ラベル Rap の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル Rap の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

 

Mckinly Dickson ©City Slang

 

今年6月にCity Slangから『Beloved! Paradise! Jazz!?』をリリースした後、現在、シカゴを拠点に活動するラッパー、McKinly Dickson(マッキンリー・ディクソン)は、ヒット・シングル「Run Run Run」で、同じアメリカ出身のラッパー、ブルーをコラボレーションに招いた。この作品はオリジナル・バージョンと合わせて2曲収録EPとして発売中である。ストリーミングはこちら



マッキンリーとブルーはともに、リリックの深みとパワフルな表現で知られている。このコンビはオリジナル・トラックの陽気でありながら物悲しい衝動と完璧にマッチしている。オリジナル・トラックの楽しげでありながら地味な緊迫感にぴったりであり、ニューシングルの発売についてもマッキンリーが11月2日にイギリスとヨーロッパで公演を行う前の絶好のタイミングとなった。



このコラボレーションシングルについて、マッキンリー・ディクソンは次のように語っている。

 

”Below The Heavens”は私の人生において極めて重要なポイントだったんだ。ラップ・ミュージックが表現方法として使えることを発見した瞬間だった!

 

あれから何年も経って、Bluが僕の曲でハングリーなサウンドを聴かせてくれるなんて光栄だよ。聴かせてくれたことを光栄に思う。



 

Atomosphere

 

ミネアポリスのラップ・デュオ、米国中西部のアンダーグランドヒップホップの担い手であるAtmosphereが新作『Talk Talk』EPを12月1日にリリース。Ant/Slugは、デュオとして長い期間活動し、これまで20作ものアルバムをリリースしている。デュオは今年、『So Many Other Realities Exist Simultaneously』を発表後、リイシュー「Sad Clown,Bad Dub」をリリースした。


最新作『Talk Talk EP』では、ミネアポリスのレジェンドが時空の糸を飛び越え、スラッグとアントが彼らの青春の礎となったエレクトロ・ラップの巨人となった場所を掴んでいる。クラフトワークやエジプシャン・ラヴァーのようなアーティストを呼び起こすことで、アトモスフィアは40年前の未来のヴィジョンを再び新しいものに見せている。


『Talk Talk EP』の始まりは、『So Many Other Realities Exist Simultaneously』に収録された同名の曲のセッションだった。リフター・プラー出身のバット・フラワーとのコラボレーション曲「Talk Talk」は、エレクトロ・クラシックと並んで、不気味の峡谷に存在し、そこはかとなく異質でありながら深く人間的な、ナイトクラブへと直結している。


この曲の仕上がりに魅了されたスラッグとアントが、このサウンドをより長く探求するために再び訪れ、魅惑的な結果をもたらした。脈打つ「Rotary Telephone」では、テレビのアンテナが私たちの世界とは少しずれた世界に向いているようで、スラッグの奔放なヴォーカルと曲の教えられた構成との間の緊張感が、曲の内容と完璧にマッチしている。そして "Hear Hear "では、人間的なつながりを作ろうと奮闘する姿を垣間見れる。


 

 

Atomsphere 『Talk Talk』EP

Tracklist: 

 

1.Wetter
     
2.Attachings
   
3.Rotary Telephone
    
4.Don't Mind Me

5.Where I'm/You're At
   
6.Talk Talk (feat. Bat Flower)
   
7.Hear Hear (feat. Bat Flower)
  
8.Hello Pete (feat. Buck 65 and Kool Keith)
    
9.Make Party Politics

10.Travelling Forever

 


 

Def.foが、フレッシュなトリップポップ・バンガー「Godly」を本日リリースします。(CD/Vinyleの予約等はこちらから)同時公開されたミュージック・ビデオを下記よりチェックしてみて下さい。

 

このニューシングルは、ソリッドなトリップホップ 、ストンプ・グルーヴ、Gファンク・アナログ、そして霞んだヴォーカルにより繰り広げられる、自己認識と宇宙的な繋がりの幽玄の旅である。

 

「Godly」は、人生の旅路を大切にし、自らを受け入れることを思い出させる。私たちを取り巻く環境に対する畏敬を込めたこの曲は、宇宙の中に一体感を見出し、神への深い感覚を得るべくリスナーを誘う。



プロダクションの指揮を執るのは、トム・パウエルとスティーヴ・パウエル(ザ・ストランズ、ジョン・パワー、ザ・ステアーズ)の共同親子チーム。

 

ミックスはロイ・マーチャント(Cold Cut、M.I.A、Kano)が担当。マスタリングは、ヒップホップ・クラシックの数々を手掛けた伝説的人物、ハウィー・ワインバーグ(De La Soul、Beastie Boys、Public Enemy)が担当している。

 

レコーディングでは、トム・パウエルがヴォーカル、ギター/ベースを担当し、ジェイク・ウッドワード(ノヴァ・ツインズ、ピーター・ペレット)のヘヴィなドラム・ビートも加わっている。



「Godly」

 

 

Def.fo is releasing the fresh trip-pop banger "Godly" today. (Click here to pre-order the CD/Vinyle, etc.) Check out the simultaneously released music video below.
 
The new single is an ethereal journey of self-awareness and cosmic connection, a solid trip-hop, stomping groove, G-funk analogs, and hazy vocals.
 
”Godly" reminds us to cherish the journey of life and embrace who we are. Awe-inspiring in its reverence for our surroundings, it invites the listener to find a sense of oneness within the universe and a deeper sense of the divine.

Production is helmed by the father-son team of Tom Powell and Steve Powell (The Strands, John Power, The Stairs).
 
The mix is by Roy Merchant (Cold Cut, M.I.A., and Kano). Mastering was done by the legendary Howie Weinberg (De La Soul, Beastie Boys, The Stairs), who has worked on many hip-hop classics.
 
The recording features vocals and guitar/bass by Tom Powell, with heavy drum beats by Jake Woodward (Nova Twins, Peter Perret).

©︎Peter Beste

デトロイトのラッパー、Danny Brownは、11月17日にWarpからリリースされる4年ぶりのソロ新作アルバム『Quaranta』の詳細を明らかにしました。リード・シングル「Tantor」は、アルケミストがプロデュースし、UNCANNYが監督したビデオ付きでリリースされる。ブラウンは新曲で、SF的な近未来の世界観とヒップホップを融合させ、アブストラクト・ヒップホップの新境地を開拓しようとしている。ミュージックビデオを以下よりチェックしてみて下さい。

 

そして、ブラウンの着ているシャツに注目。JPEGMAFIAも、以前、ビリー・ウッズと共同制作を行っていた時、Slayerのカットソーを着ていましたが、ダニー・ブラウンはブラック・メタルの大御所であるMayhemのシャツを着ています。ラッパーの間でメタルが流行っているのか。


さて、ダニー・ブラウンが何年も前から予告していたこの新作には、ブルーザー・ウルフ、カッサ・オーバーオール、MIKEがゲスト参加し、クエル・クリス、ポール・ホワイト、SKYWLKRらがプロデュース。この作品は、2019年の『Uknowhatimsayin¿』と3月にリリースされたJPEGMAFIAとのコラボレーション・アルバム『Scaring the Hoes』に続く作品となる。

 

 「Tantor」

 

 

 

Danny Brown  『Quaranta』



Label: WARP

Release:2023/11/17


Tracklist:


1. Quaranta

2. Tantor

3. Ain’t My Concern

4. Dark Sword Angel

5. Y.B.P. [feat. Bruiser Wolf]

6. Jenn’s Terrific Vacation [feat. Kassa Overall]

7. Down Wit It

8. Celibate [feat. MIKE]

9. Shakedown

10. Hanami

11. Bass Jam

 OMSB 『喜愛』 


 

Label: SUMMIT.Inc

Release: 2023/10/11


Review

 

 

約一年ぶりの発売となったOMSBの新作『喜哀』。昨年のアルバム『ALONE』は、Music Magazineのベストリスト入りをしている。当サイトでもベスト・アルバムとして紹介しました。前作では、「波の歌」「大衆」等、J-POP風の音楽性を取り入れながらも、リリックの中でハーフとして生きることや、人生の中での純粋な疑問を、みずからに説くかのような、また反対にリスナー側に問いかけるかのようなリリックを披露した。OMSBというラッパーの何が素晴らしいのかというのは、人生を生きる上で自分なりの課題や疑問を持っていること。そして、それをリリックに落とし込む力量を備えていること。多分、この二点に尽きるのではないかと思う。


