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2023年初め、ニューヨークのシンガーソングライター、Mistkiはニューアルバム『The Land Is Inhospitable And So Are We』を発表した。さらに本日、彼女が『クイーンズ・ギャンビット』のミュージカルのために作曲と作詞を担当することになったとDeadlineが報じたのだ。


元々はウォルター・ティーヴィスによる書籍として刊行された『クイーンズ・ギャンビット』は2020年にネットフリックス・シリーズとして映画化された。ミツキは今後、劇作家のエボニ・ブースと演出家のホイットニー・ホワイトと共に仕事をする予定である。制作はレベル・フォワードで、エイドリアン・ウォーレン、ローリン・ラクロワ、マーラ・アイザックスが出演する。


今回のタイアップについてミツキは、Deadlineの取材に対して次のように述べた。「レベル・フォワードから『クイーンズ・ギャンビット』のミュージカル化の話が持ち上がる前から、私はネットフリックスの番組のファンであり、原作小説のさらなるファンでした。だから、このチームの一員になることをすでに決意していた。エボニとホイットニーに出会って、決意は10倍になった! それぞれ美しくユニークなレパートリーを築き上げてきた素晴らしいクリエーターたちと一緒に仕事ができることに、私は有頂天になっています」


『クイーンズ・ギャンビット』は孤児からチェスの天才になったベス・ハーモンの人生を描く。あらすじは、つながりに憧れ、いかなる障壁があろうとも、人生の中で自分の道を見つけるという独創的なプロットである。誰にでも願望、希望、願望があり、自分が何者であるか、自分が世界に何を提供できるかという考え。『The Queen's Gambit』は、これらすべてを追い求める才気あふれる若い女性の物語だ。


「これは私の物語のように感じられ、この舞台のために新たに創作するこの優れたチームの一員になれることに興奮している」と述べた上で、ミツキはさらに、「女王のギャンビットは、私たちがなるべき人物になるという普遍的な追求において、私たち全員を結びつけるものです。私たちの旅の一部は、この愛すべき物語をミュージカルの舞台で上演することなのであり、ミツキ、エボニ・ブース、ホイットニー・ホワイトという3人の才能溢れるアーティストに、ベス・ハーモンの魅惑的な世界をライブの観客と共有する機会を提供すること」と補足した。


ティーヴィスの小説は1983年に出版され、批評家から絶賛され、瞬く間にベストセラー化した。ネットフリックスの2020年の同名のミニシリーズは、ストリーミング配信で最も視聴された脚本ミニシリーズとなり、最初の1ヶ月だけで6,200万人以上が視聴し、ファンを増やし続けている。


ミュージカルの世界初演の詳細は後日発表される。


ポップミュージックと管弦楽器を融合させたスタイルで高評価を得ているミツキは、2016年の『Puberty 2』から今年の『The Land Is Inhospitable and So Are We』まで7枚のアルバムをリリースしている。音楽、ドラマ、ダンスを多角的に融合させた彼女のステージは、ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールでの複数夜を含め、世界中の会場をソールドアウトさせており、その勢いは止まることを知らない。今後予定されている2024年ツアーは全公演完売している。


Weekly Music Feature

 

Mitski 



©Ebru Yildiz

 

「希望や魂や愛が存在しないほうが人生は楽だと感じることがある・・・」とミツキは言う。しかし目を閉じ、何が本当に自分のものであるのか、差し押さえられたり取り壊されたりすることのないものは何なのかを考えたとき、ほんとうの愛が見えてくる。「私の人生で最高のことは、人を愛することだ」

 

「私が死んだ後、私が持っているすべての愛を残せたらいいのに、と思う。そうすれば、私が作り出したすべての善意、すべての善良な愛を他の人々に輝かせることができるのだから・・・」彼女は、最新アルバム『The Land Is Inhospitable and So Are We』が、自分の死後もずっとその愛を照らし続けてくれることを願っている。このアルバムを聴くと、まさにそのように感じる。「この土地に取り憑いている愛のようだ。これは私にとって最もアメリカ的なアルバム」と、ミツキは7枚目のアルバムについて語っているが、その音楽は、私的な悲しみや痛ましい矛盾を抱えたアメリカなる国家を直視する深甚な行為であるかのように感じられる。

 

このアルバムは、サウンド的にもミツキの最も広大かつ壮大、そして賢明な内容に彩られている。曲はアーティストの心の傷を示し、そして同時に積極的に癒しているかのようだ。ここでは、愛は数億光年も先にある遠い星からの光の反射さながらに、私達の優しい日々を祝福するため、タイムリープしている。アルバムの全体には、大人になり、一見すると平凡な心の傷や、しばしば表向きには歌われることがない莫大にも感じられる喜びによる痛みがあふれている。

 

これはアーティストによる小さく大きな叙事詩である。グラスの底から、思い出と雪でぬかるんだ車道、アメリカ中西部を疾走する貨物列車のアムトラック、そして目が眩むほど私達が住む場所から離れた月へと、すべてが、そして誰もが、痛みで叫びながら、愛に向かってアーチを描いているのだ。愛とはそもそも、人を寄せ付けぬサンクチュアリなのであり、私たちを手招きしながらも、時に拒絶する。この場所--この地球、このアメリカ、この身体--を愛するには、積極的な努力が必要となる。しかし、それは不可能かもしれない。最高のものはいつだってそうなのだから。

 

 

『The Land Is Inhospitaland and So Are We』/ Dead Oceans

 




