテイストを添えるということだ。軽やかでエネルギッシュな感じは、アフロソウルの重要な継承者であるエズラ・コレクティヴにも似ている。ただ、ヘンショーのソウルはマイルドで、聴きやすく、親しみやすい。ノーザン/サザンからの影響を問わず、ブラックミュージックのメロウさを追求している。要は万人受けするような音楽性であるとも指摘できる。

 

極論を言えば、モータウン・レコードの特徴的なソウルをジャズのアレンジを交えて復刻させたような感じ。こういったソウルに大きな抵抗を覚える人は少ないと思われる。彼のテーマは、ブラック・ミュージックが人類の普遍的な愛を呼び覚ますという、重要な考えを継承するというもの。いかなる時代もソウルミュージックは、人類全体に無償の愛を伝えるために存在して来た。 

 

 

「Troubled Ones」- Best Track

 

 

 

サム・ヘンショーのボーカルにヒップホップ的な話の技法が含まれていないのかと言えば、偽りとなるだろうか。 ヘンショーのボーカルは、稀にラップのニュアンスに近づくことがある。しかし、それは苛烈な感じには至らず、往年の名ソウルシンガーのように、マイルドな表現やリリックにポイントが置かれていて、オーティス・レディングやサム・クックのように、古典的な系譜に属する歌手としてのオーラを感じさせる。ビブラートが伸ばされた時、音程がわずかに揺らめき、メロウな陶酔をもたらす。偉大なソウルシンガーはどのような時代も、社会的な制約がある中で、ひどい目に合うことがあっても、また表現に何らかの制限が加えられたり、ラジオでのオンエアが禁止されたとしても、高らかな感覚を守り続けていた。彼も同様である。

 

ヘンショーは、前作「Untidy Soul」において、軽やかで明るい印象を持つソウルミュージックを制作したが、続くEPでより深いディープなソウルの世界へと踏み入れている。「Troubled Ones」では、背景にゴスペルのコーラスを配し、堂々たる雰囲気でソロシンガーとしての歌を紡ぐ。前作では、オルタネイトな表現も見受けられた気がしたが、今回のEPにおいて、彼は往年の名シンガーに引けを取らぬ素晴らしい歌唱力を披露している。その歌声には惚れ惚れとさせる何かがあり、ソウルミュージックの不可欠な要素であるメロウな感覚に充ちている。


彼は、現代的なソウルシンガーとしての立ち位置を取りながらも、黒人霊歌へのリスペクトを欠かさない。自分の前に無数のソウルシンガーがいて、その後に自分が続いていることを知っている。時々、ターンテーブルのビートやブレイクビーツの手法も披露されるが、それは楽曲の枠組みに収まっている。そして、ピアノやコーラス、ギターの演奏を交えて、音楽の楽園を作り上げる。楽曲の制作が、いきなり高い場所にたどり着くことはなく、礎石となる音楽の要素をひとつずつ丹念に積み上げていくことにより、ゆっくりと出来上がって行くことが分かる。

 

「Under God」では、カーティス・メイフィールドの系譜にあるジャズとファンクソウルの融合を見出だせる。ファンクのリズムに、ヒップホップからの影響を交えたドラム、いわば、古典と現代のクロスオーバーを図りながら、サム・ヘンショーの時代を超越した歌がそれらの合間に滑り込む。ヘンショーは、現代的なジャズやソウル、ヒップホップの影響を交えながら、サザン・ソウルのようなディープな味わいのあるボーカルラインを丹念に紡いでいく。また、コーラスにも力が入っている。ときおり移調を交えたり、フォーク調のギターを加えたり、ヒップホップや、それに類するポップスの語法を付加しながら、しなやかなソウルを作り上げてゆく。特に、ドラムのビートやベースが盤石な音楽の基礎を作りだしているため、彼は安心して伸びやかな歌を歌えるというわけである。アウトロのコーラスもフェードアウトで終わるという側面ではやはり、60、70年代のビンテージソウルのソングライティングを継承している。  

 

ニューヨーク・タイムズの記者が独自に発掘した素晴らしいソウルシンガー、ニューヨークのマディソン・マクファーリンは、「ソングライティングの基本にリズムがある」と述べていた。そして、ヘンショーの作曲も同様に、リズムやビートが基本となっていて、その後に他のマテリアルを構築する。


ジャズ風のピアノのアルペジオで始まる「Water」も素敵なナンバーである。ヘンショーは、その後、ハミングで入り、その後、ラップに近いボーカルを披露し、曲のリズムを作り出す。つまり、イントロのボーカルの入り方が絶妙なのだ。抜群のリズムのセンスを見せた後、彼の音楽の主要な特徴であるスタイリッシュでアーバンなボーカルを披露する。70年代のファンクソウルの影響下にあるエレクトロニックピアノ(ローズ・ピアノ)が旋律的、あるいは脈動的な側面でも良いウェイブを作る中、彼は心地よさそうにボーカルラインを紡いでいる。この現場のメロウな雰囲気がレコードに乗り移り、渋さとディープなソウルが緻密に築き上げられていく。


イントロでは、中音域を中心とするアルトのボーカルが目立つが、ギターラインに押し上げられるようにして高音部の歌唱が入ると、シンガーの持つ天才的な歌唱力が露わとなる。背後のローズ・ピアノやホーンセクション、メロウなコーラス、ジャズ風のピアノ、すべてが完璧である。そして、アウトロにかけて、ジャズピアノが優勢となり、静かなフェードアウトの曲線を描く。


しかし、古典的な性質を背景にしているとはいえ、サム・ヘンショーのソウル・ミュージックが単なるアナクロニズムに堕することはない。


彼は、現代の歌手としての役割を認識している。現代のロンドンで隆盛であるネオソウル風のポピュラーミュージックが収録されていることは、現代のリスナーにとっての救いで、なおかつまた、このシンガーが同地のミュージック・シーンの重要な担い手であることを裏付けている。


「Bees N Things」では、ヒップホップ、チルアウトのリズムが特徴的であるが、彼はその背後のトラックに対して、大胆にもメロウな歌唱法を披露している。リズムの観点ばかりに目を奪われると、メロディーという側面がないがしろになる場合もあるかもしれないが、彼は二つの音楽的な要素のいずれも軽視することがない。前曲と同じように、ジャズピアノのアレンジを交えて、稀に心を奪うような美しいビブラートを披露する。これが、ソウルミュージックの普遍的な精妙な感覚、そして魅惑的なウェイブをもたらし、聞き手に共鳴をもたらすことは言うまでもない。

