とくに面白いと思うのは、リリックの組み合わせにより良いウェイブを生み出そうとしていることである。そしてヒップホップの表向きの印象はモダンソウルへと転化していく。さらにそれらのシネマティックな印象性は、#6「Jonathan L. Seagull」にも見出すことが出来る。ここでは、複数の人物の声を反映させ、ゴスペル的な形で、多様性を表現しようとしている。UKラップのヒーロー、Stormzyは言った。「多様性が重要である」と。そして、声はひとりひとり違う性質を持つ、醜いものもあり、美しいものもある。低いものも、高いもの。しわがれたものも、透き通るようなものも。しかし、それらの多彩さが組み合わさることで、はじめて美が生み出されることを忘れてはいけない。これらのゴスペル的な曲の展開は、ピアノの古典的な伴奏を背後に、シンプルなバラードソングのような普遍性を併せ持ち、開放的な雰囲気に満ちている。
しっとりとしたネオソウルのトラック「Only」はシンプルな魅力がある。続く、「Time Piece」では冒頭でも述べたように、フランス語のスポークンワードが展開される。ここでは多様性の先にあるグローバルな感覚を表現しようとしている。しかし、サンファの表現にある程度の共感を覚える理由があるとするなら、それはシンプルにそしてわかりやすく内側にある考えをつかみ取り、それをスポークワードという形に昇華しているからなのだろう。フランス語のスポークワードは耳に涼しく、20世紀のパリの映画文化を思わせるものがある。この曲を起点あるいは楔として、アルバムはかなりスムースに終盤の展開へと続いていく。「Can't Go Back」では再度、オーガニックな味わいのあるネオソウルとヒップホップの中間にある音楽性で聞き手の心を穏やかにさせる。そしてこの曲でも、ネオソウル風のソングライティングにスポークンワードを効果的に組み合わせようとするサンファの試行錯誤の跡を捉えることが出来る。
「Evidence」では、現代のポピュラー音楽の範疇にあるR&Bの理想的な形を見出すことが出来る。親しみやすく、聴きやすく、乗りやすい。こういった一貫した音楽のアプローチは、アルバムの終盤においても持続される。「Wave Therapy」では、シンセのストリングスのダイナミックな展開力を呼び覚まし、「What If You Hypnotise Me?」では驚くべきことに、和風の旋律をピアノで表現しながら、アルバムに内包される和らいだ世界、穏やかな世界を完成させる。「Rose Tit」では、ソウル/ラップというより、ポピュラーアーティストとしての傑出した才質の片鱗を見せる。ジャズ・ピアノの演奏の華やかな印象はアルバムのエンディングにふさわしい。
ロサンゼルスを拠点に活動するプロデューサー、ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト、ジェフリー・パラダイスのレコーディング・プロジェクト、プールサイドがスタジオ・アルバム『Blame It All On Love』(Ninja Tuneのサブレーベル、Counter Records)のリリースする。このレトロなローファイ・トラックは、プールサイドがミネソタ州のオルタナティヴ/インディー・ドリーム・ポップ・アクト、ヴァンシアと組んで制作された。
「僕は15年間、"ルールなんてクソ食らえ "という感じで過ごしてきた。だからこのアルバムにとても興奮しているよ」 プールサイドの4枚目のスタジオ・アルバム『Blame It All On Love』で、パラダイスは浅瀬を離れ、彼自身の創造的な声の深みに入った。その11曲はファンキーでソウルフル、レイドバックしたフックに溢れ、プールサイドのサウンドを痛烈なポップへと昇華させている。
この曲は、彼がこれまで歩んできた場所と、戦うことも証明することも何もないこの瞬間にたどり着くまでの曲がりくねった旅路の産物であり、以前リリースされた、メイジーをフィーチャーしたシングル "Each Night "やパナマとのシングル "Back To Life "で聴けるような完璧なグルーヴだけがある。
この "Float Away "は、"Each Night "のビデオを手がけ、レミ・ウルフ、ジャクソン・ワン、Surf Curseなどの作品を手がける新鋭アーティスト、ネイサン・キャスティエル(nathancastiel.com)が監督を務めた、ダークでコミカルなエッジを効かせた爽やかでチャーミングなパフォーマンス・ビデオとともにリリースされる。
アルバムの冒頭「Ride With You』から、Bee Geesやヨット・ロック、ディスコ・サウンドをクロスオーバーした爽快なトラックで、リスナーをトロピカルな境地へと導く。バレアリックのベタなダンスビートを背後に、バンド及び、Ben Browingのグルーヴィーなロックが繰り広げられる。ヨット・ロックを基調としたサウンドは、確かに時代の最先端を行くものではないかもしれないが、現代のシリアスなロックサウンドの渦中にあって、驚くほど爽やかな気風に彩られている。これらのスタイリッシュな感覚は、ジェフリーがファッションデザイナーを昔目指していたことによるものなのか。それは定かではないが、アルバム全編を通じてタイトなロックサウンドが展開される。レイド・バックに次ぐレイド・バックの応酬。そのサウンドを波乗りのように、スイスイと掻き分けていくと、やはりそこにはレイド・バックが存在する。柔らかいクッションみたいに柔らかいシンセはAORやニューロマンティック以上にチープだが、その安っぽさにやられてしまう。ここにはどのような険しい表情もほころばせてしまう何かがある。