最新作『喜哀』については、前作よりも内面的にふつふつと煮えたぎるフラストレーションをリリックに落とし込んでいる。それは、みずからの言葉に対して遠慮がなくなった、また、言葉が鮮明になったとも考えられる。OMSBのラップのスタイルは、ニューヨークのドリルとも、シカゴの2010年代のドリルとも、Mick Jenckins、McKinly Dicksonに象徴される現行のオルタナティヴ・ヒップホップとも、ロンドンのドリルとも違う。当然のことながら、Little Simzとも、KIller Mikeとも異なり、JPEGMAFIA/Billy Woodsのアブストラクト・ヒップホップの前衛的な手法とも異なる。どちらかと言えば、OMSBのリリック・スタイルは、北海道/札幌のThe Blue Herbの系譜に属しており、90年代からめんめんと続くJ-RAPの核心を突くアプローチなのである。そう、それほどリズムの複雑性を押し出さず、シンプルなビート/トラックを背後に日本語のリリックを駆使し、ナチュラルなフロウをかましていくのが、OMSBのスタイルなのである。

 

ただ、その中に、海外のヒップホップと共通点を見出すことが難しいかと思えば、そういうわけでもない。例えば、『喜哀』のオープニングを飾る「More Round」では、疾走感のあるビートを背後に、いわば「肩で風を切るようなフロウ」を展開している。これらのドライブ感のあるラップのビートに、Mckinly Dicksonの「Run Run Run」と同じ様なニュアンスを見出したとしても、それは多分錯覚ではあるまい。表向きにはドリルの形はほとんど見えないように感じるが、ドリルのフロウで展開される節回しを駆使し、トラックメイクの強固なグルーヴを味方につけて、サンプリング/チョップの要素を織り交ぜ、目くるめく様にアグレッシヴなラップを展開する。そして、リリックの中にも「風神 雷神」といったジャポニズムの影響を込めた日本語のリリックを織り交ぜ、町中をバイクで飛ばすように、軽快に風を切っていく。前作では、日本人というアイデンティティを探し求めるかのような表現も節々に見受けられたが、今回のオープニング・トラックでは、「日本人であるということが何なのか」を自ら示そうとしており、受動的な表現から主体的な表現へと切り替わったことに大きな驚きを覚える。彼のリリックは、日本人という感覚が希薄になった日本のアーティスト達をギョッとさせるのではないか?

 

同じようにまったく海外の現行のラップとはかけ離れたようでいて、「Hero Is Here」 ではギャンスタラップの影響を交えたラップが続く。例えば、Icecubeのような過激かつ激烈な表現性はそっくりそのままクライムへと直結するため、現代の米国のラッパーは、たとえそれが冗談にすぎないとしても、挑発的な表現や過激なリリックを極力控えるようになって来ている。シカゴのギャングスタの出身者でさえ、表向きにはハート・ウォーミングな内容の歌を歌うようになっているが、OMSBは、ギャングスタ・ラップに見受けられるエクストリームな表現を、ブラック・ミュージックの純粋な様式美と捉えているらしい。しかし、苛立ちやフラストレーションを込めたOMSBのリリックスタイルは、外側に対する攻撃性とはならず、「だめなやつほど、俺をありがたがる」という自虐的とも取れるシニカルな表現となっている。これが「ガキ使」等のリリックとともに、ちょっとしたコメディーのような乾いた笑いを誘う場合があるのだ。

 

OMSBは、ラッパーという表情の他に、無類のレコード・コレクターとしての一面をもつ。タイトルトラック「喜哀」は、彼のレコードへの愛着がチョップというスタイルに落とし込まれている。チルアウトらしき音源をサンプリングの元ネタとして、彼は過去の住んでいた街やダチへの愛着を歌っている。愛着は、それが過去に過ぎ去ったものであるため、そのまま悲哀に変わるというわけなのだ。しかし、前曲のギャングスタ・ラップとは対象的に、OMSBらしいマイルドなフロウが押し出され、チルアウトな雰囲気が曲全体にはわだかまっている。わだかまっているというのは、それが内面的なモヤモヤのような感じで停滞し、それが決して外側に出ていくことがないから。しかし、これが、夕暮れの新宿のゴールデン街や吉祥寺のハーモニカ横丁を歩くような寂寞感を誘い、そして不思議なノスタルジアへといざなっていく。この曲では、アーティストなりの哀愁がラップを通じて表されているとも考えられる。 曲の中からは、言葉遊びを取り入れながら、強固なウェイブを作り出し、声のサンプリングを織り交ぜながら、フロウという表現の持つ面白さを探求している。また、この曲でもギャグセンスが散りばめられ、「そろばん 習っとけ」というサンプリングが導入されるが、これはもしかすると、アーティストが過去に聴いた誰かからの言葉を「喜哀」という形で集約しているのかもしれない。

 

同じように、レゲエ、R&Bをサンプリングに落とし込んだ「Vision Quest」にもレコード愛好家の姿が垣間見える。しかし、哀愁に近い感覚を歌った前曲とは異なり、どことなく開放的な感覚を思わせる。ターンテーブルに慣れ親しんだDJのように、リアルなダンスフロアでレコードを変えていくかのように、曲調がくるくると移ろい変わっていくのが面白い。チルアウト風のイントロから、ブレイクビーツを多用したオールドスクールのヒップホップのスタイルに変化していく。そして、OMSBのフロウの背後に敷き詰められる音楽的な背景が矢継ぎ早に切り替わっていく中、彼は過去の追憶をリリックを通じてなめらかに表現する。ときには、「つまらん悩みを紙に書いたら 消えた」という表現を織り交ぜて、等身大のリアルな自己と到達すべき最高の自己を対比させたかと思えば、それとは別に、世俗的な自分をリアルに反映させ、「電車の窓から他人のセックスが見えないか」という個人的な欲望を織り交ぜる。音楽的には、レゲエのコーラスのサンプリングを取り入れ、リスナーを心地よいハーモニーの幻惑へと誘う。ブレイクビーツの手法には画期的なものがあり、しかもセンスよくフロウをかけあわせている。

 

「Tenci」は、おとぎ話のような語り口で始まる。しかし、OMSBは、これを子供向けのおとぎ話にするのではなく、大人向けの18禁のおとぎ話に仕立てている。ほとんどの語り手は、ピンサロの話から物語を膨らませていくことは至難の業であるが、彼は、独自のギャグセンスを織り交ぜて、これらの卑猥なストーリーをラップの中に上手く融解させていく。すごいと思うのは、普通のアーティストが避けるようなリアルな打ち明け話を、スムーズにリリックの中に収めこむ技術だ。しかし、イントロの赤裸々で猥雑なリリックは続いて、内的な苦悩を織り交ぜた歌詞に変化していく。むしろ前フリがセクシャルな内容であるからこそ、その内的な告白は信憑性を増す。音楽的にも、ガムランのようなインドネシアの民族音楽を背景に、しなやかに歌われるフロウは、「エスニック・ラップ」とも称すべき新鮮なスタイルを示している。ゲスト・ボーカルで参加した''赤人''のボーカルも、啓示的な雰囲気があり、歌謡とも演歌とも付かない奇妙なエキゾチズムを生み出している。二人のコラボレーターのユニークな感性の融合はラップ・ファンだけにとどまらず、一般的な音楽ファンにとっても新鮮に映るものがあるだろう。

 

アルバムの最後にも注目曲が収録されている。以後の2曲は、DJセットの後のクールダウンの時間を設けたかったというような意図を感じ取れる。「Sai」は、ロレイン・ジェイムスやトロ・イ・モアのようなエレクトロニック/チルウェイブを繊細な感覚と結びつけて、序盤の印象とは異なる切ない情感を表現している。シンプルなループ・サウンドではありながら、その中には緩急があり、夕暮れ時に感じるような詩情や切ない感情をLofi-Hopのスタイルに昇華している。「Blood」では、ソウルとヒップホップの融合というDe La Soulの古典的なスタイルを継承している。アルバムのクロージング・トラック「Mement Mori Again」は、果たして映画に触発された内容なのか。フィルム・ノワールの影響を込め、サックスのソフトウェア音源を取り入れたシネマティックなラップを示し、タイトル曲「喜哀」と同音異義語である「気合」を表現している。最後のトラックでは、OMSBのパーソナリティな決意表明とも取れる、信頼感溢れるリリックが展開される。しかし、その言葉は上滑りになることはない。ヒップホップ・ファンとしては、OMSBというJ-Rapの象徴的な存在に対して、一方ならぬ期待感を覚えてしまう。

 

 

86/100


 

 Featured Track 「喜哀」



ニューヨークのラッパー、MIKEがニュー・アルバム『Burning Desire』をサプライズ・リリースした。この新作は、Alchemist,Wikiとの共同制作名義のアルバムのリリースに続く作品である。

 

このアルバムは、24曲からなる大作であり、MIKEのアブストラクト・ラップが今なお新鮮であることを思い出させてくれる。

 