 

古典的なR&Bをテーマに選ぶと、シリアスになりすぎることもあるが、少なくともこのEPではその難点から逃れている。KIRBYをゲストに招いた「Fade」は、コーラスグループの時代の旋律性に焦点を絞り、モータウンのビート、そしてメロウなコーラスという王道のスタイルにより表現している。これらが現代のミュージックシーンへ大きなエフェクトを及ぼすとまでは明言出来ないが、少なくとも薄れかけたソウルの醍醐味を蘇らせるものとなっているのは事実だろう。


R&Bがコマーシャリズムに絡め取られたのは80年代のジャクスンの時代で、これらは日本の音楽評論家が各著で指摘している通り、ブラック・ミュージックそのものの意義が商業性の余波を受け、表現そのものが弱くなり、薄められてしまったことに要因がある。少なくとも、ヘンショーの音楽は、ポピュラーに希釈されたソウルではなく、リアルなソウルの核心を捉えている。

 

「メロウなソウル」という常套句は、現代の音楽業界において、R&Bの一種の宣伝材料のようになっている。しかしながら、残念ながら、その多くが単なる売り文句やキャッチフレーズにとどまることを考えると、ヘンショーの音楽を聴いて、ブラックミュージックの持つ本物の魅力、心を震わせるような歌の美しさの一端に触れることは、かなり有意義ではないかと思われる。

 

クローズ「The Cafe」もまた素晴らしい一曲である。ギターの演奏を背景に、彼はソウルとヒップホップを下地にし、理想的なR&Bの究極の形を示している。流れるような美麗なバイオリンのパッセージを背後に、ゴスペルの歌唱の伝統性を用い、音楽を高らかな領域まで引き上げている。

 

 

86/100 

 

 

Best Track 「The Cafe」

 

 

* Samm Henshaw 「for someone, somewhere, who isn't us」EPはAWALより発売。ストリーミングはこちら

 

 

Tracklist:

 

1.Troubled One

2.Under God

3.Water

4.Bees N Things

5.Fade (Feat. KIRBY)

6.The Cafe


トロントの実力派ネオソウルシンガー、シャーロット・デイ・ウィルソンが、最近リリースしたセカンド・アルバム『Cyan Blue』のオープナーに収録されている「My Way」のライブ・パフォーマンスを公開した。最新アルバムで傑出した歌唱力をカナダのシンガーは披露したが、今回のライブバージョンはバンドセットで演奏され、さらにゴージャスなアレンジとなっている。


ジョシュ・ルノートが撮影した同曲のライブ・パフォーマンス・ビデオでは、ウィルソンがドラムのライアン・マクドナルド、ギターのイアン・カルリー、ハープのオウリエル・オーヴェを従えて演奏している。


今月、シャーロット・デイ・ウィルソンはイギリスとヨーロッパでのライブを控えている。8月3日のベルギー公演を皮切りに、イギリス/ロンドン、デンマーク/コペンハーゲン、スウェーデン/ヨーテボリを回る。


さらにシャーロット・ウィルソンは秋に開催される音楽フェスティバル、朝霧ジャムにも出演予定である。最新作『Cyan Blue』は、5月3日付のWMFでご紹介しています。





Emanuel Harold

2022年8月にソロEP『ファンク・ラ・ソウル』をデジタル配信したエマニュエル・ハロルドがリリースしたアルバム『ウィー・ダ・ピープル』は要チェック。


グラミー受賞アーティスト、エマニュエル・ハロルド、グレゴリー・ポーターが参加、昨年一月に発売されたアルバムである。ソウルファンはあらためてチェックしてみていただきたい。

 

本日、グレゴリー・ポーターを共同制作者に迎えた「I Think」のミュージックビデオが公開された。下記よりご覧下さい。

 

 「I Think」

 

 

数々のグラミー賞にノミネート/受賞歴のあるエマニュエルはグレゴリー・ポーターのドラマーとして知られ、これまでにデーモン・アルバーン、デ・ラ・ソウル、ウィントン・マルサリス、ロバート・グラスパーからスティーヴィー・ワンダーまで、かなり幅広いアーティストとの共演経験をもつ。

 

既発のEP同様、今作もR&B、ジャズ、ファンク、ゴスペル、ヒップホップが取り入れられており、ファースト・シングル「I Think」ではグレゴリー・ポーターがフィーチャリング・ヴォーカリストとして参加している。

 

アルバムには他にも、日本でも放送されている医療系ドラマ『レジデント型破りな天才研修医』などにも俳優として出演しているグラミー受賞アーティスト、マルコム=ジャマル・ワーナーや、エマニュエルの兄弟でジャズ・トランペッターのキーヨン・ハロルド、さらに同じくグレゴリー・ポーターのコラボレーターでもあり、グラミー受賞ミュージシャンのティヴォン・ぺニコットなどがゲスト参加している。

 

タイトル・トラック「We da People」は、シンセとミニマルなギターとベースが用いられ、そこにグラミー受賞俳優兼ミュージシャンのマルコム=ジャマル・ワーナーの力強い語りが乗せれたジャズ、R&B、そしてファンクの要素が融合した1曲である。

 

一方の「Fight Harder」では、エマニュエルの兄弟のキーヨン・ハロルドによるトランペット、そしてクリスタル”クリッシー”ランソム・アンド・チャールズ・ランソムによるソウルフルなバック・ヴォーカルをエマニュエルとゲスト・ミュージシャン達が絶妙に調理している。

 

同アルバムは、何年にもわたり名だたるアーティスト達と仕事をしてきたエマニュエルが所有する創造力全てを落とし込んだカタログと言えるだろう。

 

スタイルやジャンルが様々なのはもちろんのこと、何より重要なのはそれら全てに共通するつながりのようなものが感じられることだ。すでにエマニュエルの演奏を聴いたことのある者にとっては、今作は彼の新たな音楽的冒険として捉えてもらえたら良い。そして、今回初めて、エマニュエルを耳にする者にとっては、今以上に彼の音楽を知るのに良い機会はないと言えるだろう。

 

 

 Emanuel Harrold 『We Da People』


アーティスト名:Emanuel Harrold (エマニュエル・ハロルド)

タイトル名:We da People (ウィー・ダ・ピープル)

発売日:2023年1月18日(水)

日本盤特典:ライナーノーツ(吉岡正晴)付き

品番:GB1582CDOBI (CD) / GB1582OBI (LP)

レーベル:Gearbox Records

 

