アメリカのシンガー・ソングライターでマルチ・インストゥルメンタリストのJoan As Police Woman(別名ジョーン・ワッサー)が「Back Again」を公開した。
リード・シングルのリリース時にも述べた通り、PIASらしいアーバンでスタイリッシュなR&Bとして聴くこともできるものの、Joan As Womanの歌唱法には80年代のアーバンコンテンポラリー以前のノーザン・ソウルやモータウン・サウンドからの影響が含まれている。いわば古典的なブラックミュージックの渋さを兼ね備えているのだ。これらの古典的なソウルが複数のミュージシャンと現代的なレコーディングと合わさり、どのような作品となるのかに注目したい。
『Lemons, Limes, and Orchids』は、ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンにとって2021年の『The Solution Is Restless』以来の復帰作となる。同アルバムは、アフロビートのパイオニアである故トニー・アレンとマルチディシプリナリー・アーティストのデイヴ・オクムとのコラボレーションであった。今度のアルバムは、印象的な様々な才能とのコラボレーションに位置づけられる。
『Painless』まではATO/PIASに所属していたシンガーの新契約は、アーティストにとって新しい旅の始まりを意味する。このニュースとともに新曲「Like I Say (I runaway)」を発表した。
この新曲は、2022年リリースのアルバム『PAINLESS』以来の作品である。「Like I Say (I runaway)」は、ヤーニャの妹モリー・ダニエルが監督したミュージック・ビデオと共に発表された。ニルファーが家出した花嫁に扮するこの曲は歪んだディストーションギターが特徴的。 90年代のオルタナティヴ・ラジオを彷彿とさせるコーラスの下で歪んだギターのクランチが強調されている。
ニルファー・ヤーニャは「Method Actor」の発表とともに『My Method Actor』を正式に発表した。ニューヨーク・タイムズ紙が「対照的なテクスチャーを楽しむ」と評したほか、ザ・フェイダー紙が "衝撃的な復活 "と評した最近のシングル「Like I Say (I runaway)」に続くものだ。
ヤーニャはクラブビートからネオソウル、オルタナまでをセンス良く吸収し、2020年代のニューミュージックの境地を切り拓く。簡潔性に焦点を当てたソングライティングを行う彼女だが、そのなかにはスタイリッシュな響きがある。そして音楽そのものにウィットに富んだ温かさがある。それは、シニカルでやや刺々しい表現の中に含まれる奥深いハートウォーミングな感覚でもある。これはアルバムの前に発表された「Like I Say(I Runaway)」によく表れている。
ニルファー・ヤーニャがニューアルバム『My Method Actor』の第3弾シングル「Call It Love」を公開した。この曲は先行シングル2曲とは異なり、R&Bテイストのアプローチが組み入れられ、涼し気な印象を放つ。ギターやシンセ、ストリングス、スティールパンなどを導入し、オルトフォークにトロピカルなイメージを添えている。しかし、こういったゴージャスなアレンジは旧来にはそれほど多くなかった。以前よりも遥かにトラック自体が作り込まれている印象を受ける。
序盤は聞きやすく、メロウなネオソウルが多く、安らいだ雰囲気を楽しめる。それほどコアではない初心者のR&Bのリスナーにも聞きやすさがあると思われる。「# 3 Make Friends」は、アーバンなソウルとしても楽しめますが、注目しておきたいのは、70年代の変拍子を交えたクラシックなファンクソウルからのフィードバックです。
これが曲を聴いていて心地よいだけでなく、全然飽きが来ない理由なのでしょう。それと同様に、「#4 BMO Is Beatutiful」でも、ハイエイタスはクラシックなファンク・ソウルに回帰し、ファンカデリックやパーラメントの系譜にあるディープなブラックソウルに現代的なエレクトロニックの要素を付け加えている。カーティス・メイフィールド、ジェームス・ブラウンの系譜にあるファンクバンドのプレイはもちろん、ボーカルにも遊び心が込められているようです。
