Peel Dream Magazine 『Taurus』
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Release: 2025年10月1日
Review
2024年、『Rose Main Reading Room』をリリースしたロサンゼルスのPeel Dream Magazine。先週末、彼らは未発表曲を収録した『Taurus』をリリースした。この作品は、前作アルバムのために録音しておいた八曲を収録している。ということもあり、前作と関連性のある作品となっている。普段はトリオとして活動しているが、今作はソロの性質が強い。
前作では、バンドとして模索してきた幅広い音楽的な方向性がひとつのピークを迎えた瞬間だった。その中には、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド風の牧歌的なフォークソングや、ライヒやフィリップ・グラスのミニマル音楽の延長線上にあるもの、また、シューゲイズやドリーム・ポップをヒップホップのビートに結びつけたものまで、幅広い音楽が取り入れられていた。
『Taurus』はそういった制作の舞台裏を垣間見させる作品である。 未発表のトラックを中心に収録しているが、渋い楽曲が多く収録されているのに注目だ。前作では、VU,ステレオラブなどの影響を明かしていたが、そういったアヴァン・ポップの影響も垣間見ることが出来るかもしれない。
一曲目を飾る「Venus In Nadir」は明らかにヴェルヴェッツへのリスペクトが示された楽曲で、温和なフォーク・ミュージックとして十分に楽しむことが出来る。「ヒッピー思想みたいなものに乗っかってみたいと思うことがある」とスティーヴンスさんは説明してくれたが、フラワームーブメントのようなラブアンドピース思考もこの曲には感じられる。それが持ち前の反復的な構成、そしてスコットランドのネオ・アコースティックを彷彿とさせる牧歌的なフォークサウンドに乗せられている。前作アルバムでは、タイトな曲構成が多かったが、''こういった曲も作っていたのか!''と思わせるものがある。この曲はPDMらしい秀曲と言えるのではないだろうか。
二曲目「Taurus」は短いけれど、深い感覚を持つ名曲だ。イントロでは、ビブラフォン(シンセのマレット)やアコースティックギターといった楽器が、甘美的で陶然とした音響空間を作り上げている。そこへ優しげな表情を持つジョセフ・スティーヴンスのボーカルが乗せられると、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『Loaded』のような、どことなく夢想的な空気感が作られる。言葉では表しがたい不可思議な音楽は、聞き手を瞑想的な境地に導く。反復的な構成から、音を重ねたり、削ったりしながら洗練させるスティーヴンスのソングライティングの真骨頂を体感することが出来る。そしてもちろん玄人好みの渋い音楽性を内包させていることがわかる。
前作アルバムのインディーフォークの要素は、「The Band From Northhampton」 に垣間見ることが出来るはずである。この曲のフォークサウンドは、バーバンクの70年代のフォークロックや、サザンロックのような渋い音楽性を彷彿とさせる。また、ちょっとだけビートルズ贔屓とも言えるだろう。ボーカルは、いつもささやくような歌い方で、それらがやはり温和な空気感や調和を作り上げている。淡々とした歌い方もまさしく、このグループの真骨頂と言えるだろう。肩ひじをはらずにリラックスして聞けるフォークミュージックとしておすすめしたい楽曲だ。
「Letters」もアヴァン・ポップ/アヴァン・フォークとして注目したい。時計の針の音に見立てたパーカッションとインディーフォークが親しみやすいメロディーと巧みに合致している。音楽的には、EELのような鬼才からElvis Costelloまでを凝縮したような素晴らしいポップ/ロックである。
前作のアルバムでも導入されていた電子音楽の要素は、「Seek and Destroy」において、Stereolab、Broadcastのような、知る人ぞ知るインディーポップの形式と融合している。このサウンドでは、どちらかと言えば、ビートルズのマージー・ビート(リバプールの60年代のロック)の影響を感じさせ、ポップ/ロックソングの60年代後半の古典的な構成や和声進行を復刻している。
分けても、和声進行に感嘆すべき箇所があり、長調と短調を絶妙な形で織り交ぜながら、素晴らしい一曲を書き上げている。間違いなく、長きに渡ってロックやポップを聴いてきた音楽ファンであれば、うっとりとしたノスタルジーに浸ることが出来るはずだ。この曲では、明確にドラムが軽快なビートを刻みながら、ボーカルやシンセの旋律に絶妙なエフェクトを及ぼしている。
「Down From The Trees」では、短いインタリュードを設けて、遊び心のある音楽を制作している。ここでは会話の録音を取り入れ、映画のような音楽世界を構築している。前作のインタビューで制作者が明らかにしたように、ニューヨークのセントラルパークやマンハッタンの街角の空気感が暗示されているような気がする。また、この曲はアンビエントとしても聴くことも出来るかもしれない。
PDMは実験音楽をポップスと巧みに結びつけることで知られているが、このスタイルが「Believer」にはっきり表れ出ている。スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスのミニマル・ミュージックがポップソングと重なりあえば、それはすでに''アヴァン・ポップ''なのである。特に、このバンド特有の夢想的な音楽が特徴で、それらは現実空間からほどよい距離を置いている。
未発表曲集としてはかなりハイレベルである。最後を飾る「Take It(Demo)」などを聴けば、このバンドが良いメロディーや親しみやすい音楽を重要視していることがわかる。実際的に、エレクトリック・ピアノのバラードとして聞き入らせるこの曲は、優しげな響きと切なさをもって、心を捉えてやまない。聴き方によっては、日本のポップソングにも近いイメージがあり、ちょっとだけほろりとさせるものがあった。前作と同様に『Taurus』は秀作と言って差し支えない。昨年は、大型のライブツアーを敢行したPeel Dream Magazine。今後の活躍にも注目したい。
▪︎INTERVIEW: PEEL DREAM MAGAZINE ソングライター、ジョセフ・スティーヴンスが新作アルバムを解説 「ミディアム・ファイ+ 」からの卒業
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