「Ready To Ball」以降のトラックは、カッサ・オーバーオールのジャズへの深い理解とパーカッションへの親近感を表すラップソングが続いてゆく。リリックは迫力味があるが、比較的落ち着いており、その中に導入される民族音楽のパーカッションも甘美的なムードに包まれており、これが聞き手の心を捉えるはずだ。しかし、オーバーオールはオートチューンを掛けたボーカルをコーラスとして配置することにより、生真面目なサウンドを極力避け、自身の作風を親しみやすいポピュラーミュージックの範疇に留めている。オーバーオールは、音楽を単なる政治的なプロバガンダとして捉えることなく、ジャズのように、ゆったりと多くの人々に楽しんでもらいたい、またあるいは、その上で様々な問題について、聞き手が自分の領域に持ち帰った後にじっくりと考えてもらいたいと考えているのかもしれない。その中に時々感じ取ることが出来る悲哀や哀愁のような感覚は、不思議な余韻となり、心の奥深くに刻みこまれる場合もある。
このアルバムの魅力は前衛的な形式のみにとどまらない。その後、比較的親しみやすいポピュラー寄りのラップをNick Hakimがゲスト参加した「Make My Way Back Home」で披露している。Bad Bunnyのプエルトリコ・ラップにも近いリラックスした雰囲気があるが、オーバーオールのリリックは情感たっぷりで、ほのかな哀しみすら感じさせるが、聴いていて穏やかな気分に浸れる。
「The Lava Is Calm」も、カリブや地中海地域の音楽性を配し、古い時代のフィルム・ノワールのような通らしさを示している。ドラムンベースの要素を織り交ぜたベースラインの迫力が際立つトラックではあるが、カッサ・オーバーオールはラテン語のリリックを織り交ぜ、中南米のポピュラー音楽の雰囲気を表現しようとしている。これらの雑多な音楽に、オーバーオールは突然、古いモノクロ映画の音楽を恣意的に取り入れながら、時代性を撹乱させようと試みているように思える。そしてそれはたしかに、奇異な時間の中に聞き手を没入させるような魅惑にあふれている。もしかすると、20世紀のキューバの雰囲気を聡く感じ取るリスナーもいるかもしれない。
「No It Ain't」に続く三曲も基本的にはジャズの影響を織り交ぜたトラックとなっているが、やはり、旧来のニューオリンズのラグタイム・ジャズに近いノスタルジアが散りばめられている。そのうえで、クロスオーバーやハイブリッドとしての雑多性は強まり、「So Happy」ではアルゼンチン・タンゴのリズムと曲調を取り入れ、原初的な「踊りのための音楽」を提示している。このトラックに至ると、ややもすると単なる趣味趣向なのではなく、アーティストのルーツが南米にあるのではないかとも推察出来るようになる。それは音楽上の一つの形式に留まらず、人間としての原点がこれらの曲に反映されているように思えるからだ。
最初にも説明したように、タイトル曲、及び「Maybe We Can Stay」は連曲となっており、ラグタイム・ジャズの影響を反映させて、それを現代的なラップソングとしてどのように構築していくのか模索しているような気配もある。アルバムの最後に収録される「Going Up」では、ダブステップやベースラインの影響を交え、チルアウトに近い作風として昇華している。ただ、このアルバムは全体的に見ると、着想自体が散漫で、構想が破綻しているため、理想的な音楽とは言いがたいものがある。同情的に見ると、スケジュールが忙しいため、こういった乱雑な作風となってしまったのではないだろうか。アーティストには、今後、落ち着いた制作環境が必要となるかも知れない。
アルバムリリースに際してWarp Recordsと新たに契約を結んだKasa Overall(カッサ・オーバーオール)は、Lil B、Shabazz PalacesのIshmael Butler、Francis and the Lightsが参加した新曲「Going Up」を公開しました。『ANIMALS』は今週金曜日、5月26日にWarpからリリースされます。
BeyoncéがKendrick Lamarを起用し、彼女の最新作である『ルネッサンス』からカットされた「America Has a Problem」の新しいリミックスを制作しました。「私は名誉Beyhiveだ、その理由を見てみよう」とLamarはこのトラックでラップしている。この曲をご視聴は以下からどうぞ。