Poolsideのディスコ/ヨットロックの音の方向性にバリエーションをもたらしているのが、女性ボーカルのゲスト参加。その一曲目「Where Is The Thunder?」では、ループサウンドを元にしてAOR、果ては現代のディスコ・ポップにも近いトラックに昇華している。スペインのエレクトロ・トリオ、Ora The Moleculeのゲスト参加は、爽やかな雰囲気を与え、曲自体を聞きやすくしている。例えば、Wet Legのデビュー・アルバムの収録曲にようにメインストリームに対するアンチテーゼをこの曲に見出したとしても不思議ではない。トロピカルな音楽性とリゾート的な安らぎが反映され、「レイド・バック・ロック」と称すべきソフト・ロックの進化系が生み出されている。
アルバムの終盤の最初のトラック「We Could Be Falling In Love」では、DJとしてのジェフリー・パラダイスの矜持をうかがい知ることが出来る。トロピカル・サウンドのフレーズとアッパーなディスコサウンドの融合は、カルフォルニアの2020年代の象徴的なサウンドが作り出された証ともなる。80年代のミラーボール・ディスコの軽快なコーラスワークを織り交ぜながら、コーチェラを始めとする大舞台でDJとして鳴らしたコアなループサウンド、及びコラージュ的なサウンドの混在は、ケンドリック・ラマーの最新アルバムのラップとは異なる、レイドバック感満載のクラブミュージックなるスタイルを継承している。そして、この曲に渋さを与えているのが、裏拍を強調したしなやかなドラム、ギター、ベースの三位一体のバンドサウンド。ここにはジェフリー・パラダイスのこよなく愛するカーティス・メイフィールド、ウィリアム・コリンズから受け継いだレトロなファンク、Pファンクの影響を捉えられなくもない。
AOR/ニューロマンティックの象徴的なグループ、Human Leagueを思わせるチープなシンセ・ポップ・ソング「Sea Of Dreams」は、人生には、辛さやほろ苦さとともに、それらを痛快に笑い飛ばす軽やかさと爽やかさが必要になってくることを教えてくれる。そして、その軽やかさと爽やかさは、人生を生きる上で欠かさざるロマンティックと愛という概念を体現している。アルバムのクロージング・トラック「Lonely Night」は、MUNYAがゲストで参加し、一連のヨットロック、AOR/ソフト・ロック、ディスコ・ソウルの世界から離れ、名残り惜しく別れを告げる。
シカゴの詩人、R&Bシンガーとして活躍するジャミーラ・ウッズの最新作は、モダンなネオ・ソウルからモータウン・サウンドに象徴される往年のサザン・ソウル、そしてスポークンワードと3つの様式を主軸に、聞きやすく、乗りやすいサウンドが構築されている。注目は、同地のシンガーソングライター/ピアニストであるGia Margaretがスポークンワードを基調とする「I Miss All My Eyes」で参加している。そのほか、モータウン・サウンドを現代的なハウス・ミュージックと融合させた「Themmostat」にはPetter Cottontaleが参加している。全体的にBGMのようなノリで聞き流すことも出来、ブラック・ミュージックらしい哀愁も堪能出来る。本作にはUKのジェシー・ウェアのソウルとは異なるブルースの影響が感じられることも特記すべきだろう。
アルバムの世界観の中核を担うのはスポークワードのインタリュードであり、その文脈については不明であるが、作品全体としてみたとき、ある種のナラティヴな要素を与えていることは確かである。「let the cards fall」では最初のボーカルのサンプリングが登場する。特にモノローグではなく、複数の人物が登場しているのが重要であり、ここには人物的な背景を一般的な曲の中に導入し、演劇や映画のワンシーンのような象徴的な印象性を組み上げようとしている。
アルバムの序盤では、いくらか大人びた印象のあるR&Bが主体となっているが、続く中盤部では、むしろそれとは正反対に感情性を顕にしたソウルへと移行している。「Send A Dove」では、センチメンタルな感覚を包み隠さず、それを丁寧な表現性としてリリックや歌に取り入れている。グリッチやシカゴ・ドリルのようなリズムを交えたナンバーではあるが、それほど先鋭的な曲とはならず、どちらかと言えば、ベッドルーム・ポップのような感覚を擁する一曲として楽しめる。そして実際に、オートチューンを掛けたモダンなポップスの様式と掛け合わされ、イントロのソウルやヒップホップから、精彩感のあるインディーポップへとその印象性を様変わりさせていく。これらの純粋な感じのあるポップスに注文をつける余地はないはず。一転して、「Wrecage Room」では懐かしのモータウン・ソウル(サザン・ソウル)の影響を元にして、本格派のソウルシンガーとしての存在感を示している。ジャズ風のメロウな音楽性を反映させた渋い感じのイントロから、ウッズの歌の印象は徐々に変化していき、アレサ・フランクリンやヘレン・メリルとそのイメージを変え、最終的には慈しみのあるゴスペルミュージックへと変化していく。ブラックカルチャーに対するアーティストの最大限のリスペクトを感じる。
