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©︎Sterling Smith

Hannah Jadaguがデビューアルバム『Aperture』からの最新シングル「Warning Sign」を公開しました。この曲は、前作「Say It Now」と「What You Did」に続く先行シングル。この曲のリリックビデオは以下よりご覧ください。


"「Warning Sign」は、実質的にマックス(共同プロデューサー)と私がアルバムのために録音した最後の曲だった "とJadaguは声明で説明しています。


ほとんどただの短い間奏曲だったんだけど、オリジナルのデモで妹が歌ったメロディに触発されて、マックスとわたしはスタジオで残りのサウンドをまとめられるようになったんだ。


『Aperture』は5月19日にSub Popから発売されます。


 Weekly Recommendation


Yazmin Lacey 『Voice Notes』 

 



Label: Own Your Own/Believe

Release Date: 2023年3月3日

 

  

 

 「決して遅くはないが、今やっているという観点では遅い」と語るように、ヤスミン・レイシーは遅咲きのミュージシャンで、さらに音楽活動を開始するのも人よりも遅かったという。


 彼女は音楽シーンに身を置いている間ーー自分の人生の部分のスナップショットのような瞬間ーーをとらえ、歌にするための練習として音楽を制作してきました。


 デビュー・アルバム『Voice Notes』もまた、ヤスミン・レイシーの人生の瞬間をとらえた重要な記録となる。Black Moon(2017年)、When The Sun Dips 90 Degrees(2018年)、Morning Matters(2020年)という3枚の素晴らしいEPに続く本作は3部作の一つに位置づけられますが、それらが書かれたテーマに沿ってタイトルが付けられたという。


 『Voice Notes』は、アルバムが誕生するきっかけとなったあるツールからインスピレーションを受けている。音楽制作の長年のツールであり、コラボレーターとメロディーを共有する方法であるボイスノートは、彼女にとって特別なコミュニケーションの方法なのです。  


「私にとってボイスノートは、何かに対する即座の反応を表しています」と彼女は語っています。「濾過されていない、生の音を聞くことができるのです」


 Craigie Dodds、JD.REID、Melo-Zed、エグゼクティブプロデューサーのDave Okumuといったコラボレーターとともに、スタジオでのジャムセッションから生まれたこの作品は、"不完全さの美しさ"を意図的に捉えた録音になっています。レイシーは、洗練されたサウンドを出来るだけ避け、生々しさ、つまり、アルバムタイトルにもなっているように「誰かの間や立ち止まり、声のひび割れを聞く」チャンスを与えることを選んだのです。


 サウンド面でも、彼女はカテゴリーにとらわれず、様々なスタイルや影響を受けており、「自分自身を表現するさまざまな方法という点で、そこにはたくさんの異なるフレーバーがある」とレイシーは話しています。「私が聴いているもの、大好きな音楽、それを特定するのは難しいかもしれない。それはある意味、ソウルと呼べるかもしれない。なぜなら、それは私自身の魂から生まれたものだからです」


 ヤスミン・レイシーは、Evening Standard、The Guardian、BBC Radio 6 Musicから支持を獲得したにとどまらず、Questloveのようなファンを持ち、特に2020年のCOLORSに”On Your Own”という曲で出演しています。しかし、幅広い賞賛の他に、『Voice Notes』の主要なストーリーとなるのは人生の細かな目に見えない部分であり、レイシーがリスナーと共有することを選択した個人的な観察となっているのです。

 

 「私にとっては、自分の経験に対する反応なのです」とヤスミン・レイシーは語っています。「三作のEPを作ることは、音楽的にも人生的にも学んだことの次の章を形作ることになりました。そして、ここ数年で起こった多くのことを手放したかったんです。別れ、引っ越し、再出発、失敗、自分を見失うこと、自分を見つけること、大切なものをより広い視野でとらえることができるようになる・・・。そういった瞬間をとらえた経験こそが、不完全であっても前面に出てくるのです」   


 ヤスミン・レイシーは、人気DJ/Gilles Peterson(ジャイルズ・ピーターソン)が称賛するというネオ・ソウルシンガーで、最も注目しておきたいシンガーソングライターの一人です。


 イギリス国内でも今後、大きな人気を獲得しても不思議ではない実力派のシンガーです。『Voices Notes」は文字通り、アーティストが自分の声をメモとしてレコーディングし、それを綿密なR&Bとして再構築したデビュー作となる。ロンドンで生まれ、現在はノッティンガムに拠点をおいて活動を行うシンガーソングライターは三作のミニアルバムをリリースしていますが、今作ではその密度が全然異なることに多くのリスナーはお気づきになられるかもしれません。

 

 一般的に、R&Bシンガーは、これまでのブラックミュージックの歴史を見ても、同じようなタイプのシンガーを集めたグループか、もしくはソロアーティストとして活躍する事例が多かった。それはモータウンレコードや、サザン・ソウル、その後の時代のクインシー・ジョーンズなどディスコに近い時代、それ以後のビヨンセの時代も同様でしょう。しかし、ヤスミン・レイシーはソロアーティスト名義ではありながら、コラボレーターと協力し、新鮮なソウルミュージックを生み出しています。


 また、今作はソウルミュージックとして渋さを持ち合わせているだけでなく、そしてレイシーの音楽的なバックグランドの広範性を伺わせる内容となっています。表向きには、近年のエレクトロとR&B、そして現代のヒップホップを融合させた流行りのネオ・ソウル、そして、ジャズとエレクトロを融合させたニュー・ジャズの中間にある音楽性を多くのリスナーは捉えるかもしれません。しかし、このデビュー作を聞き進めるうち、それより古いモータウンサウンドや、サザン・ソウル、そして何と言っても、イギリスのクラブ・ミュージックの文化に根ざしたノーザン・ソウルの影響が色濃いことに気づく。これらの要素に加え、評論筋から”Warm& Fuzzy”と称される、深みがあり、メロウで温かいレイシーのボーカルが、奥深い豊潤なソウル・ミュージックの果てなき世界を秀逸なコラボレーターとともに綿密に構築していくわけです。

 

 近年のネオソウルのムーブメントのせいか、私自身はソウルミュージックの定義について揺らぐようなこともありました。本来のソウルの要素が薄れ、エレクトロやジャズやヒップホップの要素を根底に置くミュージシャンが最近増えてきて、厳密にはソウルとは言い難いアーティストもソウルとして言われるようになってきているからです。しかし、ヤスミン・レイシーの音楽的な背景にあるのは古き良き時代のソウルであり、それらの音楽性を支えるバックバンドがローファイやニュージャズの要素を加えて作品の持つ迫力を引き上げているのです。


 アルバムの全14曲は、非常にボリューミーであり、近年のソウルミュージックにはなかった濃密なR&Bの香りが漂う。それは最初のヒップホップを基調にした楽曲「Flyo Tweet」で始まり、現代社会の感覚とアルバムのテーマであるボイスメモという2つの概念をかけ合わせたクールな雰囲気を擁している。そして、続く、二曲目の「Bad Company」では、自分の中にいる悪魔と対峙し、レイシーはローファイ・ヒップホップと古典的なR&B、普遍的なポピュラー・ミュージックの中間点を探ろうとしています。コーラスワークについては理解しやすいですが、曲全体に漂うエレクトリック・ピアノを用いたメロウさは、アンニュイなボーカル、まさに「Warm & Fuzzy」によって引き立てられていきます。さらに、「Late Night People」では、ノーザン・ソウルのクラブ・ミュージックの文化性を根底に置き、新境地を開拓する。この曲はテクノ性の根底にある内省的なビートを通じ、ヤスミン・レイシーの温かな雰囲気を持つコーラスワークが掛け合わさり、渋さと甘美さを兼ね備えたファジーな一曲が生み出されています。


「Bad Company」


 更に続く、「Fools Gold」はフュージョン・ジャズのシャッフル・ビートを駆使し、チルアウトの雰囲気を持つリラックスした楽曲でやすらぎを与えてくれます。アルバムの序盤から続き、レイシーのハスキーなボーカルはメロウさを持ち合わせており、ポンゴのリズムが軽妙なグルーブをもたらしています。時に、レイシーはラップのフロウのような手法を用いながらジャジーな雰囲気を盛り上げる。アウトロにかけてのフェードアウトは余韻たっぷりとなっている。