<トラックリスト> 

1. I Think

2. We da People

3. See

4. Brighter Day

5. Fight Harder

6. Good Word

7. Shine Light

8. Mr. Brew (Instrumental)



Emanuel Harrold(エマニュエル・ハロルド) Biography:


米ミズーリ州のセントルイスに生まれたエマニュエルの歌と楽器の演奏への欲求は、父親がアフリカ系アメリカ人教会の牧師であった幼い頃から育まれた。

 

ニューヨークのニュースクール大学を卒業した後には、ウィントン・マルサリス、ロイ・ハーグローヴ、ロバート・グラスパー、キーヨン・ハロルド、デーモン・アルバーン、ジェームス・スポルディング、スティービー・ワンダーといった名だたるアーティスト達とステージやレコーディングをともにするまでに。

 

エマニュエルにとって最も近しいコラボレーションは、2020年にリリースされたグレゴリー・ポーターのグラミー賞にノミネートアルバム『オール・ライズ』でのドラム演奏。そして2022年8月に待望のソロEPをデジタル配信、2023年1月にソロ・アルバム『ウィー・ダ・ピープル』のリリースが決定した。

 

Joan As Police Woman

 

アメリカのシンガー・ソングライターでマルチ・インストゥルメンタリストのJoan As Police Woman(別名ジョーン・ワッサー)が「Back Again」を公開した。

 

リード・シングルのリリース時にも述べた通り、PIASらしいアーバンでスタイリッシュなR&Bとして聴くこともできるものの、Joan As Womanの歌唱法には80年代のアーバンコンテンポラリー以前のノーザン・ソウルやモータウン・サウンドからの影響が含まれている。いわば古典的なブラックミュージックの渋さを兼ね備えているのだ。これらの古典的なソウルが複数のミュージシャンと現代的なレコーディングと合わさり、どのような作品となるのかに注目したい。


『Lemons, Limes, and Orchids』は、ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンにとって2021年の『The Solution Is Restless』以来の復帰作となる。同アルバムは、アフロビートのパイオニアである故トニー・アレンとマルチディシプリナリー・アーティストのデイヴ・オクムとのコラボレーションであった。今度のアルバムは、印象的な様々な才能とのコラボレーションに位置づけられる。

 

メシェル・ンデゲオチェロ(ベース)、クリス・ブルース(ギター)、ダニエル・ミンセリス(鍵盤)、パーカー・キンドレッド、オットー・ハウザー(2人は交互にドラムを叩いている)の参加はアルバムをより洗練させる要因ともなった。


「Back Again」のインスピレーションについて、ワッサーはプレスリリースで次のように語っている。 

 

「曲は日記のように私の中に入ってくる。この曲は、偉大なモータウンの曲の多くがそうであったように、ポップ・ソングの楽観主義とバラードの言葉を融合させたものだ。誰かを説得して戻ってくるのに、これ以上のアングルがあるだろうか?」

 


「Back Again」

 Hiatus Kaiyote



オーストラリア/メルボルンを拠点に活動するフューチャーソウルグループ、Hiatus Kaiyote(ハイエイタス・カイヨーテ)はナオミ・ネイパーム・ザールフェルト(ボーカル、ギター)、ポール・ベンダー(ベース)、サイモン・マーヴィン(キーボード)とペリン・モス(ドラム、パーカッション)の4人からなる。


本日、 Brainfeeder(Ninja Tune)から発表された『Love Heart Cheat Code』は、4人のミュージシャンが極限で一緒に踊っている瞬間を収めたスナップショットであり、11曲の遊び心にあふれた高揚感のあるトラックが個性的な印象を放つ。しかし、音楽そのものの複雑さで名を馳せ、さらには最大主義を受け入れて目利きの批評家の称賛を浴び、グラミー賞に何度もノミネートされたバンドにとって、『Love Heart Cheat Code』で制作において最も大切なことは、音楽そのものの簡素化にあったという。


「私は最大主義者なんです。何でも複雑にしてしまう」とナオミは説明している。「それでも、人生でさまざまなことを経験すればするほど、リラックスして奔放になる。時には、深みがあり、人々の心に届き、そして何を伝えたいか? このアルバムは私達がそれを明確にした結果と感じている。曲が複雑さを必要としないのであれば、あえて複雑さを表現する必要はなかった」

今度のアルバム制作では、バンドの方向性は必ずしも直接的に達成されず、熟慮と漂流を経る必要があった。深夜から早朝まで続く念入りなジャム・セッションの中、4人は食卓のテーブルを共にし、機材や互いをいじくり回す過程において作り出されました。


このアルバムには、テイラー・"チップ"・クロフォード、ギタリストのトム・マーティン、フルート奏者のニコディモスなど、メルボルンを拠点に活動する秀逸なミュージシャンも参加している。マリオ・カルダートに関しては、ビースティ・ボーイズやセウ・ジョルジとの仕事はもはや伝説的です。


ハイエイタス・カイヨーテは、いつも自分たちが制作するアルバムを小宇宙、完全な生態系と見なしてきたという。『Love Heart Cheat Code』では、バンドは音楽と連動した強い視覚的世界を構想し、スリランカ出身でトロントを拠点に活動するマルチメディア・アーティストのラジニ・ペレラ(Rajni Perera)とコラボし、彼女の絵画をアルバムのアートワークとして使用した。


そして、イラストレーターのクロエ・ビオッカとグレイ・ゴーストがバンドとコラボレートし、ラジニの絵と対になるビジュアル・シンボルと関連する工芸品をプロジェクトの各トラックに制作した。


それらの工芸品は、Bauhausのように実際の製品、カスタム・ジュエリー、食用品へと姿を変え、インスピレーションに溢れていたり、幽霊が出そうなものまでさまざま。やがてこのことが、バンドが空想上の場所、''ラブハート・チートコード・スーパーマーケット''を構想するきっかけとなりました。


バンドは、これらの商品を作り、販売し、棚を積み上げ、通路を掃除する従業員である。現代社会のため、芸術媒体を「プロダクト」に作り変えるという非常に平凡な作業のプロセスの中で、バンドは、超越的で燦然と輝く音の魔法が凝縮されたアイテムや曲のひとつひとつに慰めを見出した。アルバムを通して、ハイエイタス・カイヨーテは、「知る」ことよりも「感じる」ことを強調している。彼らはDIYのクラフトの製造者であり、音楽に関してもそれは同様なのです。
 
 
 
 
『Love Heart Cheat Code』- Brainfeeder  フューチャーソウルの先にある革新性


オーストラリアのハイエイタス・カイヨーテは、ロンドンのNinja Tuneの傘下のBrainfeeder(フライング・ロータスのレーベル)に所属し、今作はリミックスや日本盤を除いて、4作目のオリジナルアルバムとなる。
 