序盤の2曲は、難しく考えずに、シンプルにメロディを楽しんだり、ビートに身を委ねることができるはず。同じくファンクソウルの系譜にある「#5 Everything Is Beautiful」は、古典的なR&Bの系譜を踏襲していますが、イントロのスポークンワードからラフに演奏が始まり、裏拍を強調するスラップ奏法のベース、しなやかなドラムとフェーザーを掛けたカッティングギターが軽妙なグルーブを生み出す。ボーカルも比較的古典的なソウルシンガーの影響下にある深みのある泥臭い歌唱を披露し、グループとしては珍しくブルースのテイストを引き出す。さらにフルートの導入を見ると、アフロソウルからの影響もあり、心なしかエキゾチックな雰囲気が漂う。
「#8 How To Meet Yourself」は、ニューヨークのシンガー、Yaya Bey(ヤヤ・ベイ)の系譜にある真夜中の雰囲気を感じさせるアンニュイなソウルとして楽しめる。Ezra Collective(エズラ・コレクティヴ)のようにアフリカの変則的なリズムとジャズのスケールを巧みに織り交ぜ、アーバンソウルのメロウな空気感を作り出す。ピアノの演奏がコラージュの意図を含めて導入されますが、これらの遊び心のあるアレンジこそ、インプロバイゼーションの醍醐味でもある。この曲では、表向きには知られていなかったハイエイタスの上品な一面を捉えることができるでしょう。
そして、コンセプト・アルバムのような形で始まった本作は、クローズ曲「#11 White Rabbit」において、エキセントリックな印象を保ちながら、オーストラリアの民族的なルーツに回帰します。アルバムの冒頭と同じように、ミュージカルを模したシアトリカルな音楽効果を織り交ぜ、インダストリアル・メタルの要素を散りばめて、前衛的なノイズのポップネスーーハイパーポップ/エクスペリメンタルポップーーの最も刺激的なシークエンスを迎えます。
米国のシンガーソングライター、Meernaaがニューシングル「Make It Rain」をリリースした。シンセによるホーンセクションとピアノを含めるクラシカルなポップソング。ビリー・ジョエルの古典的なバラードソングをアメリカーナと融合させ、ロマンティックな雰囲気を作り出す。シークエンスの途中に取り入れられるエレクトリックピアノがR&Bのメロウなテイストを醸し出す。
彼らの新たな親密さは、より傷つきやすい音楽を書くのに役立った。特に『Songs About You』では、メンバーは複雑な欲望を表現し、後悔の念を口にし、自分勝手な瞬間を自認している。ペースを落とし、雑念を断ち切り、正直であることを必要とするコミュニティの親密さを育むことで、MICHELLEは真実のように感じられるフルアルバムのコレクションを完成させた。
「Oontz」
MICHELLE 『Songs About You Specifically』
Label: Transgressive
Release: 2024年9月27日
Tracklist:
1. Mentos and Coke
2. Blissing
3. Akira
4. Cathy
5. Dropout
6. Noah
7. Missing on One
8. I’m Not Trying
9. Oontz
10. Painkiller
11. Trackstar
Joan As Police Woman
アメリカのミュージシャン、Joan As Police Woman(ジョーン・アズ・ポリス・ウーマン)はメイン州出身で、現在、ニューヨークを拠点に活動する注目のシンガーである。ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンはオルタナティヴ・ソウルの枠組みで紹介されることがあるが、その歌声は少なくとも、単一のジャンルに収められるようなものではなく、未知の可能性に充ちあふれている。
ソウルミュージックというのは、悲しみの底から勇敢に立ち上がることを意味している。先行シングルとして公開された「Long For Ruin」は悲哀を出発点とし、それに静かに立ち向かうような勇ましさに満ち溢れている。ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンが実存的な嘆きの中にいることを感じさせる。悲嘆に暮れる現在の世界情勢に疑問を投げかけ、自省しているが、それ以上に、進行中の社会の腐敗と荒廃に積極的に関与している人間の役割に疑問を投げかけている。
その影響は分岐し、ファンクビートを古典的なブラックミュージックに取り込もうというグループ、それから、「Stand!」の中で発現した黒人としてのアイデンティティを突き詰めようとするグループに分岐していった。つまり、後者のグループに属するミュージシャンたちが「ニューソウル」という運動を巻き起こしたというのが一般的な見方である。これは、さらに後の時代になると先鋭的になり、スライの1971年の代表作『There's A Riot Goin' On (暴動)』において完成される。このアルバムではスライのしなるようなファンクギターを楽しむことが出来る。