同じように、「Thermostat」では、 イントロにスポークンワードを配した後、やはりアレサ・フランクリンを思わせるサザン・ソウルを基調とした渋い三拍子のリズムを取り入れ、懐古的なソウルへの傾倒をみせる。ただ、それに相対するリリックに関してはラップに近い感覚を擁しているため、旧さというよりも新しさを感じさせる。ソウルのように歌ってはいるが、節回しがフロウという前衛的なボーカルの手法を、ジャミーラ・ウッズはこの曲の中で提示している。そして、手法的には、ブラック・ミュージックが商業性の中に取り込まれ、その表現性を失った80年代よりも前の70年代のソウルの遺伝子のようなものが引き継がれているという印象がある。 その後の「out of the doldrums」では、年老いた男の声がサンプリングとして取り入れられているが、これはUKのソウルシンガー、Jayda Gの祖父の時代の物語を音楽の中に反映させようという意図と同じものを感じとることが出来る。そのスポークンワードの背後には、ニューオリンズかどこかのジャズの演奏をわずかに聴き取ることが出来る。それもラジオを通じたメタ構造(入れ子構造)のようなアヴァンギャルドな手法が示されているのもかなり面白い。
その後の「I Miss All My Eyes」には、ポスト・クラシカル調の楽曲を得意とするGia Margaretの参加が、ジャズではなくオーケストラルの印象へと近づいていく。薄く重ねられるフェーダーのギターとユニークなシンセサイザーのラインが組み合わされる中で、ウッズはスポークンワードを散りばめる。一見、アンビバレントに思える手法もウッズのリリックが入ると、クールな印象を受ける。音と言葉をかけあわせたアンビエント風のトラックは、和らいだ感じ、寛いだ感じ、そして平らかな感じ、そういった気持ちを安らがせる全てを兼ね備えている。言葉は、先鋭的な感覚を生み出すことも可能だが、他方では、安らいだ感覚を生み出すことも出来ることを示唆している。もちろん、この曲でのジャミーラ・ウッズの音楽性は後者に属している。
再びスポークワードの込めた「the best thing」を挟んだ後、「Good News」では、まったりとしたトロピカル・サウンドを基調とするファンク/ソウルでも集中性を維持している。クロージング・トラック「Head First」では、オープニングと呼応する軽快なネオソウルサウンドでこのアルバムは締めくくられる。
シカゴのR&Bシンガー、ジャミーラ・ウッズが、今週金曜日(10月13日)にリリースされるニュー・アルバム『Water Made Us』のラスト・シングルを発表した。「Practice」はシカゴのラッパー、Sabaをフィーチャーし、プロデュースは、McClenneyが手がけている。サプライズのリリースを除けば、2023年度後半の話題作となる可能性が大きいでしょう。要チェックのアルバムです。
デビー・フライデーが新曲「let u in」を発表した。このシングルは、先日ポラリス音楽賞を受賞した彼女のデビュー・アルバム『GOOD LUCK』に続くものだ。フライデーは、オーストラリアのエレクトロニック・プロデューサーでヴォーカリストのダーシー・ベイリスとこの曲を共同プロデュースした。試聴は以下から。
Jamila Woodsのニューアルバム『Water Made Us』は、10月13日にJajaguwarからリリース予定です。
「Boomerang」
シカゴのシンガーソングライター/詩人、Jamila Woods(ジャミーラ・ウッズ)のニュー・アルバム『Water Made Us』のリリースまで残すところ1ヶ月となった。ジャミーラ・ウッズは「Tiny Garden」と 「Boomerang」に加えて、もうひとつの先行シングルを「Good
News」を初公開した。この曲は、"The good news is we were happy
once"(良い知らせは私たちはかつて幸せになったということだ)という意味が込められているとのこと。ニューシングルの試聴は以下から。
ジェミーラ・ウッズが説明するように、「このアルバムのタイトルは、歌詞の中にある
"The good news is we were happy once / The good news is water always
runs back where it came from / The good news is water made us