MIKE流に言えば、彼は太陽の光を浴びたジャズやソウルのサンプルに、意識の流れに沿った叫びを叩きつけ、そのすべてが渦を巻き、心を揺さぶるような作品に仕上がっている。

 

レコーディングには、アール・スウェットシャツ、ラリー・ジューン、Liv.e、Niontay、エル・クストー、ブルックリンのサイケロックバンド、クラムのライラ・ラマーニ、UKのシンガーソングライター、マーク・ウィリアム・ルイスが招かれている。MIKEはさらにアレックス・ハギンズが監督した「What U Say U Are」のビデオも公開している。下記よりご覧下さい。


MIKEは、アール・スウェットシャツ&ザ・アルケミストの秋のツアー(11/22のニューヨークのブルックリン・スティールを含む)のオープニングを務める。2024年の北米とヨーロッパでのヘッドライナー・ツアーも発表したばかり。

 

 「What U Say U Are」

 

 

 

Lucas Creighton


ブロックハンプトンの創始者、Kevin Abstract(ケヴィン・アブストラクト)が、ニュー・アルバム『Branket』を発表した。

 

2019年の『アリゾナ・ベイビー』に続くこのアルバムは、プロデューサーのロミル・ヘムナーニとマルチ・インストゥルメンタリストのジョナ・アブラハムと共に制作された。11月3日にVideo Store/RCA Recordsからリリースされる。「GUM」と呼ばれる1分間のプレビューを以下でチェックしよう。


「サニー・デイ・リアル・エステート、ニルヴァーナ、モデスト・マウスのようなレコードを作りたかった。でも、ラップ・アルバムのようにヒットさせたい思いもあった」 

 





Kevin Abstract 『Branket』





プエルトリコの大スター、バッド・バニーがニューシングル「Un Preview」をリリースした。TainyとLa Pacienciaとの共同プロデュースにより制作された。Stillzが監督したビデオは以下から。


「Un Preview」は、バッド・バニーが5月にフランク・オーシャン、リル・ウージー・ヴェルト、ドミニク・ファイクらをフィーチャーしたビデオとともにリリースした「Where She Goes」に続くシングルだ。また、「K-POP」ではトラヴィス・スコットとザ・ウィークエンドと共演している。


 

©Alexander Richter


ニューヨークのラッパー、billy woodsとELUCIDのデュオ、Armand Hammer(アーマンド・ハマー)が、Run the JewelsのEl-Pがプロデュースした新曲「The Gods Must Be Crazy」を公開した。

 

この曲は、今週金曜日(9月29日)にリリースされる彼らのアルバム『We Buy Diabetic Test Strips』からの最新シングル。これまでにリリースされたシングル「Woke Up and Asked Siri How I'm Gonna Die」「Trauma Mic」が収録されている。以下よりチェックしてほしい。


「woodsとELUCIDは特別な関係にあり、このジャムで一緒になれたことを嬉しく思っているよ。僕たちはバンガーを作ったと思うな」

 

 

 「The Gods Must Be Crazy」


キラー・マイクが6月に発表したソロ・アルバムのデラックス・エディション『MICHAEL DELUXE』を発表した。新作は来週9月15日(金)にリリースされる。マイクはこの発表を記念して、T.I.、JID、Jacqueesをフィーチャーしたボーナストラック「Maynard Vignette 」を公開している。


『MICHAEL DELUXE』には、『MICHAEL』(レビューはこちらより)を構成するオリジナルのトラックリストに加え、新たに4曲のボーナス・トラックが収録される:「メイナード・ヴィネット」、「YES」、「ゲット・サム・マネー」、「アクト・アップ」だ。プレスリリースによると、これは "ディレクターズ・カット "のようなもので、マイクが最初のリリースのために削ぎ落としたより簡潔なヴァージョンをさらに拡大したものだという。さらに、待望のヴァイナル盤とCD盤が予約受付中で、フィジカル・フォーマットで楽曲を入手できる。


"メイナード・ヴィネット "は、洗練されたピアノで装飾されたインストゥルメンタルとトーンダウンしたテンポをバックに、マイクのメロウな側面にスポットライトを当てている。彼とJID、T.I.が交互にヴァースを担当し、Jacqueesの滑らかなヴォーカルがコーラスを担当している。


「Maynard Vignette」


 

JPEGMAFIAがプロデュースしたこの曲は、ピンク・シーフ(Pink Siifu)をフィーチャーし、DJ ハラムがプロデュースしたアーマンド・ハマーの前シングル「Trauma Mic」に続く作品である。両曲とも、デュオの待望のアルバム『We Buy Diabetic Test Strips』からのリリースである。


JPEGMAFIAとのコラボレーションの過程、そして、「Woke Up and Asked Siri How I'm Gonna Die」がアルバム制作の原動力となったことについて、ビリー・ウッドは次のように書いている。というのも、いくつかのトラックは、ドープなヴァースと本当に良いビートと素晴らしいフックを備えていて、曲は本当にドープでクールなんだ。それは確かに勝利だけど、他の曲もあるんだ」


彼は続ける。「全てのパーツがユニークな軌道を描いて渦を巻き、お互いを高め合い、突然全体が浮遊するような曲だ。錬金術。卑金属が金に変わるなど。新しい創造の旅に出るとき、私はいつもその瞬間を待ってるんだ。その紛れもない道しるべを・・・。『We Buy Diabetic Test Strips』では、そのような瞬間が少なからずあった。その回のテイクで、ああ、これだ、と思ったんだ」


アーマンド・ハマーのアルバム『We Buy Diabetic Test Strips』は、2021年にアルケミストがプロデュースした『Haram』に続く作品ではあるが、生楽器を取り入れ、El-P、JPEGMAFIA、Kenny Segal、DJ Haram、Black Noi$e、さらにゲスト・ヴォーカリストとしてPink Siifu、Moor Mother、Junglepussy、Cavalier、Curly Castro、Moneynicca(フィリー・パンク・バンドSoul Glo)ら革新的なプロデューサーを起用した全く異なる作品となっている。


さらに、ジャズの名手シャバカ・ハッチングスがフルートで登場し、ELUCIDとエンジニアのウィリー・グリーンと共にジャム・セッションを行い、『We Buy Diabetic Test Strips』の礎を築いたミュージシャンでもある。

 


「Woke Up and Asked Siri How I'm Gonna Die」



Weekly Music Feature


Mick Jenkins



Mick Jenkins Via Facebook
 


シカゴのラッパー、ミック・ジェンキンスがRBCレコードと新たなレコーディング契約を結び、8月18日にRBCレコード/BMGからニュー・スタジオ・アルバム『ザ・ペイシェンス』をリリースする。


ニューアルバムについてジェンキンスは、「忍耐……。できる限り、自分の状況を変えるために力の及ぶ範囲であらゆることをする人間です。ある程度の一貫性があれば、その行動は必然的に待たなければならないポイントにたどり着くと思うんだ。自分を前進させるために必要なことが、もはや自分の手には負えないという時点のこと。筋肉の断裂と修復、芸術的な意図とはまったく無縁の瞬間に訪れるコンセプトの理解など。このような瞬間に、私は忍耐に対して最も苛立ちを覚えるんだ。そして、この作品群は、そのフラストレーションのように聞こえる」


アラバマ生まれで、シカゴ育ちのラッパー、ジェンキンズは、過去10年にわたり、淡々とした明晰な眼差しの詩情溢れる音楽で名を馳せてきた。

 

ジェンキンスの作品群は、彼の若きベテランとしての地位を反映している。2014年のミックステープ『The Water[s]』でブレイクした彼は、そのミックステープのリリース以来、3枚のフルレングス・アルバムと4枚のEPを発表し、現代で最も器用なリリシストのひとりとしての地位を確立した。

 

『ザ・ペイシェンス』は、まだ若く、芸術的な力を存分に発揮しているアーティストのサウンドであり、この地点に到達するまでに費やした年月によって衰えはしたが、その継続的なバイタリティを証明することに躍起になっている。その結果、ジェンキンスにとって最も切迫した芸術的声明となった。


ジェンキンスはアルバムごとに異なるテーマを掲げて来た。そして、彼は自分にいつもこう言い聞かせる。「次はどんなアルバムを作るのか?」前回のアルバム制作時には、リリースの締切まで1週間というクレイジーな日程をこなした。ジェンキンスは自分の置かれた状況から抜け出してから、再び、「次はどうするか」という瞬間が訪れた。やはり答えは音楽だった。『エレファント・イン・ザ・ルーム』がリリースされ、契約が終了した後、彼が企てたのは創造だった。 


「その間、たくさんの音楽を作っていた。契約する前にラップを辞めたり、苦境に立たされたり、どんな状況に陥っても忍耐を持ち続けようと自分に言ってきたんだ。レーベルからフリーになって、BMGで新しい状況を見つけたとき、フリーになる6ヶ月前から話していたんだ。よし、この日が来れば、このクソが走り出すぞ 、と思っていたんだ。それからさらに9ヵ月かかった。俺は、この2年間、レーベルと関わったり、音楽を作ったりせずに過ごした。まだいくらか待ち続ける必要があった」