スライが「Stand!」において人種的なアイデンティティを示唆しようとした以前にも、同じような試みを行ったグループがいた。特にアメリカの南部において、これらの動きが顕著であって、その中にはEddie Floydの「Raise Your Hand」が挙げられる。彼は曲の中で、拳をあげようというラディカルなメッセージ性を添えていた。68年には、James Carrが「Freedom Train」という曲の中で、「自由の列車はもうすぐやってくる!」と歌っている。
ただ、後者のニュアンスに関しては、Sam Cooke「サム・クック)の系譜にあり、彼の代表曲でブラックミュージックの至高の名曲でもある「Change Gonna Come」のように未来に対する純粋な希望が歌われている。 シンプルだが心を揺さぶられるメッセージは、この年代のニューソウル運動の前後の時代の醍醐味だ。取り分け、南部のシンガーは、マーティン・ルーサー・キングに親愛の情を抱いていたという。ブラックミュージックの先駆的な存在、サム・クックは、1964年のコパでのライブステージにおいて、「If I Had A Hammer」を歌い、自由の喜びを端的に伝えた。制限的な権利から開放的な権利を有する時代への変遷を上記のエピソードは反映している。
・社会との関わりを持つ音楽 --ニューソウル--
ただ、それらの靄は完全には払われたわけではない。1968年に、キング牧師が暗殺されたことは、彼を信奉していた南部の歌手に深い衝撃を及ぼしたにとどまらず、根深い人種問題をもたらす。現在も、多くのブラックミュージックの系譜にある歌手が、何らかの罪や背後に残してきた暗さを暗示的に歌う理由は、この時代が出発なのではないか。サザン・ソウルの代表的な歌手、Wilson Pickettは「People Make The World」において、キング牧師に哀悼の意を表しているし、ナッシュビルのFreddie Northもまた「I Have A Dream」の有名な演説の一説を引用したりしている。
同じ年代には、「Black Power」と呼ばれる運動が湧き起こり、「Black Is Beautiful」というキャッチフレーズが新聞や雑誌に相次いで登場した。マイアミのDJ、Nikie Leeは、このキャッチフレーズをタイトルにしたシングルをリリースし、話題を呼んだ。Edwin Howkins Singersの「O Happy Day」がチャートで一位を獲得したのは、ゴスペルからのこのムーブメントへの回答でもあった。その他、Syl JohnsonはJBに触発を受け、「Is It Because I'm Black」という曲を制作し、ブラックとしてのアイデンティティを定義づけた。社会的な混乱の時代、こういったシンガーやグループは時代の変化を賢しく読んで、リスナーの人気を獲得することに成功したのだった。
また、Jungle Giants、Magic City Hippies、Goldroomなどのサポートとしても活動。UKの「The Great Escape Festival」やサンフランシスコの「Noise Pop」、アリゾナ州で行われた「M3F Festival」にDominic Fike、Arlo Parks、Bakarと並び出演するなど大きな注目を集めている。2023年8月にはEP『Le Soir』、そこからわずか半年後の2024年2月にもEP『Matinee』をリリース。世界中の音楽ファンを魅了するティム・アトラスから目が離せない。
Yaya Bey 『Ten Fold』
Label: Big Dada
Release: 2024/05/10
Review 癒やしに充ちたスモーキーなネオソウル
ニューヨークの気鋭のネオ・ソウルシンガー、Yaya Bey(ヤヤ・ベイ)はすでに2022年のアルバム『Remember Your North Star』でシンガーとしてもソングライターとしても洗練された才覚を発揮し、シーンで存在感を示している。このことはコアなR&B/ソウルファンであればご存じのはず。