 それに続く「Where Did You Go?」では、古典的なレゲエでは、お馴染みの一拍目のドラムのスネアを通じて導かれていきますが、アーティストはダビングの手法を巧みに用い、ネオ・ソウルの豊潤な魅力を示してみせています。この曲でも、レイシーはファンク、ジャズ、ソウルを自由に往来しながら、傑出したボーカルを披露します。微細なトーンの変化のニュアンスは、楽曲に揺らぎをもたらし、そして、メロウさとアンニュイさを与えている。またファンクを下地にしたヒップホップ調の連続的なビートは、聞き手を高揚した気分に誘うことでしょう。

 

 中盤においても、ヤスミン・レイシーとバックバンドはテンションを緩めずに、濃密なソウルミュージックを提示しています。真夜中の雰囲気に充ちた「Sign And Signal」は、イギリスの都会の生活の様子が実際の音楽を通じて伝わって来る。続く、古典的なレゲエとダブの中間にある「From A Lover」は、ボブ・マーリーのTrojanの所属時代の懐かしいエレクトーンのフレーズ、ギターのカッティング、そして、レゲエの根源でもある裏拍を強調したドラムのビートの巧みさ、ヤスミン・レイシーの長所である温かなボーカルの魅力に触れることが出来るでしょう。アウトロにかけてのメロウなボーカルも哀愁に溢れていて、なぜか切ない気持ちになるはずです。

 

 レゲエ/ダブの音楽性を下地においたレイシーのファジーなソウル・ミュージックが「Eyes To Eyes」の後も引き継がれていきます。メロウさと微細なトーンの変化に重点を置いたレイシーのボーカルは、自由なエレクトリック・ピアノと、ディレイを交えたスネアの軽妙さとマッチし、渋く深い音楽性として昇華される。時に、そのアンサンブルの中に導入されるジャズギターも自由なフレーズを駆使し、絶えず甘美な空間を彷徨う。バンドの音の結晶に優しく語りかけるようなレイシーのボーカルは圧巻で、ほとんど筆舌に尽くしがたいものがある。

 

 さらに、アルバムのハイライトとなる「Pieces」は成熟した魂を持つアーティストとして、ポピュラー・ミュージックの持つ意義を次の時代に進めてみせています。 ここでは、自分や聞き手に一定の受容をもたらしつつ、ジャズの要素を交えて、ゴージャスなポピュラーミュージックの特異点へと落着していきます。前時代のブリストル発のトリップ・ホップの影響を交え、サックスのメロウな響きを強調し、アーティスト特有の独特なR&Bの世界へと聞き手をいざなっていく。甘く美麗なコーラスは優れた造形芸術のように強固であり、内実を伴う存在感を兼ね備えており、途中からはダンサンブルなビートを交え、聞き手を陶酔した境地へ導いていくのです。


 この曲以降の楽曲は、ある意味では、クラブ・ミュージックの熱狂後のクールダウンの効果、つまりチルアウトの性質が強く、聞き手を緩やかな気分にさせてくれますが、しかし、それは緊張感の乏しい楽曲というわけではありません。これまでの音楽的なバックグランドをフルに活用し、クラブミュージックを基調にするノーザン・ソウルの伝統性を受け継いだ「Pass Is Back」、レゲエをダンサンブルな楽曲として見事に昇華した「Tomorrow's Child」 、ドラムのフュージョン性にネオ・ソウルの渋さを添えた「Match in my Pocket」、そして、アフロ・ソウル/ヒップホップの本質を捉え、それらをアンサンブルとして緻密に再構築した「Legacy」、さらに映画のサウンドトラックのような深みを持つ「Sea Glass」まで、聴き応えたっぷりの楽曲がアルバムの最後まで途切れることはありません。


 アルバムとして聴き応え十分で、収録曲は倍以上のボリュームがあるようにも感じられる。そして、本作に現代の流行の作品より奥行きが感じられる理由は、レイシーが育ったロンドンとノッティンガムの文化性、そして、彼女の人生の中で出会った沢山の人々への変わらざる愛情が流動的に体現されているからなのです。ヤスミン・レイシーというシンガーソングライターにとって、33年という歳月は何を意味したのか? その答えがこの14曲にきわめて端的に示されています。


 

95/100



Yazmin Lacyの新作アルバム『Voice Notes』はOwn Your Own Records/Believeから発売中です。ご購入/ストリーミングはこちらより。

 


Weekend Featured Track #9「Pieces」



 

©Justin French


Madison McFerrin(マディソン・マクファーリン)は、5月12日にデビュー・アルバム『I Hope You Can Forgive Me』をリリースすることを発表した。”私を許してくださることを願う”というタイトルがアーティストにとってこのデビュー作の持つ意義深さを物語っている。これを記念して、リード・シングル「(Please Don't) Leave Me Now」のケンプ・ボールドウィン監督によるPVが公開された。

 

アルバムのアートワーク、トラックリスト、そしてマクファーリンの今後のツアー日程と共に、下記よりご覧ください。


マクファーリンは、R&Bの次世代のシーンを担うSSWである。ロバート・グラスパーとのプロジェクトR+R=NOWでも注目を浴びたプロデューサーの兄「テイラーマクファーリン」と、グラミー賞10度受賞したジャズ界の大御所ヴォーカリスト、ボビー・マクファーリンを父に持つ。サンフランシスコ出身で、現在は、NYやLAを拠点に歌手の活動を行っている。2021年にパートナーと交通事故に遭う悲劇が起きた後、「Please Don't) Leave Me Now」は書き上げられた。

 

"臨死体験から肉体を傷つけずに立ち去ることが出来たのは、私がこの人生で受けた最大の祝福の一つだった "とマディソン・マクファーリンはプレス・ステートメントでこの時の出来事を振り返っている。

 

この曲を制作することでアーティストとしての目的を再確認することができました。(Please Don't) Leave Me Now』を書くことは、信じられないほど治療的でカタルシスあふれる体験になった。楽しい環境を作りながら、そのような恐怖を表現できることが、この曲を作る鍵になりました。


さらに同時に公開された新曲のミュージックビデオについて、McFerringはこう付け加えている。


このビデオを制作する過程で、死はさまざまな形で現れました。撮影までの数週間、制作サイドの複数の家族が突然亡くなり、計画がストップしてしまった。ビデオの運命は流動的だったのです。しかし、チームの粘り強さのおかげで、遅ればせながら体制を立て直し、前に進めることができました。

 

ビデオでは、「死ぬ覚悟がない」という気持ちを表現したかった。墓の上でも中でも、自分が何者であったのか、何者であり得たのかを嘆きながら、自分に語りかけているんです。1日に何時間も墓の中にいることが私に影響を与えるとは思っていませんでしたが、臨死体験を処理する旅に貢献したことは間違いありません。この曲とビデオは、ミュージシャンとしてだけでなく、人間としての私自身の成長の現れです。


マディソン・マクファーリンは、『I Hope You Can Forgive Me』の大半の曲をプロデュースしており、ジャズシーンの大御所である父親のボビー・マクファーリンも参加しています。



「(Please Don't) Leave Me Now」

 



Madison Mcferring  『I Hope You Can Forgive Me』 

 


Label: MADMACFERRIN MUSIC 

Release Date : 2023年5月12日

 

Tracklist:


1. Deep Sea

2. Fleeting Melodies

3. Testify

4. Run

5. God Herself

6. OMW

7. (Please Don’t) Leave Me Now

8. Stay Away (From Me)

9. Utah

10. Goodnight

 

Pre-order:

 

https://madisonmcferrin.lnk.to/IHYCFM_Physical 

 


Madison McFerrin 2023 Tour Dates:


Mar 2 San Jose, CA – The Continental

Mar 3 Los Angeles, CA – Walt Disney Concert Hall

Mar 13-18 Austin, TX – SXSW

May 20 Frenchtown, NJ – Artyard

Jun 1 Los Angeles, CA – Zebulon

Jun 2 San Francisco, CA – The Independent

Jun 4 Eugene, OR – Hult Center

Jun 5 Portland, OR – Doug Fir

Jun 13 Chicago, IL – Sleeping Village

Jun 15 Columbus, OH – Rambling House

Jun 23 Baltimore, MD – Creative Alliance

Jun 24 Ellenville, NY – Love, Velma

Jun 25 Marlboro, NY – The Falcon

Jun 29 Brooklyn, NY – Elsewhere

Jul 9 Rotterdam, Netherlands – North Sea Jazz Fest

Aug 10-13 Dorset, England – We Out Here Fest



 Anna Wise 『Subtle Body Down』

 

 


Label: Sweet Soul Records

Release Date: 2023年2月17日


Listen/Purchase



Review

 

アンナ・ワイズは既存の音楽の枠組みにとらわれない独創的なポピュラー・ミュージックをこのセカンド・アルバムで生み出しています。この作品は特に既存のポピュラー音楽に飽きてしまった人に強くおすすめします。

 

アンナ・ワイズは、ケンドリック・ラマーのファンであれば、その名を耳にしたことがあるはず。 彼女は『To Pimp A Buttefly』の「These Walls」でゲストボーカルとして参加しています。アンナ・ワイズ名義のソロ・プロジェクトに関し、アンナ・ワイズは、彼女自身が属するオルタナティヴ・ソウル・グループ、Sonnymoonの延長線上に位置すると考えているようで、ネオソウル、R&Bを通じて、女性であることの試練と高揚、愛、人間関係と様々なテーマを掘り下げています。


アルバムには、全七曲が収録されており、フルアルバムではありながら、ほとんど捨て曲がなく、高い密度を誇る作品です。実際、全体的な音楽性の密度だけでなく、一曲ごとの密度も極めて高く、聴き応えたっぷり。アンナ・ワイズは、バークリー音楽院で学んだ経歴を持ちますが、ジャズ、クラシック、さらにアーティストのライフワークのような意味を持つネオ・ソウルという多様な音楽性を、目眩く様に展開させていく。変拍子が多く、ブレイク・ビーツのような手法を用いながら独創的な音楽を作り出していきますが、それは、例えばノルウェーのニュージャズのグループ、Jaga Jazzistの2010年代の作風に近い要素がある。『Subtle Body Dawn』の収録曲は、一つの展開に収まることを避け、目まぐるしくその曲調や曲風が変化していく。アルバムの中で、空想の舞台が繰り広げられるようにも思え、曲の中に幅広い要素を込めようとするアーティストの試行錯誤が上手く昇華されたというべきなのかもしれません。


また、アンナ・ワイズの歌についても面白く、曲ごとにそのボーカル・スタイルを様変わりさせ、まるでこれは演劇の舞台でその役どころを変化させるかのよう。ある曲では、米国の古き良き時代のシンガー、エタ・ジェイムスのようなソウルフル/ジャジーな懐深さがあったかと思えば、他の曲では、ビョークの最初期の先鋭的でありながらポピュラー音楽の未知なる可能性を示すボーカルスタイルに変化する。曲をよく聴き込めば聴き込むほど、アンナ・ワイズという歌手の実像は謎めいて来て、その正体がより不可思議な存在として感じられるようになるのです。

 

アルバム全体としては、オープニングを飾る「Time」から「The Now」の流れを聞くと、コンセプト・アルバムとして捉えることも出来る。弦楽器のピチカートやビンデージピアノの音色を部分的にコラージュのように交えながら、ジャズ風のバックビートに下支えされたポピュラー・ミュージックの展開力は、きっとこのアーティストの作品に初めて触れる際に強烈な印象をもたらすことでしょう。その後も、ダンサンブルなエレクトロニカの作風を反映させながら、ネオ・ソウルやジャズの性質をセンスよく散りばめた「Green」、さらに、このアーティストのファンシーな性質を帯びた「Jelousy Blocks Your Blessings Every Time」は幻想的な雰囲気が漂う。その後、Sonnymoonの音楽性の延長線上にある囁くように歌われるネオ・ソウル「Several Dimensions」もまたワイズの持つ神秘性や不思議な魅力を味わうことが出来るでしょう。

 

これら中盤のバリエーション豊かな楽曲を引き継いだ後、アルバムのハイライトが立ち現れる。フィドルとオルガンの音色、その後の休符を埋めるタイプライターのサンプリングに導かれながら、タイトル曲のような意味を持つ「Subtle Body」に来て、いよいよアンナ・ワイズの独創的なポピュラー・ミュージック・ワールドが大きく花開くことになる。特に、サビにおける往年のソウルシンガーの歌唱力に比べて何ら遜色のないダイナミックなボーカルに注目しておきたい。ポップバンガーとしての展開が訪れた後、唐突に、エタ・ジェイムズを彷彿とさせる深みのあるジャズ/ソウル・ミュージックの最深部へと引き継がれる。これらの落ち着きがありながら甘美な雰囲気に彩られた展開は、最終曲の「Mother Of Mothers」に神妙な形で続いていき、本作をクライマックスに誘導していく。トイピアノの可愛らしい音色とロック寄りのグルーブ感を押し出したベースライン、続く、賛美歌やゴスペルを通じて繰り広げられる摩訶不思議な世界は、聞き手を幻惑へと誘う。


このアルバムは既に何度か聴き通していますが、聴くたびに何かそれまで気づかなかった新しい発見があって面白い。そして作品が終わっても、何度も聴き直したいと思えるような安定感に満ちています。これは、製作者の提示する世界観がこれまでありそうでなかったものであること、そして、個々の楽曲と複雑なバックビートが緻密に作り込まれているからなのかもしれません。ケンドリック・ラマーのコラボレーターという言い方は、もはやアーティストにとって不要となったかもしれない。すでにアンナ・ワイズは『Subtle Body Dawn』で才能あふれるソロミュージシャンとしての道を確立しはじめているように感じられます。

 

90/100

 


Featured Track 「Subtle Body」

 

©Jheyda McGarrell

 

米国の歌手/女優、Janelle Monáe(シャネール・モネイ)が、アフロ・ビートの始祖/Fela Kutiの息子であるSeun Kutiと彼のバンド”Egypt 80”をフィーチャーしたニューシングル「Float」を発表しました。現代的なラップとアフロ・フューチャリズムを融合させた画期的な楽曲と言えそうです。Nate "Rocket" Wonder、Nana Kwabena、Sensei Buenoが共同プロデュースを行っています。


プレスリリースによると、このニュー・シングルは「1974年のザイールでのMuhammed Ali talking shit、Janeの進化、Mary Poppinsの傘、Aladdinの魔法のじゅうたん、Ja MorantのOpsでダンクしながらリムに浮くことからインスピレーションを得ている」という。「サラ・エリスのロープ、パラマ・ニティアナンダの空中浮遊に関する講演の抜粋、12月1日のラウルの乾杯、ブルース・リーの「形もなく、形もなく」、水のように周囲と一体になるための強大な哲学.........」


「Float」は、Monáeにとって2021年のシングル「Say Her Name (Hell You Talmbout)」と「Stronger」以来の新曲となる。前作、2019年の『Dirty Computer』のリリース以降、彼女は2022年の映画『Glass Onion』、さらに『A Knives Out Mystery』にも出演している。


「Float」

 

Anna Wise


 米国のシンガー/ソングライター/プ ロデューサー・Anna Wise(アンナ・ワイズ)が、本日(2月16日)、ニューアルバム『Subtle Body Dawn』をSweet Soul Recordsからリリースします。 

 

Kendrick Lamarの傑作『To Pimp A Butterfly』に参加し、Bilal、Thundercatとともにグラミー賞(Best Rap/Sung Collaboration)を受賞。Vogue誌も”フェミニスト・ポップの先駆者”と絶賛したAnna Wise(アンナ・ワイズ)。その後も、Ab-SoulやTeebs、Taylor McFerrin、Chris Dave and the Drumhedzなどの数々の重要作品に参加し、極限までコントロールされた繊細なヴォーカルワークと圧巻の表現力に多様なシーンからのオファーが絶えない。

