Σtella  最新作「Up and Away」において描き出すアテネの青春時代


近年、これまで主要な音楽として取り沙汰されてこなかった地域の音楽がメインストリームに引き上げられようとしています。今回、新たにUS、シアトルのサブ・ポップとのサインを交わし、新作リリースを行った女性シンガーソングライターのプロジェクト、Σtellaに関しても、これまで注目を受けてこなかった地中海の地域の音楽を背負って立つミュージシャンに挙げられる。

 

先日、6月17日に最新アルバム『Up and Away』をサブ・ポップからリリースしたΣtella(ステラ)は、20世紀半ばのギリシャ音楽にスポットライトを当てている。ギリシャ国内ではそれ相応に知名度を持つシンガーとして活躍してきた彼女ではあるが、新たにサブ・ポップと契約を結び、制作を行うことにどのような意味があったのか。これは、アテネを拠点とする彼女の青春時代の一部であった音楽の再発見の意味が込められている。そして、それは世界の主流の音楽とは異なるものの、ギリシャの音楽を世界的な位置として再確認することでもあるのだ。


「今では、若い頃から聴いている音楽は、ある意味うんざりしている」と、Σtellaは語っています。

 

しかし、多くの音楽リスナーがそうであるように、子供時代に聴いた曲は、それは時を経て全く異なる意義をたずさえて舞い戻ってくる。つまり、数年後に違う形で不思議な形で深く心に響くものとなる場合がある。シンガーソングライター、Σtellaは、最新作において、1960年代に活躍したギリシャの著名な歌手、グリゴリス・ビチコチス、ツェニ・ヴァヌーの音楽に回帰しようとしているのだ。それらは、彼女が幼年時代の日常の暮らしに溢れていたアテネのポピュラー音楽である。しかし、アーティストは当初、それらをどのように解釈するのかに戸惑いを覚えていた。


「聴いたことがあり、頭の中にしっかり入っているけれど、それを形あるものとして再現したり、鑑賞したりする方法が今まで見つからなかったことが関係しているのかもしれません。 
最近、よく、親やその友人の影響で、おそらく、10歳の頃に聴いていたであろう曲を見つけることがあります。今、改めて聴いてみると、ああ、これは名盤だな!!って。でも、そうやって改めて聴いて深い理解をするのにはかなり長い時間が必要だったんです」 


2015年にセルフタイトルのデビュー作をリリースして以来、Σtellaはシンセサイザー調のインディー・ポップでギリシャ国内でその評判を高め、一定の人気を獲得するに至った。しかし、彼女は、その先を見据えている。世界的にギリシャのポピュラー音楽の重要性を示すチャンスを見出そうとしているのだ。そこで、最新アルバム『Up and Away』では、彼女は音楽の方向性を変え、ギリシャの楽器を取り入れ、時に非常にファンキーで少しサイケデリックなものを生み出し、クラシックなサウンドにモダンなひねりを加えている。これは国内のアーティストとしてではなく、世界的なアーティストとしての歩みをはじめたことの証だてともなりえるはずだ。


『Up and Away』の制作が開始されたのは2018年のこと。Σtellaが2020年に発表した前作スタジオ・アルバム『The Break』の制作を終えた直後、彼女は、テキサス州を拠点とするバンド、Khruangbinの音楽をよく聴いていたが、彼ら自身もグローバル・ファンクやサイケデリック・ミュージックから影響を受けている。その後、中東のイランの音楽に興味を見出し、ギリシャに滞在していたプロデューサーのトム・カルヴァート(通称レディーニョ)と出会いを果たしたのだった。

 

「それはまるで星が一直線に並んだようだった」とΣtellaは言う。「最初にトムがインストゥルメンタルを送ってくれたんだけど、それがすごく気に入ったんです。ヴィンテージなサウンドが好きだったんです」


Σtella


アルバムの中には、国際意識を持つアーティストであるがゆえ、ギリシャ的な概念に対する戸惑い、またその中に潜むような形で表現されているプライドのようなものがないまぜとなっている。特に、アルバムでは、ギリシャの伝統的な楽器がとりいれられていることに注目しておきたい。リュートの仲間であるブズーキの奏者のクリストス・スコンドラス、ギリシャや中東で使われている琴に似た楽器カヌンの奏者のソフィア・ラボプールーを迎え、徐々にプロダクションを完成させていった。この制作背景について、「この2人のミュージシャンとのコラボレーションは、アルバムに多くの色を与え、サウンドに大きな変化をもたらした」とΣtellaは語り、そして深い思いをこめて語っている。「二人と一緒に仕事ができて、本当に感謝しているんです!!」


「Up and Away」において、ギリシャの伝統楽器のひとつ、ブズーキ奏者のスコンドラスと一緒に仕事を行うことは、このアルバムにギリシャらしいキャラクター性を加味するだけでなく、その他にも、自己のギリシャ人としてのアイデンティティを探求するという重要な意味が込められていた。それは、音楽の探求にとどまらず、自己の深い探求のような意味が込められている。Σtellaは、二人のプロフェッショナルな演奏者の助けを借り、彼女の人格の形成期に聴いた音楽を反映した雰囲気を徐々に作り上げていくことになる。「両親の古いレコードやブズーキをたくさん聴いて育ったのを思い出した」と彼女は言います。「ブズーキは、私の頭の中に音として深く刻まれているんです。過去のアルバムでも、ギターを弾いてブズーキの持つ音色に少しでも近づけようとしていたけど、実際にブズーキを録音する勇気は今までなかったんだ」と語る。