前作『Laurel Hell』では、ビルボード・トップ・アルバム・チャートで初登場一位を記録し、Talking Headsのデイヴィッド・バーンとのコラボレーションにより、2023年度のアカデミー賞にもノミネートされ、また、イギリスの偉大なエレクトロニック・プロディーサー、Clarkへのリミックスの依頼する等、ミツキはアルバムをリリースから2年ほど遠ざかっていたものの、表層的な話題に事欠くことはほとんどなかった。


ボストンのRoadrunnerを除けば、世界的なフェスティバルにはほとんど出演しなかったものの、このアルバムの制作及び発表にむけて、そのクリエイティヴィティーをひそかに磨きつづけていた。
 
ミツキが一度は表舞台からの引退発表を行ったことは事実であるが、一方、前作の『Laurel Hell』でミュージック・シーンに返り咲き、インディーズの女王の名を再び手中に収めた。アーティストは、その謎めいた空白の期間、アーティストとして生きるということはいかなることであるのかを悩んだに違いない。


そして、オーディエンスの奇異な注目を浴びることの意味についても考えを巡らせたに違いない。例えば、Mitskiは、近年のライブにおいて、観客がアーティストの音楽に耳を傾けず、デジタル・デバイスを暗闇にかざし、無数のフラッシュをステージに浴びせることに関し、強い違和感を抱いていたはずである。


アーティストは写真を撮影されるために何万人もの前でライブを行うわけではない。また、ゴシップ的な興味を抱かれるためにライブを行うわけでもない。無数のカメラのフラッシュのすぐとなりで、ひっそりと音楽に純粋に耳を傾ける良心的なファンのため、普通の人ならほとんど膝が震えるような信じがたいほど大きな舞台に立つのである。またそのために、人知れず長い準備を行うのだ。この無数のオーディエンスは、とミツキは考えたに違いない。自分の音楽を聴きに来ているのだろうかと。

 
そして実際、アーティストは以前、そういった音楽を聞かず、写真だけを撮影しに来るオーディエンスに対して、次のような声明を出していたことは記憶に新しい。「観客とパフォーマンスを行う私たちが同じ空間にいるのにもかかわらず、なぜか一緒にその場にいないような気がする」と。さらに彼女は、ライブ・セットをスマートフォン等で全撮影をおこなう節度を弁えない(ライブを聴いていない)ファンにも率直に苦言を呈した。「ライブでの電話に反対だと言ったことはありません。私がプロとしてパフォーマンスをしているかぎり、オーディエンスは自由にライブを録画したり写真を撮ったりしてきた」彼女はもちろん、「ライブショー全体を撮影する観客のことを指している」と付け加え、「ステージの上で、静止したままの携帯電話の海を見て、ショー全体の観客の顔が全然見えなくなる」ことがとても残念であると述べた。

 
最新アルバム『The Land Is Inhospital and So Are We』を見るかぎり、上記の現代のライブにおけるマナーに関するコメントは、意外にも、重要な意味を帯びて来ることが分かる。ニューヨークの山間部に自生しているバラの名前にちなんだ前作アルバム『Laurel Hell』では、ライブを意識したダンス・ポップ/エレクトロ・ポップの音楽性を主体にしていたが、最新作では、驚くほど音楽性が様変わりしている。単体のアルバムとしてのクオリティーの高さを追求したことは勿論、ライブで静かに聴かせることを意識して制作された作品と定義付けられる。いわば多幸感や表向きの扇動性を徹底して削ぎ落として、純なるポピュラーミュージックの良さをとことん追求した作品である。これまで幾度も二人三脚で制作を行ってきたプロデューサー、そしてオーケストラとの合奏という形で録音された『The Land Is Inhospital and So Are W』は、厳密に言えばライブ・アルバムではないのだが、まるでスタジオで録音されたライヴ・レコーディングであるようなイメージに充ちている。すべての音は生きている。そして絶えず揺れ動いているのだ。

 
先行シングルとして公開された「Bug Like A Angel」のイントロは、アコースティック・ギターのコードにより始まる。しかし、その後に続くミツキのボーカルは、アンニュイなムードで歌われていて、そして、ソフトな印象をもたらす。そして、そのフレーズはゴスペル風のクワイアによって、印象深いものに変化する。まさにイントロから断続的に音楽がより深い領域へと徐々に入り込んでいく。ゴスペルのコーラスの箇所では華美な印象性をもたらす場合もあるが、メインボーカルは、一貫して落ち着いており、一切昂じるところはなく、徹底して素朴な感覚に浸されている。しかし、それにも関わらず、複数人のサブボーカルがメインボーカルの周りを取り巻くような形で歌われる、アフリカの民族音楽のグリオ(教会のゴスペルのルーツ)のスタイルを取り、曲の中盤から終わりにかけて、なだらかな旋律の起伏が設けられている。歌詞についても同様である。安直に感動させる言葉を避け、シンプルな言葉が紡がれるがゆえ、言葉の断片には人の心を揺さぶる何かが含まれている。この曲は、叙事詩的なアルバムの序章であるとともに、この数年間のシンガーソングライターとしての深化が留められている。
 
 

「Bug Like A Angel」

 

 

 

「Buffalo Replaced」ではアーティストのインディーロック・シンガーとしての意外な表情が伺える。表向きに歌われるフレーズはポピュラー音楽に属するが、一方、アコースティックギターのノイジーなプロダクションは、まるでグランジとポップの混合体であるように思える。そしてニヒリズムに根ざした感じのあるミツキのボーカルは、これらの重量感のあるギターラインとリズムにロック的な印象を付与している。ここには、不動のスターシンガーとみなされるようになろうとも、パンキッシュな魂を失うことのないアーティストの姿を垣間見ることが出来る。特にミニマルな構成を活かし、後半部では、スティーヴ・ライヒの『Music For 18 Musicians』の「Pulse」のパーカッシブな効果を活用し、独特なグルーヴを生み出す。これはモダンクラシカルとポップス、そしてインディーロックが画期的な融合を果たした瞬間でもある。