ASIAN KUNG-FU GENERATION の後藤正文氏が主催する「Apple Vinegar Music Award 2020」では '' Andless '' が特別賞を受賞。さらに、NBAの八村塁選手出演の大正製薬「リポビタンD」TVCM や、Netflixキャンペーンへの参加が話題になるなど、今年大注目のアーティス トと言える。
Jayda Gがニューシングル「Meant To Be」を公開しました。Ninja Tuneから6月9日に発売されるニューアルバム『Guy』の先行シングルです。以前、アーティストは「 Blue Light」をリリースしている。Jack Peñateとの共同プロデュースによるこの曲はチョッピーなディスコから、ハウスやポップへと移行しています。
この「Meant To Be」は、Jayda Gが、ブラジル人アーティストSeu JorgeとWu-TangのRZAによるオリジナル楽曲で構成された気候危機のドキュメンタリー映画「Blue Carbon」に出演時に発表された。
Killer Mikeは6月16日にLoma Vistaからリリースされるニューアルバム『Michael』から同時に2曲のビデオを公開しました。リードシングル「Don't Let the Devil」をビデオを第1部として、さらに「Motherless」を第2部として公開しています。両ビデオは下記よりご覧下さい。
そこで初めてグランドマスター・フラッシュ、カーティス・ブロウ、ホーディニを聴いたんだ。だから "DON'T LET THE DEVIL"のビデオをどうするか考えていたとき、ジェイミーがこの曲を作ってきてくれて、最後に泣いた。さらにクレイジーなのは、彼は「MOTHERLESS」でも僕らが何をしているのか知らなかったんだけど、それがマジックなんだと思う。
マイクは7月20日にニューヨークのApolloで行われる公演を含む、今後のツアーも予定しています。その後、Killer MikeとEl-Pのデュオ、Run The Jewelsは、この秋、結成10周年を記念したツアーを開催します。彼らは9月13日から16日までニューヨークのTerminal 5で公演を行います。
アトモスフィアの本質は、音楽的な羊飼いであり、人生というものを通して何世代にもわたってリスナーを導いてきた。2023年の最新アルバム『So Many Other Realities Exist Simultaneously』は、おそらくアトモスフィアにとってこれまでで最も個人的な作品を収録している。リードオフ・トラックの "Okay "は、リスナーを慰め、安心させることに重点を置いている。最近の作品よりも穏やかなアプローチでこの壮大なオデッセイは始まる。
「Dotted Lines」のような繊細なパニックから「In My Head」のようなあからさまな不安まで、各曲の不安は紛れもないものである。ただそのなかで涙が溢れてきたとえしても、「Still Life」のような曲で再び解決できる。
一方、「So Many Other Realities」のリズムはアトモスフィアのキャリアの中でも最も独創的だ。「In My Head」でのAntの遊び心溢れるパーカッションは、荒れ狂う楽曲の良いカウンターウェイトとして機能しており、「Holding My Breath」と「Bigger Pictures」でのドラムパターンは、Slugのフローに遊びを加え、このアルバムを牽引する不安感を強調する。
アトモスフィアのキャリアの中で最も新しいこのアルバムは、家族、兄弟愛、目的といった人生の最も意味のある部分を強調しているが、『So Many Other Realities』は、市民の不安でいっぱいになったパンデミックに疲れた社会の一般的な倦怠感からインスピレーションを得て、ある種のパラノイアを発掘した作品である。これらの曲の緊張感は手に取るようにわかるが、このアルバムが存在するだけで、最もストレスの多いエピファニーの根底にある希望が証明されるのである。
「In My Head」は、モダンなラテン音楽の気風を受けたラップソングだが、70年代周辺の懐古的な音楽の影響を反映させている。さらにデュオは、Bad Bunnyのように、レゲトンやアーバンフラメンコに近いノリを意識しつつも、オールドスクールの熱っぽい雰囲気をラップの中に織り混ぜている。続く「Crop Circles」は、その続編となっていて、アトモスフィアはサイケデリアの要素を交えた世界を探究する。トラックの中に挿入される逆再生のディレイは、AntのDJとしての技術の高さと、ターンテーブル回しのセンスの良さを感じ取ることができる。