また、「私はギリシャ人だから、私にとっては、ずっと見てきて、ずっと聴いてきた楽器を選ぶのもなんだか変な感じですよね」と付け加える。「しかし、それでもカルバートとのコラボレーションで、それが可能になったという。「私はいつも、イギリス人が私にブズーキをアルバムに入れるように説得したのはおかしいと思う、と言っているんです」とΣtellaはおかしみを交えて言う。


Σtellaは、楽器がプロセスに持ち込まれる前に『Up and Away』のメロディーを作り上げた。「キリシアの民族楽器であるブズーキを使ったギリシャの伝統的な音楽で起こるようなことが起こった。ブズーキはボーカルのメロディーを追いかけるようなものです。50年代や60年代のギリシャの古い曲で、ブズーキがよく使われているものでは、かなり普遍的な意味が込められているんです」


しかし、作品自体の構想、青春時代のアテネを再現すると決めたまでは良かったが、アルバムの制作は、遅々として進まず、アルバムの制作の進捗状況をどうにか早めるため、Σtellaとカルヴァートは、彼女がギリシャに、彼がイギリスにいる間、リモートで共同作業をしていた。紆余曲折あって、ようやくアルバムの制作を終え完成と思われたその矢先、COVID-19によるパンデミックが蔓延し、Σtellaは、The BreakをリリースしたArbutusが次の作品を扱えないことを知った。


「当初はとてもショックでした」と彼女は言う。しかし、Σtellaは、この挫折に突き当たった時、あまり動揺しないことを決意し、新しいレーベルを探すため、人々に働きかけを始めたという。そんなときに、思いも寄らない転機が訪れる。他でもない、アメリカの名門レーベルサブ・ポップからの契約の話、貴方のレコードをリリースしたいという申し出がもたらされたのだった。

 

「たしか、2ヶ月くらいかかったと思います。毎日、レーベルに、毎日、関係者にメールしていました。


2020年5月、彼女は、楽曲のパブリッシャーであったSub Pop、シアトルに拠点を置くレーベルが『Up and Away』のリリースについて話し合いたいという連絡を受けたんです」


アルバムのタイトル曲「Up and Away」では、Σtella自身がギリシャの音楽の歴史を描いたアニメーションビデオを監督している。イラストはYokanimaが、アニメーションは、YokanimaとGeorge Kontosが担当する。一般の人にはそれほど馴染みのないギリシャ音楽に興味を持つ契機になりえると思われる。


 

 

このタイトルトラックのミュージックビデオは、戦争について描かれており、ギリシャのミュージシャン2人がライブを終え、街でナチスの兵士に遭遇し、競技場から逃げ出す様子を叙事詩的に描き出している。このアニメーション調のストーリーテリングについては、第二次世界大戦中の実話にインスパイアされている。ミュージックビデオにも表現されている通り、アルバム全体には幻想的な雰囲気が漂っているが、その中には、確かに現実性のような何かが浮かび上がってくる。このアルバムには、表向きの音楽性の奥底に、彼女のアテネの青春時代の美しい思い出が色濃く反映されているのだ。それがアルバム全体にロマンチックな彩りを加えている。


アルバム「Up and Away」のもうひとつのハイライトは、Σtellaが地中海のシーンのファンクの熱を上げながら、ミュージシャンとしての大きな野心を歌った「Another Nation」となる。 この曲について、ステラは複雑な心境を交えて話している。そこには、国際人としての立ち居位置、さらには、ギリシャを誰よりも敬愛するアーティストとしての姿がその狭間で残映のように揺らいでいる。国際的なアーティストとして活動するのか、ギリシャ国内のアーティストとして活動するのか、どちらを取るべきか、まだ彼女は決めかねている。「新しい曲を書いているとき、私は、何らかの形で、ギリシャを離れることを強く望んでいたんです」と付け加えた上で、最後にステラは、このアルバムの制作秘話について、以下のように締めくくっている。

 

「この曲は、生まれた国を離れるというアイデアに対する私の何らかのエキサイティングな気持ちを込めて歌っていると思うんです。

 

 それでも、完全に、国家を心から離れるというのではなく、私が愛するギリシャに心を置いた上で、さらに、このアルバムで音楽的にもっとグローバルな対話をして、より大きな、美麗な絵画の一部にしようと試みたんです」

 

 

アメリカのインディーズシーンを代表するシアトルの名門レーベル、サブ・ポップと新たに契約を結んで今月に発表されたばかりの「Up and Away」において、彼女はまさに以上のことを完全に体現しようとしている。

 

この作品で、Σtellaは、ギリシアにしか見出し得ないもの、また、その他の地域に見いだされるもの、その双方を、ユニークな形で描き出そうと試みる。それは、先にも述べたように、アテネの青春時代の思い出と相まって美麗なロマンスに彩られている。「Up and Away」は、世界の主流の音楽とは一線を画する、このアーティストらしいユニーク性が見いだされるアルバムでもあるのだ。

 



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