Album Review  Toro y Moi 「Mahal」

 Toro y Moi 「Mahal」

 


 

Label:  Dead Oceans

Release Date: 2022年4月29日

 

 

これまでトロイモア/チャズ・ベアは、アメリカ西海岸のモダン・チルアルトシーンの象徴的なアーティストとして定義づけられているものの、このアーティストの真の魅力は、ヴィンテージソウルを下地にしたサイケデリック性にあり、そして、他でも頻繁に意見が聞かれるように、ゆるく、まったりとしたファンク性にある。つまり、チャズ・ベアの感性の良さというのは、JBやウィリアム・ブーツィー・コリンズといった王道のファンクを通ってこなかったリスナーにも親しみやすいファンク性に求められる。

 

 その点は、この7作目のアルバムでも変わりありません。聞き方によっては、その点についての印象をことさら取り上げて、刺激性や新奇性に乏しいという評価を与える批評家も中にはいるかもしれませんけれど、もちろん、その点は完全に間違っているわけではないでしょう。しかし、このアルバムで展開されるヴィンテージ色あふれるカラフルなソウルは、これまでのファンクにはなかったような独特な雰囲気に溢れ、それは「内省的なファンク」とでも形容すべきものです。そして、チルアルトのアーティストらしく独特の癒やしを持ったチル・ソウルともいうべき独特な雰囲気と魅力を併せ持っています。チャズ・ベアは、これらの要素を、この「マハル」においてうまく調理しており、アンノウン・モータル・オーケストラのゲスト参加を受け、往年のサイケデリックロックバンド形式の手法により、ファズ、ワウといったエフェクトを加えたサイケデリックなイメージを持つギターフレーズ、現代的な手法ーーヒップホップのターンテーブルのスクラッチ的なサンプリングを、オーバーダビングすることによって前衛的な音楽に仕立てている。

 

アルバムの中に、人目につかないようにこっそりと込められたチャズ・ベアのアヴァンギャルド性は、聴き込めば聴き込むほど、耳にじわじわ心地よく馴染んでくる。また、それらの西海岸らしいサイケファンクの要素に加えて、ザ・ビートルズ時代、ポール・マッカートニーが好むような親しみやすいメロウさ、誰が聴いても簡単に理解できるキャッチーなメロディーやコードの特性を付け加えている。リズム性においても多彩な手法が取り入れられており、ファンクだけでなく、ラテン音楽の要素が込められたダンサンブルな変拍子が導入されているのにも注目。チャズ・ベアの音楽のアプローチは、一見、新鮮味に欠けるように思われますが、実のところ、じっくり何度も聴き通すうち、相当、聴き応えがあり、前衛的な作品ということが理解出来ます。

 

 以上のような、しちめんどくさい話を抜きにしたとしても、全般的に、ゆるく、まったりした、その場の空気感を損ねることのない、良質なBGMとしても楽しむことが出来るはずです。特に、作品中で、三曲目に収録されている「Magazine」は、内省的なサイケファンクとしての異質な煌めきを放っている。スタンダードアンセム「Me Postman」では、ビンテージソウルの魅力的なアシッドの雰囲気が漂っている。「Mahal」は、全般的に、初見においては鮮烈な印象こそ乏しいかもしれませんが、その実、聴き応えがあるアルバムで、また、聞き手の心を和ませる効果も込められている。レコード盤として聴くと、より大きな真価を発揮しそうな作品です。評価は度外視にして、チルアウト、ファンク、ローファイあたりが好きな方は、是非とも手元に置いておきたいレコードとなります。

 

(Critical Rating:82/100) 

 

 


 

 

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