 

Mitskiはこのアルバムを「最もアメリカ的」であると説明しているが、その米国の文化性が「Heaven」に反映されている。ペダル・スティールや大きめのサウンドホールを持つアコースティック・ギターの演奏を通じて、カントリー/ウェスタンの懐古的な音楽性に脚光を当てようとしている。この曲は例えば、同じレーベルに所属するAngel Olsen(エンジェル・オルセン)が『Big Time』で示したアメリカの古き良き時代への愛のオマージュとなり、Mitskiというシンガーの場合も同じく、保守的な米国文化への憧れの眼差しが注がれている。実際、プロデューサーの傑出したミックス/マスタリングにより、曲全体にはアルバムの主要なテーマが断片的に散りばめられている。それは単なる偏愛や執着ではなく、アーティストの真心の込められた寛容で温かく包み込む感覚ーーἀγάπη(アガペー)ーーが示されていると言える。そしてその感覚は、実際、部分的にシンガーの歌にμ'sのごとく立ちあらわれ、温和な感情に満たされる。音楽というのは、そもそも肉体で奏でるものにあらず、魂で語られるべきものである。


先日、頭にいきなり思い浮かんだ来た言葉があった。それは良いシンガーソングライターとはどういった存在であるのかについて、「生きて傷つきながらも、その傷ついた魂を剥き出しにしたまま走り続けるランナー」であるという考えだ。実際、それは誰にでも出来ることではないために、ことさら崇高な感覚を与える。そして、ギリシャ神話にも登場する女神とはかくなるものではないかとおもわせるものがある。「I Don't Like My Mind」は、まさにそういった形容がふさわしく、アーティストのμ'sのような性格がどの曲よりもわかりやすいかたちであらわれている。前の曲「Heaven」と同じように、カントリーを基調にした一曲であり、自己嫌悪が端的に歌われる。ペダル・スティールはアメリカの国土の雄大さと無限性を思わせる。そしてその嫌悪的な感覚の底には、わたしたちが見落としてしまいそうな得難いかたちの愛が潜んでいる。それはシンガーの力強いビブラート、つまり、すべての骨格を震わせて発せられる声のレガートが最大限に伸びた瞬間、自己嫌悪の裏に見えづらい形で隠れていた真の愛が発露する。愛とはひけらかすものではなく、いつもその裏側で、目に映らぬほどかすかに瞬くのだ。

 

「The Deal」は、まるで暗い海の上をどこに向かうともしれず漂うような不安定なバラードである。表向きにはアメリカのフォーク/ポップの形が際立ち、それはシアトリカルなイメージに縁取られている。曲調はラナ・デル・レイにも近い。しかし、日本人として指摘しておきたいのは、サビのボーカル・ラインの旋律の節々には、日本の昭和歌謡の伝統性がかなり見えづらい形で反映されていることだろう。これらのナイーヴとダイナミックな性質の間を絶えず揺れ動く名バラードは、なぜか、曲の後半でアバンギャルドな展開へと移行していく。破砕的なドラム・フィルが導入され、米国のフォーク音楽が、にわかにメタルに接近する。これは、プロデューサーの冒険心が”Folk Metal”というユニークな音楽を作り出したのか。それともプロデューサーのミドルスブラのBenefitsに対する隠れた偏愛が示されているのか。いずれにしても、それらのダイナミックな印象を引き立てるドラム・フィルの断片が示された後、曲はグランド・コアに近いアヴァンギャルドな様相を呈してから、徐々にフェード・アウトしていく。このプロデュースの手法には賛否両論あるかもしれないが、アルバムの中ではユニークな一曲と呼べる。


「When Memories Snow」では、シンガーとしては珍しく、古典的なジャズ・ポップスに挑戦している。実際の年代は不明だが、これこそシナトラやピアフの時代への最大の敬愛が示された一曲である。ストリング、ホーン、ドラムとビック・バンド形式を取り、ミュージカルのような世界観を組み上げている。メロディーやリズムの親しみやすさはもちろん、ミツキのボーカルは稀にブロードウェイ・ミュージカルの舞台俳優のようにムードたっぷりに歌われることもあり、昨年、Father John Mistyが『Chloe and the Next 21th Century』で示したミュージカル調のポップスを踏襲している。



クワイア調のコーラスがメインボーカルの存在感を際立たせる。アウトロにかけては、Beatlesが取り組んだポップとオーケストラの融合を、クラシック・ジャズ寄りのスタイルにアップデートしている。実際、ストリングのトレモロ、 ホーン・セクションのアレンジは、ミュージカルのような大掛かりな舞台装置の演出のような迫力をもたらす。かつてのOASISの最盛期のブリット・ポップの作風にも比する壮大さである。


ミツキが今後、どのようなシンガーソングライターになっていくのか、それはわからないことだとしても、「My Love Mine All Mine」で、その青写真のようなものが示されているのではないか。ジャズの気風を反映したポップだが、この曲に溢れる甘美的な雰囲気は一体なんなのか。他のミツキの主要曲と同じように、中音域を波の満ち引きように行き来しながら、淡々とうたわれるバラード。もったいつけたようなメロディーの劇的な跳躍もなければ、リズムもシンプルで、音楽に詳しくない人にも、わかりやすく作られている。