"に由来している。「私にとっては、この曲は降伏の教訓であり、何度も何度も水から学ぶ教訓なのです」また、ジャミーラ・ウッズの現代詩は、どのような人生にも欠かさざる水をメタファーに配し、抽象的な概念を複数の視点から解きほぐそうとしている。
シカゴのR&Bシンガー、ジャミーラ・ウッズが、今週金曜日(10月13日)にリリースされるニュー・アルバム『Water Made
Us』のラスト・シングルを発表した。「Practice」はシカゴのラッパー、Sabaをフィーチャーし、プロデュースは、McClenneyが手がけている。サプライズのリリースを除けば、2023年度後半の話題作となる可能性が大きいでしょう。要チェックのアルバムです。
この曲のミュージック・ビデオは以下からご覧ください。『Water Made Us』には、デュエンディータをフィーチャーした 「Tiny Garden」、「Boomerang」、「Good News 」が収録されます。
Jamila Woods 『Water Made Us』
Label: jagujaguwar
Release: 2023/10/13
Tracklist:
1.Bugs
2.Tiny Garden (feat. duendita) 3.Practice (feat. Saba) 4.Let the cards fall 5.Send A Dove 6.Wreckage Room 7.Thermostat (feat. Peter CottonTale) 8.Out of the doldrums 9.Wolfsheep 10.I Miss All My Exes 11.Backburner 12.libra intuition 13.Boomerang 14.Still 15.the best thing 16.Good News 17.Headfirst
グラミー賞にノミネートされたスウェーデン/ヨーテボリの人気バンド、Little Dragon(リトル・ドラゴン)がニューアルバム「Slugs Of Love」をNinja Tuneからリリースする。
この発表と同時にリリースされたニュー・シングル「Kenneth」は、ソウルフルでローファイな、幼なじみへのトリビュートだ。「この曲は友情と愛について歌っている」とバンドは説明する。バンドは、Khruangbin、Leon Bridges、Tevaなどを手がけてきたUnlimited Time Onlyと再びタッグを組み、この曲に合わせた素晴らしく遊び心のあるビデオを制作した。
学生時代の友人であるErik Bodin(ドラムとパーカッション)、Fredrik Wallin(ベース)、Håkan Wirenstarnd(キーボード)、Yukimi Nagano(ヴォーカル)で構成されるこのバンドは、ここ最近で最も一貫性があり、敬愛され、誰からも親しまれるバンドのひとつとなった。「Slugs Of Love」では、リード・シンガーであるユキミの一目でそれとわかるヴォーカルに支えられた、ソウルフルなポップ、エレクトロニクス、R&Bの独特なブレンドが前面に押し出されている。
このアルバムには、先にリリースされたシングル表題曲「Slugs Of Love」も収録されている。バンド曰く、この陽気でアップビートなトラックは、「様々なキラキラした色のゴム長靴を履いた若者たちによって演奏される」ことを想像させるもので、同じくアンリミテッド・タイム・オンリーが監督し、バンド自身が出演した公式ビデオとともに到着した。この曲は、「この瞬間、この人生に乾杯」し、「一呼吸一呼吸を謳歌しよう、あっという間に過ぎ去ってしまうのだから」とリスナーに呼びかける。そして、「お金では買えない豊かさについての考察」である「Gold」は、90年代と00年代のポップ・ヒット曲を屈折させたもので、シンセの重く緩慢なグルーヴの上に、ホイットニー・ヒューストンを思わせるコーラスのリフレインが乗っている。
前作「New Me, Same Us」は2020年にNinja Tuneからリリースされ、ニューヨーク・タイムズ、NPR、ピッチフォーク、ザ・ガーディアン、ミックスマグ、クラック・マガジンなど多くのメディアから賞賛を受けた。バンドはNPRミュージックに参加し、スウェーデンのヨーテボリにある長期的な自作スタジオで撮影された親密なタイニー・デスク(ホーム)・コンサートを行った。
スウェーデンのパイオニア的存在である彼らのスタジオでレコーディングされた『Slugs Of Love』は、ビルボードの集計するトップ・ダンス/エレクトロニック・アルバム・チャートで5位を獲得し、ミックス・マグ誌は「みずみずしいテクスチャーが炸裂し、リード・シンガーのユキミ・ナガノの崇高なヴォーカルによって昇華された未来的なレコード」と評し、ガーディアン紙は彼らを「美味しくソウルフルなフォーム」と評した。
彼らはこのリリースに続き、Midland、Octo Octa、Georgia Anne Muldrow、Ela Minusなどをフィーチャーした "New Me, Same Us Remix EP "をリリースした。