インプリントということで、ニンジャ・チューンらしいサウンドも反映されている。ロンドンのJayda Gがヒップホップとソウルの中間域にあるモダンなサウンドを、昨年の「Guy」で確立したが、この作品には、ヒップホップのサンプリングをストーリーテリングの手法として導入するという画期的な手法が見受けられた。 補足すると、Jayda Gが試みたのは家族のストーリーをサンプリングとして導入するというもので、スポークンワードの中で文学的にそれを表現するのではなく、サンプルのネタとして物語性を暗示的に登場させるという手法である。これは例えば、デル・レイの最新作にも共通している。もっと言えば、このサンプルの技法は、ストーリーにとどまらず、フレンドシップやコミュニティを表現することもできるかもしれない。「east coast mami」ではスポークンワードのサンプルを導入し、音飛びのしないブレイクビーツの規則的なリズムを背景にし、ヤヤ・ベイはメロウでマイルドな質感を持つリリックと歌を披露している。アルバムの中盤に収録されている「eric adams in the club」にもこの手法が見出せる。
基本的にはヤヤ・ベイのソングライティングのスタイルはヒップホップとソウルの中間に位置していて、同時にそれがこのアルバム全般的な特色やキャラクターともなっているが、音楽性の中心点から少しだけ離れる場合もある。例えば、「Slow dancing in the kitchen」では、Trojan在籍時代のBob Marleyのレゲエサウンドを踏まえ、それらを現代的な質感を持つソウルミュージックとしてアウトプットしている。これらのサウンドは、シリアスになりすぎたヒップホップやソウルにウィットやユニークさを与えようという、ヤヤ・ベイの粋な取り計らいでもあろう。その他にも、ユニークな曲が収録されている。「so fantasic」では、Mad Professor、Linton Kwsesi johnsonのような古典的なダブサウンドに近づく楽曲もある。しかし、歌にしても、ソングライティングにしても、少しルーズで緩い感覚があり、それこそが癒やしの感覚をもたらす理由でもある。これらのチルアウトに近いレゲエやソウルの方向性は、ノッティンガムのYazmin Lacey「ヤスミン・レイシー)の最新作『Voice Notes』の系統にあるサウンドと言えるか。
これらの多角的な音楽性は基本的には、メロウなソウルという感じで、全体的なアルバムの印象を形作っている。それは真夜中の憂鬱や憂いというイメージを孕んでいるが、一方でブラックミュージックの華やかさに繋がる瞬間もある。例えば、先行シングルとして公開された「me and all n---s」は、ダウナーな感覚を持ちながらも、背後のオルガンの音色と合わせて、ヒップホップのニュアンスが少し高まる瞬間、ダークで塞いだ気持ちを持ち上げるような効果がある。
彼女の強力な2022年のアルバム「Remember Your North Star」をリリースしてから9ヶ月後、ヤヤは激動を通して進化する準備を整えた北星のExodusで戻ってきました。「私は通常、アルバムに入るときに、このテーマ全体のものを持つようにしています。しかし、私が人生が起こっていたときに作ったこのアルバム」と彼女は言う。
そのようなオープンエンドの創造的なリズムの中で働くことで、ヤヤは音楽とそれ以降の彼女の仕事に知らせるすべての努力、感情、経験を伝える瞬間でアルバムを豊かにすることができました。彼女は詩人、抗議のストリートメディックとして人生を送り、サナアと呼ばれる相互扶助組織、アートキュレーター(PGアフリカ系アメリカ人博物館)、そしてブルックリンのモカダ博物館に居住し、過去のプロジェクトのカバーアートを制作したミクストメディアアーティストを設立しました(「ケイシャ」、「9月13日」、「The Things I Can't Take With Me EPなど)。
3作目のEP「Stone Woman」でもウィルソンは注目を集めた。収録曲「Falling Apart」はジェイムス・ブレイクが「I Keep Calling」でサンプリングを行った。2021年頃にはR&Bアーティストとして国内で評価される。2021年のシドをフィーチャリングしたシングル「Take Care Of You」でジュノー賞のトラディショナルR&B/ソウルのレコーディング・オブ・ザ・イヤーを獲得した。
その後の#4「Forever」でもボーカルのオートチューンや複雑な対旋律的なコーラスの導入は顕著な形で表れる。この曲にはエレクトロニックの影響があり、サンプリング的に処理されたピアノとソフトシンセの実験的なエフェクト処理が施されたマテリアルが多角的なネオソウルを作り上げる。ウィルソンのボーカルについても、「しっとりとしたソウル」とよく言われるように、落ち着いたアルトボイスを基本に構成される。けれども、それらのボーカルのニュアンスはジェイムス・ブレイクが以前話していた”ビンテージソウルの温かみ”がある。最新鋭のレコーディングシステムや多数のプラグインを使用しようとも、ボーカルやトラックには深いエモーションが漂い、それがそのままアルバムの導入部の魅力ともなっている。さらに曲の後半では、ミックスボイスに近い伸びやかな鼻声のボーカルが華やかさを最大限に引き上げていきます。続く#5「Do U Still」でも中音域のボーカルを中心にして、しっとりとした曲が作り上げられる。この曲では、旋律よりもリズムが強調され、それはスキッターな打ち込みのドラムが、ボーカリストがさらりと歌い上げるメロディーや複合的な和音のメロウさを引き立てている。