「その間、俺から見たものは、フィーチャリングばかりだった。EPを出すこともできた。準備はできていたし、曲もたくさんあった。曲を作ることもできた。でも、やりたいことは、より高いレベルにするということで、そのために、高いレベルでやるための資金とリソースを手に入れるまでじっと待つ必要があった。ただ、より多くの音楽をドロップしようとしている。それはたしかに素晴らしいことだけど、すでにやっていたことなんだ。だから、より高いレベルで活動するためには、自分自身に、”いや、全然まだだ”とプレッシャーをかける必要があるんだ」


新しいレベルの自由を得て、ジェンキンスは最新プロジェクト『ザ・ペイシェンス』を制作している。彼は今作のインスピレーションをバスケットボールに譬えて説明している


「どんな分野に足を踏み入れても、どんなに優れていても、学ぶべきことはたくさんあるという考えには忍耐が必要だ。勝ち点を40落としたとしても、勝つために必要なことを学ばなければならない。実力は関係ない。知識を得たら、あとはそれをどう応用するかなんだ。どこで、どのように潮の満ち引きが必要なのか、この理論の応用が白黒はっきりしないのはどこなのか。でも、それは現場に行ってみないとわからない。実力とはまったく関係ないことだってある。音楽を作ることと関連するとは限らない。その方法を学ばなければならない。バスケットボールの世界には、あなたを左右するものがたくさんある。その94本の足がどれだけ優れているかとは関係のない、他の人たちにとっての自分のポジションを切り開くことになる。お金と出場時間に影響するんだよ(笑)」


「そのようなスペースをどのようにナビゲートするかを学ぶ必要があった。得点できるという事実以上に、そのスペースでベストを尽くす方法を学ばなければいけないんだ。僕はラップのスコアラーで、一日中バーを持っている。でも、それ以上に操り方を学ばなければならないことがたくさんある。外に出ることを学び、人々と一緒に仕事ができるようなコミュニケーションの取り方を学ぶ必要がある。ある方法を示さなければならない。あるやり方で、あるやり方をしなければならない。そのプロセスを忍耐強くやり遂げるというのが、私が1番言いたいことなんだ。タイトルを見た人は、私が忍耐について説いていると思うかもしれないね(笑) いや、そうではなくて、これはちょっとしたフラストレーションを指している。この時期がそうだったし、多くの場合、忍耐強くなければならないというのは、そういうことだと思うんだよね」 



Mick Jenkins 『The Patience』  RBC /BMG

 

先週のNonameに続いて、シカゴの最良のラップ・ミュージックをご紹介致します。ミック・ジェンキンスは、デビュー・アルバム以来の10年は、ほとんど経済的、あるいは、クリエイティヴの面で切迫した状況で制作を続けてきた。

 

今回、メジャー・レーベル移籍第一弾となるアルバム『The Patience』では、シンプルに商業的な面での援助により、これまで平均して6万ドルの制作費だったが、今回、それを上回る費用がレコーディングに充てられた。しかし、問題なのは、4作目のアルバム『The Patience』は最も過激で、アグレッシヴで、赤裸々で、自分自身であることを恐れぬ作品となっている。そして、メジャーレーベルへの移籍でマイルドな音楽になるどころか、その舌鋒の鋭さは増しており、2010年代のシカゴ・ドリルが世界的に普及していった時代に比する、苛烈な雰囲気が込められている。


ミック・ジェンキンスがラップを始めたのはそれほど早くなかった。アラバマの大学に入ってから、ラップを始めた。(これは彼と一度、共同制作をしている、ロンドンの大学で学んだ日本人のラッパー、Daichi Yamamoto{ダイチ・ヤマモト}と共通する。)そして、ジェンキンスは、学生時代のラップのコンテストの賞品として貰い受けたヘッドフォンを使い、音楽を制作してきた。彼は同時に、現在では主流のストリーミングではない、Soundcloudを介して楽曲のテストをしてきた。そして、音楽を探すのも、このストリーミング・サービスを通してである。

 

音楽のテーマから言うと、デビューアルバム『The Water(S)』の時代から、黒人として生きることの葛藤、警察の横暴を鋭く描いた。二作目のアルバム「Piece Of A Man』では、ジル・スコットの1971年のデビュー作のオマージュを行い、三作目のアルバム『Elphant Is The Room』では、R&Bやジャズに依拠し、みずからの家族との関係等に焦点を当てるなど、作品ごとにそのテーマを様変わりさせてきた。


こう言うと、 ジェンキンスがいつもコンセプトアルバムを制作してきたと思うかもしれないが、実は、そうではないようだ。彼はより良いものを作りたいと思うだけで、最善の環境の中で最善の音楽を作り、ラップしてきた。その真摯なスタンスはもちろん、メジャー・レーベル移籍後の第一作でも変わることがない。

 

アルバムのプロデューサーは、Nonameの『Sundial』でも名をクレジットされたバーグ、アルケミストとマッドリブに影響を受けたニューヨークのプロデューサー、ストイックが手掛けている。

 

近年、ジャズとヒップホップの融合に取り組んで来たミック・ジェンキンスではあるが、アルバムのオープニング「Michelin Star」のイントロでは、従来の音楽性が引き継がれている。そして、以前よりも制作費を掛けたこともあって、大掛かりで映画的なプロダクションがなされているという指摘もある。 

 

 

「Michelin Star」

 

 

 #1「Mickelin Star」のオープニングのイントロを見て分かる通り、本作は最初こそジャズ風のくつろいだサンプリング/チョップを配したメロウな感じで始まるが、その後、シカゴ・ドリルの最盛期を思わせるアグレッシヴなリリック/フロウが展開されていく。ジェンキンスは、過去の作品でも行っていたジェームス・ブラウンの「Ah」という掛け声を起点にし、一息に捲し立てるようなラップで聞き手を圧倒する。これまでの旧作を聴いたかぎり、これほど前のめりで激しい印象をもたらす彼のリリックは聴いた覚えがない。その上に、バレアリックやサマーチル風の女性コーラスや、ソウルの影響を部分的に配し、爽快感のあるリリックを展開させる。いわば、ドープな瞬間とメロウな瞬間が混在する、異質なオルト・ヒップホップの世界観が生み出されている。このラップ・ミュージックは明らかに今までありそうでなかった形式なのだ。


インディアナのラッパー、Freddie Gibbsが参加した#2「Show & Tell」では、トリップ・ホップとシカゴ・ドリルの融合を図っている。昨年のケンドリック・ラマーの最新アルバム『Mr. Morales & The Big Steppers』でのBeth Gibbonsの参加を見ても分かる通り、地域を問わず、今や米国のラッパーは、ブリストルのトリップ・ホップの影響をUSラップの中に取り入れようとしている。 蠱惑的なブリストル・サウンドを下地にしたトラックに乗せられる、ジェンキンスのフロウは、中盤にかけて、神がかったドープな領域へと突入している。ギャングスタ・ラップのように過激な雰囲気もあるにせよ、曲自体はしっとりとしたソウルに近い概観に彩られている。 

 

#3「Sitting Ducks」では、エレクトロニックとラップのクロスオーバーに取り組んでいる。例えば、エレクトロニック寄りのラップは、2018年の『Piece Of a Man』に収録されていた「Gwedolynn's Apprehension」でも示されており、改めてこの形式を踏襲している。バック・トラックに関しては、Warp Recordsのアーティストの制作するようなIDM(Intelligence Dance Music)ではありながら、リズム・トラックに接して対比的に歌われるジェンキンスのラップは、シカゴのラッパー、Defceeのスタイルに近い。

 

これらのラップ・バトルに触発されたリリックとIDMの融合は、きわめて新鮮な印象をもたらす場合がある。ジェンキンスは、このトラックにおいて、自らフロウの特徴ある低音から中音域を漂うリリックを披露しているが、コラボレーターとして参加したBenny The Butcherはそれより少し低いフロウを披露し、曲全体に安定感と落ち着きを与えている。リリックには、過激なスラングが含まれるが、他方、聴かせる要素もある。言葉こそエクストリームなニュアンスも込められてはいるにせよ、感情のバランスが抑制され、奇妙なバランス感と音感に支えられている。

 

#4「Smoke Break-Dance」には、アトランタのラッパー、JIDが参加している。この曲では煙草(隠語)について歌われている。レコーディング中、JIDは吸っていたというが、ジェンキンスは吸っていなかったという。両者の友人関係によくあるようなスモークに関する、親密なやり取りが繰り広げられている。この曲は、ジャズを基調にしていて、JIDのリリックがリラックス感を与える。JIDのスポークンワードは、曲の途中で歌に近くなり、明確な音程を込めて歌われる。ラップには音程がないという固定概念を覆す、画期的なトラックである。 