 

2019年には、BIGYUKIの日本ツアーのゲストアーティストとしても来日。エフェクターを駆使した複雑かつ緻密なレイヤリングと、美しい歌声、ステージ・パフォーマンスで幻想的かつ鮮烈なインパクトを残した。


アンナ・ワイズは、コラボレーターとしての実績だけにとどまらず、オリジネーターとしても唯一無二の魅力を放つ。バークリー音楽院時代に結成された実験音楽バンド・Sonnymoonの活動も含め、これまでに10作ものアルバムをリリースしてきた。また「Dear White People」(Netflix)「Insecure」(HBO) などのドラマシリーズにも楽曲を提供し、尽きることのない創作意欲とジャンルに捕らわれない自由な活動により、シーンにおいて異彩を放ち続けている。

 

2019年に発表された前作のフルレングス『As If It Were Forever』は、自主レーベルからのリリースでありながら、オルタナティブR&Bの傑作として大きな注目を集めた。Denzel Curry(デンゼル・カリー)、Little Simz(リトル・シムズ: Brit Awards 2022 Best New Artistを受賞)、Nick Hakim、Mndsgn、Pink Siifuなど、彼女の才能と魅力に惹き寄せられた豪華アーティストが参加している。


また、昨年には、同作のライブ・バージョン『Gently Powerful, Live (As If It Were Forever)』もリリースされた。さらにYouTubeで配信されたライブの様子からも類稀な才覚に触れることが出来る。前作の楽曲のライブ・パフォーマンスは下記よりご覧いただけます。

 

 Anna Wise- "What's Up With You?" Live at Electric Garden

 

 Anna Wise - Worm's Playground (Live at the Outlier Inn)

 

 本日発売されるニューアルバム『Subtle Body Dawn』はアンナ・ワイズがこれまでにないサウンドを追求した今週最大の注目作となる。


『Subtle Body Dawn』は、全楽曲がMaurice II(Jon Bapとしての活動から改名)によるプロデュース作。ギター、ベース、ドラム、キーボード、バイオリンなどほぼ全ての楽器を彼が演奏し、ミキシングとマスタリングも手がけている。また、Mndsgn、Miguel Atwood-Ferguson、Angel Deradoorian(元 Dirty Projectorsのメンバー)ことDeradoorian、Fear Gortaといった才気溢れるアーティストや、Anna Wiseのライブでも脇を固めるShona Carr、Juuwah、Sarah Galdesといった魅力的なミュージシャンが参加していることにも注目したい。

 

アルバムは、ミニマルなギターにAnna Wiseのリラックスしたヴォーカル/コーラスが映える「Time」で始まり、エネルギッシュかつ表現力豊かな「The Now」へと続く。変則的なメロディーを擁しながらもキャッチーな「Greens」、スポークンワードの要素を取り入れたセンチメンタルで儚いサウンドトラックのような「Jealousy Blocks Your Blessings Every Time」など、振れ幅の大きい楽曲が収録されている。

 

「Several Dimensions」では、ギター、ピアノ、実験的なサウンドエフェクトと妖艶なヴォーカルが溶け合い、幻想的かつロマンティックな世界観に完全に引き込まれる。アルバムタイトルの「Subtle Body」は、オペラのようなストリングスがフォーキーなサウンドにモダンなテイストを加えながら、楽曲内においても多彩な展開を見せ、瞑想的な「Mother Of Mothers」でアルバムは幕を閉じる。


ジャンルを超越したAnna Wiseという現代の妖精が奏でる、癒やしと内省を表現した神秘的なサウンドをぜひ一度体感してみてください。

 

 

 Anna Wise『Subtle Body Dawn』

 


 

Label:SWEET SOUL RECORDS

Release Date :2023年2月16日 (木)



Tracklist:


01. Time
02. The Now
03. Greens
04. Jealousy Blocks Your Blessings Every Time
05. Several Dimensions
06. Subtle Body
07. Mother of Mothers


Purchase(アルバムのご購入):


https://sweetsoulrecords.com/artists/anna-wise/

 

 

 Anna Wise 

 



 音楽一家に生まれ、4歳の時に教会で歌い始めたAnna Wise。自分自身や周りの人のエネルギーを敏感に感じ取る繊細な少女であった彼女は、頭の中で聞こえるノイズが歌っている時だけ消えたという。シンプルなハミングで自分自身にサウンドセラピーを施すうちに、1日に何時間も歌うようになり、やがてそれが自分自身に贈る特別なプレゼントのように感じられるようになった。

 

 バークリー音楽院に進学した彼女は、在籍中に実験的なR&B/ベッドルームポップバンドSonnymoonを結成すると早くから注目を集め、2000年代後半の実験音楽シーンを代表する存在となり、Kendrick Lamar作品への参加にも繋がる。

 

 2019年には、デビューアルバム『As If It Were Forever』(Little Simz、Denzel Curry、Pink Siifuといったアーティストや、長年のコラボレーターであるNick Hakim、Jon Bap、Gwen Bunn、Sid Sriramが参加)をリリース。その後、The Koreatown Oddity、Durand Bernarr、LʼRain、Mndsgnの作品でコラボし、ニューヨーク北部のThe Outlier Innでライブ配信ショー『Gently Powerful, Live』を開催している。

 

Spotify:

 

https://open.spotify.com/artist/0N41KJ4H6bkPAm2tx7VS8C? 

 

Instagram:

 

https://www.instagram.com/annathewise/ 

 

Twitter:


https://twitter.com/annathewise

 

 

 


Yaya BeyがニューEP『Exodus the North Star』を発表し、タイトル曲も併せて公開した。この6曲入りEPは3月24日にBig Dadaからリリースされる。Jay Daniel、Exaktly、Nativesunがゲスト参加している。 リードシングル「Exodus the North Star」は以下でご視聴いただけます。


「『Exodus the North Star』は私のなかで最も繊細な作品のひとつです」とベイは声明で述べています。

 

「これは、私が世界の喜びと愛をどのように見ているか、そして私が何を感じ、どうありたいかを熱望しているかということです。私は、黒人女性としての痛みや悲しみを音楽にする専門家になりました。黒人は自分の物語を語り、痛みを共有する達人ですが、同時に喜びと想像力の達人でもあります。私たちは常に、自分たちの経験をどう錬金術にかけるか、自分たちの状況をどう再想像するかについて、世界的な対話をしてきました。ラヴァーズ・ロックとR&Bの結びつきから、ゴスペルとハウスの結びつきまで。私たちの喜びは集合的な努力です」


「私はこの世界で自分の存在がどうあってほしいかについて書くことはほとんどありません。これは私にとって新しいレベルの脆弱性です。自分の欲望を宣言すること。私が学ぶに値するもの。これは私の仲間たち、長老たち、そして私と共にこの仕事に取り組んできた祖先への感謝の気持ちです。未来に乾杯」

 

 

 

 

Yaya Bey 『Exodus the North Star』 

 

 

Label: Big Dada

Release: 2023/3/24


Tracklist:


1. Exodus the North Star

2. On the Pisces Moon

3. When Saturn Returns

4. Munerah

5. 12 Houses Down

6. ascendent (mother fxcker) [feat. Exaktly]

 

 

Pre-roder:

 

https://yayabey.bandcamp.com/album/exodus-the-north-star 


 

©︎Alexandra  Waepsi

Arlo Parksが2ndアルバム『My Soft Machine』を発表しました。マーキュリー賞を受賞した2021年のデビュー作『Collapsed in Sunbeams』に続く作品は、5月26日にTransgressiveからリリースされます。フィービー・ブリッジャーズとのコラボ曲「Pegasus」も収録されている。


本日、アーロ・パークスはアルバムのリード・シングル「Weightless」を、Marc Ollerが監督したビデオと一緒に公開しました。


このシングルについて、パークスは、プレスリリースで次のように述べています。


「『Weightless』は、小さなパンくずのような愛情しか与えてくれない人を深く思いやるという、つらい経験をテーマにしています。ある人が自分のエッジを鈍らせていることに突然気づき、明るい自分自身に戻るためのゆっくりとした旅に乗り出すことについてです」


