Jay Wood 『Slingshot』

 Jay Wood 『Slingshot』

 


 

  Label: Captured Tracks/Mountain Records

 

  Release Date:  2022年7月15日


 

 Review

 

キャプチャード・トラックスから先週末にリリースされたジェイ・ウッドの『slingshot』は彼のデビュー作であるとともに、このインディペンデントレーベルの分岐点ともいえるような作品となる。

 

ジェイ・ウッドは、カナダのマニトバ州という白人中心のコミュニティーで育ったという。彼は、この作品の中で、ファンタジックなストーリー、実生活に根ざした黒人としてのアイデンティティの探求を音楽を通して表現しようと試みている。表向きには、サイケ・ソウルというジャンルが掲げられているが、この多義的なR&Bジャンルに象徴される幅広い表現が見いだされ、ヒップホップ、インディーロック、ファンク、サイケ、ジェイ・ウッドの多様な音楽のバックグランドが伺える。

 

そのクロスオーバー性は、サイケファンクの流儀ともいえ、トロ・イ・モアのような多彩なアプローチが展開されている。ジェイ・ウッドのソウルミュージックは、ファンカデリックやスライ・ストーンといった王道のファンクを下地にして、強いヒップホップ的な要素をそこに付け加えたものである。

 

アルバム発売前までは、ジョージ・フロイドの死に触発された「Shine」が収録されているので、バーティーズ・ストレンジの「Farm To Tabel」に近い作風かと思っていたが、この作品とはそれとまったく異なるR&Bである。確かに本作には、黒人としてのアイデンティティの探求というテーマが込められているように思えるが、バーティーズ・ストレンジほど深刻な雰囲気はない。メロウで聞きやすいソウルミュージックが麗しく展開されているので、リラックスした雰囲気を味わえる。それに加え、ジェイ・ウッドの楽曲は、DJのスクラッチ的なクールな手法により、アシッド・ハウスに近いコアな領域に踏み込んでいく場合もあり、取っ掛かりやすいアルバムであるとともに、すごく聴き応えのある内容に仕上がっているという印象を受ける。

 

このアルバムは現時点では、一般的な関心が薄く、海外メディアにも取り上げられていないのがとても残念でならない。アルバムの音楽には上記のような黒人として白人コミュニティーの中で生きること、そして近年、母親を亡くした哀しみという様々な人生のテーマも込められているが、それは押し付けがましいものではなく、ごく自然な形でこのアーティストの考えが取り入れられてい、親しみやすさがある。さらに、このアルバムには、ジェイ・ウッドのブラックミュージックの愛情に根ざした、このアーティストしか生み出すことの出来ない温もりのあふれたサイケ・ファンク、ディスコ・ソウル、ネオ・ソウル、ヒップホップの魅力が濃密に詰めこまれている。つまり、『Slingshot』は、心にじんわりと響くものであると共に、フロアで人を踊らせるエネルギーを持っており、一般的なリスナーの耳にもすぐに馴染む作品であると思える。

 

これまで、ニューヨークのキャプチャード・トラックスは、Wild Nothing,Mac de Marco、Beach Fossils,DIIVといった白人の良質なインディーロックアーティストの作品を中心にリリースし、所謂、”Nu Gaze”シーンの象徴的なレーベルとして日本でも認められてきたが、今後は、より多彩でバラエティに富んだカタログのリリースを計画している気配が感じられる。その新たな旅路の出発として、ジェイ・ウッドの「Slingsot」は、記念碑のような意味を持つ作品で、レーベルの最も重要な意義を持つリリースになると思われる。このインディペンデントレーベルからは、今後、ジェイ・ウッドの登場を契機とし、続々と魅力的な黒人アーティストの台頭が予感される。 

 

 

Featured Track 「Shine」 

 

 

 

 

Rating: 85/100 

 

 

Listen/Stream official:    

 

https://jaywood.ffm.to/slingshot.otw

 

 

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