Weekly Music Feature:  TOPS  『Bury the Key』  ~ソフィスティポップの次世代を象徴する作品が登場~

Weekly Music Feature:  TOPS



TOPS —デビッド・キャリエール、ジェーン・ペニー、マルタ・チコジェビッチ、ライリー・フレック — は、即効性と深みを融合させた時代を超越した音楽を率先的に創作している。


2020年以来初のフルアルバムであり、新レーベル・ゴーストリー・インターナショナルからリリースされる『Bury the Key』は、カナダ・モントリオール出身のバンドにとって魅力的な再始動作です。彼らは秀逸なメロディメイカーとして確固たる地位を築きつつも、常に変化や進化を恐れないで、時には暗く重いトーンに挑戦する姿勢を示している。世界のミュージックシーンは刻一刻と移り変わりつつあるが、TOPSもまたそれらの流れに与する。「TOPSは常に同じ本質を持っていますが、世界は新しい時代に差し掛かっている。私たちは、この運動の一部であると感じています」シンガーのジェーン・ペニーは述べている。また、フラット化された概念に対する反感を隠そうともしない。「今日の美学の均質化にうんざりしている」と彼女は付け加えているTOPSとはつまり、個性的な音楽とはなにかを率先して追求するプロジェクトなのだろう。


『Bury the Key』は封印されていた感情に向き合い、幸福、享楽主義、自己破壊の間の相互作用を描いている。架空のキャラクターが頻繁に登場するものの、彼らの輝きとグルーヴに満ちたセルフプロデュースの曲は、個人的な観察からインスパイアされている。バンド内外での親密さ、毒のある行動、薬物使用、そして終末的な恐怖がライトでポップなサウンドに織り込まれている。


レコーディングが始まった際、彼らはその変化に内心気づき、冗談交じりに「evil TOPS」と名付けたとペニーは振り返っている。「私たちはいつもソフトなバンドや、カナダらしい純真で親しみやすいバンドと見なされてきましたが、周囲の世界を真摯に表現するべく挑戦しました」それらの迫りくる時代と年齢に応じた明晰さを通じて、TOPSは『Bury the Key』でより陰湿なディスコの世界に浸り、ソフトフォーカスのソフィスティポップに鋭いエッジを加えています。


2010年代初頭、モントリオールのDIYシーンからインディ・ポップの先駆者として登場し、その影響は今なお現代の音楽シーンに轟く。TOPSの長期にわたる成功の秘訣はシンプル。曲作りを正直でオープンにし、レコーディングを自然体ながら完璧に仕上げ、バンドのダイナミクスをあらゆるレベルで深く調和させることである。彼らの曲は人生の輪郭を描き出し、5枚のアルバム、数多くのツアー、様々なサイドプロジェクトを経て、TOPSはその才能に磨きをかけて来た。


TOPSのヴォーカル、ソングライター、プロデューサー、フルート奏者、シンガーとして幅広い役目をこなすジェーン・ペニー。彼女の静かでささやくようなボーカルは、広範な表現力を持ち、Men I TrustからClairoまで現代のアーティストに影響を与え続けている。彼女の歌詞のテーマは時代を超えた普遍性を擁する。権力のダイナミクス、欲望、認められるための闘い、愛が報われるか否かなど、人間の普遍的な主題に及んでいる。2024年にモントリオールに戻り、初のソロ作品をリリースしたペニーは、過去の自分自身の街に戻り、一歩成長した姿で戻ってきた。


彼女の曲に描かれる洗練された車と永遠のハイウェイは、リズムの相棒デビッド・キャリエールと共に書かれた『Bury the Key』でさらに深化している。キャリエールは、ハイシェーンなフックと絶え間ないドライブ感を特徴とするソングライター、プロデューサー、ギタリストとして、音色とテクスチャーのトリックをさらに魅惑的に拡充している。そしてドラマーのライリー・フレックは、バンドの心臓部として活動し、他者のプロジェクト(最近ではジェシカ・プラットのライブバンド)でも活躍する彼は、より高いテンポとハードなリズムに挑戦している。


2017年にTOPSに加入し、2022年にキャリアーがプロデュースしたデビュー作『Marci』でブレイクしたキーボード奏者のマルタ・チコジェビッチも役割を拡大した。作曲プロセスに参加し、ペニーのボーカルラインの一部をバックアップし、アルバムで最も豊かで満足感のあるパートを演出している。TOPSはポップミュージックの洗練度において高いレベルに達しながらも、惜しいことに、そのレガシーはほとんど記録されていないままになっている。彼らは世界中をツアーして回り、主要なフェスティバルから最も小規模なライブハウスまでくまなく回り、床で寝泊まりし、ツアー管理を自ら行ってきた年月を経て、苦労の末に成功を築いて来たのだった。