それにもかかわらず、この素朴なバラード・ソングは、60年代から六十年続く世界のポピュラー・ミュージックの精髄を突いており、そして2分弱という短尺の中で、シンガーは、片時もその核心を手放すことはない。このNorah Jonesのデビュー作のヒット・ソングとも、一昨年のSnail Mailの『Valentine』のクローズのバラード・ソングとも付かない、従来のシンガーソングライターのキャリアの中で最も大胆かつ勇敢な音楽へのアプローチは、実際のところ、あっという間に通り過ぎていくほんの一瞬の音の流れに、永遠の美しさの影を留めている。

 

「My Love Mine All Mine」

 

 

 

「The Forest」では、カントリー/ウェスタンの懐古的な音楽性へと舞い戻る。この曲では、ハンク・ウィリムズのような古典から、WW2の後のジョニー・キャッシュ、レッド・フォーリーに至るまでのフォーク音楽を綿密に吸収して、それを普遍的なポップスの形に落とし込んでいる。「No One」や「Memory」といった理解しやすいフレーズを多用し、語感の良さを情感たっぷりに歌っている点が、非英語圏のスペインをはじめとするヨーロッパの主要な国々でも安定した支持を獲得している理由でもある。そして、ペダル・スティールやジャズのブラシ・ドラムのようにしなやかなスネアは、温和なボーカルと綿密に溶け合い、この上なく心地よい瞬間を生み出す。それはやはり、他の収録曲と同じように、あっけなく通りすぎていってしまうのだ。


アルバムの先行シングルとして公開された「Star」は、ポピュラー歌手としての新機軸を示している。この曲は編曲家/指揮者のドリュー・エリクソンとロサンゼルスのサンセット・スタジオで録音された。アーティストは、オーケストラを曲の中に導入する場合、別の場所で録音されたものでは意味がないと考え、そのオーケストラとポップの瞬間的なエネルギーを生み出そうと試みた。ハリウッド映画『Armagedon』のオープニング/エンディングのような壮大さを思わせるダイナミックなサウンドは圧巻だ。パイプ・オルガンを交えたシネマティックな音響効果が、宇宙的な壮大さを擁するバラードという最終形態に直結していく。そしてイントロの内省的なボーカルは、オーケストラやオルガンの演奏の抑揚がゆっくりと引き上げられていくにつれ、神々しい雰囲気へと変貌を遂げる。それは、このアルバムを通じて紡がれていくナラティヴな試みーー生命体がこの世に生まれてから、いくつもの悲しみや痛みを乗り越えて、ヒロイックなエンディングを迎える壮大な叙事詩の集大成ーーを意味している。そしてこの曲には、アーティストが隠そうともしない心の痛みが、己が魂を剥き出しにするがごとく表れている。

 

 「Star」

 

 

この段階までで、すでに大名盤の要素が十分に示されているが、このアルバムの真の凄さは、むしろこの後に訪れるというのが率直な意見である。アルバムの序盤では封じていた印象もある憂鬱な印象を擁する「I'm Your Man」では、サッド・コアにも近いインディーズ・アーティストとしての一面を示す。これは大掛かりなしかけのある中で、そういったダイナミックな曲に共感を示すことができない人々への贈り物となっている。そして、この曲では、(前曲「Star」の三重県出身のアーティストが若い頃に影響を受けたという中島みゆきからの影響に加えて)次のクローズ曲とともに、日本の原初的な感覚が示される。それは、曲の後半で、犬の声のサンプリング、山を思わせる大地の息吹、そして虫の声、と多様な形を取って現れる。最初に聴いた時、曲調とそぐわない印象もあったが、二度目以降に聴いた時、最初の印象が面白いように覆された。おそらく日本的なフォークロアに対する親しみが示されているのではないか。

 

アルバムの序盤では、一貫してアメリカの民謡やその文化性に対する最大限の敬愛が示されたが、その後半ではシンガーソングライターのもう一つのルーツである日本古来の民族的な感覚へと変貌し、ニンジャや着物姿のアーティスト写真の姿のイメージとピタリと合致する。また、それは、『日本奥地旅行』で、イギリス人の貴族階級の旅行家であるイザベラ・バード(Isabella Lucy Bird)が観察した、明治時代の日本人の原初的な生活ーー陸奥の農民の文化性、さらに、北海道の北部のアイヌ民族の奇妙なエキゾチズムーーに対する憧憬に限りなく近いものがある。ややもすると、それらの文化の混淆性は、歌手の最も奥深い日本人としての性質を表しており、今もなお、このシンガーの背中をしっかりと支え続けているのかもしれない。

 

アルバムのクローズ「I Love Me After You」は、前作のシンセ・ポップ/ダンス・ポップの延長線上にあるトラックで、アーティストのナイチンゲールのような献身性が示されている。しかし、驚くべきことに、その表現性は、己が存在を披歴しようとしているわけではないにもかかわらず、弱くなりもしないし、曇ったものにもならない。いや、それどころか、歌手の奥ゆかしい神妙な表現性により、その存在感は他の曲よりもはるかに際立ち、輝かしく、迫力ある印象となっている。ぜひ、これらの叙事詩のような音楽がいかなる結末を迎えるのか、めいめいの感覚で体験してみていただきたい。そして、実際、この国土的な観念を集約した傑出したポピュラー・アルバムは、2023年度の代表的な作品と目されても何ら不思議はないのである。


 

 100/100(Masterpiece)

  

 

「I Love Me After You」

 

 

 

Mitskiの新作アルバム『The Land Is Inhospital and So We Are」はDead Oceansより発売中です。日本国内では、Tower Record、HMV,Disc Unionにてご購入できます。