 

「007」



アルバムの中盤に収録されている#5「007」から、よりシネマティックな効果を交えたダイナミックなヒップホップへと移行していく。正確に言うと、ピアノや金管楽器のチョップの技法を交えた摩訶不思議な世界へと突入する。ソウル/ジャズをサンプリングとして処理したイントロは感嘆に値するものがあり、ピアノのグリッサンドなどを交え、覇気のあるジェンキンスのフロウが鮮烈な印象を放つ。サックスの断片的なサンプリングは、ジェンキンスのボーカルにゴージャスかつラクジュアリーな雰囲気を付加している。バックトラックに対し、ジェンキンスは、抑揚のあるフロウを展開させる。聴いていて、健やかな気分になり、また、晴れやかな気分になりそうな一曲だ。もちろん、この曲の中に漂っているジャジーな雰囲気は、前作から一貫して彼が追い求めてきた作風であり、それが最終形態として完成をみた瞬間と言えるだろうか。           


アルバムの衝撃的なハイライトは、この2曲後に訪れる。最初の山場は、#6「2004」で到来する。シカゴ・ドリルの最もコアなリズムやパーカッションを継承し、それをブレイク(休符)を挟みながら展開させるジェンキンスのフロウに注目しておきたい。言うなれば、Chicago-Drillの未来形であるStop & Goのスタイルを通して、モダンなラップの最高峰へとジェンキンスは上り詰めようとしている。ここでは、迫力のあるリリックにも刮目すべきだが、その一方で、リズム的な側面からもタメの効いた言葉が、ブレイク(休符)の後に堰を切ったかのように放たれる瞬間は、ほとんど崇高さすら感じさせる。また、咳払いをリズム風に配し、女性ボーカルのサンプリングやシンセのシークエンスを実験的に配し、アヴァンギャルドかつミステリアスな雰囲気をもたらしている。「Motherf○cker」等を始めとするリリックやフロウの過激さは十分である。彼は、2010年代のChief KEEFに象徴されるシカゴのギャングスタ・ラップのハードコア・カルチャーを受け継ぎ、この曲において現代のヒップホップの禁忌に挑んだと言えるだろう。 

 

#7「ROY G. BIV」では、このプロデューサーらしいサイケデリックな性格と、ミニマルな要素が絡み合い、スタイリッシュなヒップホップが生み出された。短いシンセのスニペットを反復させ、それをなだらかなバックトラックとしてアウトプットし、そのビートの上をジェンキンスのフロウが軽やかに舞う。ダンス・ミュージックとラップの中間域を意識した楽曲であり、アルバムの中では最も聴きやすく、軽やかな感じの一曲として楽しむことができるはずだ。 

 

「Pasta」
 

 

 

#8「Pasta」は、先に紹介した「007」、「2004」と併せて今年度のヒップホップのベスト・トラックに挙げても違和感がない。従来の作品の中で最も過激なフロウをジェンキンスは披露している。ここでは、近年、溜め込んでいたフラストレーションが一気に解き放たれている。イントロでは、エミネムの時代からDefceeの時代に至るまでの新旧のラップから、現代のシカゴ・ドリルまでをシームレスに往来している。バック・トラックの金管楽器のサンプリングから、エレクトロのスニペットに至るまで、すべてが完璧だが、ジェンキンスの叫びに近い激情的なフロウは圧巻というよりほかない。これまで、繊細なものから、それとは逆の激しいものまで、感情の振れ幅の広いラップを探求して来たアーティストの渾身の一曲がここに誕生している。

 

最もエクストリームな瞬間を経たのち、いくらかマイルドなヒップホップへと移行していく。続く「Farm To Table」は、昨年、4ADからアルバムを発表したBartees Strangeと同名のタイトルで、それに因んだ曲だろうか? この曲ではジャズという局面を通し、スタイリッシュなラップで聞き手の耳をクールダウンさせる。オープナー「Michelin Star」と同様、ジェイムス・ブラウン風の叫びも、最早、アーティストのラップの主要なスタイルになりつつあるといえる。また、この曲は、アルバムの序盤の収録曲と同じく、中音域を揺らめく比較的落ち着いたフロウが最たる魅力となっている。コラボレーター、VIC MENSAのラップは、メロウな性格を及ぼしている。現代のラップとネオソウルのクロスオーバーという流行のスタイルを楽しめるはずだ。

 

アルバムの終盤に至っても、一貫して、これらの緊張感は途切れることがない。それどころか、「Guapanese」では、より深みのあるラップが繰り広げられ、「Pasta」、「2004」と並んで強固な印象を残す。ピアノの短いインプロバイゼーションをサンプリングとして処理し、それをジャズ風の曲調として昇華している。ジェンキンスは時おり悲哀を滲ませ、ハリのあるリリックを展開させる。突如、その中に生ずるブレイク(休符)は、心の中に生じた空虚な間隙のようだ。しかし、リリックの節々に漂う悲しみは渋さと深みを兼ね備え、胸にグッと迫って来る。

 

アウトロ「Mop」も圧巻というよりほかない。イントロから中盤まで、さらりとしたリリックが展開されるが、その後、悲哀に満ちた呟きが続いている。曲の最後では、ラップが徐々に途絶えていき、最後にジェンキンスの言葉がくっきりと浮かび上がり、その中に奇妙な余白を生じさせている。

 

この十年間、アーティストは、より良い作品を希求しながらも、大きな波がやって来るのを今か今かと待ちつづけてきた。いわば「忍耐」というのは、本作の制作期間を表するものではなく、この作品以前の10年を象徴するものであった。そして、その忍耐は、彼がアラバマでラップを始めた瞬間に始まった。それから彼は、ようやく答えに辿り着いた。3つのアルバムを経て、いよいよ機は熟した。ついに最高傑作『The Patience』が生み出されることになったのだ。

 

 

97/100

 

 

Mick Jenkinsの新作アルバム『The Patience』はRBC/BMGより発売中です。ストリーミング等はこちらより。



ジャミーラ・ウッズ(Jamila Woods)が、近日発売予定の3rdアルバム『Water Made Us』からセカンド・シングル「Boomerang」を発表しました。

 

リード・カット「Tiny Garden」(duenditaをフィーチャリング)に続くこの曲は、ジョーダン・フェルプスとヴィンセント・マーテルが監督したビデオ付き。以下よりチェックしてみましょう。


「この曲は、去年のロンドンのある日、Nao、GRADES、George Mooreと一緒に書いたんです。ナオと一緒に仕事をし、彼女のコラボレーターに会い、彼らの相乗効果を感じることができたのは素晴らしかったよ。この曲は、あなたの人生を通して、何度も繰り返し現れるような関係、あなたが誰かに抱く磁気的な愛着、そして "私たちはそうなるのか、ならないのか?"と考えることから来る興奮と不安について歌った曲なんです」


Jamila Woodsのニューアルバム『Water Made Us』は、10月13日にJajaguwarからリリース予定です。

 

「Boomerang」



Nonameは、イメージ主導の物語とキャッチーなフックを散りばめた器用なラップ・スタイルで知られる。彼女は社会政治を意識したラッパーに成長した。資本主義、反黒人主義、警察の残虐行為、帝国主義など、黒人に対する疎外が交差するあらゆるものを定期的に批判しています。
 
Nonameは特に、不公平を論じ、それに立ち向かう作品を読むことを会員に奨励するノナム・ブック・クラブを運営している。また、投獄されている人々のための読書プログラムも定期的に行っている。2021年、ノナムは『ローリング・ストーン』誌の取材に対し、ファクトリー・ベイビーと名付けた次のプロジェクトについて、より "過激で、より有益で、より解決志向 "なものになると語っている。

Nonameのアルバム『Sundial』は、コモン、ビリー・ウッズ、ジェイ・エレクトロニカ、エリン・アレン・ケイン、$ミルク・マネー、アヨニなどが参加している。


当初7月リリース予定だった『Sundial』は翌月に発売が見送られた。ファティマ・ニエマ・ワーナー出身のノナメがジェイ・エレクトロニカとエリン・アレン・ケインをフィーチャーしたリード・シングル「Balloons」のリリースを予告した数日後に延期が決定した。これは、批評家たちがエレクトロニカの反ユダヤ主義的見解の疑いで、ワーナーの決定に異議を唱えた後、ワーナーはツイッターでエレクトロニカを擁護し、Sundialを棚上げにすると脅した出来事に端を発している。