『My Soft Machine』について、彼女はこう付け加えています。


私たちが経験する最大の出来事、つまりトラウマや生い立ち、傷つきやすさなどが、まるで雪のように散りばめられているのです。20代半ばの不安、周りの友人の薬物乱用、初めて恋をしたときの内臓、PTSDや悲しみ、自己妨害、喜び、驚きと感性で世界を駆け巡ること、この特定の体に閉じ込められることがどんなことなのか、私のレンズ、私の体を通して人生を描いたレコードです。

 

ジョアンナ・ホッグの『The Souvenir』という映画からの引用です。A24の半自伝的映画で、ティルダ・スウィントンが出演していますが、若い映画学生が年上のカリスマ的な男性と恋に落ち、彼の中毒に引き込まれていくという内容で、初期のシーンで彼は、なぜ人々が映画を見るのかを説明しています。そうです、私のソフトマシーンです。


 



Arlo Parks   『My Soft Machine』




Label: Transgressive

Release: 2023年5月26日



Tracklist:


1. Bruiseless

2. Impurities

3. Devotion

4. Blades

5. Purple Phase

6. Weightless

7. Pegasus [feat. Phoebe Bridgers]

8. Dog Rose

9. Puppy

10. I’m Sorry

11. Room (Red Wings)

12. Ghost


Pre-order:


https://arloparks.ffm.to/mysoftmachine


Arlo Parks 2023 Tour Dates:


Sep 5 Dublin, Ireland – 3Olympia

Sep 14 Amsterdam, Netherlands – Paradiso

Sep 15 Brussels, Belgium – Ancienne Belgique

Sep 17 Berlin, Germany – Huxleys Neue Welt

Sep 19 Milan, Italy – Fabrique

Sep 21 Paris, France – L’Olympia






 

©︎Justin French

新世代R&Bシンガーと称されるKelela(ケレラ)は、近日発売予定のアルバム「Raven」からの最新シングル「Contact」をリリースしました。下記よりご覧ください。
 

「"Contact "には、夜のあらゆるシーンで使える何かが少し入っています」とKelelaは声明で述べています。
 
 
これは、"pre-gaming"(準備中やクラブに向かうときにかける曲)のサウンドトラックでもある。また、満員のレイブに足を踏み入れたときに包まれる熱気というクラブの内部での異質な体験でもある。これらのすべてが、クラブの裏で恋人と過ごす、とてもセクシーでサイケデリックなひとときに集約される。
 

Kelelaのニュー・アルバム『Raven』は2月10日にWarpからリリースされる予定です。先行予約はこちら

Cool-Aid

 
ビートメイカー、Ahwleeと、同じくLAのビートメイカーMC/シンガーのPink Siifuによるデュオ、B.Cool-Aidがニュー・アルバム『Leather Blvd』を発表しました。 この新作は、Lex Recordsより3月31日に発売される予定です。さらに、この発表と同時に、Liv.e, Butcher Brown, Jimetta Rose, V.C.R., Maurice IIが参加したニュー・シングル「Cnt Go Back (Tell Me)」がリリースされた。
 

『Leather Blvd.』は、B.クールエイドにとって、2019年の『Syrup』以来のフルアルバムとなります。昨年、二人はトラック「COO」と「UsedToo」をシェアしています。

New Album Review  CVC 『Get Real』 


 

 

Label:  CVC Recordings

Release Date: 2023年1月13日

 


Review



昨年9月、最初のEP『Reel To Real』をリリースしたウェールズ出身の6人組のロックバンド、CVC(Church Village Collective)は『Get Real』で、ついに本格的なデビューを果たします。カーディフの北部にあるチャーチ・ヴィレッジから登場したコレクティヴは、すでに国内で人気を着実に積み重ねており、彼らのウェールズでのライブのスペースは、いつも満員となっているようです。

 

以前にも紹介したとおり、CVCのロックサウンドは必ずしも新しいものとは言いがたい。彼らは、60、70年代のロックやR&Bやファンクを聴き、ビートルズ、ビーチ・ボーイズを始めとする古典的なロックミュージックがバックグランドにあり、そのサウンドは懐古的で、ノスタルジア満載です。古いビンデージレコードに漂うような懐かしさをあえて志向しているとも言えます。

 

ファーストEPでは、70年代のハードロック・バンドの音楽を彷彿とさせるものがあり、フルアルバムでは、よりビンテージ・ソウルやファンク、それから、ドゥワップを始めとする、古い年代の音楽の要素を下地に渋い雰囲気に充ちたサウンドに重点を置いています。さらに、この音楽には彼らの無類のレコード好きとしての矜持が至る所に散りばめられている。そして、このバンドのユニークなキャラクター性、ときにサイケデリック・ソウルの色合いもあいまって、このグループにしか醸し出せない魅力が存分に引き出された快作となっています。

 

ただし、いくつか難点を挙げると、いわば、活発な動きのあるサウンドであったファーストEPに比べると、このデビュー・アルバムは停滞したサウンドに変わってしまった印象もある。言い換えれば、ファーストEPはドライブ感のあるサウンドでしたが、フル・アルバムになったとたん、サウンドがまったりとしすぎ、間延びしまっているため、もしかすると、このことが実際のバンドのポテンシャルの高さを考えてみると、本作の評価が今ひとつ奮わない原因となってしまうかもしれません。ことデビュー・アルバムに関しては、ジャム・セッションの楽しさをレコーディングを通じて引き出そうとしており、それはある面では成功していますが、他の側面では、一作品として今ひとつ迫力に欠けるという心残りもある。


しかし、CVCは、バンドアンサンブルとしてはオーディエンスを惹きつけるパワーを持っているのは事実で、サウンドの中には非凡な才覚も見て取れる。デビュー・シングル「Docking The Party」は、依然として、このバンドの重要なレパートリーとなるだろうし、そして、EPには収録されなかった新曲の中には、キラリと光るセンスを感じさせるトラックも多く含まれています。


たとえば、オープニング・トラック「Hail Mary」では、往年のモータウン・サウンドやビンデージ・ソウルを基調にしたロックを提示している。ここでは、CVCのバンド・サウンドの核心にあるソウルフルな温みや、グループとしての結束の強さが反映されています。また、その他、#3「Knock Knock」では、ビンテージ・ファンクを基調にしたフックの利いたサウンドを提示している。これらのソフト・ロック/AORの音楽の影響下にある楽曲は、さっぱりとしていて、爽快味を感じさせてくれます。特に、演奏面での技術の高さについては目をみはるものがあり、ベースライン、ドラム、シンセの演奏から引き出される分厚いグルーブ感、及びR&Bの要素の色濃いソウルフルなボーカルが、これらの曲に力強いパンチとスパイスをもたらしています。

 

その他、CVCは、ビートルズのリバプール・サウンドを基調にし、エリック・クラプトン(Cream)の影響を感じさせる渋さ抜群のブルース・ロック、Sladeの名曲「Come on The Feel the Noize」のようなカラフルなロックンロール、オールディーズのドゥワップのコーラスといった要素を交え、さらに、「Mademoiselle」では、アース・ウインド&ファイアのディスコ調のファンクを展開させてみたりと、音楽性の間口はきわめて広く、そのバリエーションの豊富さにおいては他のバンドを圧倒するものがある。何より、CVCは、とことん自分たちの好きな音楽を掘り下げているのが頼もしい。これらの気質の良さに基づく楽しいサウンド、パーティーでの演奏を志向したような陽気なエネルギーは、聞き手の気分を和ませてくれるだろうと思われます。


ラグビー場とパブに象徴されるカーディフに在するのどかな街、チャーチ・ヴィレッジから登場した6人組のCVC。彼らはビンテージ・ソウルやファンクをルーツに持つロック・バンドであることを、このアルバムで力強く示してくれました。これらのサウンドが、今後、どんなふうに成長していくか、ファンとして楽しみにしています。そして、こういった形で心弾ませるようなサウンドを追及していけば、シングル・リリース時に掲げていた野望ーー「ウェールズを飛び出して、世界で演奏してみたい」という夢は、必ずや現実のものになるものと思われます。