アルバムの前半部は、アトモスフィアの多彩な音楽の背景を伺わせるヒップホップが展開されていく。これはデュオの旧作や前作のアルバム『Word?』とそれほど大きな差異はないように感じられる。ところが、中盤に差し掛かると、旧来のファンが意外に思うようなスタイルへと足取りを進める。特に、アルバムの中では前衛的なアプローチである「It Happened Last Morning」では、Kraftwerkやジャーマン・テクノと現代のラップミュージックを融合させ、前衛的な音楽を生み出している。Slugのライムは勇ましく希望に満ちている。
ループの要素を持つ女性ボーカルのセクシャリティーと、それとは相反するSlugの迫力があるフロウの融合は多幸感をもたらし、クライマックスのカオティックな展開へと劇的に引き継がれ、その最後には「Don’t Never Die」というフレーズが繰り返される。真夜中から明け方にかけてのダンスフロアのような狂乱の雰囲気にまみれた曲が終わり、静寂が訪れた後、リスナーは我にかえり、パンデミックの時代が背後に遠ざかったという事実を悟る。表向きにはダンサンブルな快楽性を重視した曲でありながら、哲学的な意味を持ち合わせた画期的なトラックだ。
以後、アルバムは二枚組の作品のような形で、無尽蔵のジャンルを網羅し、その後の展開へと抽象的なストーリー性を交えながら繋げられる。「Talk Talk」、「It Happened Last Morning」は同じくデュオのテクノ趣味が反映されている。さらに「Watercolors」では、エキゾチックな雰囲気を交えたラップミュージックが展開される。
「Holding My Breath」において、アトモスフィアは、オールドスクールヒップホップの魅力を呼び覚ます。この曲では、デュオのレゲエに対するリスペクトが捧げられ、Linton Kwesi Johnson(リントン・クェシ・ジョンソン)を彷彿とさせる古典的な風味のダブが展開される。デュオはバックビートに音色にリチューンをかけ、ジャンクな雰囲気を加味している。リズムやビートはジャマイカの音楽の基本形を準えているが、一方でトーンの揺らし方には画期的なものがある。
『So Many Other Realities』は重厚感があり、聴き応えも凄いが、何より大切なのは、レーベルが”Odyssey"と称するように、アトモスフィアの集大成に近い意味を持つ作品ということである。ニューヨークのアウトサイダー・アートの巨匠、Jackson Pollock(ジャクソン・ポロック)のアクション・ペインティングを想起させる前衛的なアートワークはもとより、タイトルに込められた”同じ瞬間には複数の現実が存在する”という複雑性を擁する哲学的なテーマもまた、このレコードの魅力をこの上なく高めているといえるのではないだろうか。
88/100
Weekend Featured Track「It Happened Last Morning」
現在、Atmosphere の最新作『So Many Other Realities Exist Simultaneously』は、Rhymesayers Entertainmentより発売中です。ご購入はストリーミングはこちらからどうぞ。
Kassa Overall(カッサ・オーバーロール)は、トランペッターのTheo Crokerをフィーチャーしたニューシングル「The Lava Is Calm」を公開しました。この曲は、Overallの近日発売予定のアルバム『ANIMALS』からのシングルとなり、これまでに「Ready to Ball」と「Make My Way Back Home」のトラックがプレビューされている。「The Lava Is Calm」は下記よりお聴きください。
一つの水溜まりを求めて争う二つの派閥によって生物の進化が起きたと表現される映画とは異なり現代ではこれが返って退化的だとする内容が書かれている。T-RazorのトラックとJoeの歌詞で繰り広げられる自然選択の効果を含まない偶発的な音楽的進化を体験できる。なお、今作ではJoe Cupertinoが初めて自身の楽曲に客演として同年代のHIP HOPクルーFlat Line Classicsの一員も務めるラッパーのSartを迎えている。
