Weekly Recommend Beach Fossils 「The Other Side Of Life:Piano Ballads」

Beach Fossils

 

 

ビーチ・フォッシルズは、ダスティン・ペイザーを中心に2009年にニューヨークのブルックリンで結成。

 

2010年代からブルックリンを中心に発生したインディー・ロックリバイバルムーブメントをCaptured Tracksに所属する、Wild Nothing、DIIV,Mac De Marcoと牽引してきたニューヨークの最重要バンドです。

 

元々、このバンドの発起人、ダスティンペイザーはノースカロライナ州のコミュニティ・カレッジで短期間を過ごした後、ニューヨークに移住し、ソロ活動の延長線上でこのビーチ・フォッシルズを2009年に結成しています。

 

同年、ベーシストのジョン・ペーニャ、ギタリストのクリストファー・パーク、次いで、ドラムのザカリー・コール・スミス(後に脱退し、DIIVを結成)が加入し、はじめてバンドとしての体制が整います。


 同年、ニューヨークのインディーレーベル”Captured Tracks"と契約、シングル「Daydream/Desert Sand」、デビュー・アルバム「 Beach Fossils」をリリース。サーフロックをローファイの風味を交え再現させたようなサウンドでインディーシーンで若者を中心に好評を博し、Wild Nothingと共に、シューゲイズ・リバイバルバンドの旗手として、2010年代のニューヨークのインディーシーンの代名詞的存在となります。翌年、ミニアルバム形式の「What A Pleasure」を発表。今作品の多くの楽曲は、ダスティン・ペイザーの長年の盟友、Wild Nothingのジャック・テイタムとの深夜のセッションから生み出されています。


2010年から、ビーチ・フォッシルズは、ニューヨークでのライブ活動に加え、アメリカでのツアーを行うようになりますが、この時期、メンバーチェンジを頻繁に繰り返しており、12回のドラマーの変更、ギタリストも三度変更を繰り返し、バンドサウンドについて様々な試行錯誤を重ね、バンド活動としては流動的な時期を過ごしています。最終的には、トミー・デビッドソン、トミー・ガードナーがバンドに加わり、ビーチ・フォッシルズの大凡の体制が整うことになります。


2013年、ビーチ・フォッシルズは「Clash The Truth」をリリース。Wild Nothingのジャック・テイタムがレコーディングに参加したほか、ニューヨークのインディーシーンで著名なロックバンド、Blonde Redheadの牧野カズが「In Vertigo」でゲストヴォーカルをつとめたことでも大きな話題を呼び、パンク・ロックサウンドとドリーム・ポップサウンドを融合させたサウンドで、日本においても、このロックバンドの名がコアな音楽ファンの間で知られていくようになりました。

 

2015年、ビーチフォッシルズは、これまで全ての作品をリリースしてきた”Captured Tracks”を離れ、ダスティン・ペイザーの妻、ケイティ・ガルシアが新たに設立したインディーズレーベル”Bayonet  Records”に移籍しています。

 

Forbes誌のインタビューにおいて、どのようにダスティン・ペイザーと出会ったのか、及び、新しいレコード・レーベルの設立の経緯について尋ねられた”Bayonet  Records”のオーナー、ケイティ・ガルシアは、「キャプチャード・トラックスで自身がインターンに来てていたときに、ダスティン・ペイザーがビーチ・フォッシルズの7インチレコードを探しに来ていた際、社屋で出会ってから、数日後のデートで四年早送りして結婚したこと、また、その延長線上にインディーレーベルの設立があった」。


さらに、バヨネットレコードの掲げる理念については、「Stones Throw、ROUGH TRADEといった歴史のあるインディペンデント・レーベルの運営に触発されている」とインタビューで語っています。(後に、これまでのCaptured Trackesからリリースされたビーチ・フォッシルズのカタログのライセンスは、ケイティ・ガルシアの主宰するバヨネットレコードに移っている)

 

2016年、ビーチ・フォッシルズは、Fooxygenのフロントマン、ジョナサン・ラドをプロデューサーとして迎え入れ、作品「Somersault」のレコーディング作業に入りました。これまでのスタジオアルバムの楽曲を手掛けてきたダスティン・ペイザーは、このレコーディングに際し、初めて他のバンドメンバーにソングライティングを委ねています。主にベーシストのジャック・ドイルスミス、初期からのギタリストとして参加してきたトミー・デイビッドソンがアルバム製作に大きな影響を及ぼした作品。

 

表題曲「Somersault」を始め、これまでにはなかった、ピアノ、チェンバロ、フルート、サックスといった楽器が取り入れられ、クラブミュージック、ジャズ、クラシックをクロスオーバーした新境地を「Somersault」でビーチ・フォッシルズは開拓しています。

 

 

 

 

「The Other Side Of Life:Piano Ballad」 2021  Bayonet Records

 



 

 

 

 Tracklisting

 

1.This Year(Piano)

