Minimal/Glitch Essential Disc Guide  グリッチ/ミニマルの名盤ガイド




グリッチ音楽について

 

グリッチ音楽は、電子音楽や実験音楽のサブジャンルのひとつで、テクノ、エレクトロニカとして分類される。

 

このグリッチノイズを制作するためには、アナログ、デジタルのオーディオの誤作動の音が使用される。サウンドには、CD,レコードのスキップ、スターター、歪み、サーキットペンディングと呼ばれるノイズ、そしてソフトウェアのクラッシュが音楽として取り入れられるのが特徴です。


当初、グリッチにおける美学は、エレクトロニカ、アバンギャルド界隈のアーティストにより生み出された。新たにコンピューター・テクノロジーにより生み出されたグリッチノイズ(ホワイトノイズの一種)を駆使し、90年代以前のミニマル音楽と融合させ、独特なテクノ音楽として昇華していくようになります。

 

グリッチミュージックの最初のシーンに登場したアーティストは、誤作動を起こしたオーディオテクノロジーを肯定的に解釈し、オーディシステムの信号を意図的に変化させ、特異なサウンドを生み出しました。最近では、プロデューサーは、ソフトウェアを介して、グリッチサンプルから生み出されたパーカッシヴな要素を楽曲の中に積極的に取り入れるようになっています。

 

 

グリッチの起源


グリッチは、最初の発明以来、ヒップホップ、EDMのサウンドを融合させ、音楽にイノベーションをもたらしてきました。グリッチの起源は、1980年代にさかのぼり、日本とドイツの前衛音楽家たちがこの音楽に率先して取り組み、オーディオテクノロジーにおける音の建築的な響きを追求します。


先駆的なアーティストに挙げられるのが、ドイツのOvalです。彼らはグリッチオーディオの処理されたサンプルを抽出し、作品として録音を開始した。さらに、現在、パリを拠点に活動する日本の電子音楽家、池田亮司もグリッチの先駆者に数えられます。彼は元々最初期にはモダンクラシカルの音楽に取り組んでいたが、徐々に電子音楽の領域へと踏み込んでいきました。池田亮司は、人間の聴覚の境界またそれを超越した音を生じさせ、グリッチと周囲の空間的なノイズのサウンドスケープ、さらに、視覚芸術のインスタレーションを同期させた音楽形式を生み出しています。

 

さらにその後、登場したイギリスの電子音楽デュオ、Autechre(オウテカ)は、1994年のシングルで「Glitch」という言葉を使い、それから一般的にグリッチというジャンルが一般的に浸透していくようになりました。

 

 

 

 グリッチ・ミュージックの特徴

 

1.グリッチ

 

グリッチの音はスキップ、ハードウェアノイズ、システム上のクラッシュなどの聴覚的なエラーとして定義されます。これらの実際の音は「カチ、カチ」という何かを引っ掻くような音(ノイズ)として人間の聴覚に反映されます。そのノイズを断続的に組み合わせることにより、独特のグルーブ、ダンス・ミュージックでいうところの「ノリ」を電子音楽にもたらします。


2.構造 

 

グリッチの美学は、様々な構成に適用出来ます。ドイツのOVALのようなエレクトロニカアーティストは、シンセサイザーそのものをグリッチに置換し、アンビエントの新しい領域を切り開いてみせています。さらに、日本の実験音楽家、刀根康尚は、 CDのデジタル情報を読み取るコンパクト・ディスクプレイヤーを活用し、パワフルで強烈なサウンドスケープを完成させています。


3,その後の音楽シーンへの影響


これらの革新的なグリッチミュージックは、その後、EDMシーン、及び、ヒップホップシーンの方向性に強い影響を及ぼし、今日の電子音楽家の多くがそのことを意図するか否かにかかわらず、このグリッチノイズを取り入れるようになっています。

 

 

 

Minimal/Glitch Essential Disc Guide 

 

 

さて、今回は、 このミニマル/グリッチの名盤にスポットライトを当て、このシーンの象徴的な名盤を特集致します。

 

以下、挙げるのは、このミニマル/グリッチシーンを表面的に網羅した、ほんの一部の入門編に過ぎません。これらのポピュラーなグリッチ/ミニマルの入門編を聴いた後に、より高度なグリッチ・アーティスト、池田亮司、アルヴァ・ノトをはじめとする前衛的な作品を聴いてみるのをおすすめします。言うまでもなく、この他にも、世の中には数多くの傑作があると思いますので、是非、このディスクガイドを基本として素晴らしい作品を探しだす手がかりにしていただければ僥倖です。

