New Album Review:  Blondeshell 『If You Asked For A Picture』

 Blondeshell 『If You Asked For A Picture』


Label: Partisan

Release; 2025年5月2日


 

Review

 

 

2023年に続くブロンドシェルのセカンドアルバムはPartisanからリリースされた。昨年のレーベルのアルバムはほとんど”当たり”だったが、今年も本作をリリースし、2025年の本格的な幕開けを告げる。ブロンドシェルのセルフタイトルのデビューアルバムでは、ロックシンガーとしてのキャラクターが押し出されていた。


セカンドアルバム『If You Asked For A Picture』では持ち前のポップセンスを駆使し、ポピュラーとロックの中間にある聴きやすいオルトロックソングが生み出された。アルバム全体には、ほろ苦いセンチメンタルな雰囲気が漂う。USインディーロックの真髄のような作品である。 

 

サブリナ・タイテルバウムは、前作から受け継がれる直感的なソングライティングの方法を発展させ、メアリー・オリヴァーの詩にインスパイアされたタイトルを今作に据えた。タイテルバウムは、内的な感情をソングライティングのテーマに置き、コントロール、人間関係、そして自己反省といった主題を探求し、それらは自伝的な物語へと繋げている。さらに、プロデューサーは前作に続いて、イヴ・トスマンを抜擢し、デビュー作の手応えを受け継ごうと試みる。セカンドアルバムのオルトロックはときおり、重層的なテクスチャーを作ることもあるが、基本的には、''良質なメロディーメイカー''としてのブロンドシェルの性質を反映させている。

 

 

その中で、ほろ苦いセンチメンタルな楽曲が目立つ。スリーコードを中心とするバッキングギターはベースラインを描き、シンプルで儚い歌が歌われるが、これはファビアーナ・パラディーノに象徴されるUKポップスの最新のスタイルを踏襲している。


しかし、全般的なプロデュースや曲作りの形はイギリス・ライクであるにせよ、西海岸のような雰囲気が乗り移るときもある。タイテルバウムのエモーショナルなボーカルは、いわばカルフォルニアの幻影的な雰囲気を持つロックソングで、MOMMAの音楽性と地続きにある幻想的な雰囲気と結びつくこともある。

 

アルバムは内的な告白のような感じで始まる「Thumbtack」を筆頭として、アコースティックギターをフィーチャーしたフォーク・ソングをベースにしたポップスで始まる。


続く「T&A」ではエッジの聴いたロックソングを楽しむことが出来る。そして一番の魅力は、良質なメロディーセンスを持つタイテルバウムのボーカルであることは疑いがない。 ギターワークも念入りに作り込まれているが、同時に、ブロンドシェルの曲というのはアカペラで歌っても曲として成立するよう制作されている。だからこそ聴きやすさがあるのではないかと思う。

 

そんな中、90年代のUSロックの愛好家としての表情も伺わせる。「Arms」ではフェーザーを用いたギターを中心にグランジ風のロックトラックを聴くことが出来る。しかし、こういった懐古的なアプローチを選ぼうとも、曲にフレッシュな印象が残る理由は、コーラスワークやボーカルに軸が置かれ、それらが背景となるウージーなロックギターと巧みに合致しているからだ。90年代が中心なのかと思わせておき、時間を少しずつ遡るかのように、80年代のUSロックへと接近していく。それは産業ロックの雰囲気を醸し出し、同時にサザンロックのような渋さがある。アメリカのロックソングの歴史をシンプルに辿りなおすような楽曲となっている。

 

こういったロックソングがブルースのような音楽と地続きにあることを想起させるマディーな曲もありながら、ブロンドシェルの最大の持ち味というのは、ポップスとロックの中間層にある淡いポピュラー・ソング。「What's Fair」はこのアーティストを知らない方におすすめしたい。

 

ポリスの音楽を想起させるニューウェイヴとポップの融合は、やはりUKの最新のロックの系譜に沿っている。最近のロックソングは基本的に、複雑さではなく、簡素さに重きが置かれている。ここでは、ベースラインをなぞるユニゾンのギターに清涼感を持つボーカルを歌うという最新のソングライティングの手本が示されている。複雑な構成を持つ音楽は耳の肥えた聞き手は聴きこなすことが可能かもしれないが、一方で、長く聴き続けることを倦厭させる場合がある。

 

そして、その煩瑣さや複雑さが一般的に受け入れられるためには、どこかの段階でそれらを濾過したり、省略したり、聴きやすいように組み直すことも必要になってくるかもしれない。また、これは、音響学の観点から言えば、人間の一般的な聴覚の能力には限界があり、同時に、複数の情報を捉えるのにも限界がある。そういった点を踏まえた科学的な見地から見た簡素化や均一化の段階である。さらに言えば、出力される音楽は、どこかで平さないといけなくなる。そして、膨大な情報から何を引っ張り出してくるのかが、現代の音楽家の命題であり、あるいはセンスともいえる。もちろん、それは音量や音域の要素も含め、人間には可聴領域の限界があるからだ。そこで、どのようなフレーズを聞かせたいのかを明瞭にする必要がある。言いかえれば、どんなふうに聞き手や聴衆に聞いてもらいたいのかを明らかにすることが大切なのだ。