 
 
2013年からリリースを重ねてきたハイエイタスは、デビューから十年以上が経過しているが、意外と寡作なグループとして知られている。現時点では、年間およそ100本以上のハードなライブスケジュールをこなす中、ライブバンドとして誰も到達しえない完璧主義や超越性を追求しようと試みる。
 
 
最新作では、2021年のアルバム『Mood Valiant』から引き継がれるハイエイタス・カイヨーテの唯一無二のアウトプットーーフューチャー・ソウル、フューチャー・ベース、チル・ステップーーというR&Bの次世代の音楽をとりまきながら、最大主義の刺激的なダンスミュージックを展開させる。
 
 
このアルバムを聴いていてつくづく思うのは、彼らは音楽的な表現において、縮こまったり、萎縮したり、置きに行くということがないということ。それはまた''既存の枠組みの中に収まり切らない無限性が含まれている''という意味でもある。だから、音楽がすごく生き生きとしていて、躍動感に満ち溢れている。バンドアンサンブルによってもたらされるエナジーは内側にふつふつ煮えたぎり、最終的に痛烈な熱量として外側に放出される。エナジーの最後の通過点にいるのが、ボーカル/ギターのナオミ・ザールフェルトだ。一切の遠慮会釈がないサウンドと言えるが、それはバランスの取れた録音技術の助力を得て、ハイクオリティに達し、かつてのプログレ・バンドやジョージ・クリントンのFankadelicのような傑出した水準の演奏技術に到達している。
 
 
本作のサウンドは、録音出力の配置(Panの振り方)に工夫が凝らされ、ライブステージの演奏位置、ボーカル、ドラムが音の位相の中心にあり、左右側にシンセやギター/ベースが置かれるという徹底ぶりに驚かされる。特にドラムのトラックの音質が素晴らしく、重低音を強調していないのに、スネア/タムの連打が怒涛の嵐のように吹き荒れ、微細なビートを刻むリムショットがバンドの演奏にタイトな印象をもたらす。例えるなら、ライブステージでハチャメチャなサウンドを展開させるバンドの背後で、卓越したドラムが、無尽蔵に溢れてくるサウンドを司令塔のように一つに取りまとめている。どれだけボーカルやギターが無謀にも思える実験的な試みをしようとも、全体的なサウンドが支離滅裂にならないのは、ビート/リズムを司るペリン・モスの安定感のあるドラムプレイが、一糸乱れぬアンサンブルの基礎を担っているからなのです。
 
 
ただ、もちろん、そういった音楽の革新性に重点を置いたサウンドだけを取りざたにするのはフェアではないかもしれません。前作『Mood Valiant』から受け継がれる音楽性の範疇にある、まったりとしてメロウなフューチャーソウル/フューチャーベースに、ブレイクビーツの手法を交え、カニエ・ウェストの最初期のようなブレイクビーツのサイケ・ソウル風のテイストを漂わせることもある。そういった面では、少し性質が異なるにせよ、北欧のLittle Dragon(リトル・ドラゴン)のようなカラフルで多彩なR&Bのテイストを込めたダンスチューンの系譜に属するかもしれません。


アルバムの序盤は、このレーベルらしい立ち上がりとなっていますが、中盤からだんだん凄みを増していき、クライマックスで圧巻のエンディングを迎える。バンドの演奏は超絶技巧の領域に達し、高水準の録音技術によって誰も到達しえぬ場所へとリスナーを導く。少なくとも、後半部の卓越性を見るかぎり、ハイエイタスの最高傑作が誕生したとも見ても違和感がなく、”フューチャーソウルは次なる音楽に近づいた”とも考えられる。一貫してエキセントリックな表現を経た後、最終的にコンセプチュアルなエンディングを迎える。そう、ハイエイタスは、異次元の地点、線、空間を飛び回り、想像しがたい着地点を見出す。

 
 
本作の冒頭を飾る「#1 Dream Boat」は、ピアノ、ハープ(グリッサンド)、ストリング等の演奏を織り交ぜ、ビョークの『Debut』の音楽性の系譜にあるミュージカルとしてのポピュラーミュージックを演出する。ナオミ・ザールフェルトのボーカルは、本作の冒頭にマジカルなイメージを添える。本作では、唯一、古典的なR&Bバラードを踏襲し、次の展開への期待感を盛り上げる。”この後、何が起こるのか?”と聞き手にワクワクさせるという、レコードプロダクションの基本が重視されている。


もちろん、演出的な効果は、ブラフや予定調和に終始することはありません。ナオミ・ザールフェルトの伸びやかなビブラートとホーンセクションを模したサイモン・マーヴィンのシンセの掛け合いにより、ドラマティックなイメージを呼び覚ます。


その後、フューチャーベースのリズムを活かした「#2 Telescope」が続いている。リズムとしてはダブステップにも近く、音楽のビートは複雑であるものの、一貫してシンプルな旋律とボーカルのフレーズが重視され、聞きにくくなることはほとんどなく、ビートやリズムが織りなすグルーヴを邪魔せぬように、ザールフェルトは軽快で小気味よいボーカルを披露している。「Telescope」を中心としたリリックを組み上げ、無駄な言葉が削ぎ落とされている。実際、アンセミックな展開を呼び起こし、シンガロングを誘発する。これらはハイエイタスが、リリックー言葉を「音楽の一貫」として解釈しているがゆえなのでしょう。
 
 
 
 
 「Telescope」
 
 
 
 
序盤は聞きやすく、メロウなネオソウルが多く、安らいだ雰囲気を楽しめる。それほどコアではない初心者のR&Bのリスナーにも聞きやすさがあると思われる。「# 3 Make Friends」は、アーバンなソウルとしても楽しめますが、注目しておきたいのは、70年代の変拍子を交えたクラシックなファンクソウルからのフィードバックです。


基本的には、今流行りのループ・サウンドをベースにしていますが、ゼクエンス進行(楽節の移調)に変奏を交えたカラフルな和音を持つ構造性を込め、シンプルな構成を擁する曲に変化とバリエーションをもたらす。


これが曲を聴いていて心地よいだけでなく、全然飽きが来ない理由なのでしょう。それと同様に、「#4 BMO Is Beatutiful」でも、ハイエイタスはクラシックなファンク・ソウルに回帰し、ファンカデリックやパーラメントの系譜にあるディープなブラックソウルに現代的なエレクトロニックの要素を付け加えている。カーティス・メイフィールド、ジェームス・ブラウンの系譜にあるファンクバンドのプレイはもちろん、ボーカルにも遊び心が込められているようです。
 
