The Brths 『Straight Line Was A Lie』
Label: AntiRelease: 2025年8月29日
Review
ニュージーランドのザ・ベスはアンタイと新契約を交わし、ニューアルバム『Straight Line Was A Lie』を引っ提げて復帰を果たした。前作では、先鋭的なパンクのイメージを刻印していてその楽曲は疾走感のあるテンポを用いていたがが、最新作では聴きやすくメロディアスなロックソングが満載である。またメロディを聞かせるために意図的にテンポが落とされている。
今回のアルバム『Straight Line Was A Lie』では、ストークスを中心とする良質なメロディーメイカーとしてのベスの姿を捉えられる。人生は平坦ではないという思いを込めたアルバムのオープニングトラック/タイトル曲は、ザ・ベスの持ち味が引き出され、4カウントのコールから始まり、程よくパンキッシュなロックソングが展開される。オープニング曲には、前作よりも成長したオークランドのロックバンドの姿を垣間見ることが出来る。程よく力の抜けた演奏、そしてメロディアスなコーラスワークでバンドとしての一体感が滲み出ている。これをバンドとしての成長と言わずしてなんと言おう。また、ザ・ベスはパンク/ロック・バンドとしての他にも琴線に触れるようなジャングルポップやパワー・ポップを書く能力に恵まれている。曲の後半部では、メロディアスなボーカルと演奏から切ないエモーションが見事に引き出される。
そして新レーベルへの移籍を契機として、バラードタイプの曲を書くことも遠慮することはなくなった。「Mosquitos」のイントロはしっとりとしたフォークバラードで、アコースティックギターを中心に構成され、その後ゆったりとした射幸性を廃して落ち着いついたロックソングが展開される。この曲では、珍しくザ・ベスはアメリカーナに依拠しており、牧歌的な空気感やシンセサイザーの遊び心あふれる対旋律を導入し、バラエティに富んだ音を配置する。しかし、音楽的な手法が変化したといはいえ、依然としてベスらしさが満載で、ボーカルの旋律からは温和な叙情性が浮かび上がる。そしてより基本的なロックやポップスの作曲法に回帰し、ギターソロやコーラスの箇所を通じて、良質なロックソングとは何かを探求しているのである。そしてサビの箇所でのサブコーラスに特に力が入っている。これはちょっと飛躍しているが、バンドは今回のソングライティングにおいてABBAのような良質なメロディーを追求している。この心変わりは、従来のようなパンクの文脈においては実現しえなかったものだろう。
そんな中でも心楽しいアップテンポな曲もある。「No Joy」はやんちゃな掛け声で始まり、ドラムの8ビートのシンプルなリズムから分厚いギター、そしてパンキッシュなボーカルが出てくる。全体的なロックソングとしてはガレージ・ロックに近い印象を持つ。なおかつまた、同じベイエリア繋がりというわけではないが、西海岸のパンクバンドのようなフレーズが出てくる。タイトルの歌詞は投げやりなのだが、ギターラインに奇妙なパンクセンスを散りばめることにより、この曲はおのずと軽快な印象を持つ。虚無的なパンクセンスがこの曲の核である。その中でノイズや不協和音を散りばめながら、アヴァンギャルドなロックソングを構築する。しかし、それらは飽くまで、聴きやすさを重視したロックソングという形で昇華されている。さらに「Metal」は彼らの持ち味であるパワー・ポップのセンスがほとばしっている。温和的な旋律がバンドサウンドとはまっていて、特にエレクトリックとアコースティックの中間にある淡いギターライン、そのアルペジオがきらりと光る。その中で、ストークスのボーカルは美麗な旋律線を描くことがある。この曲では、ポップバンドとしての意外な姿を捉える事もできる。
アルバムの中盤においても、アメリカーナの影響が見受けられ、エレクトリックのカントリーともいえる「Mother, Pray For Me」、エレクトリックとポップスの融合を目指した「Til My Heart Stops」もまたメロディアスな音楽性が強調されている。前の曲は、賛美歌のような旋律を押し出した精妙なカントリー、そして後者はTikTokサウンドに触発されたポップサウンドである。しかし、これらの2曲は、どうも既視感があり、音楽性の上辺を掬うだけで終わってしまっているのが残念。そんな中で、「Take」は良い曲で、ファジーなベースとギターがユニゾンを描きながら、スポークンワードの織り込んだボーカルと見事なコントラストを形成している。これらの近未来的な魅力を持つエレクトロポップパンクがアルバムのハイライトである。
このアルバムは良い曲も収録されているが、一番の問題は、ヒットソングを書かねばというようなプレッシャーが感じられ、そういったジレンマのようなものが読み取れた。と同時に、ベスの本来の自由な音楽性を遮断しているような気がした。その点がザ・ベスの本領発揮に至っていない理由ではないだろうか。また、部分的に不協和音を強調したギターを重ねたり、シンセサイザーのフレーズを導入したりと様々な工夫も凝らされていて、それらは聞くときの楽しみとなるかもしれない。しかしながら、全体的には、一つの枠組みの中で収まっている気がする。本来のベスはもっと広大で大きな可能性を持ったプロジェクトのはずで、これが少し残念な点であった。
ただ、最後のトラック「Best Raid Plans」はブラボーといえる。この曲は、ソフトロックの影響を交えて、本来のベスのカラフルなサウンドの魅力が余すところなく引き出されている。いわばバンドの自由性に任せたサウンドで、トロピカルな印象で、このアルバムの最後を華麗に彩っている。一般的なロックやパンクの概念から距離を置く時、バンドの本当の魅力が出てくる気がする。最後の曲は、ベスの本当の魅力が目に見えるような形ではっきりと滲み出ていて良かった。
76/100
「Best Raid Plans」
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