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Label: Interscope
Release: 2025年8月1日
Review
カルフォルニアのWispは次世代のシューゲイズアーティストで、すでにコーチェラ・フェスティバルに出演し、過度な注目を浴びている。昨年、たぬきちゃんのEPにもゲスト参加していた覚えがある。いわば今最も注目されるシューゲイズアーティスト。待望のデビュー・アルバムは、冬にイメージに縁取られ、そしてアーティストのキャラクターのイメージを押し出した内容だ。
サウンドは全般的には、Wispが信奉するというMBV、Whirrといったシューゲイズバンドの影響が押し出されている。さらにサウンドプロダクションとしては、MogwaiやExplosions In The Skyのような音響派に近く、全般的にはダンスビートやエレクトロニックの性質が強く、ボワボワとした抽象的なロックサウンドが敷き詰められている。このアルバムはインタースコープからの発売ということで、それ相応の売れ行きは予測出来るかもしれないが、シューゲイズアルバムとしてはやや期待はずれと言える。バイラルヒットが見込める曲が用意されているが、内容が少し薄い気がする。インクを水で薄めたようなアルバムで、太鼓判を押すほどではないだろう。
その全般的なサウンドは、Y2KやK-POPとシューゲイズやダークウェイヴの融合である。その意図は斬新で、才気煥発なメロディーセンスが発揮される場合もある。しかし、まだそれは瞬間的に過ぎず、クリエイティビティは線香花火のように立ち消えになってしまう。あまり持続しない。そして、ロンドンのYEULEのような甘いポップセンスが漂い、その点は、オープニング「Sword」のような曲で聴くことが出来る。悲哀に満ちたメロディセンスが轟音のフィードバックギターやポストロックのアンビエンスがからみあい、Wispの持つ独自の世界観が垣間見える。そしてそれはシューゲイズというよりも、ユーロビートやレイブのようなサウンドに傾倒する。このアルバムは、どちらかと言えば、インディーポップに属するダークウェイヴのような音楽性が顕著である。また、それらは、ヘヴィメタル/ニューメタルに近いテイストを持つケースもある。「Breath onto Me」は、Wispの持ち味であるペーソスに満ち溢れたメロディーとメタリックなサウンドが融合している。これらはシューゲイズの第一世代というより、Amusement Parks on Fire、The Radio Dept.のようなミレニアム世代以降の第二世代のシューゲイズを参考にしているような印象がある。シューゲイズの甘美的な雰囲気を活かしたサウンド。しかし、2020年代のシューゲイズとして聴くと、既に形骸化していて、物新しさに欠けるように思える。
一方で、Y2K、aespaのようなサウンドに傾倒した曲の方がむしろ良い印象を放っている。 「Save Me Now」はWispの甘いメロディセンスがこれらの現代的なカルチャーと融合し、瞬発力を見せる。そして同じようにヴァースからコーラスというシンプルな構成の中で、ロックやメタルのパワフルな効力を持つことがある。この曲もまたYEULEのサウンドに近い雰囲気がある。
ダークウェイブのサウンドを参考にして、抽象的なロックサウンドで縁取った「After Dark」は、たしかに夏の暑さを和らげる清涼効果があり、冬のアトモスフィアに彩られている。それらは情景的な印象を呼び覚まし、アーティストが表現しようとする冬の息吹のようなものを感じとられる。一方で、どうしても曲全般は依然として薄められすぎているという印象を抱いてしまう。苛烈なシューゲイズサウンドをメタリックなノイズで表現した「Guide Light」も意図は明瞭で期待させるが、本物のヘヴィネスを体現出来ていない。ヘヴィネスとは、表層のラウドネスではなく、内面から自然に滲み出て来る何かなのだ。K-POPのようなサウンドに依拠しすぎていることが足かせになり、独自のオリジナリティ示すには至っていない。この点では、商業性とアンダーグラウンドの音楽の間で迷っているという気がする。もう少し、吹っ切れたようなサウンドがあれば、迫力が出ただろうし、より多くのリスナーに支持されたかもしれない。
対象的に、ヘヴィネスを削ぎ落としたY2K風のポップソングの曲に活路が見いだせる気がする。ニュージーランドのFazerdazeのようなドリームポップの範疇にあるタイトル曲「If Not Winter」はアルバムのハイライトであり、Wispのメロディーセンスがキラリと光る瞬間でもある。過激さよりも軽やかさを重視したほうが、良さが出てくるのではないかと思った。この曲では少なくとも、Wispのダークなメロディーセンスと切ないような感情が上手く合致している。 そしてこの曲でも、アーティストの冬のイメージが上手く導き出されていることが分かる。
アルバムとしてはもう一声。ただ、難しいのは、シューゲイズとしてもセンスの良い曲があること。「Mesmerized」はニュージェネレーションのシューゲイズソングで、ハイパーポップのメタルの要素がヨーロッパのEDMの要素が巧みに結びつき、このジャンルの特徴である超大な音像を作り出す。さらに、グランジ風のギターロックの要素がこの曲の大きな魅力となっている。しかし、以降の収録曲は、アルバムのために収録した間に合わせのものに過ぎず、Wispの本領発揮には至っていないような気がして残念であった。他方、アルバムの最後に収録されている「All I Need」は良い雰囲気が漂っている。デモ風のラフな曲であるが、なにかこのアーティストのことを少し理解出来るような気がした。最もストレートな感情を示したフォークミュージックによるこの曲は、激しいシューゲイズサウンドの中において異彩を放ってやまない。
75/100
Best Track 「If Not Winter」
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