 

85/100


Featured Track 「Hail Mary」


 

©︎Tonje Thilesen


Lætitia Tamko(レテシア・タムコ)の別名義であるVagabon(ヴァガボン)が、ニュー・シングル「Carpenter」をリリースしました。2019年のセルフタイトル・アルバム以来となるソロ作品をマークしたこのトラックは、レテシア・タムコとロスタムの共同プロデュースによるものです。


"「Carpenter」は、あなたが必死に知識を得たいと思い、進歩したいと思い、成熟し、前向きに考え、進化したいと思うときの謙虚な気持ちについてです"と、レテシア・タムコは声明で説明しています。

 

自分の限界に直面したとき。それは、過去の教訓が最終的にクリックされ、あなたが走って、昔のあなたを目撃した人に「私は今ようやくそれを理解した」と言いたくなる、そのA-HA体験についてです。


2021年、Vagabonは、コートニー・バーネットとタッグを組んで、ティム・ハーディンの「Reason to Believe」とシャロン・ヴァン・エッテンの「Don't Do It」をカヴァーしている。また、同年、ジャミラ・ウッズやミロエと「Winona」という曲で共演している。


Ezra Collective


 現在進行中のフェラ・クティのアルバム50周年記念リイシュー・プロジェクトの一環として、Ezra Collectiveは「Lady」と「Shakara」の特別バージョンを公開した。両曲とも1972年にフェラ・クティのアルバム「Shakara」に収録されている。


このアルバムは、金の箔押し帯付き限定ピンク・ビニールで1月13日にPartisanから再発され、Ezra Collectiveが録音したA面とB面の「Lady」「Shakara」を収録した黄色の7インチが同梱される。オフィシャル先行予約はこちらから。


Ezra Collective x Ladyのバージョンについて、Femi Koleosoは次のように語っている。


「私が子供の頃、父はフェラ・クティのCDをコレクションしていた。子供の頃、父がフェラ・クティのCDを集めていて、長距離ドライブの車の中でかけていたんだ。当時、私はそれが誰なのか、何なのか知りませんでしたが、いつも私の好きな音楽であることは知っていました。フェラ・クティは私たちの音楽のヒーローであり、Ezra Collectiveの基礎となるインスピレーションであり続けているのです。Ezraの最初のライブから、私たちは彼の音楽に敬意を表して演奏してきました。それを記録し、彼の遺産を祝うためにレコードにすることは夢のようなことです。ホーン・セクションの一員として参加してくれたKinetika Blocoに感謝します。オリジナルも負けてないが、このリミックスで君も踊れるようになるといいな」


 神のご加護がありますように

 EZ




Ezra Collectiveは3月7日にビルボードライブ東京に出演が決定しています。公演の詳細はこちら

 


 

本日(1月5日)、カナダ出身のR&Bシンガー、Jay Woodが昨年、キャプチャード・トラックスからリリースしたデビュー・アルバム『Slingshot』の収録曲「Kitchen Floor」のライブ・バージョンを公開しました。(レビューはこちら)このカットは、シカゴのAudio Treeでのライブパフォーマンスを収録したものです。デビュー・アルバムと合わせて、再度チェックしてみて下さい。


カナダの草原で生まれ育ったJay Woodは、2015年からヘイウッド=スミスの自己発見と心痛の旅をユニークなソングライティングで捉えてきた。2019年に母親を亡くし、2020年を通して複数の社会的危機が発生し世界的に行き詰まったヘイウッド=スミスは、前進する勢いに憧れました。

 

「前進するために振り返る、という考えは、私にとって本当に大きなものになりました。だからこそ、『Slingshot』というタイトルを付けたんです」とヘイウッド=スミスは説明しています。

 

ヘイウッド=スミスは、両親の死後、自分の過去や祖先とのつながりを断ち切られたと感じ、白人が多いマニトバ州で暮らす自分のアイデンティティと黒人特有の経験をよりよく理解しようと意識的に取り組みました。『Slingshot』は、ファンタジーなシナリオと個人的な逸話、そして、ポップでダンスなインストゥルメンタルを融合させた、Jay Woodの表面と深層の自画像ともいえる。

 

 


メリーランド出身、リッチモンドを拠点にするR&Bアーティスト、McKinley Dixon(マッキンリー・ディクソン)が、Angélica Garciaをフィーチャーしたニューシングル「Sun, I Rise」で、City Slangとの契約を発表しました。Ja-Wan Gardnerが監督したビデオも公開されています。下記よりご覧ください。


マッキンリー・ディクソンは、「イカロスとミダス王を混ぜたような少年の物語を語りたかった」とコメントしています。

 

「曲の冒頭では、太陽を待ち望んでいる人、以前近くにいた人を強調しています。このキャラクターは、太陽に向かって叫び、暖かさを懇願し、落下することについて議論しているようなものです"


映像監督のジャ・ワン・ガードナーは、「私はいつも太陽を自分のエネルギー源として捉え、"光 "は自分にとってより良い人生を確立するために追求すべきもののメタファーとして捉えていたので、このレコードを初めて聞いたとき、『Sun, I Rise』に大きな衝撃を受けた」と付け加えています。

 

「ディクソンの冒頭の一節「How I could underestimate sun? だから私はこの機会を利用して、黒人男性が光を追い求め、浴びることがどのようなものかを示し、そのエネルギーが仲間から仲間へと伝わり、結果として太陽/光を受け入れた人たちが必然的に成長する様子を表現した」


McKinley Dixonのデビュー・アルバム『For My Mama and Anyone Who Look Like Her』は昨年到着している。


 

Nilüfer Yanya


UKソウルミュージックの新鋭SSW、Nilüfer Yanya(ニルファー・ヤンヤ)は、彼女の最新アルバム『PAINLESS』のデラックス・エディションの発売を発表しました。ATO Recordsから12月14日に発売されます。

 

このデラックス・エディションには、アルバム収録曲のリ・イマジネーション・バージョン3曲に加え、リミックス2曲とPJ Harveyの1993年の楽曲「Rid of Me」のカバーが収録される予定です。

 

Yanyaは、アルバム収録曲「Midnight Sun」のSamphaとKing Kruleによる2つのリミックス・バージョンを公開しました。


「Midnight Sun」(King Krule Remix)

 

 

「Midnight Sun」(Sampha Remix)

 

 

プレスリリースでYanyaは次のように述べています。「PAINLESSがデラックスになるんだ! 9ヶ月前に発売されたPAINLESSを多くの人が聴いてくれて正直嬉しい。「Midnight Sun」の2つの新しいリミックス、そして「Rid of Me」の私のカバーが入ったデラックス版を提供できて嬉しい」



『PAINLESS』(Deluxe  Edition)




Label: ATO
 
Release: 2022年12月14日
 

 

Tracklist:

 

1. the dealer

2. L:R

3. shameless

4. stabilise

5. chase me

6. midnight sun

7. trouble

8. try

9. company 

10. belong with you

11. the mystic

12. anotherlife

13. shameless (reflects)

14. midnight sun (reflects)

15. chase me (reflects)

16. midnight sun (sampha remix)

17. midnight sun (king krule remix)

18. rid of me

 

 

Pre-order:

 

https://ffm.to/painlessdeluxe 

 




2022年のBET Soul Train Awardsの授賞式が11月26日(土)の夜、ついにラスベガスで開催された。ショーはアリ・レノックス、タンク、Xscapeなどの素晴らしいパフォーマンスで溢れていたが、授賞式のテレビ放映部分ではたった2つの賞が渡されただけだった。


R&Bの歌姫ムニ・ロングが大ヒットしたスロージャム「Hrs & Hrs」でThe Ashford and Simpson Songwriter's Awardを受賞し、ベストコラボレーション賞はロナルド・アイズリー&ザ・アイズリー・ブラザーズ feat.ビヨンセの「Make Me Say It Again, Girl」が受賞したことは視聴者の知るところとなりました。ビヨンセが受賞しました。