 

©︎Ebru Yildiz

ニューヨークのシンガーソングライター、ミツキ(Mitski)は、近日発売予定のアルバム『The Land Is Inhospitable and So Are We』から2曲の新曲「Star」と「Heaven」を同時公開した。

 

ミツキは、ロサンゼルスのサンセット・サウンド・スタジオで、アレンジャー兼指揮者のドリュー・エリクソンとフル・オーケストラと共に、新曲に命を吹き込んだ。以下からご視聴ください。

 

『The Land Is Inhospitable and So Are We』は、Dead Oceansから9月15日にリリースされる予定だ。先行シングルとして「Bug Like An Angel」ミツキは本日、『Amateur Mistake』と題したヨーロッパとイギリスでの一連のアコースティック・パフォーマンスを発表した。またミツキは、昨年のアルバム『Laurel Hell』でビルボード・トップ・アルバム・チャートで初登場一位を獲得している。このアルバムはその週のベスト・アルバムとしてご紹介しています。

 


「Star」

 

 


「Heaven」

 




Mitski Tour Date:


10月7日(土) - スコットランド、エディンバラ - クイーンズ・ホール

10月9日(月) - イギリス、マンチェスター - アルバート・ホール

10月11日(水) - イギリス、ロンドン - ユニオン・チャペル

10月14日(土) - ドイツ、ベルリン - バビロン

10月16日(月) - オランダ、ユトレヒト - Tivoli / Vredenburg

10月20日(金) - フランス、パリ - ル・トリアノン

Mitski  Photo:Ebru Yildiz

今週、月曜日にサプライズで発表された告知を受けて、シンガーソングライター、Mitski(ミツキ)が新作アルバムのリード・シングル 「Bug Like an Angel」をリリースした。


アルバムのリードシングル「Bug Like an Angel」は、ミツキの特徴的な歌声の下で、柔らかく鳴り響くギターがループする、スローで甘い曲で始まる。『BE THE COWBOY』以前の彼女を思い起こさせるように、この曲は脈打つようにコーラスが挿入され、瞑想的な曲にゴスペルのような深みのあるトーンを与えている。


ミツキは『The Land is Inhospitable』と『So Are We』の曲を、人生に深みを与える小さな瞬間から引き出しながら、何年もかけて一気呵成に書き上げたという。本作はボム・シェルターとサンセット・サウンド・スタジオでレコーディングされ、ドリュー・エリクソンが編曲・指揮したオーケストラに加え、ミツキが編曲した17人のフル・クワイアが参加。パトリック・ハイランドが共同でプロデュースし、モリコーネのスパゲッティ・ウエスタンのスコアからカーター・バーウェルの『ファーゴ』のサウンドトラックに到るまで、幅広いジャンルの音楽にインスピレーションを得ている。


ミツキ自身は、このアルバムを「最もアメリカ的なアルバム」と呼んでいるが、それは本作が繰り返し同じ問いを投げかけているから。希望も魂も愛もない方が人生は楽と彼女は感じるが、目を閉じて本当に自分のものは何かを考えると、彼女が見るのは真の愛だけである。


「私の人生で最高のことは、人を愛すること」とミツキは言う。「死後、私が持っているすべての愛を残せたらと思う。そうすれば、私が創り出したすべての善意、すべての善良な愛を、他の人々に輝かせることができる」


Mitskiの新作アルバム『The Land Is Inhospitable and So Are We』は9月15日にDead Oceansからリリースされる。



 

 

「Bug Like an Angel」



ニューヨークのシンガーソングライター、ミツキ(Mitski)は、近日発売予定のアルバム『The Land Is Inhospitable and So Are We』から2曲の新曲「Star」と「Heaven」を同時公開した。

 

ミツキは、ロサンゼルスのサンセット・サウンド・スタジオで、アレンジャー兼指揮者のドリュー・エリクソンとフル・オーケストラと共に、新曲に命を吹き込んだ。以下からご視聴ください。

 

『The Land Is Inhospitable and So Are We』は、Dead Oceansから9月15日にリリースされる予定だ。先行シングルとして「Bug Like An Angel」ミツキは本日、『Amateur Mistake』と題したヨーロッパとイギリスでの一連のアコースティック・パフォーマンスを発表した。またミツキは、昨年のアルバム『Laurel Hell』でビルボード・トップ・アルバム・チャートで初登場一位を獲得している。このアルバムはその週のベスト・アルバムとしてご紹介しています。

 


「Star」

 

 


「Heaven」

 




Mitski Tour Date:


10月7日(土) - スコットランド、エディンバラ - クイーンズ・ホール

10月9日(月) - イギリス、マンチェスター - アルバート・ホール

10月11日(水) - イギリス、ロンドン - ユニオン・チャペル

10月14日(土) - ドイツ、ベルリン - バビロン

10月16日(月) - オランダ、ユトレヒト - Tivoli / Vredenburg

10月20日(金) - フランス、パリ - ル・トリアノン

 

 

 

Mitski 『The Land Is Inhospitable and So Are We』



Label: Dead Oceans

Release: 2023/9/15

 

Tracklist: 


1. Bug Like an Angel


2. Buffalo Replaced


3. Heaven


4. I Don’t Like My Mind


5. The Deal


6. When Memories Snow


7. My Love Mine All Mine
8. The Frost

 


Mistkiが7枚目のスタジオ・アルバムをリリースすることを発表した。ニュースレターにはこのように書かれている。


「こんにちは、ミツキです。ナッシュヴィルのボム・シェルター・スタジオで、発売予定のニュー・アルバムのレコーディングをしました。アルバムのタイトルは『The Land Is Inhospitable and So Are We』で、ファースト・シングルは水曜日にリリースされます」