この2曲はダンスフロアのクールダウンのような意図を持つリラックスした箇所として楽しめる。そして、中盤の最大のハイライトがジュディー・ガーランドのカバー「Over The Rainbow」である。''オズの魔法使い''の主題歌でもあったこの曲を、デイ・ウィルソンは、ゴスペルとネオソウルという二つの切り口から解釈している。ここには、カバーの模範的なお手本が示されていると言えるでしょう。つまり、原曲を忠実に準えた上で、新しい現代的な解釈を添えるのである。基本的なメロディーは変わっていませんが、何か深く心を揺さぶられるものがある。これはデイ・ウィルソンが悲劇のポップスターの名曲を心から敬愛し、そして、霊歌や現代のソウルR&Bに至るまで、すべてにリスペクトを示しているからこそなし得ることなのでしょうか? そしてミュージシャンの幼少期の記憶らしきものが、最後の子供の声のサンプリングに体現される。
#11「I Don't Love You」では「Over The Rainbow」と同じく、古いゴスペルを鮮やかなネオソウルに生まれ変わらせる。ピアノとボーカルにはデチューンが施され、入れ子構造やメタ構造のような意図を持つ弾き語りのナンバーとも解釈出来る。落ち着いた感じのイントロ、中盤部のブリッジからサビの部分にかけて緩やかな旋律のジャンプアップを見せる箇所に素晴らしさがある。なおかつタイトルのボーカルの箇所では、シンガーの持つ卓越したポピュラリティーが現れる。しかし、多幸感のある感覚は、アウトロにかけて落ち着いた感覚に代わる。ウッドベースに合わせて歌われるウィルソンの神妙なボーカルは、このアルバムの最大の聞き所となりそう。
”Cyan Blue”は全体的にブルージーな情感もあり、ほのかなペーソスもあるが、アルバムの最後はわずかに明るい感覚をもってエンディングを迎える。クローズ「Walk With Me」は他の曲と同じように落ち着いていて、メロウな空気感が漂うが、ドラムのリズムはアシッドなグルーヴ感を呼び起こし、それに加えてローファイの要素が心地よさをもたらす。スタイリッシュさやアーバンな雰囲気が堪能出来るのはもちろん、超実力派のシンガーによるR&Bの快作の登場です。
クルアンビンのトリオが重視するのは曲の構成やロジカルではなく、スタジオのライブセッションから作り出されるリアルな心地良さ。ムード感とも言えるが、シンプルなスネアドラムとベースライン、フランジャーの印象が強いギターは見事な融合をみせ、アフロソウルを基調とする唯一無二のサウンドを丹念に作り上げていく。ライブセッションでの間の取り方やリズムの合わせ方など、演奏面では目を瞠るものがあり、それらはリゾート的な雰囲気を越えて、Architecture In Helsinkiの名曲「Need To Shout」のように天国の空気感にたどり着く場合がある。
前のアルバムがどうだったのかは定かではないが、アフロソウルやフュージョンの要素に加え最新作ではレゲエ/ダブのサウンドが強い印象を放つ。「Todavia Viva」はスネアのリムショットで心地よいリズムを生み出し、淡いダブサウンドを追求する。「Juegos y Nubes」は、Trojan時代のボブ・マーリーの古典的なレゲエをベースに、ライブセッションを通じて、心地よい音を探ろうとしている。
やはり「May Ninth」と同じように、ムード感が重視されていて、コンフォタブルな感覚を味わうことができる。正確な年代こそ不明であるが、60年代、70年代のファンクソウルをベースにした「Hold Me Up」はヴィンテージソウルに対する彼らの最大の賛辞代わりである。アルバムの終盤に収録されている「A Love International」では、セッションのリアルな空気感とスリリングな音の運びを楽しむことができる。この曲でもフュージョン・ジャズに焦点が置かれている。
アルバムの中にダンスフロアのクールダウンのような形で導入されているトラックが複数ある。例えば、「Farolim de Felguriras」では、ダブやアフロソウルをニューエイジやアンビエントのような形に置き換えていて面白い。その他、「Caja de la Sala」ではギターのリバーブやディレイのエッフェクトを元に、ニューエイジ/ヒーリングミュージックに近い質感を作り出している。