ワーナーは、削除されたツイートの中で、"y'all don't want the album.'' 別のツイートには、ああ、歌のファ・ショが出るんだ(笑)。アルバムはまた別の話だ。選択的暴挙はいいよ。とにかく、ヒップホップは素晴らしい場所にいるのだし、もうNonameのアルバムは必要ないだろう」と書かれていた。

 

さらに、一部のTwitterユーザーを "woke mob "のメンバーと呼び、ワーナーはこうツイートしていた。「ジェイを自分の曲に選んだことについて、多くの批評を目にした。彼の政治的、宗教的信条に同意できないのなら構わない。しかし、何百万人もの人々を絶滅させた責任者である彼をヒットラーと比較するのは、私にとっては乱暴なことだ。本当にそんなに深くはないだろう」

 


『Sudial』/ AWAL
 

 

見ての通り、アルバム・ジャケットについては強い主張性があるので、嫌悪感を覚える人も中にはいるかもしれません。とにかく、一部でセンセーショナルな議論を呼び起こしそうなアルバムです。2021年の段階で、新作自体の構想は明らかにされていたとのことですが、一ヶ月発売が繰り越しになっている。また、アルバムのアートワークは発売前に公表されておらず、先日、アーティスト自身がフェイスブックの公式アカウントでその全貌がようやく明らかとなった。


ワーナー側の発言に関しても、喧々諤々の議論を呼び起こす可能性がある。しかし、翻訳を通じて、その文脈を理解したふりをしてもっともらしくものを言うのは誤解を招くおそれがあるので、ここでは極力触れないでおきたい。というのは、音楽に関しては、その限りではないと思いますが、部外者として、ブラックネス、レリジョンに関する突っ込んだ意見や、ファッショ/ナチズムに関する直接的な提言は、できるかぎり控えたいと思っています。例外的に、政治に関する意見を交える場合もありますが、ここは基本的には音楽についてのみ語る場所なのです。

 

ところが、アーティスト自身の政治的な主張がどうであれ、音楽として見るかぎり、Nonameの『Sundial』は素晴らしい内容であると認めなければならない。「Dope」という意見もネットに挙がっているように、クールなアルバムであることには相違ありません。そして、ポリティカルな先入観を交えてアルバムを聴くと損をしてしまう。というか、トラップの作品としては聴きごたえがある。そして、この音楽は本物であるがゆえ、嫌厭される可能性があるかもしれない。


さて、Nonameは、シカゴのヒップホップシーンから出てきたアーティストであり、チャンス・ザ・ラッパーが評価したことで知られ、カニエ・ウェストに強い影響を受けている。また、同地のMick Jenkins、さらに、Sabaとの仕事をみる範囲では、シカゴのラップ・シーンと強いコネクションを持つ。


Faderのインタビューによると、Nonameと彼女が名乗るようになったのは、「ラベルに縛られたくない」という思いがあったから。「ラベルには興味がないし、服装にもあまり興味がない」という。また、Nonameはブランドの服を着ない。そして、自らの存在を規定する名前がないからこそ、イマジネーションが広がるともいう。さらに次のように彼女は語っている。「名がないからこそ、看護婦になる可能性もあるし、脚本家になる可能性もある」と。さらに彼女は続けている。「より実存的なレベルで、芸術やその他の存在の一つのカテゴリーに限定されることはありません」

 

もうひとつ、Nonameをより良く知る上で、抑えておきたい点は、彼女の音楽が文学に親和性があるということだろう。これは、City Slangのマッキンリー・ディクソンと共通するものがある。 Nonameはトム・モリソンのファンで、実際に曲の中に見られる歌詞は、ニーナ・シモンに触発されている。また、パトリシア・スミスという詩人も好きであるという。彼女の母親は、20年ほど書店を経営しており、彼女の母が父と出会ったのは、書店を通じてだった。実際、幼い頃のNonameは本を読むのがそれほど好きではなかったというが、高校生の時に人生が変わった。彼女はその時、こんなふうに思ったという。「なんてことだろう、文学こそ私の人生!!」と、その後、音楽活動と合わせて、詩の仕事もまた彼女の創作活動の背景の一つとなっている。

 

2021年にローリング・ストーン誌に対して解き明かされた新作アルバムの構想や計画をみると、過激なアルバムであるように感じる人もいるかもしれないが、実際は、トロピカルの雰囲気を織り交ぜた取っ付きやすいヒップホップ・アルバムとなっている。 アルバムの多くの収録曲は、イタロのバレアリックのようなリゾート地のパーティーで鳴り響くサマー・チルを基調にしたダンス・ミュージック、サザン・ヒップホップの系譜にあるトラップ、それから、ゴスペルのチョップ/サンプリングを交えた、センス抜群のラップ・ミュージックが展開されている。少なくとも、本作はモダンなヒップホップを期待して聴くアルバムではないかもしれませんが、他方、ヒップホップの普遍的なエンターテイメント性を提示しようとしているようにも感じられる。

 

 

#1「Black Mirror」は、ラウンジを基調にしたトロピカル・サウンドであり、なごやかでノルタルジックな雰囲気のイントロで始まる。それから、アーシーとも、オーガニックとも称される、Nonameのまろやかなスポークンワードが緩やかに展開されていく。それに加えて、おだやかなムードのコーラスが入ると、年代不明のディスコ・フロアへといざなわれるかのようでもある。

 

#2「Hold Me Down」 にて、ようやく本格的なスポークンワードが展開される。オープナーに続いてダブ・ステップに近い複雑なリズムを擁するトラップが繰り広げられるが、少しアイロニックかつシニカルなニュアンスをおり混ぜ、内省的なラップが繰り広げられている。イントロこそ単調な印象もあるリリックは、その後、コーラスが加わるや否や、ビートの上をまろやかなフロウが転がり始める。その上に、ゴスペルやアフロ・ジャズを想起させるメロウなフレーズが、甘い雰囲気を生み出し、アウトロのフェードアウトまで持続している。また、ドラムンベースやベースラインを基調にした変則的なリズムに加え、ソフト・ロック調の軽やかな雰囲気を織り交ぜながら、序盤の”トロピカル・ヒップホップ”としての基礎をしっかりと築き上げている。


 

#3「Balloons」は、ジェイ・エレクトロニカが参加したことで問題となったトラックですが、アルバムの中でも聴き逃がせない。Nilfer Yanyaに近いベースラインをバックにして、Nonameのスポークンワードは序盤よりも感覚的な鋭さと緊張感を増していく。独特なのは、絡みつくようなリリックの運びを介し、小節の後半に言葉の強拍を配置することにより、コアなグルーブ感を生み出している。そこに、チャールズ・ミンガスのウッド・ベースの演奏(モード奏法)を多分に意識したジャズのベースが加わると、Nu Jazzにも近い雰囲気を帯びる。サビの「Crack The Moon」というフレーズを介して、Nonameはフィーリングに直に訴えかけるようなフレーズを生み出している。これにイタロ・ディスコ風の甘い感じのコーラスが合わさり、リゾートな気分を盛り立てている。

 

 

 

 

 

#4「boomboom」でも同じく、英語の語感もしくは触感とも言うべき繊細でセンシティブなニュアンスが引き出されている。サザン・ソウルを根底に置く、いわば渋さのあるスモーキーなソウル・ミュージックが、トラップ寄りの現代的なビートやリズムと絡み、それに続いて最初期のモータウンのソウル・アーティストが行ったような言葉遊びにも似たフレーズが展開されていく。

 

トランペットの小刻みなスタッカートとレガートによる演奏は、この曲の性格をより楽しげに、和やかにしている。これはソウル、ジャズ、ラップという複数のコンテクストを介し、20世紀から次の世紀にかけてのブラック・カルチャーの音楽の潮流をシームレスに辿るかのようだ。


もちろん、モータウンをはじめとするサザン・ソウルのアーティスにとどまらず、20世紀の前半から中頃にかけて、男性のブルースマンも「boom」といったフレーズを介し、言葉遊びをリズミカルに取り入れたものだったが、Nonameもラップによる言語の実験性を介し、乗りやすいソウル・サウンドとして昇華している。そして、この曲がそれほど古臭くなからないのは、ビートの構成が巧みで、エレクトロに近いリズム・トラックとしてアウトプットされているから。

 

 

#5「potentially the Interlude」 もクールなトラックだ。ビンテージ・ファンクを下地にし、モダンなソウルとしてアウトプットしている。特に、ジャズではお馴染みの6/8のビートが反復されることで、うねるようなグルーブ感が生み出され、それらのビートの合間を縫うようにし、Nonameのスポークンワードがジャブさながらに打ち出され、最終的にはよりフロウに近づいていく。


曲の中盤では、Nonameのリリックは迫力を帯びはじめ、ドープとしかいいようがない刺激的な瞬間も到来する。リリックに充ちる緊張感は、「Nobody Answers」というフレーズの後に苛烈な雰囲気を帯び始める。



 

 


