New Album Reviews Haruka Nakamura 「Nujabes Pray Reflection」

 

Haruka Nakamura



ハルカ・ナカムラは1982年生まれ、青森県出身のアーティスト。

 

幼い時代から母親の影響によってピアノの演奏をはじめ、その他にもギターを独学で学んでいます。2006年からミュージシャンとしての活動を開始し、2007年、2つのコンピレーション作品に参加、多様な音楽性を持った演奏を集め、「nica」を立ち上げる。2008年に小瀬村晶の主催するスコールから「Grace」でソロデビューを飾る。

 

その後、ソロアーティストとしての作品発表、Nujabesとのコラボ作品のリリースで日本のミュージックシーンで話題を呼ぶ。また、東京カテドラル聖マリア大聖堂、広島、世界平和記念聖堂、野崎島、野首天主堂等をはじめとする多くの重要文化財にて演奏会を開催しています。


近年の仕事で著名なところでは、杉本博司「江之浦観測所」のオープニング特別映像、国立新美術館「カルティエ 時の結晶」、安藤忠雄「次世代へ次ぐ」、NHKの土曜ドラマ「ひきこもり先生」の音楽を担当。

 

その他、京都・清水寺成就院よりピアノ演奏をライブ配信、東京スカイツリー、池袋サンシャインなどのプラネタリウム音楽も担当し、画期的なライブ活動を行っています。  早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて、自作曲のオーケストラ共演も行っています。

 

 

 

 

「Nujabes Pray Reflection」 Hydeout Productions 2021 

 

 

 

 

12月4日にHydeout Productionsから発売されたハルカ・ナカムラの新作は、アルバム・タイトルの「Nujabes Pray Reflection」にもはっきり見えるように、日本の伝説的なDJ、故Nujabesに捧げられた作品です。かつて、Nujabesが作品をリリースしていたレーベルからの作品発表というのも並々ならぬ決意のようなものを感じます。

 

11月5日に発表された「新しき光」においても、nujabesに対する深い敬愛を示していたハルカ・ナカムラは、この作品でさらにそのリスペクトを深め、そしてこのDJが何を探し求めていたのか、その真理にいよいよ近づいたといえるでしょう。そもそも、このハルカ・ナカムラの新作「Nujanes Pray Reflection」は、Nujabesの生前の作品からインスピレーションを得て、それを新たに、ポスト・クラシカル/ネオ・クラシカル、あるいはまた、フュージョンジャズという側面から組み換え、Nujabesの芸術性をさらに一歩先に推し進めていこうという意図も伺えます。

 

これは、これまでの作品のように故人を偲ぶ作品ではなく、故人の意思を今生きる人間として受け継いだ重要な作品ともいえるかもしれません。

 

そもそも、ローファイヒップホップ/チルアウトの世界水準のアーティストとして日本のシーンに登場したDJのNujabesは、例えば、レイ・ハラカミと同じように、外国人から見た日本の文化性ではなくて、日本からみた日本文化の叙情性、エモーションを主な音楽性の特徴としていた稀有なアーティストでした。

 

それは、いうなれば、西洋人には見えづらい日本の内面性ともいうべき情感、禅文化の「侘び、寂び」にも似た幽玄な雰囲気を、現代的なローファヒップホップという音楽に込めたアーティストだったとも換言できなくはないでしょう。


今作が生み出される契機となったのは、Hydeout Productionsからハルカ・ナカムラに以下のような依頼があったことに始まります。「時が止まったままの十年を進めて欲しい」

 

これはレーベル側としても、Nujabesの盟友ともいえるハルカ・ナカムラとしてもNujabesの不意の出来事に関して、長年にわたって、どのように捉えるべきか苦悩していたと思われます。あらためて、Hydeout Productions側からの、今回、ひとつの区切りを設けて、新たに時計の針を進めてもらいたい、という提案を契機として、ハルカ・ナカムラも同じような意図で作品の制作に真摯に取り組んだものと思われます。 そして、ハルカ・ナカムラはレーベルからの依頼を受け、これまでのNujabesの生前の音楽を縁として、それをなんとか新たしい音楽として昇華し、現在まで後ろ向きであった思いを、故人のためにも前向きな思いに変えていこうと試みたのかもしれません。

 

今作「Nujabes Pray Reflection」には、生前のNujabesの独特な淑やかな情感とも呼ぶべきものが「Walts of Reflection Eternal」「World' end Rhapsody」といった秀逸で非常に聞きやすさのある楽曲の木管楽器の使用、旋律の運び方に受け継がれています。また、それは、以前のような後ろ向きな形でなくて、前向きで明るい形の表現に変化したと形容すべきでしょう。これは、ハルカ・ナカムラが長年の間、Nujebesの出来事について、暗い気持ちを抱えていたのだけれど、ついにそれを振り払い、ようやく肯定的に捉えなおすことが出来たというべきかもしれません。

 

そして、この作品は、見方を変えてみれば、トリビュートというより、故人Nujabesとハルカ・ナカムラの目には見えない形で繋がった作品。それが作品全体に非常に温かみある感慨が満ち溢れている要因といえるかもしれません。

 

ここ数年、どことなく暗鬱な印象の楽曲を中心に書いてきたように思えるハルカ・ナカムラは、この新作において新しく生まれ変わり、未来に明るい希望を見出しつつあるように思えます。それこそが、ハルカ・ナカムラのファンとしては、最も、嬉しく、喜ばしい出来事に違いありません。


0 comments:

コメントを投稿