 
序盤の2曲は、難しく考えずに、シンプルにメロディを楽しんだり、ビートに身を委ねることができるはず。同じくファンクソウルの系譜にある「#5 Everything Is Beautiful」は、古典的なR&Bの系譜を踏襲していますが、イントロのスポークンワードからラフに演奏が始まり、裏拍を強調するスラップ奏法のベース、しなやかなドラムとフェーザーを掛けたカッティングギターが軽妙なグルーブを生み出す。ボーカルも比較的古典的なソウルシンガーの影響下にある深みのある泥臭い歌唱を披露し、グループとしては珍しくブルースのテイストを引き出す。さらにフルートの導入を見ると、アフロソウルからの影響もあり、心なしかエキゾチックな雰囲気が漂う。

 
アルバムの序盤で、R&Bの入門者の心をがっしりと掴んだ後、中盤にかけてディープなソウルを楽しむことができます。そして、しだいに音楽そのものが深みを増していくような印象は、劇的なクライマックスの伏線ともなっている。ツーステップの系譜にあるダブステップ風のリズムで始まる「#6 Dimitri」は、アフロビートの原始的なリズムと合わさり、フューチャー・ビートの範疇にあるエレクトロニックと結び付けられる。強拍が次の小節に引き伸ばされるシンコペーションを多用した曲の構造は、ボーカルのハネの部分に影響を及ぼし、旋律的には上昇も下降もない均衡の取れたザールフェルトの声にスタイリッシュでカラフルな印象を及ぼす。アコースティック・ドラムの演奏を録音後、ミックスやマスターの過程でエレクトロニックとして処理するという点も、Warp/Ninja Tuneが最近頻繁に活用している制作方法。ここにも、ロンドンの最前線のポップ/ダンスミュージックのフィードバックが反映されていると言えそうです。 
 
 
 
その後、ハイエイタス・カイヨーテのエレクトロニックポップバンドとしての性質を色濃く反映させた「#7 Longcat」において終盤の最初のハイライトを迎える。心地よいエレクトリックピアノ、ループサウンドとしてのシンセサイザー、多重録音を含めたボーカルアートの範疇にある声といった複数の要素が織り混ぜられ、それらがギターのミュージック・コンクレートと掛け合わされると、最初期のSquarepusher(スクエアプッシャー)のような未来志向の電子音楽ーーSFの雰囲気を擁するエレクトロニックの原型が作り出げられる。マニアックな要素にポピュラリティを付与するのが、フューチャーソウルの系譜にあるボーカル。90年代のWarpのテクノへのオマージュもあるにせよ、何よりそれらが聞きやすいR&Bとして昇華されているのが秀逸です。
 
 
 
 「Longcat」
 
 
 
 
以降、このアルバムは、メロウなアーバンソウル、チルウェイブ(チルステップ)、ローファイをシームレスにクロスオーバーしながら、アルバムのクライマックスへと向かっていきます。即効性のあるバンガー、それとは対極にある深みのある曲を織り交ぜながら、劇的なエンディングへ移行していく。



「#8 How To Meet Yourself」は、ニューヨークのシンガー、Yaya  Bey(ヤヤ・ベイ)の系譜にある真夜中の雰囲気を感じさせるアンニュイなソウルとして楽しめる。Ezra Collective(エズラ・コレクティヴ)のようにアフリカの変則的なリズムとジャズのスケールを巧みに織り交ぜ、アーバンソウルのメロウな空気感を作り出す。ピアノの演奏がコラージュの意図を含めて導入されますが、これらの遊び心のあるアレンジこそ、インプロバイゼーションの醍醐味でもある。この曲では、表向きには知られていなかったハイエイタスの上品な一面を捉えることができるでしょう。
 
 
「Longcat」、この後の「Cinnamon Temple」と合わせて聴き逃がせないのが、続くタイトル曲「Love Heart Cheat Code」となるでしょう。ハイエイタス・カイヨーテの最大の持ち味であるフューチャー・ソウルをサイケデリック風にアレンジし、前衛的なR&Bの領域へと脇目も振らず突き進んでゆく。ボーカルの"Love Heart Cheat Code"というフレーズに呼応する、セクションに入るドラム/サンプラーのサイケデリックなエレクトロニックの対比により、マイルス・デイヴィスの「モード奏法」をフューチャーソウルの形に置き換え、革新的な気風を添える。レビューの冒頭でも述べたように、これは、ハイエイタス・カイヨーテが、ボーカルを言葉ではなく、音楽の構成要素、"器楽的な音響効果"として考えているから成しえることなのかも知れません。
 
 
「#10 Cinnamon Temple」は''ポスト・バトルズ(Post- Battles)''とも称すべき必殺チューン。特に、ドラムのスネア/タムの連打の瞬間、そして、エレクトロニクスを交えたボーカルの多重録音にレーベルの録音技術のプライドが顕著に伺える。ボーカルアートと古典的なソウルの系譜にあるボーカルのスタイルを交えながら、Battles、Jaga Jazzistの系譜にある変拍子を強調したプログレッシヴロックサウンドへと昇華させる。
 
 
ハイレベルな演奏力とテクニカルな曲の構成を擁しながらも、分かりやすさと爽快感があるのは、サウンドのシンプル性を重視しており、エナジーを外側に向けて軽やかに放射しているがゆえなのでしょう。ここにも、ボーカルのアンセミックなフレーズをコラージュのように散りばめるという、ハイエイタスの独自の音楽の解釈が伺える。


そして、コンセプト・アルバムのような形で始まった本作は、クローズ曲「#11 White Rabbit」において、エキセントリックな印象を保ちながら、オーストラリアの民族的なルーツに回帰します。アルバムの冒頭と同じように、ミュージカルを模したシアトリカルな音楽効果を織り交ぜ、インダストリアル・メタルの要素を散りばめて、前衛的なノイズのポップネスーーハイパーポップ/エクスペリメンタルポップーーの最も刺激的なシークエンスを迎えます。
 
 
音の情報量が多いので、『Love Heart Cheat Code』は、ヘヴィーなレコードフリークであっても、簡単には聴き飛ばせず、一度聴いただけでは全容を把握することは難しいかもしれません。しかし、その反面、初見のリスナーでも親しめてしまうという不思議な魅力に溢れている。ある意味、ブラジルのニューメタルバンド、Sepulturaの傑作『Roots』と同じように、本作もまたオーストラリアのバンドにしか存在しない”スペシャリティ”から生み出されたものなのかもしれません。



