New Album Review Anorak! 『Anorak!』

 Anorak! 『Anorak!』

 



Label: Superniceboys

Release: 2022年11月16日

 

 

 

Review

 

 

 中央線沿線のミュージック・シーンから登場した気鋭のインディーロックバンド、Anorak!は、今日の東京のシーンを牽引する有望なバンドの1つに数えられます。既に八王子でEnzweckとの対バンなど、パンクハードコアシーンの大御所との対バンを経て、着実に実績を重ねようやくデビュー・アルバムが到着しました。

 

 昨日、リリースされたばかりのセルフタイトルのデビュー・アルバム『Anorak!』はトゥインクル・エモの王道を行く疾走感と青春性を兼ね備えた作品となっており、まず、驚くのは、アルバムの曲名が全部、地名になっているんです。彼らがライブ活動拠点の中心に置いている吉祥寺を始めとする東京、及び、埼玉の地名がずらりと並んでいる。

 

 Anorak!の音楽性は、フランスのSport、米国のAlgernon Cadwallder、Empire!Empire!の直系に当たり、タッピング奏法を駆使したギターチューンに加え、激情スクリーム、グルーヴの効いたリズムを擁するインディーロック/エモーショナル・ハードコアが中心となっている。ただ、既に以前からEmpire! Empire!とのスピリットをリリースし、Algernon Cadwallderとの米国ツアーを敢行しているmalegoatがいるわけで、八王子のミュージックシーン直系のインディーロックとも言えるかもしれません。

 

 記念すべきデビュー・アルバム『Anorak!』は、地名をもとにその土地の持つイメージであったり記憶のようなものが引き出されているように思える。同じトゥインクル・エモとはいえど、若干ではあるものの曲調が異なっている。疾走感のあるロックソングを基調に、そこに2010年代の東京のオルタナティヴ・ロックバンド(akutagawa etc.)の影響下にあるような楽曲も複数見受けられる。これらの米国とは若干異なるオルタナティヴな雰囲気を持った音楽性が展開されてゆく。


 Anorak!の音楽性の最大の魅力は、青春の色合いを感じさせるエモ性にあるように感じられますが、これらの14曲は、このトリオが相当長い時間をかけてスタジオやライブで煮詰めた曲/温めてきた曲であるように思え、細部にわたり綿密に作り込まれており、かなり聴き応えがある。キャッチーな印象を持ち、現代風のオルトロックとしても聴くことが出来る「吉祥寺」とは裏腹に、「八王子」ではニュースクール・ハードコア寄りの楽曲にも挑戦していたり、このあたりはAnorak!のバンドとしてのスタンスが顕著に示されており、以前からOrtegaやWell Wellsを始め、オルタナよりもパンクが強い八王子らしい音楽性を感じさせ、ニヤリとさせるものがある。

 

 「調布」では、スクリームを交えた激情系のエモの王道を行く楽曲に挑戦し、見事なひねりを加えている。また「下北沢」では、トゥインクル・エモの核心を受け継いだ楽曲を提示している。ミッドウェストエモの基調にしつつ、そこに独特のオルタナの色合いを持つのも面白い特徴となっている。このあたりのオルタナティヴのアプローチには少し切ない雰囲気が漂っており、ときおり、インスト曲を交えながら、痛快なトゥインクルエモが繰り広げられていき、アルバムの終盤には最大のハイライト「池袋」が待ち受けている。ここでは、”手刀”を始めとするライブハウスを擁する池袋へのリスペクト、街そのものの雰囲気が爽快感/疾走感のあるインディロックソングとして仕上げられている。この「池袋」の熱狂性こそ、インディーロック/エモファンにとって本作の最高の瞬間となると思われる。これらの曲は、吉祥寺ワープや八王子のリップスといった東京のコアなライブハウスで醸成された生きた音楽となっているのかもしれません。その他「品川」では、このアルバムの中で、最もポスト・ロックに近い音楽性を提示しており、Anorak!のライブハウス仕込みの演奏のテクニックの高さを体感することが出来る。

 

 アルバム全体としては、東京や埼玉といったバンドに馴染みのある街を取り上げたコンセプト・アルバムに近い作品という印象です。既に解散したフランスのSportが『Demo 2011』でこういった異なる場所/異なる時間に因んだ作品を残していて、それに近い斬新なアプローチが取り入れられていて、このあたりが、音楽を通して様々な土地を巡るかのような不思議な感覚を与える。

 

 記念すべきデビュー作『Anorak!』において、3人組のバンドは、東京のインディーズシーンにAnorak!あり、ということを証明づけたにとどまらず、より広く全国的に聴かれるようになる足がかりを作ってみせたと言えるでしょう。今後の彼らの活躍にも期待していきたいところです。


 

78/100

 

 

 Featured Track 「吉祥寺」


 

 

 

 

Holiday Records:

 

https://holiday2014.thebase.in/items/67439798 

 

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