アートワークは3/29にリリースされた前作「Blast」同様、Joeが以前より交流があるイギリス人アーティストのkingcon2k11(過去にHudson MohawkeやToro y Moiなどの作品を手がけた)とオーストラリア人アーティストのShell Lucky Oceanの合作によるものである。
Joe Capertinoはさらに今後2ヶ月に及ぶ連続シングルのリリースなどの活動予定を発表している。
「What More Do You Want」では、"あなたは、さらに何を望むのか?"というフレーズを四度連呼し、聞き手を震え上がらせた後、ノイズ・インダストリアルとフリージャズの融合を通じて空前絶後のアバンギャルドな領域に踏み入れる。これらのノイズは、魔術的な音響を曲の中盤から終盤にかけて生み出すことに成功し、ジャーマン・プログレッシヴの最深部のソロアーティスト、Klaus Schulze(クラウス・シュルツェ)のようなアーティスティックな世界へと突入していきます。
ドラムのビートとDJセットのカオティックな融合は、主にビートやリズムを破壊するための役割を果たし、キングズレイのボーカル/スポークンワードの威力を高めさえします。このあたりで、リスナーの五感の深くにそれらの言葉がマインドセットのように刷り込まれ、全身が総毛立つような奇異な感覚が満ちはじめる。そう、リスナーは、この時、これまで一度も聴いた事がないアヴァンギャルド・ミュージックの極北を、「What More Do You Want」に見出すことになるのです。
その表現は「Where were you be?」という形で、この曲の中で印象的に幾度も繰り返され、それはまた、日頃、私たちがその真偽すら疑わない政治的なプロパガンダのように連続する。次いで、これらの言葉は、マイクロフォンを通じ録音という形で放たれた途端、聞き手側の心に刻みこまれ、その問いに対して無関心を装うことが出来なくなってしまう。そして自分のなかに、その問いに対する答えが見つからないことに絶句してしまう。 これはとても恐ろしいことなのです。
このアルバムは6月16日にリリースされ、2012年の「R.A.P. Music」以来、10年以上ぶりのソロ作品となり、Run The Jewelsの最新アルバム「RTJ4」は2020年にリリースされました。この新譜について簡潔な洞察を与えたマイクは、次のように説明している: 「RTJはX-MENで、これは僕のローガンだ」。
彼はまた、「Michael」の最初のプレビューとして、新曲「Don't Let The Devil」を公開しました。この曲にはRun The JewelsのパートナーであるEl-Pとthankugoodsirが参加しており、No I.D., El-P, Little Shalimarによってプロデュースされました。
「Don't Let The Devil」
Killer Mike 『Michael』
Tracklist
1. Down By Law
2. Shed Tears
3. RUN
4. N Rich
5. Talkin Dat SHIT!
6. Slummer
7. Scientists & Engineers
8. Two Days
9. Spaceship Views
10. Exit 9
11. Something For Junkies
12. Motherless
13. Don’t Let The Devil
14. High And Holy
米ジョージア州アトランタ出身のヒップホップ・アーティスト、J.I.Dの待望の初来日公演が今夏に決定しました。本公演は、2023年8月15日(火)に東京のduo MUSIC EXCHANGEにて開催されます。
このアルバムには初期シングル「Ready to Ball」をはじめ、Danny Brown、Wiki、Vijay Iyer、Shabazz Palaces、Lil B、Laura Mvula、Francis and the Lightsなどが参加している。新曲「Make My Way Back Home」は、Nick HakimとTheo Crokerが参加しており、付属のビデオも公開されています。下記をご覧ください。