仕事に対する倫理観だけでなく、相性や好みも重要な要素となった。どのアーティストの曲が流れているかといえば、フリートウッド・マックやスティーリー・ダンといった予想通りの名前も挙がる。さらに深く掘り下げると、チャイナ・クライシス、プレファブ・スプラウト、フランソワ・ハーディ、ミッシング・パーソンズ、エヴリシング・バット・ザ・ガールといったアーティストたちがプレイリストを独占している。これらのすばらしいアーティストから学んだ輝きとスリル、甘くも陰鬱な楽曲への本能が、バンドを『Bury the Key』へと導いていった。特にフランソワ・ハーディをメインとするフレンチポップからの影響が相当大きかったという。


「私は特にフランソワーズ・ハーディを考えて、Bury the Keyのために歌いました。なぜなら、彼女は同時に感情と思考のバランスを取れる女性だとわかったから。私は彼女の歌のこのような甘いグルーヴも大好き。私たちは、彼女がスタジオでとても楽しかったと感じている」と彼女は言います。ジェーン・ペニーの声の拡散した官能性は、レコードが浸る感情の複雑さを結晶化させる。「異なる要素を混ぜ合わせることを一緒にイメージするというわけではありませんが、うまくいってしまう。TOPSのブランドみたいなものです」とミュージシャンは言います。


作曲は2023 年の冬に始まった。ペニーとキャリエールはまずデモ制作に取り組み、その夏、バンドのPlaza Hubert  Studioでゆるくコラボレーション的なセッションを重ねつつ、デモソングを完成させていった。


「モントリオールで一番好きな場所です。ミュージックビデオを作るのに必要なものもすべて揃っているからです」と彼女は言います。そして、レコードの音楽的影響がある。少しハードコア、少しプログレ、常にポップ、常にトップス。「これらはアルバムの暗いテーマにマッチしています」


「さらに様々な人物像が形作られていった。シンセサイザー主体の「Wheels At Night」では、ペニーは当初、未亡人のキャラクター(「ここにはあなたの服と私の服しか残っていない」)を想像していたが、やがてより普遍的な喪失感へと展開し、最終的に自分自身と孤独の苦悩に向き合う別れの歌となった。


キャリエールのギターラインがブリッジで輝き、ナレーターは孤独な道で夢見るように去っていく。「ICU2」は、ペニーとチコジェビッチの遊び心あふれるやり取りから生まれたクラシックなアップテンポのTOPSらしい曲。しかし、グルーヴの下には、隠れんぼのようなクラブシーンが鏡の迷宮を暗示している。「半ば犯罪のような、幻想的な、暗闇の中で何かを探しているところを捕まったような感じ」とペニーは述べ、1969年の『ミッドナイト・カウボーイ』のパーティーシーンのアーティスティックなサイケデリックを引用しているという。


『Bury the Key』の影は、アルバムが進むにつれて、ますます鮮明になっていく。中盤に差し掛かる「Annihilation」はバンドの転機となる曲と紹介されている。この曲は非伝統的なアプローチから生まれた。フレックはドラムから曲を作成する挑戦を受け、バンドが構築する基盤となる速いハイハット、フィル、そして、4ビートを特徴としたリズムフィールドを生み出していった。坂本龍一、シネイド・オコナーの死後間もなく書かれたこの曲は、徐々に消え去りつつある文化的な神話へのオマージュになっている(「すべての偉大な男と女は死ぬ、友よ!!」)


「Falling On My Sword」は、キャリエールのハードコア音楽への興味をアレンジの観点から反映している。「最終的には私たちのスタイルで演奏した」と彼は言います。「私たちは常に、変化や再発明のアイデアに反対してきた」とペニーは言います。「しかし、私たちはサウンドの限界を押し広げ、これまで作ってきたものとは異なるものを試したかった。少しハードな方向へ進みたかった」