今度のアルバムは、2022年に発売された『Laurel Hell』に続く作品となる。アルバムのリリース後、ミツキはラフ・トレードと提携し、デモの一部を含む限定版EPをヴァイナルでリリースした。


今年初め、ミツキはデヴィッド・バーンとソン・ラックスとの競作『Everything Everywhere All At Oncesoundtrack』の楽曲でアカデミー賞にノミネートされている。


 


ニューヨークを拠点に活動するシンガーソングライター、Mitskiが昨年7月27日にボストンで行われたRoadrunnerのライブを公開しました。ミツキは、昨年の始め、『Laurel Hell』をDead Oceansから発売しています。同時に、デイヴィッド・バーンと共にSon Lux(サン・ラックス)の楽曲「This Is a Life」で、アカデミー賞のオリジナル楽曲の部門にノミネートされています。

 

 

Mitki©︎lisa czech


NYのシンガーソングライター、Mitski(ミツキ)が新しいデモEPを独占的にリリースしました。

 

Rough Tradeの店舗、店頭、オンラインにて限定発売される4曲入りの『Stay Soft, Get Eaten: Laurel Hell Demos』は12インチレコードで12月に発売予定。ストリーミングやダウンロードは配信されません。Rough Tradeは今年のアルバム「Laurel Hell」の新しい "Ruby & White Bloom "カラーのビニール盤を在庫限り販売する予定。


このデモEPのリリースに関して、プレスリリースでは、次のように説明されている。"「Stay Soft, Get Eaten: Laurel Hell Demos' EPは、Mitskiの曲の核となる部分が、その年のアルバムに結実する前の、骨格となる形、そして進行中の作業として聴ける貴重な機会となるでしょう。"


Mitskiは、今年始めにDead Oceansから最新アルバム『Laurel Hell』を発表し、ビルボードトップアルバムチャートの1位を獲得した。レビューはこちらからお読み下さい。




Mitski 『Stay Soft, Get Eaten: Laurel Hell Demos』

 


Label:  Dead Oceans

Release:  2022年12月9日


Tracklist:

 

1.Valentine,Texas(Demo Version)

2.Love Me More(Demo Version)

3.Stay Soft(Demo Version)

4.Gride(Demo Version)

 

 

Rough Trade:

 

https://www.roughtrade.com/gb/product/mitski/stay-soft-get-eaten-laurel-hell-demos

 

Mitski  ©︎Ebru Yildiz


ニューヨークのシンガーソングライター、Mitskiが「Love Me More」のイギリス人エレクトロニック・ミュージシャン、Clarkによる新しいリミックスバージョンを公開しました。


現在、クラークは、母国のイギリスからドイツに移住し、ワープ・レコーズからドイツ・グラモフォンに移籍し、2021年には、これまでのテクノの方向性とは打って変わって、モダンクラシカルの領域を切り開いた話題作「Playground In A Lake」を発表しています。


本日、発表された「Love Me More」のオリジナルは、Mitskiが二月にリリースした最新作アルバム「Laurel Hell」に収録されています。世界的なシンガーソングライター、および世界的な電子音楽家のコラボレーションが実現したリミックス作品について、ミツキ、クラークは次のように述べています。


「Clarkの音楽、特に彼のアルバム『Death Peak』は、私に現代のエレクトロニック・ミュージックに目を向けさせてくれたものです。だから、リミックスを依頼されたとき、最初に思い浮かんだのは彼だけだった」


一方、クラークは、「今回のリミックスを依頼されたことは私にとって大きな喜びでした、ありがとうございます。ミツキの仕事は大好きだ。キックを作るのに何年もかかったよ。しばらくやっていなかったけど、すべてが蘇ってきたよ」と話しています。



ニューヨークを拠点に活動するシンガーソングライターのミツキが、先日行われたHuckのインタビューで、ライブの全パフォーマンスを撮影するファンについて発言した。多くの読者がご存知の通り、ミツキは以前、シンガーソングライターとして異質な注目を受けたことに戸惑いを感じ、一度は引退宣言を行ったが、その後、この宣言を取り下げ、今年リリースされた「Laurel Hell」で劇的な復活を果たしている。


Huck誌の最新号に掲載されたミツキのインタビュー(これは、彼女が2月にTwitterで共有し、その後削除したスレッドで、ファンが彼女のショーの大部分を撮影しているのを見ると「観客とパフォーマンスを行う私たちが同じ空間にいるのにもかかわらず、なぜか一緒にその場にいないような気がする」と書いていた出来事を受けて行われた)において、彼女は、ライブセットをスマートフォンなどで全撮影をおこなう節度を弁えないファンに彼女は率直に苦言を呈する。


最近のHuckのインタビューにおいて、ミツキは、Twitterにそれについて投稿したのは「甘かった」とし、「ライブでの電話に反対だと言ったことはありません。私がプロとしてパフォーマンスをしているかぎり、オーディエンスは自由にライブを録画したり写真を撮ったりしてきた。彼女は、もちろん、ライブショー全体を撮影する観客のことを指しているだけと付け加え、さらに、「ステージの上で、静止したままの携帯電話の海を見て、ショー全体の観客の顔が全然見えなくなる」ことに大きな落胆を覚えたと話している。


