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ロサンゼルスを拠点に活動するミュージシャンでビジュアルアーティストのケニー・ベッカーが率いるオルタナティブ・インディー・ロック・ミュージカル・プロジェクト、Goon(グーン)は、フルレングス・リリースに向けてギアをアップするタイミングで、音楽の旅路において素晴らしい一歩を踏み出した。
現在のラインナップは、Goonの本領を発揮するのに相応しい。 実際、2017年のSXSWで何人かの影響力のある人々の目に留まり、その年の''The FADER Fort''での演奏につながったのは、このラインナップ、太陽の光を浴びたサウンド、そして彼らの遊び心溢れる悪ふざけだった。
しかし、Rolling Stone、Spin、Indie Shuffle、DIY Magからのお墨付きや、NPRの "Artists To Watch "に選ばれたことだけが、彼らにとってやりがいのあることなのではない。 本当に新鮮なのは、彼らの絆がどこかで友情に達していることだ。
「あのとき、私たちは友情の次のレベルに達したんだ」と、ベッカーは認める。 「以前のツアーで、それを感じたときがあった。僕たちはベロツイスターゲームをしていて、かなり長い間、笑いながら、ただ楽しんでいた。 そのドライブ中、いつでも誰かがやめようと決めたかもしれない。 しかし、私たちは皆、純粋にそれに没頭していた。 まるでフレンドシップ2.0のようだった。 彼らはそれを理解しているんだ」
実際、ケニー・ベッカーが周期的に嗅覚と聴覚が鈍くなる病状を改善するために受けた手術の際も、彼のそばにはこのミュージシャンたちと友人たちがついていてくれた。 ベッカーは、そのような症状がない間、自分の人生を最大限に生かす手段として作曲を始めたが、彼はそのプロセスが十分に充実したものであることに気づき、それを世界中の人々が体験しようとしている。
グーンのEP「ハッピー・オーメン」は、2017年秋にリリースされた6曲入りの傑作で、Noisey、Stereogum、BBC Radio 6、さらにはグリズリー・ベアのエド・ドロステからも賞賛を受け、彼はバンドのシングル「She」をSpotifyの2017年のお気に入りプレイリストのトップに置いた。 グーン・ファンに屈託のない日々を信じさせ、人生の平凡さの中でトンネルの先の光を持ち続けさせるのは、この音楽、つまりこの瑞々しく、荒削りで、重層的で、輝くような美しさ。 くすぶるギター、メロディックなフック、打ち込みのリズムが彼らの音楽のコアであり、聴くたびに魅力が増していく。 彼らのサウンドは、苦難と自己発見を通して組み立てられた、最も純粋な形の楽しさがにじみ出ており、人を惹きつけ、時には羨ましくなるような形で現れている。
その後、ベッカーは、さらなるリリースのための十分な素材を準備していた。 そして、さほど驚くべきことではないが、その事実こそ我々全員を誘惑するのだ。グーンのサウンドは本当に変化を経験しており、バンドは、より実験的な音楽を作る一方で、「より翻訳しやすい音楽を作ることに惹かれている」と認めている。 この2つの思考プロセスをうまく使い分けるのは難しいことだが、この印象的な若者たちはそれを見事にやってのけ、完全に魅力的なものにしている。
元々、グーンは2015年にケニー・ベッカーのソロ・プロジェクトとして始まった。 友人の勧めもあって、ベッカーは自身の楽曲のベストをまとめ、2016年のEP『Dusk of Punk』としてリリースした。 彼は大学時代の仲間からバンドメンバーを募り、2枚目のEPをリリースし、同時にバンド初のフルレングスである2019年の『Heaven is Humming』(Partisan Records)に取り組み、その後、パンデミック中期の自宅録音を集めた自主制作盤『Paint By Numbers 1』をリリースした。
グーンの進化は前作『アワー・オブ・グリーン・イブニング』でひとまず結実した。 今作は、ベッカーの青春時代の夜の郊外の世界を思い起こさせ、コンクリート打ちっぱなしの住宅とカリフォルニアの緑豊かな美しい風景が混在している。 グーンはサウンド・タレント・グループとブッキング契約を結び、バンドは最近、フィリーを拠点とするレコード・レーベル、ボーン・ロサーズと契約し、LAのホライズンスタジオで2025年リリース予定の新作LPの制作に取り掛かった。
リーダーのケニー・ベッカーは、アルバム1枚分の楽曲をスタジオに持ち込んだ。 「このアルバムの制作は興奮して始めた。 曲作りは、決められた台本がなくて、手綱を緩め、一番面白そうなアイデアに従った。 最初は本当に楽しいレコーディングだった。 その後、人生で最も打ちのめされた時期がやってきた」 その後、彼の結婚生活はあっけなく終了したというが、その失意をクリエイティヴに生かして、パワフルなインディーロックアルバム『Dream 3』が誕生した。こうした複雑な背景から生み出された本作はオルタナティヴの本質を随所に持ち合わせている。