中心となるのは「Chlorine」と銘打たれた空虚な愛のバラード。毒素、化学物質に満ちたウォーターパークの懐かしさ、不健康なバーの夜の安らぎを交差させる。「成長過程での感情の幅、私たちが経験する事柄、自分を満たすような方法が私たち自身を破壊する要因にもなるかもしれない」とペニーは説明する。この概念の重みは、『Bury the Key』という多面的な作品全体に滲み出ている。最新作では、痛みと快楽に根ざした、生きることの複雑な喜び、あるいは、私達の時代の最高峰のバンドとしての存在感が、粗削りな素材から磨き上げられて完成へと繋がった。


TOPSはGhostly Internationalと契約を交わした。アメリカのレーベルから作品をリリースすることは、バンドメンバーのスピリットをモントリオールに近づけることになった。TOPSがニューヨークのレーベルに参加し、キーボードのマルタ・チコジェビッチとドラムのライリー・フレックが現在ロサンゼルスを拠点にしている。しかし、その本質は依然としてモントリオールに根付いている。


「私たちは両都市間で協力して作業を続けています。デイビッドと私はモントリオールで役割を引き継いでいますが、それは彼らの強い芸術的アイデンティティを損なうものではありません」ベルリンとロサンゼルスで生活した後モントリオールに戻ってきたペニーは強調します。「毎回戻ってくるたびに、ようやく家に帰ったような感覚でした。これは深く感じていることです」


近年のモントリオールの開放的な都市性、そして先進的な気風には模範的なものがある。モントリオールは、経済主義による均一化から逃れられた数少ない本物の国際都市である。おそらく、全体主義や排他主義の閉鎖性とは無縁の場所なのだ。ペニーによると、モントリオールは「何にでもなれる場所で、特に音楽を作るには最適な場所」だという。「この秘密は誰もが知っている」と彼女は言うほど。ジェーン・ペニーはモントリオールの文化の独自性を強調する。


「ベルリン、ニューヨーク、ロサンゼルス、パリでは、既に都市そのものが明確に定義されてしまい、既存のシステムに支配されています。一方、モントリオールでは、やりたいことを自由に想像したり、以前存在しなかった新しいものを創造できる」と彼女は指摘する。新しいものが制作できるのは''都市そのものが定義されていない''からだと言う。そしてベテランのミュージシャンにとって、これがモントリオールという都市が世界的に輝やかしく見える理由なのだろう。


TOPSの特色は、どの都市に住んでいようとも常にモントリオールのバンドなのであり、TOPSはTOPS以外の何者でもないということです。メンバーが境界を押し広げ、新たな世界へ挑戦しようともその本質は変わらない。


「実際、私たちは何でもできると気づきました。私の声、ライリーのドラム、デイビッドのギター、マルタのキーボード。何をやっても、それは私たちらしく響く」とジェーン・ペニーは断言している。そして次のようにこのアルバムを結論付けている。 「結局、すでに作ったアルバムを再現しようとしないで、他の場所を探索する方が私たちにとってずっと楽しいことだった」

 


TOPS 『Bury the Key』-Ghostly International  



~ソフィスティポップの次世代を象徴する作品が登場~


トップスは”最も優れたインディーポップバンド"としての称号をほしいままにしてきた存在である。しかし、このアルバム全体を聴くとわかる通り、フラットな作品を作ろうというような生半可な姿勢を反映するものではない。この点において、2012年頃から彼らはコアな音楽ファンからの支持を獲得してきたが、音楽性を半ば曲解されてきた部分もあったのではないだろうか。


トップスの曲は、大衆が親しみやすいように設計されていて、どこまでも聴きやすく軽やかなのは確かだが、その反面、ジェーン・ペニーのファニーなボーカルの印象とは対象的に、強い重力のようなものが基底に存在することに驚く。彼らの音楽は、飲み口の軽いカクテルのような味わいがある。しかし、その味には深さがあり、何重もの層のようなもので覆われている。そして本作に関しても、一度聴いただけではわからない何かがある。よくわからない部分が残されているからこそ、二度、三度と続けて聴きたくなるような魅力が内在しているのだろう。

 

『Bury the Key』はソフィスティポップ(AOR/ソフトロック)を中心に構成され、そしてヨットロックの音楽性も盛り込まれている。 しかし、実際の音楽は表向きの印象とは対照的に軽いわけではない。ギター、ベース、ドラム、フルート、シンセの器楽的なアンサンブルは、無駄な音が一切鳴らず、研ぎ澄まされている。メロディーの良さが取り上げられることが多いが、TOPSのアンサンブルは、EW&F(アースウィンド&ファイア)に匹敵するものがあり、グルーヴやリズムでも、複数の楽器やボーカルが連鎖的な役割を担い、演奏において高い連携が取れている。