 
 
 
 
 
 
92/100



 

 Best Track-「Cinnamon Temple」
 



Hiatus Kaiyote(ハイエイタス・カイヨーテ)による新作アルバム『Love Heart Cheat Code』はBrainfeederから本日発売。アルバムのストリーミング/購入はこちらから。(日本のリスナーは、Tower Records、HMV、Disc Unionで入手しよう‼︎)

 

米国のシンガーソングライター、Meernaaがニューシングル「Make It Rain」をリリースした。シンセによるホーンセクションとピアノを含めるクラシカルなポップソング。ビリー・ジョエルの古典的なバラードソングをアメリカーナと融合させ、ロマンティックな雰囲気を作り出す。シークエンスの途中に取り入れられるエレクトリックピアノがR&Bのメロウなテイストを醸し出す。

 

この曲では、ローレル・キャニオンのタッチ、シンセのウォッシュ、ピアノを軸にしたシャッフルするようなソウルフルな曲が展開され、カーリー・ボンドの蜜のようなヴォーカルが曲を時代を超えた琥珀色に染める。


ソングライターのカーリー・ボンドは次のように説明している。『Make it Rainは、自分が完全な自分でないこと、あるいは憂鬱な時期に解離することを認め、猶予を与え、それが過ぎ去ることを自分に思い出させることについて歌っていると思う」


ミールナーは、ネオ・ソウル、クラシックR&B、インディー・ポップの情熱的な側面を参照し、セード、ケイト・ル・ボン、ミニー・リパートン、トーク・トークなど様々な影響を受けたソングライター、カーリー・ボンドの薄暗く器用なボーカルと、官能的で技術的に洗練された楽曲を特徴にしている。


ミールナーの作品を通して、カーリー・ボンドは、中毒や喪失といった重いテーマを愛というシンプルなレンズで捉えている。2023年にはフルアルバム『So Far So Good』をリリースした。今年に入り、疎遠になった人との思い出を込めた単独のシングル「A Promiseを発表している。

 

 

 「Make It Rain」

 

©Raphael Gaultier


ニューヨークのソウルコレクティブ、MICHELLEがニューアルバム『Songs About You Specifically』を発表した。

 

2022年の『AFTER DINNER WE TALK DREAMS』に続くこのアルバムは、9月27日にTransgressiveから発売される。本日の発表に合わせtて、新曲「Oontz」が公開された。


MICHELLEはニューアルバムの制作中、カリフォルニア州オハイに家を間借りすることにした。トカゲ、熟したサボテンの実の匂い。どこまでも続く砂浜に囲まれ、彼らはこれまで経験したことのない孤独感と親近感を味わった。

 

それは彼らの作品のトーンを変えたことは言うまでもない。以前の彼らの音楽は、都会での煮言うまでもないアーバンな落ち着きのなさを表現していたが、新曲は、星空のようなシューゲイザーの回想、巧みなファンクのリフ、軽快な80年代のシンセ・ポップへと蛇行し、広がっていく。まさしく音楽的な集団ーーコレクティヴとしての他では得難い個性と新しい可能性を示唆している。


ツアーに費やした数ヶ月、オハイでの共同生活の経験は、バンド間に新たな絆を育んだ。エマ・リーは言う。

 

「このグループのメンバーほど親密には知り合えないような、ほとんど生涯付き合ったことのない友人もいます」

 

「人生の中で、他のどんな種類の人間関係でも、そんな機会はない。互いに育んだ信頼感と心地よさのおかげで、曲作りにおいてもより率直で無防備になることができた」

 

「一般的な恋愛や別れの曲を書くのはとても簡単だ」とジュリアン・カウフマンは言う。「でも、これらのストーリーの多くは真実なんだ。私たちは本当に正直なところから来ているんだ」



彼らの新たな親密さは、より傷つきやすい音楽を書くのに役立った。特に『Songs About You』では、メンバーは複雑な欲望を表現し、後悔の念を口にし、自分勝手な瞬間を自認している。ペースを落とし、雑念を断ち切り、正直であることを必要とするコミュニティの親密さを育むことで、MICHELLEは真実のように感じられるフルアルバムのコレクションを完成させた。

 

 

「Oontz」




MICHELLE 『Songs About You Specifically』


Label: Transgressive

Release: 2024年9月27日


Tracklist:


1. Mentos and Coke

2. Blissing

3. Akira

4. Cathy

5. Dropout

6. Noah

7. Missing on One

8. I’m Not Trying

9. Oontz

10. Painkiller

11. Trackstar


 

Joan As Police Woman

アメリカのミュージシャン、Joan As Police Woman(ジョーン・アズ・ポリス・ウーマン)はメイン州出身で、現在、ニューヨークを拠点に活動する注目のシンガーである。ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンはオルタナティヴ・ソウルの枠組みで紹介されることがあるが、その歌声は少なくとも、単一のジャンルに収められるようなものではなく、未知の可能性に充ちあふれている。

 

古典的な60.70年代のファンクソウルを踏襲したマディーなギターラインはジェイムス・ブラウンの伝説を次世代へと進める。そして、グルーヴィーでハートウォーミングなボーカルの融合は、本格派のR&Bシンガーの系譜にある。歌声にはモータウン等のノーザンソウルからのフィードバックがあり、フランクリンを彷彿とさせるスモーキーな本格派のアルトの歌声だ。オルタネイトという古びた言葉を盾にせぬシンガーの意気込みがリードカットに表れている。PIASのリリースらしいモダンなR&Bではありながら、クラシカルなテイストが含まれているのが素敵だ。

 

ソウルミュージックというのは、悲しみの底から勇敢に立ち上がることを意味している。先行シングルとして公開された「Long For Ruin」は悲哀を出発点とし、それに静かに立ち向かうような勇ましさに満ち溢れている。ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンが実存的な嘆きの中にいることを感じさせる。悲嘆に暮れる現在の世界情勢に疑問を投げかけ、自省しているが、それ以上に、進行中の社会の腐敗と荒廃に積極的に関与している人間の役割に疑問を投げかけている。


この曲の始まりとインスピレーションについて、ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンはこう語っています。

 

「この曲は、人類が自分自身から意志を持って遠ざかっているように見えることに言及しています。耳を傾けること、共通点や思いやりを見つけること、コミュニケーションや愛から遠ざかっている。私たちは自分自身を破壊しようとしているように見える。資源を共有することを望んでいないように見える。私たちは自分自身から、ひいてはお互いから目を背けているかのようです」

