New Album Review: Water From Your Eyes 『It's A Beautiful Place』

 Water From Your Eyes 『It's A Beautiful Place』


 

Label: Matador 

Release: 2025年8月22日

 

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Review

 

ニューヨークのWater From Your Eyesは、2023年のアルバム『Everyone's Crushed』に続いて、Matadorから二作目のアルバム『It's A Beautiful Place』をリリースした。前作は、アートポップやエクスペリメンタルポップが中心の先鋭的なアルバムだったが、本作ではよりロック/メタル的なアプローチが優勢となっている。ネイト・アトモスとレイチェル・ブラウンの両者は、この2年ほど、ソロプロジェクトやサイドプロジェクトでしばらくリリースをちょこちょこと重ねていたが、デュオとして戻ってくると、収まるべきところに収まったという感じがする。このアルバムを聴くかぎりでは、ジャンルにとらわれないで、自由度の高い音楽性を発揮している。

 

表向きの音楽性が大幅に変更されたことは旧来のファンであればお気づきになられるだろう。Y2Kの組み直した作品と聞いて、実際の音源に触れると、びっくり仰天するかもしれない。しかし、ウォーター・フロム・ユア・アイズらしさがないかといえば、そうではあるまい。アルバムのオープニング「One Small Step」では、タイムリープするかのようなシンセの効果音で始まり、 レトロゲームのオープニングのような遊び心で、聞き手を別の世界に導くかのようである。

 

その後、何が始まるのかと言えば、グランジ風のロックソング「Life Signs」が続く。今回のアルバムでは、デュオというよりもバンド形式で制作を行ったという話で、その効果が一瞬で出ている。イントロはマスロックのようだが、J Mascisのような恐竜みたいな轟音のディストーションギターが煙の向こうから出現、炸裂し、身構える聞き手を一瞬でノックアウトし、アートポップバンドなどという馬鹿げた呼称を一瞬で吹き飛ばす。その様子はあまりにも痛快だ。


しかし、その後は、スポークンワードを取り入れたボーカル、変拍子を強調したマスロック、Deerhoofのようなめくるめく曲展開というように、デュオらしいオリジナリティが満載である。ロックかと思えばポップ、ポップかと思えばロック(パンク)、果てはヒップホップまで飲み込み、爆走していく。これらのジョークなのかシリアスなのかわからない曲に釘付けになること必須である。その中でアルバムのタイトルが執拗的に繰り返される。これがドープな瞬間を巻き起こす。


「Nights In Armor」では先鋭的な音楽性を取り入れ、ほとんどバンド形式のような巨大な音像を突き出し、ルイヴィルのバストロ以降のポストロックの系譜を称賛するかのような刺激的な音楽が続いている。新しい時代のプログレ? Battlesのリバイバル? この曲を聴けば、そんな些細な疑問は一瞬で吹き飛び、ウォーター・フロム・ユア・アイズのサウンドの虜になること必須である。K-POPのサウンドを部分的に参考にしたとしても、二人の秀逸なソングライターの手にかかると、驚くべき変貌を遂げ、誰にも真似出来ないオリジナリティを誇るポップソングが作られてしまう。ミニマルミュージックの構成やミュージックコンクレートのようなギター、そして、それらのカオスな音楽の中で奇妙なほど印象深いブラウンの声、すべてが混在し、この曲のすべてを構成している。それらの音楽はときおり、宇宙的な響きを持つこともある。

 

このアルバムでは、前作よりもはるかにヘヴィネスが強調されている。「Born 2」はまるでBlurのタイトルのようだが、実際は、90年代-00年代のミクスチャーロックを彷彿とさせる。同様に、魔神的なディストーションギターが曲の中を歩き回り、口から火炎を吐き、すべてを飲み込むような迫力で突撃していく。そのサウンドは、全体的にはシューゲイズに近づいていき、最終的にはボーカルが入ると、NIN、Incubus、Ministryのようなインダストリアルロックに接近していく。しかし、最も面白いのは、これらのサウンドから、ボーカルとして聞こえてくるのは、Evanescenceのようなニューメタルを想起させるポップネスである。これらのアンビバレントな要素ーーヘヴィネスとポップネスの混在ーーこそがこのアルバムの核らしいことがわかる。また、曲の終盤では2000年代以降のポストメタルに近づいていき、そのサウンドは、Meshuggahのようなポストスラッシュのような変則的なメタルソングに傾倒していく。 

 

Water From Your Eyesの多趣味は以降もほとんど手がつけられない。それは彼らが音楽制作におけるオールラウンダーであることを伺わせる。「You Don't Believe In God?」では、古典的なアンビエントでセンスの良さを見せつけ、古参のアンビエントファンを挑発する。しかし、アルバムの中で奇妙なほど静かなこの曲は実際的にインタリュードとしての働きを担っている。さらに続く「Spaceship」では、ニューヨークのAnamanaguchiがやりそうでやらなかったチップチューンを朝飯前のようにこなす。しかも、それ相応にセンスが良い曲として昇華されている。 その中には賛美歌のようなボーカル、アートポップ等が織り交ぜられ、まるでそれは''音楽バージョンのメトロポリタンミュージアムがどこかに開設したかのよう''である。続く「Playing Classics」もまたチップチューンを主体とした曲で、ゲームサウンドとエレトロニカの融合に挑んでいる。この曲もまた同年代のエレクトロニックのプロデューサーに比肩するような内容である。しかし、ボーカルが入ると、軽快なエレクトロ・ポップに印象が様変わりする。背景のビートとボーカルの間の取れたリズムは、単発のコラボレーションでは実現しえないものである。

 

これらのデュオの多趣味は、デモソングのようなローファイなロックソング「It's A Beautiful Place」で最高潮に達する。史上最も気の抜けたタイトル曲で、わずか50秒のやる気が微塵もないインスタントなギターロックのデモソング。炭酸の抜けたコカコーラのような味わいがしなくもない。最後とばかりに気を取り直し、実質的なクローズ「Bloods On Dollar」が続く。クライムサスペンスみたいな妙なタイトルだが、曲は同郷の有名なインディーフォークバンドのオマージュかイミテーションそのもの。しかし、この模倣もそれなりの曲として完成されている。アルバムの最後では再びイントロのタイムリープのようなシンセの効果音が入る。入り口と出口が繋がっているのか。それとも別の世界に続いているのか。その真相は謎に包まれたままだ.......。

 

 

 

84/100

 

 

 

 

Best Track-  「Life Signs」

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