TOPSのサウンドは、Tears For Fears、Freetwood Macといった、70、80年代のサウンドを如実に反映させているが、実際的なサウンドはどこまでもモダンな雰囲気が漂い、スウェーデンのLittle Dragonに近い。表向きに現れるのは、ライトな印象を持つポップソングであるが、ディスコ、アフロソウル、R&B、ファンク等、様々な要素が紛れ込み、それらの広範さがTOPSの音楽に奥行きをもたらしている。これが、音楽に説得力をもたせている要因ではないか。しかし、それらのミュージシャンとしての試行錯誤や労苦をほとんど感じさせないのが、このアルバムの凄さといえるのだ。

 

TOPSの曲が魅力的に聴こえる理由はなぜなのか。それは音楽そのものが平坦にならず、セクションごとの楽器の演奏の意図が明確だからである。さらにヴァースやコーラスの構成のつなぎ目のような細部でも一切手を抜かないでやり抜くということに尽きる。


オープニング曲「Stars Comes After You」は、表面的なイメージよりも奥深い内容である。チルアウトやヨットロックの範疇にあるムード感のあるイントロで始まり、以降は、80年代のディスコサウンドへと移行していく。まるで時代を遡るかのようなワクワクした感覚が、アルバムの中にある音楽的な空間を押し広げる。曲のメロディだけで構成を作らず、全体的なリズムや楽器のアンサンブルと連動しながら、構成が推移していく。これぞベテランの領域のサウンドの運び。この点に最高の敬意を表したい。


そして、曲の展開に合わせて、ドラムやシンセ、ギターが入ったりというように、音楽の持つ風通しを重視している。全体的なアンサンブルがメインボーカルを引き立てているのは事実だが、ペニーのメインボーカルですら、全体的なアンサンブルの一貫としての役割を担っている。どの楽器も、いうまでもなく声ですらも、均等な力学を持ち、それぞれが全体のバンドサウンドに等しく引力を及ぼす。だから、どのパートもソリストのように不自然に前に出過ぎるということがない。要するに、四人のメンバーが演奏したり、歌ったりしながら均衡の取れたサウンドを構築していく。表面的なポップサウンドの奥底には、セルジオ・メンデスのようなボサ・ノヴァ、ラウンジ、ラテンの音楽が滲み出てくる。実に多彩な音楽的な知識が内包されている。

 

TOPSの新機軸が早くも2曲目「Wheels At Night」で示される。イントロのバッキングギターをベースラインに重ね、その上にシンセをリズミカルに重ね、二拍目を強調する裏拍の軽快なリズムのセクションを作り出す。その上に、主旋律を担うメインボーカルが乗せられる。ボーカルに目が行きがちだが、土台となる楽器のアンサンブルが盤石だからこそ、ボーカルの旋律の良さが引き立てられる。そして最終的に導き出されるのは、ファビアーノ・パラディーノのサウンドを想起させる、80年代のソフトロックやソウルを反映させた軽やかなポップロックである。


この多彩なサウンドの中には、シンディ・ローパーのような80年代の偉大なボーカリストからのフィードバックも感じられる。少なくとも、「産業的なポピュラーソング」として長らく軽視されてきたサウンドが、非常に見事な形で現代に蘇っている。そして、TOPSとしてのサウンドのトッピングが、ボーカルの間に入るシンセサイザーの華やかなカウンターポイントである。これらのサウンドは、最終的にカラフルな印象をもつ劇的なポップソングに昇華されている。


 

 「Wheels At Night」

 


TOPSのファンクバンドとしての性質が「ICU2」において示されている。この曲のイントロは、リズムとして聞きいらせるものがある。シンセとベースを連動させ、同じように裏拍を強調する軽快なリズムを作り出し、そして、バンドメンバーのコーラスがハーモニーを程よく強調する。メインボーカルはスキャットを用い、器楽的な効果を強調する。すると、アースウィンド&ファイヤのような巧みなファンクサウンドが出現し、曲が面白いようにスムーズに転がっていく。