 

本作のレコーディングでは、グラミー賞を受賞した伝説のミュージシャン、メシェル・ンデゲオチェロがベースを担当した。ギターはクリス・ブルース(シール、トレヴァー・ホーン、アラニス・モリセット)。キーボードは、ダニエル・ミンセリス(セント・ヴィンセント、デヴィッド・バーン、エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ)。ドラムは、パーカー・カインドレッド(ジェフ・バックリー、リアム・ギャラガー)とオットー・ハウザーが参加している。

 

ニューアルバムの制作について、ジョーン・ウーマンは次のように語っています。「自分の声を本当にフィーチャーしたアルバムを作る準備はできていました。基本は昔のように、バンドと一緒に生で歌うようにレコーディングしました。私の親友は、これは私が今まで作った中で最もセクシーなアルバムだと言ってくれたわ。正直言えば、彼女の言う通りだと思っています」


『Lemons, Limes & Orchids』は2021年にリリースされた『The Solution Is Restless』以来のプロジェクトとなる。10月には、ロンドンのユニオン・チャペルをはじめ、グラスゴー、マンチェスター、ベルリン、パリなどでの大規模なヨーロッパ・ヘッドライン・ツアーが予定されている。

 


 「Long For Ruin」

 

 


ジョーン・ウーマンの新作アルバム『Lemons, Limes & Orchids』は9月20日にPIASからリリースされます。

 


 Joan As Police Woman 『Lemons, Limes & Orchids』



Label: Play It Again Sam

Releas: 2024年9月20日

 

Tracklist:

 

1. The Dream 

2. Full Time-Heist 

3. Back Again 

4. With Hope In My Breath

6. Started Off Free 

7. Remember The Voice 

8. Oh Joan 

 9. Lemons, Limes and Orchids 

10. Tribute To Holding On 

11. Safe To Say 

12. Help Is On It's Way


 

・1970年の時代背景

 

ジョージ・クリントン擁するパーラメント/ファンカデリック、ジェイムス・ブラウン、さらにはスライ&ザ・ファミリー・ストーンといったグループは、ファンクとソウルを結びつけた象徴的なグループで、ブラック・ミュージックを語る上で軽視することができない。そしてこれらのグループは、アメリカの音楽の歴史において、かなりデリケートな時代を生き抜いている。

 

黒人と白人が共に同じ目的に向かい、歩んでいくという理想が幻想に終わり、そしてストーンズとビートルズがフラワー・ムーブメントへ歩みを進める中、黒人のグループはより独自の音楽的な過程を歩まざるを得なかった。

 

それは1950年代から60年代にかけて公民権運動が始まり、より人種間の主張の差が著しくなった時代でもあった。マーティン・ルーサー・キングの活動によって公民権運動は勝利を収め、社会としては公平性が担保されたと言えるが、それは表向きの話であり、レイシズムがなくなったわけではなかった。そのことによって、両者の間に深い溝を作ったと言える。政治的な公平性は、社会構造に歪みをもたらし、ときに社会における不公正やバランスの歪みを作り出す。

 

スライ&ザ・ファミリー・ストーンの音楽が重要な意味を持つのは、人種的な混合のグループであるにとどまらず、人種間の軋轢をリアルに体現させ、時には社会概念から開放させる力があるからだ。米国南部では、古くから激しい人種差別があり、その暗い靄を拭うために、公民権法が議会で承認され、次いで法案が通過したことは、米国南部で大きな意味があった。北部では、それ以前から黒人と白人が日頃の暮らしにおいて接触を図る機会は圧倒的に増加していた。


それでも、依然として、経済的な格差は著しく、毎年夏になると、黒人暴動が起きていた事実を鑑みると、公民権法は紙切れの公約に過ぎず、平等性が幻想の範疇にとどまっていたことを象徴していた。時代背景として、1960年代といえば、不均衡に関してバランスを取ろうという動きが世界各地で沸き起こった。


例えば、ベトナム戦争では、米国とソビエトの代理戦争が起き、それに関する反戦運動は学生運動に結びついて、68年から翌年にかけて大規模な学生運動に繋がった。日本でもこれらの動向は無関係ではない。これは現時点のガザに関連する米国での学生運動にも通じる何かがある。これは潜在的な”民衆の蜂起”と見るのが妥当で、単なる学生の思いつきと見て、武力で制圧するようなことがあると、政府や国家はその見立ての不確かさを露呈することになるだろう。

 

以降、音楽の世界でも同じような動向が沸き起こり、白人と黒人が同じステージに立つことも日常的となった。1967年のモントレー国際ポップフェスティバルでは、オーティス・レディングが白人のロックミュージシャンと同じ舞台に立った。そして、そこでは白人と黒人との音楽における共闘が演じられた。1969年のウッドストック(ニューヨークのキャッツキルバレーで開催され、40万もの観客が詰めかけた)では、スライ&ザ・ファミリー・ストーンがステージに上がった。ただし、これらは例えば、白人のフラワー・ムーブメントという概念の中に絡め取られていた。

 

スライに関しては、早くから白人と関わりを持ってきたため、人種間における軋轢のようなものをより身近に感じ取っていただろうと思われる。スライの音楽は、人種混合のバンドとしての深いテイストがあり、ボーカルやコーラスに関しては、ジャクソン5の影響下に置かれたグルーヴィーなものがあったが、ビートやリズムに関しては、白人音楽の影響を感じさせるものだった。サンフランシスコ出身のスライは、同地のサイケデリックムーブメント等と連動し、いわばロサンゼルスとは異なる''もうひとつのウェストコースト・サウンド''を確立させようとしていた。

 

黒人としてのアイデンティティを切実に感じていたスライ&ザ・ファミリー・ストーンが必要としたのは、ブラウンの次世代を行くファンクビートだった。とくに、1969年の「Stand!」にそのことが表れている。この曲にはオーティス・レディングの系譜にある南東部のソウルからの影響は泥臭い感じのフレーズに乗り移り、それとは対象的なハリのあるファンク・サウンドーージェイムス・ブラウンの次のニュー・ファンクーーが付け加えられ、軽快なグルーブが出現する。


ジェイムス・ブラウンのファンクには表向きには思想性はほとんどないが、スライのファンクには、何らかの意図や狙いのようなものが浸透している。これらは、他の以降の年代のブラック・ミュージックのグループやミュージシャンが試みたように、離れた2つの地域ーー西海岸と東海岸の音楽を繋げるような役割を担っていた。