#6「namesake」も、チャールズ・ミンガスを彷彿とさせる重厚なベースラインでイントロが始まり、その後、動きのあるラップが展開される。この曲でも下地になっているのは古典的なジャズではあるが、その上で、エレクトロのリズム、サザン・ヒップホップの系譜にあるラップが繰り広げられる。


これらのアンビバレントなリリックは、Nonameの外側にある感覚と内側にある感覚のせめぎ合いが、こういったアブストラクトな表現として昇華されているのだろう。曲の中には大きな起伏こそないものの、前の曲と同様、コアなグルーブ感が打ち出されたトラックとして楽しめる。特に、アウトロにかけての主要なリズム・トラックからパーカッションをいきなり抜き去る瞬間がきわめて絶妙であり、前のめりのフロウとは対象的に、曲の後にメロウで落ち着いた余韻を残している。

 

続く、#7「beauty supply」では、メロウなファンク/ソウルが展開される。近年のネオ・ソウルがほとんどそうであるように、エレクトロの影響を反映させている。ついで、ラップとソウルの中間層にある、最もスモーキーな雰囲気が立ち込め始める。これらのソウルは、Nonameのリリックの節々と重なりながらセクシャルな雰囲気が生み出される。「beauty supply」は、前2作のアルバムにはあまりなかった要素であり、シンガーとしての進化が見える。ファンク色の強いベースライン、そして芳醇なホーン・セクションに支えられるようにし、これらの雰囲気は強調される。従来のアルバムにはあまりなかった艶やかさを前面に打ち出したトラックとなっている。

 

 

#8「toxic」を通じて、エレクトリック・ピアノにより、メロウなムードはさらに深みを増す。サンプリングのスポークンワードに応答するかたちで展開されるNonameのスポークンワードは、前衛的かつスタイリッシュである。ここにはシンガーの文学的かつ詩的な素質をうかがい知れる。


ここでもアルバムの序盤と同様、変則的なリズムを交えたモダンなトラップを意識したスポークンワードが繰り広げられる。しかし、Nonameのリリックのフレージングには爽やかな雰囲気があり、バックトラックと相まって、バレアリックに近い雰囲気を帯びる。言葉数は多いけれども、アルバムの中では、小休止のような意味合いのある安らいだ感じのトラックとなっている。

 

 

#9「Afro Futurism」は、フェラ・クティをはじめとする、アフリカの神秘思想に基づいて制作されたものと思われる。イントロのチョップ/サンプリング、及び、ブレイクビーツ的な処理は、デ・ラ・ソウルのノスタルジックなラップの源流を思い起こさせる。Nonameのスポークンワードには、アフロ・ジャズへのロマンチシズムがちらつき、ときにメロウで甘い雰囲気が生み出される瞬間もある。特に、他の曲に比べると、Nig○erの言葉を全面的に打ち出しながら、それらのルーツ的な何かを探し求めるかのようだ。しかし、バックトラックのメロウさに反し、相変わらずスラングを交え、スポークンワードを繰り出すNonameのフレーズは、始終淡々としている。

 

 

 

 

複数の著名なミュージシャンが参加した#10「gospel?」では、モダンなゴスペルの形が提示される。ゴスペルをチョップ/サンプリングとして消化し、その合間にメロウなソウルのフレーズを取り入れている。Nonameに対するBilly Woodsを筆頭とするラッパーのスポークンワードは、「対話型のゴスペル」とも称するべき、新たなスタイルが提示されている。このトラックには、新旧のブラック・カルチャーへの普遍的な愛着が余すところなく詰め込まれている。それは、ポリティカル・コネクトネスという固定概念をかるがると飛び越え、ついにはコモンセンスの意義すら塗り替えている。Nonameは、自らの音楽に関し、名やラベルを付与しないことで、措定や概念性から逃れる。なおかつ徹底して芸術表現を研ぎ澄まそうとしているのも見事だ。

 

アルバムのクローズ曲「oblivision」でも表現の自由性は保持されている。ファンクをベースにしたなごやかで甘いムードが覚めやらぬまま本作は終わってしまう。多少、シニカルな表現性が込められつつも、コラボレーターと協力してスムーズかつ勢いのあるラップを繰り広げている。これはおそらくファンへの配慮があってのことだ。Common、Ayoniのコーラスの参加は、楽曲の構成を簡素化し、省略化する効果を発揮している。ここには、飽くまでも「ポピュラー・ミュージックとしての親しみやすさにこだわりたかった」という制作者の意向も見え隠れする。

 

 

92/100

 

 

Nonameの新作アルバム『Sudial』はAWALより発売中です。ストリーミング等はこちらから。


 



カナダ出身のソングライター兼プロデューサー、Jeywoodこと、ジェレミー・ヘイウッド=スミス(Jeremy Heywood Smith)は、2022年のアルバム『Slingshot』(レビューはこちらから)のから1年後、新作EP『Grow On』を発表した。


『Grow On』は、ヘイウッド=スミスが2018年から2020年にかけて培ってきた音の遊び場を引き継いだもので、前作から「芸術的に何も置き去りにしない」ことを目指すと同時に、これからの創作の道筋に光を当てている。


EPのタイトルは、Slingshotのシングル「Thank You」の歌詞にもなっているが、ヘイウッド=スミスの亡き母親と、その母親が彼に言った「大人になって成長しなさい」というアドバイスにインスパイアされたものだ。

 

この助言は長年にわたり、特に2018年から2020年にかけては、母親の早すぎる死を含め、多くの人生の変化をもたらした時期であった。前に進むために振り返るという意味を込めたSlingshotが最終的にアルバム名に選ばれたものの、このフレーズが彼の頭から離れることはなかった。


オープニング・トラックの「Heavy Eyes」は明晰さについて歌った曲で、人生の道筋、心の明晰さ、精神の明晰さについて歌っている。

 

ヘイウッド=スミスは冒頭で、"I'm grown halfway there "と繰り返し唱えている。この曲についてヘイウッド=スミスは、この曲を書いたとき、すべてを把握し、自分の人生の方向性が明確になったと感じたと説明している。

 

それから数年後、彼はこの曲の歌詞を「実際に明晰さを手に入れたというよりも、明晰さを顕在化させたようなもの」だと考えている。それは、成長することの一部とは、自分がすでにいた場所を認識し感謝しながらも、まだ先があることを知る知恵を持つことだという認識だ。


サウンド的には、『Heavy Eyes』は5つの異なる曲が1つになったような、ある種のコントロールされたカオスのように感じられる場合がある。このコントロールされたカオスは、ジェレミーのプロデューサーとしての成長によって可能になった。このプロセスを通し、彼は音空間の創造に集中するようになり、リスナーを圧倒することなく「Heavy Eyes」のような大きなアイデアを軌道に乗せ、作曲家としてもプロデューサーとしても自分の耳をより心から信頼することを学んだ。


「Dirk Gently (Know Yourself)」は、ジェイ・ウッドの特徴的なサウンドに大きく傾倒したトラックだ。ヘイウッド=スミスは2020年に "Dirk Gently "の制作を開始し、最近、新鮮な耳でこの曲に戻り、新たに見つけた空間と構造の感覚を吹き込んだ。


『Heavy Eyes』と同様、『Dirk Gently』も確固たる確信のもとに書かれた。今、この曲がリリースされ、ウィニペグからモントリオールに移り住み、新たな旅に出る彼は、自分が何者なのか、そして未来に何が待ち受けているのか、ちょうど見定めているところだと感じている。

 

 「Dirk Gently (Know Yourself)」

 

「Thank You (OG Version)」は、ヘイウッド=スミスの亡き母を称えるために書かれたSlingshotのオリジナル・バージョンである。より静かで感情的なアプローチで作曲されている。この曲の作曲は、ジェレミーにとって画期的な瞬間で、感情的で傷つきやすい経験と正面から向き合うために初めてソングライティングを活用した。OGバージョンは、その意図を直接音に反映させている。

 

OGバージョンは、彼の母親の音楽的嗜好へのオマージュであると同時に、その意図を直接音に反映させている。アル・グリーン(Al Green)への言及とともに、この曲にモータウンの感覚を吹き込むことが目的だった。この曲は、ジェイウッドが育った音楽を思い出させる黒人教会ゴスペルの文化に触れている。

 

「Thank You」は、後にSlingshotとなる楽曲をコンパイルし始めたジェレミーが、初めて他の人に聞かせた曲でもある。ヘイウッド=スミスは、このオリジナル・ヴァージョンを共有することで、「一周したような、文字通りスリングショットのような瞬間だ」と語っている。


EPの最後を飾るのは、ヘイウッド=スミスが長年影響を受けてきたタイラー・ザ・クリエイターの「SWEET」のカバーだ。

 