ビヨンセは、『ルネッサンス』で4度目のアルバム・オブ・ザ・イヤー、『ブレイク・マイ・ソウル』で3度目のソング・オブ・ザ・イヤーを受賞し、この夜最大の賞を総なめにした。


その他の主な受賞者は、クリス・ブラウンが最優秀R&B/ソウル男性アーティスト、テムズが最優秀新人アーティスト、シルクソニックが2年連続のビデオ・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。アリ・レノックス、ブルナ・ボーイ、スティーブ・レイシーは残念ながらシャットアウトされた。


R&Bのベテラン、XscapeがLady Of Soul賞を受賞し、Morris DayとThe TimeがLegends賞を受賞した。



受賞者一覧(via Billboard)は以下よりご覧ください。




Album of the Year



An Evening With Silk Sonic, Silk Sonic (Bruno Mars & Anderson .Paak)

Away Message (EP), Ari Lennox

Breezy, Chris Brown

Good Morning Gorgeous, Mary J. Blige

Heaux Tales, Mo’ Tales: The Deluxe, Jazmine Sullivan

R&B Money, Tank

WINNER: Renaissance, Beyoncé

Special, Lizzo



Song of the Year



“About Damn Time,” Lizzo

“Bad Habit,” Steve Lacy

WINNER: “Break My Soul,” Beyoncé
“Good Morning Gorgeous,” Mary J. Blige

“Hrs & Hrs,” Muni Long

“Last Last,” Burna Boy

“Pressure,” Ari Lennox

Video of the Year
“About Damn Time,” Lizzo

“Bad Habit,” Steve Lacy

“Good Morning Gorgeous,” Mary J. Blige

“Have Mercy,” Chlöe

“Hrs & Hrs,” Muni Long

“Last Last,” Burna Boy

“Pressure,” Ari Lennox

WINNER: “Smokin Out the Window,” Silk Sonic (Bruno Mars & Anderson .Paak)



Best New Artist



CKay

Coco Jones

Dixson

Doechii

Fireboy DML

Muni Long

Steve Lacy

WINNER: Tems

Best R&B/Soul Female Artist

Ari Lennox

Beyoncé

H.E.R.

WINNER: Jazmine Sullivan
LizzoMary J. Blige

SZA

Tems

Best R&B/Soul Male Artist
Babyface

Brent Faiyaz

Burna Boy

Charlie Wilson

WINNER: Chris Brown

Giveon

Lucky Daye

PJ Morton



Best Collaboration



“Amazing,” Mary J. Blige feat. DJ Khaled

“Be Like Water,” PJ Morton feat. Stevie Wonder & Nas

“Call Me Every Day,” Chris Brown feat. Wizkid

“Gotta Move On,” Diddy feat. Bryson Tiller

“Hate Our Love,” Queen Naija & Big Sean

WINNER: “Make Me Say It Again, Girl,” Ronald Isley & The Isley Brothers feat. Beyoncé

“Move,” Beyoncé feat. Grace Jones & Tems

“Slow,” Tank feat. J. Valentine

Certified Soul Award
Chaka Khan

Charlie Wilson

Diana Ross

WINNER: Mary J. Blige
Maxwell

PJ Morton

Ronald Isley & The Isley Brothers

T-Pain

The Ashford and Simpson Songwriter’s Award
“Bad Habit,” Steve Lacy

“Break My Soul,” Beyoncé

“Church Girl,” Beyoncé

“Good Morning Gorgeous,” Mary J. Blige

WINNER: “Hrs & Hrs,” Muni Long
“I Hate U,” SZA

“Last, Last,” Burna Boy

“Pressure,” Ari Lennox

Best Dance Performance

WINNER: “About Damn Time,” Lizzo

“Call Me Every Day,” Chris Brown feat. Wizkid

“Have Mercy,” Chlöe

“Persuasive,” Doechii

“Pressure,” Ari Lennox

“Smokin Out the Window,” Silk Sonic (Bruno Mars & Anderson .Paak)

“We (Warm Embrace),” Chris Brown

“Woman,” Doja Cat



Best Gospel/Inspirational AwardCeCe 



Winans

Erica Campbell

Fred Hammond

Major.

Marvin Sapp

WINNER: Maverick City Music X Kirk Franklin

Tamela Mann

Tasha Cobbs Leonard



Legend Award: Morris Day & The Time

  Weekly Recommendation    


Marker Starling 『Diamond  Violence』



 




Label: Tin Angel/ 7.e.p

Release: 2022年11月25日

 


Listen/Stream



カナダ/トロントのクリス・A・カミングスは、長年Mantler(マントラー)としてレコーディングや演奏を行ってきた。2012年にMarker Starlingと改名し、カミングスはキャリアの大半をソロで活動し、ドラムマシンの伴奏でウルサイザー・エレクトリック・ピアノを使用した彼特有のメランコリックなスタイルで知られるようになった。


ドイツのTomlabレーベルとの長年の交流の後、カミングスは、2010年にTin Angelと活動を開始し、2015年に4thアルバム『Monody』、5thアルバム『Rosy Maze』を共同リリースして大好評を博した。

 

以来、Tin Angel Recordsは、『I'm Willing』(2016)、『Anchors and Ampersands』(2017)、『Trust an Amateur』(2018)、英国で録音されショーン・オヘイガン(The High Llamas, Stereolab)が制作した『High January』(2020)、以上の4枚のマーカー・スターリングのレコードをリリースしている。


クリス・A・カミングスは、ドイツのバンド、フォン・スパーとコラボレーションし、彼らのアルバム『ストリートライフ』(2014)と『アンダー・プレッシャー』(2019)にヴォーカルと歌詞を提供している。


日本でも、7e.p.Recordsから楽曲がリリースされており、人気アニメ『キャロル&チューズデー』(2019年)ではキャラクター・デズモンドの歌声も披露している。



Marker Starling With Band



Featured Review

 

 以前は、マントラーとして活動していたカナダ/トロントの音楽家、クリス・A・カミングスは、近年のカナダのミュージックシーンにおけるフリー・ソウル・アーティストの代表格に挙げられる。カナダのRobert Wyatt、ロバート・ワイアット(Soft Machineでお馴染みのUKのソウルミュージシャン)とも称される場合もある。カミングスは、大の映画好きとして知られ、トロント国際映画祭のスタッフとして勤務しており、日本映画にも一方ならぬ愛着を持っているという。


2000年代からMarker Starlingを名乗り、ソロミュージシャンとして活動する。ソウル、AOR,ブラジル音楽、ボサノヴァ、ジャズ、様々な音楽を吸収したフリーソウルの音楽性を展開するに至る。メロウなR&Bを音楽性の根幹に置きながらも、自由なスタイルのソングライティングがクリス・A・カミングスの最大の魅力である。フリーソウルの代表格であるホセ・ゴンザレス、ベニー・シングルの開拓したニューソウルの延長線上に、カミングスは存在している。

 

『Diamond Violence』は、7年ぶりにトロントでレコーディングが行われ、上記写真の気心の知れたトリオのバックバンドと共に、クリス・A・カミングスは制作を行っている。近年の作品を聴くかぎりでは、ソロ・アーティストの活路を見出そうとしていたものと思えるが、最新作『Diamond  Violence』では心機一転、バックバンドと足並みを揃え、一体感抜群のファンクアンサンブルを確立している。あらためて、クリス・A・カミングスは、R&B/ファンクというジャンルのバンドサウンドとしてのグルーブにスポットライトを当てようと試み、その妙味を探ろうとしているのだ。

 

アルバムの発表と同時に、アメリカの70年代の映画に深い敬愛を込めたタイトル曲「Daimond Violence」のミュージックビデオが、公開とともに一部の耳の肥えたR&Bファンの間で話題を呼んだ。この曲は、アルバム全体がどのようなものであるのかを聞き手に印象づけようとしており、ハモンド・オルガン、エレクトリック・ピアノ、ギター、ピアノ、ドラムという簡素な編成を通じてもたらされるメロウなファンク・ソングとなっている。心地よいカッティング・ギター、Pファンクの要素を交え、しなるような図太いベースライン、複雑性を削ぎ落とした8ビート主体のシンプルなドラミング、そのバック・トラックの上に乗せられるクリス・カミングスのボーカルは、既存の作品と同様、物憂げで、内省的であるが、ソウルミュージックらしい温かい情感が漂っている。カミングスは、囁くか、自分自身に語りかけるような思慮深いボーカルで、聞き手を自らの心地よい音楽の空間に招き入れる。さらに、そのボーカルトラックのゴージャスな雰囲気を盛り上げるのは、センス抜群のミュート・トランペットの枯れた音色である。