Little Dragon 『Slugs Of Love』 Ninja Tune
今年初めの同レーベルより発売されたスコットランドのYoung Fathersに続く話題作が、スウェーデンのリトル・ドラゴンの『Signs Of Love』となる。日系スウェーデン人、ユキミ・ナガノをフロントパーソンに擁する四人組グループは、この4thアルバムを最高傑作と自認しており、リリースするに際して大きな手応えを感じているようだ。2020年のグラミー・ノミネートから3年、リトル・ドラゴンの四人は大きく成長し、さらに個性的な音楽を生み出すことを恐れなかった。これまで、リトル・ドラゴンは、ダンス・ポップ、R&Bをメインテーマに置き、それらをクラブ・ミュージックとして、どのように昇華するのかを模索してきた。3作目の『New Me, Some Us』では、商業的なクラブミュージックの決定盤を完成させたが、ヨーテボリのグループの音楽的な探究心は止まることを知らない。4作目では、よりベースメントのクラブ・ミュージックの影響を交え、ネオ・ソウル/エレクトロニックの決定盤を完成させたと言える。
アルバムは、これらのメジャーさとマニアックさを兼ね備えた2つの曲で始まるが、タイトル曲でもある3曲目の「Slugs of Love」は、ダンス・ポップ/ディスコポップの軽快なナンバーで聞き手を魅了することだろう。そして、3rdアルバムにはなかったファニーな要素が加わり、摩訶不思議なエレクトロサウンドへと昇華されている。ホイットニー・ヒューストンの時代のダンス・ミュージックを踏襲し、それを歌モノとして昇華するのではなく、ドライブ感のあるクラブビートへと変容させるのが見事だ。80年代のディスコ・ポップ全盛期のレトロなモジュラーシンセのフレーズを交え、Kraftwerkを彷彿とさせるテクノへと展開していく。これは、リトル・ドラゴンのFredrik Wallin(ベース)、Håkan Wirenstarnd(キーボード)というメンバーが70年代のレトロなテクノに深い理解を持っているからなのだろう。しかし、それは70年代のニューウェイブを意識したナガノのボーカルによって、Sci-fi、スチームパンクの要素、そして、ジャズのホーンのフレーズが加わると、Krafrwerkとは別の何かに変化する。この変身ぶりというか、変化の多彩さには驚愕を覚える。この曲はテクノであるとともにニューウェイヴでもあるのだ。
続く「Gold」 は、金銭的な幸福とは別の仕合わせがこの世に存在するのか、というテーマに根ざして制作された。この曲では、アルバムの冒頭のUKガラージやベースライン、あるいはディープ・ハウス/アシッド・ハウスのコアなクラブミュージックへと舞い戻るが、一曲目や二曲目よりもはるかにナガノのボーカルはソウルフルでスモーキーな雰囲気を帯びている。ユキミ・ナガノが「Like Million Dollars……」というフレーズに抑揚を込めて歌う瞬間は、ディープハウスとネオソウルの中間にあるこの曲に強いアクセントをもたらし、また、ディープなグルーブ感を及ぼしている。加えて、ブリストルのトリップポップを意識した曲調は、リトルドラゴンの明るい側面とは別の暗鬱とした瞬間を捉えている。そして当然のことながら、Portisheadほどではないものの、ヒップホップのビートを加味したトラックにはアンニュイな雰囲気も込められている。このあたりのマニアックなポピュラー音楽へのアプローチについては大きく意見が分かれそうだ。しかし、少なくとも、これらの哀愁を交えたソウルの要素は、アルバム全体に聴きごたえと、上記のようなテーマについて熟考させるような機会をリスナーもたらすはずだ。
これらの曲は、マニアックであるだけではなくメジャーである。言い換えれば、亜流でありながら王道を行く。それがスウェーデン・ヨーテボリのリトル・ドラゴンの頼もしいところだ!! いかにもNinja Tuneらしい作品で、旧来のレーベルのファンはリトル・ドラゴンの新作をマストアイテムとして必携することになろう。アーティスト自ら最高傑作と位置づける『Slugs Of Love』が、どれほどの商業的な効果を及ぼすのかは想像も出来ないが、前作に続き、グラミー賞にノミネートされたとしても、(あるいは受賞したとしても)それほど大きな驚きはない。”スウェーデンにはリトル・ドラゴンあり”ということを証明付ける画期的な一作である。
92/100
Little Dragonのニューアルバム『 Slugs Of Love』は Ninja Tuneより発売中です。オフィシャルショップでのご購入/ストリーミングはこちらから。
R&B界の若きスター、Jon Batiste(ジョン・バティステ)がニューアルバム『World Music Radio』を発表しました。2022年のグラミー賞アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞した2021年の『We Are』に続くこのアルバムは、Verve/Interscopeから8月18日にリリースされます。