 

 

 

Oval 『Dok』 1998

 


 

Oval(オーヴァル)は、ドイツの電子音楽グループであり、最初期のグリッチの概念を形成した。1991年、マーカス・ポップ、セバスチャン・オーシャッツ、フランク・メッツガーにより結成された。1995年以降は、セバスチャン、フランクが脱退、実質的にはマーカス・ポップのソロプロジェクトとなった。

 

1998年に発表された「Dok」では、アンビエント、グリッチの中間にある音楽を楽しむ事ができる。無機質で理知的な構成を持ち、最初期のグリッチシーンの実験性を試した作品となる。

 

クラウト・ロックやジャーマン・テクノの実験性を引き継いだ上、アンビエントの要素が付け加えられていることに注目したい。グリッチノイズとは何かを知る上で欠かすことの出来ない傑作。


 

 



 Isan  『Plans Drawn In Pencil』 2006

 

 

 

Isan(アイサン)は、 Anthony Ryan(アンソニー・ライアン)とRobin Saville(ロビン・サビル)によって結成されたテクノ/エレクトロニカデュオである。


ISANとは、"Integrated Services Analogue Network"の略称で、"ISDN"のDigitalの部分をAnalogueに変更。イギリスのダンス/エレクトロニックの名門Warp Recordsとも関わりがあり、複数の作品にリミックスで参加している。

 

「Plans Drawn In Pencil」は、OVALや最初期のAuthcreよりも遥かに聞きやすいグリッチテクノである。このジャンルに初めて接するというリスナーに強く推薦しておきたい。アイサンの提供する内省的なグリッチテクノは、耳障りがよく、聞きやすさがある。このアルバムには、「Ships」を初め、メロディーが秀逸で叙情性を兼ね備えた曲が収録されている。アイサンのグリッチテクノには、涼し気な響きが込められている。今のような暑い季節に聴くのに最適なアルバムとなる。また理知的な音楽であるため、作業中のBGMとしても最高の効果を発する。 

 

 

 



Caribou 『Start Breaking My Heart』 2001


 


 

最近、このプロジェクト、Caribouと合わせてDaphniとしての活動も行っているカナダの電子音楽家のダン・スナイス。テクノ好きならばきっとこのアルバムを彼の最高傑作として挙げるのではないか。

 

ダン・スナイスの音楽のアプローチは彼自身が数学の専門的な勉強を重ねたこともあり、きわめて理知的かつ論理性に富んでいる。ダン・スナイスの生み出すグリッチは、まさに数学の数式のように美しく、なおかつ仄かな叙情性も感じられる。

 

この作品『Start Breaking My Heart』においても、それまでと同様に、 スタイリッシュかつアーティスティックな楽曲の中にグリッチの技術が取り入れられている。アイサンに比べると、モダンジャズの要素が強く、ダンス・ミュージック寄りでグルーブ感が強いのも一つの特徴となる。

 

 

 

 

 

 

Kettel  『Miya James, Pt.1』 2008


 

 

Kettelはオランダのエレクトロニカミュージシャン、Reimer Eisingのソロ・プロジェクト。上記のアーティスト、グループに比べれば、グリッチ色が薄く、EDMのジャンルに該当する。しかし、ゲーム音楽を土台にしたチップチューンのような音楽もこのアーティストの最大な特徴と言えるかもしれない。

 

「Myam James Part 1」は、Kettelの初期の代表作のひとつに挙げられる。チップ・チューン、テクノ、グリッチの要素とクロスオーバーミュージックの趣もあるが、このアーティストらしい独特な世界観がこの作品で完成している。 アンビエントでもあり、テクノでもあり、EDMの王道を行くような作風でもある。特に、このアルバムに収録されている「Shimamoto」という曲では顕著な形でグリッチノイズの雰囲気を楽しめる。そのほかにも、「Fishfred」ではフロアシーン寄りのミニマル/グリッチが展開される。ゲーム音楽のサウンドトラックのようなチップチューン寄りのエレクトロニカをお探しの方に最適の一枚と言えるだろうか。 

 

 

 

 

 

 

Kim Horthoy 「Melke』 2002

 

 