このオープニング曲で、カミングスは、リスナーの興味を惹きつけることに成功しているが、二曲目の「Out Of This Mess」で、アルバム全体のイメージを膨らませるかのように、バンドアンサンブルのファンクサウンドは、一段ギアを上げ、エンジンが全開となる。レトロ・ファンクを下地にしたワウ・ギター、エレクトリック・ピアノのメロウさ、シンセサイザーのグロッケンシュピールの音色、同様にシンセサイザーの口笛の音色は、あくまで、カミングスの音楽の持つ本格派ソウルの性質の一端を示しているに過ぎない。カミングスは、巧みなソングライティングを駆使し、時に、移調を散りばめながら、曲のメロウな雰囲気を面白いように盛り上げていく。彼は、この曲で、バンドとともに、R&Bの最大の根幹ともいえるロマンチックな空気感を見事に演出しているのである。

 

アルバムの冒頭で、70年代の古典的なR&B/ファンクの世界観を聞き手に提示した上で、4曲目「Diehards」では、一風変わった音楽性が繰り広げられる。おそらく有名アクション映画「ダイ・ハード」に因んだと思われるこの曲では、フリーソウルの多彩性にスポットライトが当てられている。この曲で、ソロアーティストとしての長年のソングライティングの経験の蓄積を踏まえ、AOR,ソフト・ロック、ボサノヴァに属する、聴き応えのあるバラード・ソングを提示している。全3曲とは一転して、カミングスは、この曲をカーティス・メイフィールドの系譜にある哀愁に充ちたボーカルで丹念に歌いこみ、曲の終わりに切ないような余韻が漂わせている。

 

これらのアルバムの中盤までの収録曲において、クリス・A・カミングスとバンドメンバーは、耳の肥えたR&Bファンの期待に沿う以上の聴き応えのある曲を披露しているが、中盤に差し掛かると、なおカミングスの世界は多彩さとエモーションを増していく。特に、今回、気心の知れたバンドと共に録音した効果が良い形で表れたのが、「(Hope It Feel Like)Home」であり、ファンクバンドのリアルなライブサンドを体感出来る。カミングスのハスキーなボーカルは序盤よりも艶かさたっぷりで、バンドアンサンブルは常にメロウな演奏で彼のヴォーカルを引き立てている。

 

問答無用に素晴らしいのは、センスよくフレーズ間に導入されるシンバルの鳴りの爽快さにある。そして、ドラムとエレクトリック・ピアノのリズムを基調としたメロウなバラードに近い性質を持つR&Bの中に、アコースティックギターのしなやかなストローク、高らかに導入されるシンバル、ミュート・トランペットの高音域のエフェクトが強調されたアレンジが、この曲に鮮やかな息吹を与える。序盤では、まったりと展開されるファンクで、聞き手にグルーブ感をもたらすが、終盤になると、イントロから維持されるシンプルなビートを踏まえながら、序盤とは異なる華やかなジャズ・フュージョン調のエンディングを迎え、聞き手を魅惑してみせる。続く「Experience」もまた同じように、実際のライブセッションを通じて生み出された感のある曲で、同様にメロウな雰囲気を活かしたジャム・セッションを楽しむことが出来るはずだ。

 

これらのライブ・セッションの延長線上にあるサウンドが続いた上で、ご機嫌なR&Bナンバーの最後を飾るのは、「Yet You Go On(Ft.Dorothia Peas)」。 このアルバムの中では、最もファンクへの傾倒を感じさせる一曲。しかし、ここで注目したいのは、カミングスは、これまでのキャリアを総括するように、自身のソングライティングの温和な要素を重んじた曲を生み出していることである。さらに、ゲストボーカルで参加したドロシア・ピアスは、カミングスと息の取れたコール・アンド・レスポンス形式のツインボーカルを繰り広げ、今作の最後に華やかな印象を添えている。


このラストソングでは、淡い愛情の感覚が軽やかに歌われているように感じられるが、劇的な展開をあえて避け、穏やかな余韻を残しつつ、アウトロは神妙にフェードアウトしていく。この点に関して、ダイナミックスに欠けるという指摘もあるかもしれないが、しかし、この淡白さ、後腐れのない、こざっぱりとしたダンディズム性こそ、クリス・A・カミングスのソングライターとしての一番の魅力が込められていると言えるのではないだろうか。

 


90/100

 

 

Weekend Featured Track 「Diamond Violence」

 

 


※日本盤も現在発売中です。このバージョンにはオリジナルの9曲に加え、5曲のボーナス・トラックが追加収録されています。

 

 


 LAを拠点に活動するエクスペリメンタルR&Bアーティスト、serpentwithfeet(サーペントウィズフィート)が新曲「My Hands」をリリースしました。

 

この曲はAnimal Collectiveの新作映画「The Inspection」のサウンドトラックにボーナストラックとして収録されています。この曲は、Sensei Buenoがプロデュース、Animal Collectiveが参加、StemsMusic Choirがボーカルを担当しています。試聴は以下から。


 プレスリリースによると、The Inspectionは、脚本家兼監督のElegance Brattonの人生をベースに、家族からも機会からも排除された若い黒人男性、Ellis Frenchを描いているとのことです。

 

「エリスは自活するために海兵隊に入隊し、新兵訓練所では、彼の行く手を阻む物理的な障害以上のものに遭遇する」


「”The Hands”は献身的な曲です」とserpentwithfeetは声明で説明しています。「映画の終わりには、エリス・フレンチは強い自己意識を持ちながらも、感受性や楽観性を失わない。それを歌詞と音楽で反映させたかったんだ」


 『The Inspection』は12月2日にワイドリリースされる。Animal Collectiveの映画音楽は現在発売中です。

 

 

 Nakhane ©Alex de Mora

Nakhaneは、12月16日にBMGからリリースされる『Leading Lines EP』を発表しました。この発表と同時に、南アフリカのアーティストはニューシングル「My Ma Was Good」を公開しました。

 

Nakhaneは南アフリカ・ポップ・シーンの象徴的な存在で、ネオ・ソウル,エレクトロニックをシームレスにクロスオーバーする。音楽家としてだけではなく、南アフリカ国内で俳優や小説家としても活動している。


「芸術の世界では、主題を指し示すために構図に先行線が使われます」とNakhaneはプレスリリースで説明しています。「このEPはまさにそれをやっているんだ。これはバトンです。前に来たものと次に来るものを繋ぐもの。


My Ma Was Good」は、「Fog」と「The Plague」に続く、Nakhaneと彼らの母親との関係から着想を得た3部作の3曲目である。"彼女はおっとりした壁の花ではないが、それでも問題のある男らしさに犯されていた "と彼らは言う。ここで私は自分自身に問いかけていました。「もし私の母が良い人で、それでも生ぬるい扱いを受けたのなら、なぜ私は良い人でなければならないのか?と自問していました。これは、私の人生の中で、私の中の悪役をもてあそんでいた時期でした"。


『Leading Lines』には、先行リリースされた楽曲「Tell Me Your Politik」(Moonchild SanellyとNile Rodgersが参加)、「Do You Well」(Perfume Geniusが参加)が収録される予定。

 

 



Nakhane  『Leading Lines』 EP

 

 

Label: BMG

Release:  2022年12月6日



 Tracklist:


1. Tell Me Your Politik [feat. Moonchild Sanelly and Nile Rodgers]

2. Do You Well [feat. Perfume Genius]

3. My Ma Was Good

3. You’ve Got Me Living


Pre-order:


https://nakhane.lnk.to/MyMaWasGoodTW