プロデューサーのジョン・ベリオンとともにレコーディングされた本作には、ラナ・デル・レイ、リル・ウェイン、ケニー・G、J.I.D、ニュージーンズ、ファイヤーボーイDML、カミロ、リタ・ペイェスらが参加している。ファースト・シングル「Calling Your Name」のミュージックビデオも公開されています。
Norah Jones(ノラ・ジョーンズ)がニューシングル「Can You Believe」を発表した。この曲はJonesとLeon Michelsの共作で、Leon Michelsはこの曲のプロデュースも担当しています。この久しぶりのジョーンズの新曲は、アカペラ風のコーラスを交えたスモーキーなR&Bナンバーです。今週最後のHot New Singlesとして読者の皆様にご紹介いたします。以下よりご視聴下さい。
プレスリリースによると、ノラ・ジョーンズはスタジオに戻り、9枚目のアルバムに取り組んでいる最中であるという。新作アルバム「Can You Believe」は、7月5日にキックオフされる彼女のヨーロッパ・ツアーに先駆けて到着する。アルバム発売後の公演にも期待したいところです。
Arlo Parksはプレスリリースで、この曲について次のように語っています。「私にとっての "Devotion"は、引き裂かれそうなほどの愛を感じる曲で、激しさ、荒々しさ、優しさがあります。Deftones、Yo La Tengo、Smashing Pumpkins、My Bloody Valentineなど、私を音楽に夢中にさせたバンドから引用しているんだ」
『My Soft Machine』は、2021年1月にTransgressiveからリリースされる。高い評価を得たパークスのデビュー・アルバム『Collapsed in Sunbeams』に続く。アルバムは、その年の最優秀英国アルバムに贈られるマーキュリー賞を受賞し、私たちの2021年のトップ100アルバムリストでも上位にランクインしています。
流行仕掛け人であるDJのGilles Peterson(ジャイルス・ピーターソン)は、彼女の曲を聴くや否や、彼のアルバムBrownswood Bubblers(ブラウンズウッド・バブラーズ)の編集曲に加えるために彼女の傑出したトラック「No Time to Lose,(ノー・タイム・トゥ・ルーズ)」をすぐに選曲した。
マディソン・マクファーリンは、デビューアルバム「I Hope You Can Forgive Me」を発表した際、新曲「(Please Don't) Leave Me Now」とミュージックビデオを公開した。"(Please Don't) Leave Me Now "は、2021年に彼女がパートナーと共に経験したトラウマ的な出来事を掘り下げた、鮮やかで別世界のようなミュージックビデオとともに到着した。
アンドリュー・ラピンがプロデュースしたこの曲は、激しい交通事故に耐えて、自分の人生を奪うか、永遠に変えてしまうかもしれないような瀬戸際を生き延びたことを振り返った後に書かれた。ジャジーなパーカッション、ファンクとネオ・ソウルのヒント、そして力強いメッセージが込められた「(Please Don't) Leave Me Now」は、さらなる時間を求め、恐怖と複雑さに縛られた感謝の気持ちを表現している。
マディソンは、「(Please Don't) Leave Me Now」とそれに付随するミュージックビデオについて次のように考えている。
臨死体験から身体的危害を受けずに立ち去ることができたことは、私がこの人生で受けた最大の恩恵のひとつです。アーティストとしての目的も再確認できた。Please Don't Leave Me Now』を書くことは、信じられないほどの治療とカタルシスの体験になった。楽しい環境を作りながら、そのような恐怖を表現できることが、この曲を作る上での鍵だった。
マディソンのデビュー作「I Hope You Can Forgive Me」は、変化し続ける世界的な流行病の中で、即興演奏やセルフプロデュースの方法を見つけ、彼女のキャリアの進化を表している。初期のファンを魅了したアカペラ・プロジェクト(Finding Foundations Vol.IとII)に続き、兄のテイラー・マクフェリンとコラボレーションしたEP『You + I』では、初めて楽器を使ったプロジェクトとなった。
『I Hope You Can Forgive Me』は、愛、自己保存、恐怖、呪術といったテーマを探求しながら、サウンド的に次のステップを構築している。大半の曲はマディソンがプロデュースしており、パンデミック時に磨きをかけた新しいスキルである。プロデューサー、アレンジャーとしてだけでなく、ベース、シンセを演奏し、いくつかの曲でバックグラウンドボーカルを担当するなど、楽器奏者としても活躍している。アルバムには、彼女の父親のボビー・マクフェリンが参加しています。