Goon 『Dream 3』- Bone Losers
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USオルタナティヴロックの魅力がどこにあるのかと言えば、それは文化的な背景の混淆性や雑多性にある。単一民族国家の人間から見ると、よりその魅力が鮮明に浮かび上がる。様々な地域の移民がもたらした音楽の雑多性が、他の地域のどのグループにも属さない独自性を発生させる。それはときには、西海岸らしい用語で言えば、サイケデリックーー混沌性ーーをもたらす。
Goonは、2015年から活動を継続し、2017年頃からまとまった作品を発表してきた。当初は、大学の友人を中心に結成され、バンド募集という一般的な形でラインナップが整ったという話もある。以前はサイケポップとも称されることもあったGoonの混沌性は、本日発売された『Dream 3』において、シューゲイズ、デスメタル、アメリカーナ/メキシカーナ、グランジ、ゴシック/ニューロマンティックの系譜にあるドリーム・ポップというように、あらゆる可能性を探り、多彩な形を通じて万華鏡のような色彩的で奥行きのある不可思議な世界を構築していく。
「1-Being Here」はイントロでアナログ風の逆再生を用い、ビートルズのバロックポップの手法を踏襲している。その後に続くのは、Cocteau Twins、80年代のMy Bloody Valentineのゴシック/ニューロマンティック/ネオ・アコースティックの中間に属する80年代のポップミュージックである。それらが浮遊感のあるアブストラクトなボーカル、そして、サイケデリックな雰囲気を持つ雑多な音楽性が重層的なタペストリーを作り、Goonのサウンドは、夏の入道雲が舞い上がるかのように幻想的な音楽を構築していく。「Being Here」のイントロで作り上げられた逆再生の手法は、不思議なことに、90年代のダンスミュージックのようなグルーヴを生み出す。曲の後半では、強い逆再生をかけたり、ボーカルの輪唱形式で用いられるシンセの旋律が幻想的である。サイケなテイストなのだが、曲全体の構成は理路整然としており、ボーカルは瞑想的である。
MBVのサウンドは、UKハードロックの構造から解釈した「トーンクラスター」の手法が用いられ、それらがアナログのリバーブ/ディレイ等で生成されるエフェクト、アンプリフターからの強烈なフィードバックノイズを活用し、音程にフェイザーのようなゆらぎをもたらすという点がきわめて革新的だった。これらはハウス・ミュージックとハードロックの融合を意味していた。また、ギターをシンセサイザーの音響構造に見立て、エフェクトの回路でアナログシンセのような電気信号を発生させたのだった。また、それらのフィードバックノイズが永遠と続き、減退をしない''ドローンの手法''は、Mogwaiのような音響系のバンドに受け継がれていった。
「2-Closer to」では、これらの音響的なサウンドを踏まえ、Yo La Tengoが最初期にやっていたローファイのロックの手法を用い、サイケデリックの混沌の渦を作り出す。ボーカルは背景のギターサウンドとユニゾンを描き、人力によってフェイザーの効果を得ている。こういったサウンドを聞くかぎり、何でも工夫次第なのだなあ、と実感する。そして、Hotline TNTのようなグランジ風のディストーション/ファズが背景で暴れまわり、巨人的な音像を構築していくのである。
ただ、このアルバムがシューゲイズの復刻であると見るのは早計だ。特に、従来にはなかったグランジやストーナーロックの要素が強まり、アルバムの冒頭のドリームポップやシューゲイズの甘いテイストを持つボーカルと強烈なコントラストを描く。「Patsy's Twin」では、Mevinsの最初期のストーナーのヘヴィロックの手法を用い、アクの強いサウンドを得ている。しかも、ケニー・ベッカーのボーカルはデスメタルに変わることもある。そして現代の女性ボーカルの中では(意外にも?)随一のデスヴォイスで、アーチ・エネミーに匹敵するかもしれない。ブラックメタルに傾倒しつくしたかのような、これらの禍々しいサウンドは奇妙なほど圧倒的である。後半ではラウド性は控えめになり、グランジとドリームポップの中間にあるサウンドが心地よく鳴り渡る。これくらいやってくれないとコメントのしようもないという印象だ。
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