 

そういった意味では、ブロンドシェルは、オルトロックからセレブレティのポップスまでをくまなく彼女自身の音楽的な感性として吸収し、それらを自分なりにどのようにアウトプットすべきかを熟知している。もちろん、それはプロデューサーとの共通認識のようなものなのだろう。そして90年代のロックの系譜をあらためてなぞらえるかのように、サイレンスとラウドネスを巧みに行き来し、メロとサビを対比する王道の手法を用い、グッドソングを築き上げる。そこには聞き手に対する配慮が込められていることに気づく。つまり、曲を演奏したときに、どのようなリアクションが起こりえるかを、ブロンドシェルは予測して作曲を行っているのだ。

 

今回のセカンドアルバムに話を絞れば、フォーク・ソングをベースにした曲、そして80年代のポップスに依拠した曲、それらを艶やかなロックとして組み直した曲など、音楽的には幅広さがあるが、それらは、ブロンドシェルの伝えたいことを拡張させるアンプやフィルターの役割を担う。そして、この場合、実際的なボーカルの音量は必ずしも必要ではないということである。


さらに、どのような音の形を選ぼうとも、他の人の借り物になることはなく、ブロンドシェルの音楽としてしっかり確立されているのがストロングポイントだ。これはソングライターとしての人格が定まっているからで、あれやこれやと手をのばすような移り気な気質は、このアルバムにはほとんどないように思える。

 

そんな中で、バラード的なほろ苦い感じと清々しい感覚が組み合わされて、独特なエモーションを持つポピュラーソングが作り上げられることがある。

 

「Event of A Fire」は、ベースラインと単旋律を元にしたギターとボーカルという簡素な編成であり、サビだけドラムが導入される。ただ、こういったシンプルな構成であろうとも、タイテルバウムのボーカルの存在感は依然として維持されている。つまり、音の要素が多くなくても、良い曲を作ることは可能ではないかということを、ブロンドシェルは明示するというわけである。


 この曲では、クランチで力感を持つギターとセンチメンタルで脆さのあるボーカルという音域的な棲み分けによって、親しみやすいロックバラードが作り出された。つまり、ギターの中音域、ドラムの低音域、ボーカルの高音域というように帯域の棲み分けができているため、マスタリングもくっきりとしていて、ポップソングとしてもロックソングとしてもとっつきやすさがある。

 

音楽は、リズム、メロディー、ハーモニー、構成から出来上がり、これらのうちのどれも軽視出来ない。これはどのようなジャンルにも共通している。ブロンドシェルのソングライティングは、メロディーにしてもリズムにしても優れていて、掴みやすい特徴がある。さらに感覚的に言及すれば、アメリカ的なノスタルジアによって組み上げられ、そしてそれは前の時代の回想という観点にとどまらず、聞き手の心に何らかの温かなノスタルジアを呼び覚ますことがある。


明確な歌詞として現れることもなく、さりとて、音楽的にわかりやすい形で提示されるわけでもない。もしかすると、歌詞の行間から本質的な意味を汲み取る''サブテクストの音楽''と呼ぶべきなのかもしれない。しかし、音楽そのものが、何らかの背景を感覚的に掴むためにあるという特性が、ふてぶてしい感じのあるブロンドシェルの音楽性と合致し、現代人の感情のメタファーとして幾重にも渦巻き、ソングライティングの基礎を形成し、最終的には、シンガーの歌の魅力が滲み出てくる。もちろん、それらが良質な音楽となっているのは言うまでもないだろう。

 

ブロンドシェルの曲は、90-00年代のロックを基礎とし、80年代のディスコポップ、70年代のフォークロック、あるいは、断片的なR&Bが重層的に絡みあい、アメリカの商業音楽の余韻を生み出す。本作は、個人的で感覚的であるため、底しれぬ魅力がある。それが目に見える形となったのが、「Change」、「He Wants Me」、「Man」といった隠れたハイライト曲である。

 

これらが最終的には、西海岸のMagdalena Bay(マグダレナ・ベイ)のような、幻想的なポップと結びつき、アルバムのクローズ「Model Rocket」という結末に表れ出ることになった。古典性と現代性の混在、そして音楽の実存する時間軸を忘失するかのように、音楽の無限のジャングルの奥地へと冒険的に潜り込んでいる。やはり、これは西海岸らしい作品といえるのかもしれない。

 

 

 

86/100

 

 

「Thumbtack」