ヴィッキー・フェアウェル(Vicky Farewell)の2ndアルバム『Give a Damn』はMac's Record Labelから5月10日にリリースされる。その名の通り、LAを拠点とするこのアーティストを、スウィートなヴォーカルに彩られたR&Bのスロージャムと官能的なシンセファンクの立役者として紹介している。
アルバムの最新シングル "Push It "は、彼女の最もシュガーコーティングされた作品のひとつに数えられる。ミニマルな催眠インストゥルメンタルが、昔の恋愛を回想するファーウェルのクーイング・ヴォーカルの土台を築く。
「停滞することへのフラストレーションを表現したかった。時には、みんなを一緒に連れて行くことができない、という悲痛な現実に直面することもあるのだから。ポール・サイモンの『Still Crazy After All These Years』という曲をいつも思い出す。この特別な曲をどの視点から見るかにもよるけれど、『Push It』はそれを私が翻案したものなの」
アルバムのオープニングを飾る「Closer」はディープ・ハウスの気風を残しつつも、そのサウンドの風味は驚くほど軽やかで爽やかである。それはかつてのアーバン・コンテンポラリーに属するアーティストがR&Bとポップスを融合させ、ブラック・ミュージックとしての深みとは対極にある軽やかさという点に焦点を絞っていたのを思い出す。これらのサウンドの最終形態は、チャカ・カーンの1984年の「Feel For You」によって集大成を見ることになった。チャカ・カーン等のニューソウルにまつわるサウンドについては、ブラック・ミュージックの評論の専門家によると、以前のR&Bに比べて、「編集的なサウンド」と称される場合がある。これはソングライターのリアルな歌唱力や、R&Bそのものが持つ渋さとは相異なる新境地を開拓し、その後のマイケル・ジャクスンに象徴されるような、きらびやかなポップスへの流れを形作った経緯がある。これは、現代的なオルタナティヴロックと同じように、録音したものをスティーブ・ライヒのようにミュージック・コンクレートの編集を加え、磨き上げるという手法によく似ている。
迫力のあるベースラインを強調するロイシンやジェシーとは異なり、明らかにファビアーナのR&Bサウンドは、軽妙なAOR/ソフト・ロックの系譜に属する。いわばその軽やかさは、二曲目の「Can You Look In The Mirror?」で示されるように、クインシー・ジョーンズやマーヴィンの80年代のアプローチに近いものがある。そしてこの点が低音域が強調されるハウスのサウンドとはまったく異なる。ファビアーナのサウンドは、ココ・シャネルのデザインのように足し算ではなく引き算によって生み出される。これがおそらく耳にすんなりと馴染む理由なのだろう。
R&Bシンガーとしての才覚が遺憾なく発揮された「Stay With Me Through The Night」はこのアルバムのハイライトとなりそうだ。ダイアナ・ロスの80年代の作風をわずかに思い出させる。この時代、ロスは以前の時代の作風から離れ、開放的で明るいサウンドを志向していた。ファビアーナの場合は、それよりも落ち着いたメロウなサウンドを作り出している。この曲には、デビューアルバムということを忘れさせてしまうほど、どっしりとした安定感が込められている。もちろん、その道二十年で活躍するようなベテランのシンガーのような信頼感がある。また他の曲に比べ、ファンクソウルの性質が強く、そしてベースラインも強調されている。これが他の曲よりも深いグルーブ感をもたらしている。ダンスフロア向きのナンバーと言えそうだ。
ファビアーナ・パラディーノのアーバンソウル/ネオソウルの次世代を行くサウンドは、その後、さらに明るい印象を以ってクライマックスへと向かう。 「Deeper」では同じように、ジョージ・ベンソンの近未来的なソウルのバトンを受け継ぎ、よりモダンな印象を持つサウンドへと昇華させる。続く「In The Fire」では、低音域の強いディープ・ハウス、アシッド的な香りを持つR&BをEDMのサウンドと結びつける。パラディーノのR&Bの表現は、その後もスムーズに繋がっていく。これらの流動的なR&Bサウンドを経たのち、クローズ「Forever」において、しっとりとしたメロウなソウルでエンディングを迎える。分けてもバラードという側面でシンガーの並々ならぬ才覚が発揮された瞬間だ。今年度のR&Bの中では間違いなく注目作の一つとなる。