いわばスライは潜在的なレイシズムの内在を捉えながらも、対立項を作り出すのではなく、融和や和合のようなものを描いた。だから、この曲は、友好的な雰囲気に満ち溢れ、ハートウォーミングな味わいがある。言わばスライは、かなり進んだ存在で、憎しみが愛情に勝ることはないと知っていた。加えて、彼らの音楽は特別視や神聖さとは別の民衆と同じスタンスを取っている。 

 

 

 

 

 

 

 

・スライ&ザ・ファミリー・ストーンの音楽の醍醐味


There's A Riot Goin' On 1971
スライの音楽の特徴は、ソウルミュージックの識者によると、とりも直さずファンクに求められるという。68年には、「My Lady」において、ジェイムス・ブラウン風のファンクビートが刻まれているが、より重要視すべきなのは、「Sing A Simple Song」の方だという見方がある。そして、「Stand!」での試作を経て、ようやく「Thank You」において最終的な形となった。

 

ジェイムス・ブラウンのファンクは音楽家としての専門性を土台として構築されたが、スライのファンクはそのハードルを少し下げ、誰にでも演奏出来るような軽やかさに変化したのだ。この後、ファンクビートはより一般的となり、誰にでも真似出来るものとなった。つまり、スライが、1960年代や70年代の音楽業界にもたらしたのは、リズムにおける革新性だった。


その影響は分岐し、ファンクビートを古典的なブラックミュージックに取り込もうというグループ、それから、「Stand!」の中で発現した黒人としてのアイデンティティを突き詰めようとするグループに分岐していった。つまり、後者のグループに属するミュージシャンたちが「ニューソウル」という運動を巻き起こしたというのが一般的な見方である。これは、さらに後の時代になると先鋭的になり、スライの1971年の代表作『There's A Riot Goin' On (暴動)』において完成される。このアルバムではスライのしなるようなファンクギターを楽しむことが出来る。 

 

 

 

 

 

スライが「Stand!」において人種的なアイデンティティを示唆しようとした以前にも、同じような試みを行ったグループがいた。特にアメリカの南部において、これらの動きが顕著であって、その中にはEddie Floydの「Raise Your Hand」が挙げられる。彼は曲の中で、拳をあげようというラディカルなメッセージ性を添えていた。68年には、James Carrが「Freedom Train」という曲の中で、「自由の列車はもうすぐやってくる!」と歌っている。


ただ、後者のニュアンスに関しては、Sam Cooke「サム・クック)の系譜にあり、彼の代表曲でブラックミュージックの至高の名曲でもある「Change Gonna Come」のように未来に対する純粋な希望が歌われている。 シンプルだが心を揺さぶられるメッセージは、この年代のニューソウル運動の前後の時代の醍醐味だ。取り分け、南部のシンガーは、マーティン・ルーサー・キングに親愛の情を抱いていたという。ブラックミュージックの先駆的な存在、サム・クックは、1964年のコパでのライブステージにおいて、「If I Had A Hammer」を歌い、自由の喜びを端的に伝えた。制限的な権利から開放的な権利を有する時代への変遷を上記のエピソードは反映している。



・社会との関わりを持つ音楽 --ニューソウル--


ただ、それらの靄は完全には払われたわけではない。1968年に、キング牧師が暗殺されたことは、彼を信奉していた南部の歌手に深い衝撃を及ぼしたにとどまらず、根深い人種問題をもたらす。現在も、多くのブラックミュージックの系譜にある歌手が、何らかの罪や背後に残してきた暗さを暗示的に歌う理由は、この時代が出発なのではないか。サザン・ソウルの代表的な歌手、Wilson Pickettは「People Make The World」において、キング牧師に哀悼の意を表しているし、ナッシュビルのFreddie Northもまた「I Have A Dream」の有名な演説の一説を引用したりしている。


この時代の音楽は、政治的ないしは社会的な側面とは無縁ではなく、いつもどこかで繋がっている。彼らは仮想的でバーチャルな空間に逃げないで、真っ向から現実を見つめる厳格な感覚を持ち合わせていた。だから、それが限定的であるにしても、音楽が何らかの意味を持っていた、あるいは、社会に対して何らかの働きかけをするということがありえたというように考えられる。つまり、80年代に入り、ブラック・ミュージックそのものが商業主義に絡めとられるまでは、多くのグループにとって、音楽は権利のための重要なファクターの役割を担っていた。


スライ&ザ・ファミリー・ストーンや同時代のコーラス・グループ/ドゥワップの代表格であるTemptationsのメッセージは、歌詞だけに求められるわけではないようで、そこにブラック・ミュージックとしての面白さがあるのだという。彼らはリリックだけで、拳を挙げよと伝えるのではなしに、ファンクビートをより先鋭的にさせ、それらの音楽からメッセージを伝えた。

 

つまり、音楽そのものが何らかのメッセージであるということを、彼らはよく知っていた。これは音楽に乗せられる言葉だけがメッセージであると考える人々にとっては、かなり意外なことに思えるかも知れないが、音楽そのものからなんらかの思想や考え、ひいては重要なメッセージを読みとるということはありえる。そういったことを象徴するのが、ジェイムス・ブラウン、ファンカデリック/パーラメント、スライといった一派なのであり、彼らは社会的に報われぬ人々の魂を鼓舞する音楽を率先して作り上げた。そういった音楽の一側面が、人種的な平等性ーー社会的な問題と個人的な問題の均衡ーーの合間で矛盾を抱えていた人々に希望を与えたのだ。

 

1960年代後半から1970年初頭は、社会的にも大きな変化があった時代だった。いわば、「ニュー・ソウル」という名称は、時代の変化の前触れを予兆していた。「新しいソウル」という標語は、音楽的な側面を示唆するにとどまらず、社会的な側面を強かに反映させていたのだった。


同じ年代には、「Black Power」と呼ばれる運動が湧き起こり、「Black Is Beautiful」というキャッチフレーズが新聞や雑誌に相次いで登場した。マイアミのDJ、Nikie Leeは、このキャッチフレーズをタイトルにしたシングルをリリースし、話題を呼んだ。Edwin Howkins Singersの「O Happy Day」がチャートで一位を獲得したのは、ゴスペルからのこのムーブメントへの回答でもあった。その他、Syl JohnsonはJBに触発を受け、「Is It Because I'm Black」という曲を制作し、ブラックとしてのアイデンティティを定義づけた。社会的な混乱の時代、こういったシンガーやグループは時代の変化を賢しく読んで、リスナーの人気を獲得することに成功したのだった。