キム・ヨーソイは北欧エレクトロニカシーンの傑出したプロデューサーである。ノルウェー出身のエレクトロニカミュージシャンで、電子音楽家として活動する他、映画監督、イラストレイターとしても活躍する多彩でマルチな才能を持ったアーティスト。00年代までは上記のような主業の傍ら、サイドプロジェクトとして素晴らしい音源を生み出している。しかし、現在、新しいリリースが途絶えているのを見ると、ミュージシャンの活動を休止しているのかもしれない。


キム・ヨーソイの最高傑作に挙げられるのが「Melke」である。ここでは、北欧エレクトロニカの代表的な名曲「On Sunday」という一曲が収められていて外すことは出来ない。本作では、イラストレーター、映画監督、マルチな才覚を有するアーティストの視覚的なテクノが展開される。その他、金管楽器を取り入れたりと、アイスランドのMumに近いアプローチも導入される。

 


 



 

Aeroc 『Viscous Solid』  2004

 




Aerocは、アメリカの電子音楽家、Geoff White(ジェフ・ホワイト)によるソロ・プロジェクト。最初期はGhostlyから音源をリリースしている。アメリカの最初期のグリッチ/ミニマルの音楽家である。その後、ジェフ・ホワイトはデビューアルバムの製作時ーアメリカからスペインのバルセロナに移住し、レコーディングを行ったという。

 

ジェフ・ホワイトのデビュー作品『Viscous Solid』では、アンビエント、テクノ、ミニマル、グリッチを自由に往来しつつ、そこにスペイン音楽の雰囲気が付け加えられ、個性的な電子音楽が展開される。

 

ダブのようなゆっくりとしたリズムの中に、グリッチノイズが薄く乗り、そこに独特なグルーヴ感が生み出される。ダンスフロアやクラブシーンに根ざした音楽ではありながら、アンビエント、IDMのような知性もほんのり漂っている。電子音楽ではあるものの、他とは異なる異質なロマンチシズム、ノスタルジアに彩られた一枚となる。 

 






I Am Robot And Proud 『THE CATCH &SUMMER AUTUMN WINTER』2001


 

I am robot And Proudは、カナダ・トロント生まれの音楽家のシャウハン・リームによるソロ・プロジェクト、時々、デュオとして活動する場合もある。元々、シャウハン・リームは、幼い時代かピアノを学習していて、鍵盤奏者らしいテクノ/エレクトロニカが魅力である。他のテクノアーティストに比べ、コミカルな楽曲を作る才覚にかけては、Isanと肩を並べるような存在といえる。

 

I am robot And Proudの実質的なデビュー・アルバムが『THE CATCHING SUMMER AUTUMN WINTER』である。シャウハン・リームは、ドイツのソフトウェア会社「Native Instruments」のバンドル、Absynthで見られるようなシンプルな音色を駆使し、独特なエモーション溢れる楽曲に仕上げている。


この作品では、青春時代のジレンマのような感覚が内省的なテクノ音楽として彩られているように伺えます。厳密にいえば、グリッチには該当しない作品ではないかもしれませんが、擬似的なグリッチとしての雰囲気が十分味わえる。特に、「Eyes Closed Hopefully」、「The Satellite Kids」は、この電子音楽家のメロディーセンスの高さが表れ出たテクノシーンきっての名曲である。



 

 



 Manual『Until Tomorrow』2001

 

 


 

Manualは、デンマークのOnas Munk Jensenによるソロ・プロジェクト。2003年からグリッチとは全く別の路線に進んだ印象もあるManualの「Until Tomorrow」は、初期のグリッチシーンの代表的な傑作。2001年、世界的なエレクトロニカレーベルとして名を馳せるmorr musicからデビューを飾った。

 

すべての楽曲を見渡すと、少し物足りない印象もあるが、オープニングを飾る「Nova」は、グリッチの代表的な名曲で、グリッチ音楽を知るための最上の手がかりとなる。上記のアーティストのように、コンピューター・テクノロジーを最大限に活かしながらも叙情性を併せ持つという点では、テクノロジーの革新性と人間の感情を秤にかけるかのような意図も見受けられる。

 

2000年代前後の時代から、コンピュター・テクノロジーは、一般的のユーザーにも広がっていった。「Until Tomorrow」は、そういった時代を反映一枚と言えるのかもしれない。ギターをサンプリングとして活用し、現在のローファイ・ヒップホップのような手法として昇華している。この作品で見受けられる宇宙的な壮大さ、それはこのアルバムで人間の内向性と相まって特異な音楽として昇華されている。ブレイクビーツも取り入れられていたり、かなり意欲的な作品。ここには新しい時代を予見させるようなワクワクした感覚が見いだされる。