ある意味、彼は、タイラーのキャリアと自身のアーティスティックな旅の間に並行するものを見ている。2021年に『CALL ME IF YOU GET LOST』が発売されたとき、ジェレミーはレコードを最初から最後まで聴いた。音楽を仕事にすることが単なる夢だった高校時代に、オッド・フューチャーの最初のテープを聴いたことを思い出したのだ。早いもので、ジェイウッドはEPを2枚、アルバムを2枚リリースし、次のフルレングス・リリースに向けて精力的に活動している。

 

©Maya Hayuk


デンジャー・マウスとジェミニ{Danger Mouth&Jemini)が、2004年のコラボレーション・アルバム『Born Again』をついにリリースする。

 

2003年と2004年にレコーディングされたこのアルバムは、8月25日にレックス・レコードからリリースされる。新作アルバムのリード・シングル「Brooklyn Basquiat」の試聴は以下から。


 

 

デンジャー・マウスとジェミニのデビュー・アルバム『Ghetto Pop Life』は2003年にリリースされた。プレス・リリースによると、『Born Again』は "より内省的で告白的なトーン "になっているという。


昨年、デンジャー・マウスはブラック・ソートとのコラボレーション・アルバム『Cheat Codes』をリリースした。

 


Danger Mouth & Jemini 『Born Again』

 

Tracklist:

 
1. All I


2. Locked Up


3. Me


4. Knuckle Sandwich II


5. Born Again


6. Brooklyn Basquiat


7. Walk the Walk


8. Where You From


9. Dear Poppa


10. World Music



ビリー・ウッドとエルーシッドからなるラップ・デュオ、Armand Hammer(アーマンド・ハマー)が、ピンク・シーフとの新曲「Trauma Mic」のビデオを公開しました。DJ Haramがプロデュースしたこの曲は、9月29日にFat Possumからリリースされる『We Buy Diabetic Test Strips』からの先行シングル。

 

この曲は、「アブストラクト・ヒップホップの先鋒」とも称するべき、前衛的なトラックだ。インダストリアルの実験性とラップを劇的に融合させている。

 

また、Armand Hammerはヨーロッパと北米でのこのプロジェクトの秋のツアー日程も発表している。ヘンリー・ネルソンとティム・ブレイク・ネルソンが監督した「Trauma Mic」のビデオは以下をチェック。


『We Buy Diabetes Test Strips』は、ポストカード、フライヤー、電話番号からアルバムのプリセーブや詳細が分かるというユニークな内容だ。


このアルバムには、ジャングルプッシー、ソウル・グロのピアース・ジョーダン、カーリー・カストロ、キャバリアー、ムーア・マザーがゲスト参加している。アルバムには生楽器(コメット・イズ・カミングのシャバカ・ハッチングスのフルートを含む)とJPEGMAFIA、EL-P、ケニー・シーガル、ブラック・ノイ$e、プリザベーション、オーガスト・ファノン、スティール・ティップド・ダヴ、チャイルド・アクター、セッブ・バッシュのプロデュースが参加している。


エルーシッドは、ニューアルバム『We Buy Diabetes Test Strips』のレコーディング過程について声明を発表した。


「スタジオで初めて会った才能あるプレイヤーたちが、あらかじめ録音されたビートに合わせてジャムり、新しい方向へと分裂していくんだ。同じ部屋にいて、4人がお互いの音の世界をいじくりまわしているのを静かに見ていて、最終的に確かなグルーヴにロックインするのは、私にとって明確で明白な魔法のような瞬間だったよ」


アーマンド・ハマーの最後のアルバムは、2021年のアルケミストとのコラボ作『Haram』だった。ビリー・ウッドは今年初め、ケニー・シーガルとニューアルバム『Maps』をリリースして話題を呼んだ。またこの際には、イギリスの音楽メディア、DIYのカバーアートを飾っています。


 

 

 

Armand Hammer 『We Buy Diabetes Test Strips』

 

Tracklist:


A1: Landlines
A2: Woke Up And Asked Siri How I'm Gonna Die
A3: The Flexible Unreliability of Time and Memory
A4: When It Doesn't Start With A Kiss
B1: I Keep A Mirror In My Pocket
B2: Trauma Mic
B3: Niggardly (Blocked Call)
B4: The God's Must Be Crazy
B5: Y'all Can't Stand Right Here
C1: Total Recall
C2: Empire Blvd
C3: Don't Lose Your Job
D1: Supermooned
D2: Switchboard
D3: The Key Is Under The Mat

 

©Loraine James

Loraine James(ロレイン・ジェイムス)は、リード・シングル「2003」でニュー・アルバム『Gentle Confrontation』を発表した。今日、プロデューサーは、ラップ・グループ、Injury Reserveのメンバーの一人であるRiTchieとのコラボ曲 「Déjà Vu」を発表した。

 

Injury Reserveは、2020年にStepa J. Groggsが亡くなった後、By Storm名義で活動を続けることを発表したばかりだ。『Gentle Confrontation』はHyper Dubから9月8日に発売予定。

 

「Déjà Vu」

©︎ Rovenant Earth


JPEGMAFIAとDanny Brownがコラボレーション・アルバム『SCARING THE HOES』を拡張し、「DLC PACK」と名付けた4曲入りの特別版のEPをリリースした。この作品はビデオゲームからヒントを得て制作された。現在、アップル・ミュージックまたはスポティファイ、バンドキャンプでストリーミング出来る。各種ストリーミング/EPのご購入はこちらからどうぞ。


Youtube版も公開されていますが、年齢制限が設けられているため、18才未満はご視聴をお控え下さい。ご視聴はYoutubeの下記の公式リンクより。


オリジナル・アルバム同様、『SCARING THE HOES: DLC PackはJPEGMAFIAによって制作された。

 

オープニング・トラックの 「Guess What Bitch, We Back Hoe!」はアップテンポでクラブ・テイストのプロダクションだ。「Hermanos 」はデュオのシャープなフロウとは対照的なゴージャスなヴォーカル・サンプル。「Tell Me Where to Go」はソウル・フリップを取り入れた驚くほどレイドバックした曲。エンディング曲「No! ー」では、壮大なクワイア・サンプルが、"Bitch, I ain't Baby Keem, My cousin ain't gave me shit "のようなJPEGMAFIAの小粋なパンチラインと見事に合致している。曲を締めくくるため、ブラウンは率直な話し言葉のアウトで、"囚われの身のような気分で、逃げ出したい/晴れの日は憂鬱だから、雨の日を祈る "と自らの繊細さを告白している。

 

 

©Bryan Lamb

シカゴのラッパー、Mick Jenkins(ミック・ジェンキンス)がニューアルバム「The Patience」を8月18日にリリースすると発表しました。後日、掲載した特集記事、Weekly Music Featureもあわせてご覧ください。

 

ミック・ジェンキンスはシカゴのオープンマイクシーンとも関わりを持つ。2021年に発表したアルバム「Elephant In The Room」は当サイトの2021年のベスト・アルバムに選出されている。ラップには一家言を持つイギリスの音楽メディア、CLASH誌は、ミック・ジェンキンスを高く評価し、レビュアーであるニール・スミスさんは次のように絶賛している。「ミック・ジェンキンスは、ニュアンスと重層的なサブテキストの達人だ。アルバムは、ヴィンテージ・ソウル・レコードの基礎と、リリックに長けたアルト・ヒップホップ・アルバムにしか見られない、悲痛で残酷な正直さを融合させている」前作はジェンキンスが家族との記憶に焦点を当て、彼の命題であるビンテージ・ソウルとモダン・ラップの融合に音楽的な根幹が置かれていた。

 

さて、8月発売のニューアルバム『The Patience」の最初のニュー・シングル「Smoke Break-Dance」はアトランタのラッパー、JIDが参加している注目作。「Smoke Break-Dance」はマリファナへのラブソングで、ジェンキンスはシンコペーションのビートに乗せて、マリファナを愛用し、それがいかに良い気分をもたらすかを表現している。「ほんのちょっとのマリファナで、彼は深みにはまっていくことはない」とJIDはヴァースで付け加えている。ミュージックビデオはアンドレ・ミューアが監督を務めた。こちらも下記よりご覧下さい。

 

Mick Jenkins(ミック・ジェンキンス)は、この新作アルバムについて、次のように説明している。「私は、自分の状況を変えるため、自分の力の及ぶ範囲内であらゆることをする人間なんだ。 ある程度の一貫性があれば、その行動は必然的に待たなければならないポイントにたどり着く場合もあるんだ。それで、 自分を前進させるために必要なことが、もはや自分の手には負えない時点であることさえある。 筋肉が断裂し、修復され、芸術的な意図とは無縁の瞬間に、そのコンセプトをはっきり理解する。 私が忍耐に対し最も苛立ちを覚えるのは、このような瞬間なんだ」