ベタなように思えるコーラス(サビ)の箇所もまたドラムやシンセといった楽器がたちどころに出現し、ジャズのコールアンドレスポンスのような形式を駆使して、主旋律が自由自在に変遷していく。こういった主旋律が変化する自由性が曲に聴きごたえをもたらしている。さらに、サブボーカルとしてのコーラスワークがこの曲に楽しげな雰囲気を与えている。”i see you do,i see"といったフレーズですら、リズムの側面でポリフォニックな影響を及ぼすための作用を担っている。この曲はメロディーとリズムの両側面において絶妙なバランス感覚が保たれている。

 

「Outstanding In The Rain」は表側からは想像しづらいTOPSのソウルミュージックの影響が最も色濃くなる瞬間です。ジェニー・ペニーの演奏するフルートは、アフロソウルのテイストを曲にもたらす。イントロの後、ディスコ風の曲に移ろい変わり、この曲はダンス・ミュージックの性質が強まる。前曲と同様、シンセとベース、ギターは70年代~80年代のファンクグループのサウンドに近く、巧みなアンサンブルを披露している。そして、複数の楽器のアンサンブルからバロックポップなどで頻繁に登場するチェンバロの音色がはっきりと浮かび上がる。


この曲には、歌手のジェーン・ペニーが述べているように、フランソワ・ハーディからの影響が見え隠れしています。ボーカル全般の旋律は、曲のセクションと連動しながら、華やかになったり、静かになったりする。最も華やかになる瞬間にはシンセサイザーと重なり合うように、豊かなハーモニーが生み出される。その中には、YMOのようなエレクトロポップのアジアンテイストが散りばめられることも。この曲も多彩な音楽性から成立していてすごい。アウトロでは、イントロと呼応するように、アフロソウル風のフルートで締めくくられている。

 

 

「Annihiration」はYMOに捧げられている。シンセサイザーをベースにしたエレクトロ・ポップであるが、依然としてメインボーカルとその間に呼応するサブボーカルは清涼感に満ちている。例えば、YMOのサウンドは近未来的な雰囲気やSFの空気感があり、それらがマイケル・ジャクソンのようなミュージシャンを魅了した要因だったと思われる。また、同時にファンクやソウルからの影響も見過ごせません。


これらのTOPSの再現力には目を瞠るものがあるが、同時にウィスパーボイスに近いボーカル、ソウルではお馴染みのコーラスワーク、軽妙なカッティングギターなど、多彩な要素が混在するようにして、TOPSの曲は成立している。さらにこの曲は、セクションごとに移調を重ね、リズミカルな効果と色彩的な和音をバランス良く並立させている。こういった古典的なスタイルの曲もTOPSの手にかかるや否や、モダンなイメージを持つポップソングに変貌してしまう。お見事。

 

アルバムの中核を担う「Falling On My Sword」は、スパイスとエッジの効いた曲として心を楽しませてくれる。パンキッシュなテイストをギターで表現し、従来のTOPSの軽やかなポップワールドを体現している。エッジの効いた音楽、そして、それとは対象的な夢想的な感覚に浸されたこの曲は、このアルバムの重力ーーヘヴィネスーーを明らかに象徴づけている。表向きのTOPSの軽さに隠された''ヘヴィネス''の側面を体感するのにうってつけの一曲ではないだろうか。


しかし、それと同時に、このグループらしいメロディセンスの妙も重要な核心を形成している。例えば、一分前後のボーカルライン、ギター、ドラムの兼ね合いには、近未来的なロックの要素すら織り込まれている。


また、ヘヴィ・メタルバンドのようなテンポの流動性も魅力である。1分10秒頃には、テンポを極端に落として、このアルバムの急進的な側面を表すヘヴィネスが体現される。すると、通奏低音を担うベースラインが浮かび上がってくる。


これらのバンドサウンドとしての押し引きや抜き差しの部分は、このバンド以外ではなかなか体感出来ないものではないかと思う。その後、一分半過ぎになると、急速に音楽そのものが重力を増し、ラウドなギターが全体の印象を占める。徐々にテンポを小節ごとに早めていき、楽器やボーカルの印象を強めたり弱めたりしながら、見事な構成を組み上げる。そして、音楽そのものがメロディアスになる。ここにきっと、TOPSの真骨頂を捉えることが出来るはずだ。

 

その一方、聴きやすく軽やかな7曲目「Call You Back」が併置され、見事なコントラストを形成している。シティ・ポップのような懐かしさと輝きに満ちたこの曲は、TOPSらしい少し可愛らしい感覚に満ちたポップネスを体現している。