また、「少なくとも最初の2列目以上はセットを見ることができる」とわかっているため、座席が段状になっている会場で演奏することに、いくらか安心感を覚えると話す。さらにミツキは、Twitterで自分の考えを共有することは「安直」であったと語っている。「多くの人々は、自分の議論を進めるため、投稿した文章の一部を恣意的に選び、人々は自分の主張を通すために、文章の一部をよくない意図を持って選んで読んでいる」と主張している。さらに、ミツキは、彼女のツイートが、「人種、性別、セクシュアリティ、世代間対立に関するオンライン上の争い」で意図的に利用されたことについても話し、とある出版物が「私がショーでの電話使用に全面的に反対しているとほのめかすクリックベイトの見出し」を掲載したことを指摘している。それはもちろん、どちら側の人々に対してもあまり良い性質とは言いがたい話題をもたらすことになった。


ミツキは、最近のファンの間のリアクションの中で、最もがっかりしたのは、"私たちはショーにお金を払っているのだから、自分たちの好きなようにするのは当然であり、それについて何も口出しをしないで欲しい"という持論を掲げる人たちであったと述べている。さらに、ミツキは、「興行収入と引き換えに、サービスを提供している」ことにある程度同意しつつも、「真剣に心を通わせたいと思っている人たちから、直接、彼らにとって私は、その夜のために買っただけの商品であり、私がいる間はなんでも好きにしていいと思われていることがとても悲しい」というように表現している。


ミツキはさらに、本来アーティストは「他の人間とのつながりを感じる」ためにライブを開催していると表現した上で、「ステージに上がって、目の前にいる何人かの人にとって、私は踊っている人形のようで、彼らがお金を払っているコンテンツを得るために早く踊り始めた方がいい、そのような事実を意識するのは悲しいことだ」とインタビューで述べている。




Photo by Ebru Yildiz


アメリカ人シンガーソングライター、Mitskiのアルバム「Laurel Hell」がUS Billboardの「Top Album Sales」チャートで初登場首位を獲得、2月10日までにアメリカ国内で記録的なセールス、24,000枚の売上を記録しました。 2012年、Mitskiはデビュー作「Lush」をリリースし、これまでの最高のセールスウィークとなり、シンガーソングタイターのキャリアで初めてトップ10入りを果たしています。

 

「Laurel Hell」はシンガーソングライターMitskiが音楽業界からの引退を宣言した後の劇的な復帰作品。海外の音楽メディアによって称賛を送られた「Be The Cowboy」以来の作品となります。

 

ビルボードの「トップ・アルバム・チャート」は、従来のアルバム販売総数に基づいて、集計がなされるその週最も販売数の高かったアルバム作品のランク付けを行います。このチャートの歴史は、1991年5月25日に遡り、特に、その週のアルバムの販売数の目処を図るのに最適の指針となります。米ビルボードはSoundscan(現在はMRCデータ)からの電子的に集計された情報を利用し、このチャートの作製を行っています。


Dead Oceanから2月4日にリリースされたMitskiの「Laurel Hell」は、彼女のキャリアで初めてトップ40入りを記録し、またインディーズレーベルからプレスされた作品でありながら、アメリカの音楽市場で好調な売上を記録しており、USビルボードの発表するトップアルバムチャートで見事初登場一位を獲得しています。

 

さらに「Laurel Hell」は、この主要部門の他にも「Top Alternative Album」「Top Rock Album」「Vinyl Album」「TasteMaker Album」「Top Current Album」と複数部門で一位に輝き、アメリカの音楽業界にMitski旋風を巻き起こしています。グラミー賞のノミネートアーティストThe Weekndの「Dawn FM」と共に、アメリカ国内の音楽市場で大きな話題を呼び、トップセールスを競い合っており、次回のグラミー賞の候補にノミネートされることは間違いなしと言えるでしょう。

 

「Laurel Hell」は、先週末の時点で累計24,000部の売上を記録しています。そのうち、フィジカル盤の売り上げは、22000部、デジタル盤は2000部を記録。売上総数のうち、約17,000枚のレコードがLPとして販売されています。今回の販売総数は、2022年リリースされたアルバムの中で、最大の売上記録を樹立しています。

 

これは、英国の世界的なポピュラーミュージックシンガー、アデルに迫る勢いがあり、昨年、アデルの最新作「30」 が12月に35,000という記録を打ち立てて以来の快挙となります。

 


Mitski

 

ミツキ・ミヤワキはニューヨークを拠点に活動するシンガーソングライター。日本生まれで、アメリカ人と日本人のハーフである。

 

幼年期から父親の仕事の関係で、コンゴ共和国、マレーシア、中華人民共和国、トルコ、様々な国々を行き来する環境の中で育った。その後、ニューヨークに渡り、ニューヨーク州立大学バーチェス校で音楽を専攻、ベースメントショーをはじめとするパンクシーンでミュージシャンとしての経験を積んだ。

 

アメリカの音楽メディア”Pitchfork”は、楽曲「Your Best American Girl」Best New Trackに選出し、いち早くこのアーティストのスター性を見抜いた。その後、Rolling Stoneで知っておくべき10人のアーティストに選出され、シンガーソングライターとして注目を浴びる。スタジオ・アルバム「Puberty 2」はTime誌や主要な音楽メディアの「Best Album of 2016」に選出されている。2016年に行われたUSツアーは好評を博し、ニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアの公演すべてソールドアウトとなった。

 

ミツキのサウンドを形作る上で欠かさざる人物は、 大学時代の友人であり、過去全てのタイトルに関わってきたパトリック・ハイランドである。これまで、すべての楽器を彼とミツキの二人で演奏し、ミキシング、マスタリング、ジャケットのデザインにいたるまですべてふたりで行ってきている。