2.May 1st(Piano)

3.Sleep (Piano)

4.What a Plaesure(Piano)

5.Adversity(Piano)

6.Down The Line(Piano)

7.Youth(Piano)

8.That's All For Now(Piano)

 

 

 

「This Year」

Listen on:Youtube

 

 

https://youtu.be/od79W1xkNfE 




 

 

今週のおすすめの一枚として紹介させていただくのは、昨日、11月19日にリリースされたばかりの作品。ビーチ・フォッシルズのこれまでの楽曲のセルフアレンジカバー「The Other Side Of Life:Piano Ballad」となります。

 

これらのジャズアレンジカバーは、このバンドのフロントマン、ダスティン・ペイザーと元はドラマーとして、2011年から2016年にかけて、ビーチ・フォッシルズのバンドサウンドのダイナミクス性をもたらしていたトミー・ガードナー(現在は中国に移住)によって、二人三脚で真摯に取り組まれたジャズアレンジ作品です。

 

アルバムタイトルの「The Other Side Of Life」は、前作「Somersault」に収録されている名曲「This Year」に因んでいます。


この作品は、2020年のNYのロックダウンの最中にレコーディングが開始されました。フロントマンのダスティン・ペイザーがかつてのバンドメンバーのトミー・ガードナーに連絡を取り、ペイザーがガードナーの演奏を聴いたとき、彼はこの親友の持つジャズの類まれな才覚に驚き、すぐさま「What A Presure」「Clash The Truth」「Somersault」というこれまでのビーチ・フォッシルズのスタジオアルバムなから曲を選び、ジャズアレンジメントにとりかかることになりました。

 

この作品「The Other Side Of Life」が時代性とはまったく距離を置いており、マイルス、コルトレーンがコロンビアのレコーディングスタジオで伝説的な録音を行った時代に立ち返ったようなサウンドの雰囲気を感じるのは、他でもなく、ビーチ・フォッシルズの二人の盟友がNYという都市の持つ文化性に対する深い愛着をもち、その誇りを現代人として後に引き継ぐ考えがあったからと思われます。


また、この時代において時代性を感じさせない音楽が生まれていることについては、日常の異常な出来事の連続に対する戸惑い、また、次の作品が出せるかどうかもわからない状況において、こういった時間という概念を失ったかのような、例えるなら、時空をあてどなく彷徨うかのような雰囲気を持った独特な作品が生みだされた理由であるように思えます。

 

フロントマンのダスティン・ペイザーは、この作品をトミー・ガードナーと取り組むに当たって、旧友のジャズのアレンジメントを尊重しつつ「これまでのビーチ・フォッシルズのヴォーカリストとしての歌い方、音楽性のスタイルを変えるつもりはなかった」と語っています。


推測するに、ダスティン・ペイザーがこのようなことを語ったのは他でもなく、人生の異なる側面と題された作品を、旧時代に立ち返ったかのようなニューヨークジャズとして捉えつつ、そこに現代人としてのプライドのようなものを、前の時代のニューヨークの文化性に加えて伝えたかった。今、自分たちが現在に生きていることの証しを音楽という表現を介して伝えたかったのだろうと思われます。

 

もちろん、ひとつの作品として聴いた上では、ジャズとして極上の逸品がこの作品には幾つか見られます。トミー・ガードナーのジュリアード音楽院の卒業生というキャリアによる多才な才覚が遺憾なく発揮されており、ピアノ、サックス、ベースの美麗な演奏により、ダスティン・ペイザーのアンニュイなヴォーカルをこの上なくゴージャズに引き立て、既存の発表曲にジャズという新鮮な息吹を吹き込んでみせた傑作といえるでしょう。


勿論、そういった表面上におけるジャズの楽曲としての完成度の高さもさることながら、この作品を聴いて感じるのは、表向きの曲の印象を遥かに上回る二人の製作者の深い人間味あふれる高い感慨が込められていることもまた事実といえるでしょう。

 

それは、どんなものかを端的に述べるのはとても難しいようです。しかし、それは音楽という得難い表現芸術の一番の魅力でもあるはず。例えば、ドビュッシーは、「言葉が尽きたときに音楽がはじまる」という、エスプリの効いたおしゃれな名言を残していますが、その言葉はこの作品にも充分適用出来るはず。かつて、共に、ビーチ・フォッシルズのバンドメンバーとして活動してきた二人の温かな時空を越えた友情と喩えるべきもの。それが音楽という淡い感情表現として克明に描かれていることが、今作の素晴らしさといえそうです。


しかし、否定しておきたいのは、これは美談などではなく、時空を越えた、眼前の困難をもろともしない何かがこの世には実在するということ。それは、何らかの目に映る現象よりもはるかに美しくて、なおかつとても力強いものだということ、そのことを、ビーチ・フォッシルズの秀逸なジャズアレンジを聴くにつけはっきりと感じていただけるはずです。

 


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