この曲では、”I don't wanna call back”というコーラスの箇所が他の曲よりもクリアに浮かび上がり、華やかなディスコサウンドの渦中にあって、きらびやかな印象を放っている。このような曲はミラーボールディスコ全盛期の時代のバブリーな感覚、それとは対象的な内省的な感覚を織り交ぜたエモーショナルなポップソング。メインボーカルを縁取るギターの演奏も聴きどころで、全体のシンセサイザーのアトモスフェリックなシーケンスと融和している。これらのサウンドが渾然一体となり、夢想的なドリーム・ポップ風の見事なトラックが出来上がっている。

 

80年代のAOR/ソフトロックに最も傾倒した「Chlorine」も聴き逃がせません。アトモスフェリックなイントロから、ゆったりしたテンポ感覚を持つ横乗りのダンサンブルなディスコポップサウンドへ変遷していく。 ボーカルは主体的なウィスパーボイスに対して、華やかな印象を持つソプラノのビブラートが優勢になり、弦楽器のような音響的な効果を曲全体に及ぼしている。メインボーカルの印象は、チャカ・カーンやシンディ・ローパーに近くなる。音楽的には、MJ、ダニー・ハサウェイ、ホイットニー・ヒューストンのサウンドがベースになっていて、それらの80年代の商業音楽に存在した漠然とした未来への期待感が秀逸なポップサウンドに乗り移っている。ノスタルジアも漂うが、現代的な感覚から見た未来への期待感が描かれています。


この曲では起伏のある展開が重視され、休符を設け、ボーカルの主旋律を浮き立たせたり、ドラムの演奏が強まると、ダイナミックな迫力を増したりと、様々な演奏面での工夫が凝らされている。細部まで手を抜かず丹念に作り込もうという姿勢がバラードに依拠した良質なポップソングを作り出す要因になった。ドラムはパーカッシブな効果だけで、曲全体を司令塔のように司る。

 

「Your Ride」のような曲もまた、TOPSがブルーアイドソウルだけにとどまらず、本格派のブラックミュージックに親しんできたことを伺わせる。アーバンコンテンポラリー/ブラックコンテンポラリーのような80年代のソウルミュージックがお好きな音楽ファンに推薦したい楽曲です。軽やかなポップソングとして出力されることは変わりないけれど、やはり、こういった副次的な音楽の影響が、彼らの曲に深さや奥行きをもたらしている。これは、TOPSのメンバーが、結果ではなく、過程を一番に重視しているからこそ起こり得たことかもしれない。


さて、終盤のハイライトは、「Standing at the Edge of Fire」で訪れます。曲名は、YYY’S、Cheap Trickのようだが、実際の曲はAORとブラック・コンテンポラリーに属する。イントロのボーカルは、EW&Fの「Boggie Wonderland」のような乗りの良いダンサンブルなな効果を与える。こういったポップソングでは、''お約束''ともいうべきボーカルのフレーズが登場します。その後、この曲は、ミドルテンポの軽やかな雰囲気に満ちたディスコポップへと変遷していく。そして、その中に現れるシティポップのように切ないメロディを織り込んだセンチメンタルな音楽性が最高の聞き所となるはずです。曲の後半では、ゆったりとしたライブセッションのような感じに近づいて、ギター、シンセ、ドラムを中心としたヨットロックサウンドへと傾倒していく。

 

TOPSは、サブポップがリリースしたMurgo Guryan(マーゴ・ガーヤン)のコンピレーションアルバムに参加していた。カバーの影響が色濃く出たのが、アルバムの最後を飾る「Paper House」でしょう。TOPSらしいサウンドがフレンチポップと結びつき、最終的に魅惑的ですばらしいバロックポップとして昇華されています。上記のサウンドではお馴染みのチェンバロの音色が登場し、それらが聴きやすいポップソングに昇華されている。しかしながら、それは必ずしも懐古的なサウンドだともかぎらない。この最終曲にはTOPSらしい先進的な気風が盛り込まれている。モントリオールの開放的な感覚に満ちた国際都市の香りが漂っている気がします。


『Bury the Key』のサウンドの背景には、セントローレンス川のような風通しの良さがしたたかに織り込まれている。2020年代中盤のヨットロックやディスコポップの隆盛や流行を象徴づける劇的なアルバムが登場しました。

 

 

 

 

 90/100 

 

 

 

「Annihilation」 

 

 

 

▪TOPSのニューアルバム『Bury the Key』はGhostly Internatinalから本日(8/22)発売済み。ストリーミング等はこちらより。

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