また、日本人の母親の影響で、日本のJ-POPに深い造詣を持っており、影響を受けたアーティストに、松任谷由実、山口百恵、中島みゆきを挙げている。その他にも、インスパイアされたアーティストとして、M.I.A、Bjork,Mariah Carey、Mica Levi,Jeff Buckley、椎名林檎らを挙げている。

 

 


 

「Laurel Hell」 Dead Oceans


 







Tracklist

 

1.Valentine,Texas

2.Working for the Knife

3.Stay Soft

4.Everyone

5.Heat Lightning

6.The Only Heartbreaker

7.Love Me More

8.There's Nothing Left Here for You

9.Should've Been Me

10.I Guess

11.That's Our Lamp



アメリカ合衆国東部に自生する月桂樹のバラ、それは、美しい花弁と豊かな緑色の葉を有している。愛らしさと毒素を含み、枝分かれしているこの植物を、地元の人は「Laurel Hell」と呼んでいる。毒素を含んだ美しいバラ。それはミツキの新作の名にぴったりな表現と言えるでしょう。

 

日系アメリカ人シンガーソングライター、Mitskiは、前作「Be The Cowboy」をリリースするまもなく、音楽メディアから絶賛を浴び、ツアーに出た後、2019年の秋、一度は音楽業界からの引退を決意した。それは、ポピュラーシンガーソングライターとして過分な注目を浴びたことに依るものだった。

 

 

この時のことについて、Mitskiは、ローリング・ストーン誌のインタビューにおいて以下のように話しています。

 


「世界が私をこの立場においたとき、私は世間の関心と引き換えに、自分自身を犠牲にすることになる取引に応じたことに気がついていなかった」

 

 

こういった暗喩的な表現を使ったのには理由があり、ミツキは、熱狂的なファンがあまりに個人情報を得たいと望んでいることを感じ、それ以来、ソーシャルメディアを完全にシャットアウトし、世間の喧騒や注目から一定の距離をとることを望んだ。しかし、ミツキ・ミヤワキは音楽がみずからの人生にとって欠かさざるものと気が付くまでにはそれほど時間を要さなかった。

 

Mitskiの新作アルバム「Laurel Hell」に収録されている楽曲のほとんどは2018年以前に書かれ、COVID-19のパンデミックのロックダウン中に録音が行われた。その間、ミツキは世間から一定の距離をおいた。その制作背景を受けてか、以前の作風より内省的な思想が反映された作風となった。


アルバムは三十分の長さで驚くほど簡素なポップスで占められているため、以前からのミツキのファンはこの作品について刺激性が少し物足りないと考えるかも知れません。それでも、このアルバムで展開される1980年代のカルチャー・クラブ、デュラン・デュラン、ティアーズ・フォー・フィアーズといったディスコポップを彷彿とさせるミツキらしい妖艶な雰囲気を持った楽曲群は、聞き手に懐かしさを与えるとともに、癒やしさえもたらしてくれることは事実でしょう。

 

この作品では、ミュージックスターとして注目を浴びることへのミツキの戸惑い、大衆という得体のしれぬものに対する恐怖を克服しようとする試みが音楽を介して表現されているように感じられます。それは、言い換えるなら、ディスコポップ/シンセポップというキャッチーな形質を表向きには取りながらも、その深淵を覗き込んでみると、哲学的なメタファーに近い概念に彩られています。「Love Me More」「The Only Heartbreaker」「Stay Soft」といったシンセ・ポップの色合いが強い楽曲群は、表面上では親しみやすいポピュラー・ミュージックでありながら、その内奥には、音楽という抽象概念を通して、生々しい内的世界が描き出されているのです。

 

音楽というきわめて抽象的な世界において、ミツキは今回、内的な恐怖を克服しようとするべく、いくつかの楽曲制作において、歌をうたうこと、ミュージックビデオでバレエダンサーのように踊ることにより、大衆の注目や関心という見えづらい恐怖を乗り越えようと試みている。それは目に見えないものにやきもきする現代社会での生き様を反映しているようにも感じられます。

 

そして、この三十分というスタジオアルバムに収録されているポピュラー音楽は、そういった現代的な気風を反映しながら、ひとつらなりの妖艶な物語として進行していきます。山あり、谷あり、そういった幾つかの難所を乗り越えた先に見えるのが「I Guess」という、清涼かつ純粋な境地です。「I Guess」という、薄暗がりにまみれていた真実を見出した瞬間、このスタジオアルバム作品が世間の評判よりもはるかに傑出したものであることが理解できるのです。

 

2022年2月4日にインディーズレーベル”Dead Oceans”からリリースされた最新スタジオ・アルバムにおいて、ミツキ・ミヤワキは、世間の関心や評価を越えた、自分なりの答え、音楽を通して納得できる最終的な結論を見出したようにも思えます。それは、ミツキ自身がプレスに対して公式に語っているように、いくつかのドラマティックな物語の変遷、ときに、地獄的な苦しみを経巡りながら内省的な旅を続けたのち、「Laurel Hell」と銘打たれた音楽の物語は、その最後の最後で「勝ち負けとは関係のない、”愛”という純粋な感情」という抽象的結論へと帰結していくのです。

 

今回、アメリカ国内で最も期待される日系人シンガーソングライター、ミツキ・ミヤワキが提示した新たな概念は、この世には、勝ちや負けを超越した普遍的概念が存在するのだということをはっきりさせました。これは旧時代の概念が既に古びてしまったことの現出であり、このスタジオアルバムを聴くことは、苛烈な競争社会に生きる現代の人々にとって、癒やしや安らぎにも似た不思議な感覚を与えてくれるはずです。