昨年末、マディソンはグルーヴィーでソウルフルなシングル「Stay Away (From Me)」を鮮やかなビジュアルとともに発表し、催眠的でダンサブルなインストゥルメンタルと現代の不確実性や不安との闘いに取り組む歌詞を芸術的に並列させた。シンガーソングライター・プロデューサーは、「(Please Don't) Leave Me Now」でも、幽玄なボーカルと美しいメロディ、エレクトロニック、ポップ、ジャズ、ソウルを融合させ、確かなテクニックと表現力の深さを表現し続けている。
そもそも、 R&B自体のルーツがそうであるように、マディソン・マクファーリンはみずからをブラックカルチャーの継承者として位置づけているようである。そして”Soul-Apella”という一般的にあまり聞き慣れない新しいジャンルの呼称は、歌手のスタンスの一片を物語るに過ぎない。New York TImes、Pitchforkを筆頭に、現地の耳の肥えた音楽メディアを納得させた二作のEPに続いて発表されたデビュー・アルバムは、このシンガーソングライターの知名度を世界的なものとする可能性を秘めている。その実際のメロウな音楽性や鋭いグルーブ感は予想以上に多くのファンを魅了するであろうし、もちろん、旧来のBlue Noteの音楽ファンのようなソウル・ジャズの音楽ファンをも熱狂の中に取り込む可能性を多分に秘めているということなのだ。
そもそも、マディソン・マクファーリンの曲作りは歌詞から始まるわけではなく、まず最初にグルーブ、そして、ビート、コードがあり、その次にメロディーがあり、最後に歌詞がある。しかし、デビュー作『I Hope You Can Forgive Me』を聴いてわかることは、ソウル・ミュージックを構成する複数の要素はどれひとつとして蔑ろにされることなく、音楽を構成する小さなマテリアルが緻密な合致を果たし、Yaya Beyにも比する隙きのないスタイリッシュなソウルが組み上げられる。その結果として、聞きやすく、乗りやすく、親しみやすい、メロウでムードたっぷりのブラック・ミュージックが生み出されている。この鮮烈なデビューアルバムをお聞きになると分かるように、音、リズム、歌詞の細部のニュアンスに到るまで都会的に研ぎ澄まされ、レコーディングを通じて、いかにもニューヨークらしい洗練された雰囲気が滲み出ている。実際の歌の情感は、聞き手の心の奥深くに強固な印象を与え、アルバムを聞き終えた頃にはマディソン・マクファーリンという名が受け手の脳裏にしかと刻み込まれることになるのだ。
先行シングルとして公開された「(Please Don't) Leave Me Now」は、今作の最大のハイライトとなり、また歌手が持つ才覚を最大限に発揮したトラックである。おそらく、彼女の今後のライブで重要なレパートリーとなっても不思議ではない。この曲では、現代的なネオソウルのビート、及び、7.80年代のミラーボール・ディスコの陶酔感を融合させ、裏拍の強いグルーヴィーなポップソングとして仕上げている。サビの最後で繰り返される「Leave Me Now」というフレーズは、バックトラックのグルーブ感を引き立て、このアルバムを通じて繰り広げられる臨死体験のテーマを集約させている。曲の途中に導入されるミステリアスなストリングスから最初のイントロのフレーズへの移行は、捉え方によっては、オープニング曲「Deep Sea」と同じく、アーティストが体験した生存が危ぶまれた出来事を別のスタイルで表現したとも解釈できる。
グラミー賞にノミネートされたデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』をリリースした彼女は、インディー、ヒップホップ、エレクトロ、R&Bのクロスオーバーの力を発揮し続けています。Pegasus」では、Bridgersがメロディーをサポートしているが、主役はParksである。今月末にリリースされる『My Soft Machine』が、彼女の芸術性において特別な指標となることは明らかです。
彼女の4枚目のアルバム『What's Your Pleasure? (2020)』は、デュア・リパや彼女のヒーローであるカイリー・ミノーグやロイシン・マーフィーと並んで、初期のパンデミック・ディスコ・リバイバルの作品であり、夜遊びの幸福感と官能性を伝える1枚となっている。その結果、全英チャートで最高位を記録し、BRIT賞で初めてアルバム・オブ・ザ・イヤーにノミネートされ、ハリー・スタイルズの前座としてツアーに参加するなど、彼女のキャリア史上、最大の成功を収めたのだった。
最新作となる『That!Feels Good!』のために、ウェアは同じ類のアルバムを2度作ることを要求されなかったという。しかし彼女は付け加えている。「私はバカじゃない。何がうまくいくかはわかっている」と。問題は、どうすればその道を踏み外すことなく正しいルートを辿れるか。ウェアは、プレジャーのエンディング曲 "Remember Where You Are "にその答えを見いだした。この曲は、夜明けの太陽の光のようなストリングスとクワイアの入った、揺れ動くミッドテンポのアンセムである。
これらのディープなディスコファンクを中心とするサウンドは、ナイジェリアの伝説的な歌手フェラ・クティに代表されるアフロ・フューチャーリズムの神秘性と結びつき、多彩で新鮮味のあるR&Bサウンドとして提示されている。また、アルバムの終盤に収録されている「Freak Me Now」では、70年代のディスコファンク、MTVの80年代の華やかなサウンドを抽出している。
デビュー・アルバム『Voice Notes』もまた、ヤスミン・レイシーの人生の瞬間をとらえた重要な記録となる。Black Moon(2017年)、When The Sun Dips 90 Degrees(2018年)、Morning Matters(2020年)という3枚の素晴らしいEPに続く本作は3部作の一つに位置づけられますが、それらが書かれたテーマに沿ってタイトルが付けられたという。
ヤスミン・レイシーは、Evening Standard、The Guardian、BBC Radio 6 Musicから支持を獲得したにとどまらず、Questloveのようなファンを持ち、特に2020年のCOLORSに”On Your Own”という曲で出演しています。しかし、幅広い賞賛の他に、『Voice Notes』の主要なストーリーとなるのは人生の細かな目に見えない部分であり、レイシーがリスナーと共有することを選択した個人的な観察となっているのです。
それに続く「Where Did You Go?」では、古典的なレゲエでは、お馴染みの一拍目のドラムのスネアを通じて導かれていきますが、アーティストはダビングの手法を巧みに用い、ネオ・ソウルの豊潤な魅力を示してみせています。この曲でも、レイシーはファンク、ジャズ、ソウルを自由に往来しながら、傑出したボーカルを披露します。微細なトーンの変化のニュアンスは、楽曲に揺らぎをもたらし、そして、メロウさとアンニュイさを与えている。またファンクを下地にしたヒップホップ調の連続的なビートは、聞き手を高揚した気分に誘うことでしょう。
中盤においても、ヤスミン・レイシーとバックバンドはテンションを緩めずに、濃密なソウルミュージックを提示しています。真夜中の雰囲気に充ちた「Sign And Signal」は、イギリスの都会の生活の様子が実際の音楽を通じて伝わって来る。続く、古典的なレゲエとダブの中間にある「From A Lover」は、ボブ・マーリーのTrojanの所属時代の懐かしいエレクトーンのフレーズ、ギターのカッティング、そして、レゲエの根源でもある裏拍を強調したドラムのビートの巧みさ、ヤスミン・レイシーの長所である温かなボーカルの魅力に触れることが出来るでしょう。アウトロにかけてのメロウなボーカルも哀愁に溢れていて、なぜか切ない気持ちになるはずです。
レゲエ/ダブの音楽性を下地においたレイシーのファジーなソウル・ミュージックが「Eyes To Eyes」の後も引き継がれていきます。メロウさと微細なトーンの変化に重点を置いたレイシーのボーカルは、自由なエレクトリック・ピアノと、ディレイを交えたスネアの軽妙さとマッチし、渋く深い音楽性として昇華される。時に、そのアンサンブルの中に導入されるジャズギターも自由なフレーズを駆使し、絶えず甘美な空間を彷徨う。バンドの音の結晶に優しく語りかけるようなレイシーのボーカルは圧巻で、ほとんど筆舌に尽くしがたいものがある。
この曲以降の楽曲は、ある意味では、クラブ・ミュージックの熱狂後のクールダウンの効果、つまりチルアウトの性質が強く、聞き手を緩やかな気分にさせてくれますが、しかし、それは緊張感の乏しい楽曲というわけではありません。これまでの音楽的なバックグランドをフルに活用し、クラブミュージックを基調にするノーザン・ソウルの伝統性を受け継いだ「Pass Is Back」、レゲエをダンサンブルな楽曲として見事に昇華した「Tomorrow's Child」 、ドラムのフュージョン性にネオ・ソウルの渋さを添えた「Match in my Pocket」、そして、アフロ・ソウル/ヒップホップの本質を捉え、それらをアンサンブルとして緻密に再構築した「Legacy」、さらに映画のサウンドトラックのような深みを持つ「Sea Glass」まで、聴き応えたっぷりの楽曲がアルバムの最後まで途切れることはありません。
Madison McFerrin(マディソン・マクファーリン)は、5月12日にデビュー・アルバム『I Hope You Can Forgive Me』をリリースすることを発表した。”私を許してくださることを願う”というタイトルがアーティストにとってこのデビュー作の持つ意義深さを物語っている。これを記念して、リード・シングル「(Please Don't) Leave Me Now」のケンプ・ボールドウィン監督によるPVが公開された。
マクファーリンは、R&Bの次世代のシーンを担うSSWである。ロバート・グラスパーとのプロジェクトR+R=NOWでも注目を浴びたプロデューサーの兄「テイラーマクファーリン」と、グラミー賞10度受賞したジャズ界の大御所ヴォーカリスト、ボビー・マクファーリンを父に持つ。サンフランシスコ出身で、現在は、NYやLAを拠点に歌手の活動を行っている。2021年にパートナーと交通事故に遭う悲劇が起きた後、「Please Don't) Leave Me Now」は書き上げられた。