New Album Review: Sword Ⅱ 『Electric Hour』

Sword Ⅱ 『Electric Hour』


Label: Section 1

Release:2025年11月14日

 

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Review

 

アトランタのアルトロックバンド、Sword Ⅱは、マリ・ゴンザレス、アス・カーテン・ズコ、トラヴィス・アーノルドの三人組である。このサイトでは初登場のバンドとなるはずだ。アトランタのバンドではあるが、ブリット・ポップのようなサウンドとインディーロックを融合するバンドである。


2023年にデビュー・アルバム『Spirit World Tour』をリリースしており、本作は二作目となる。このアルバムは、監視技術社会の問題点をベースに制作され、その中で、創造性や革命の時間をもたらすという内容である。


バンドは、ライブステージに立つ時間をそういった抑圧、疎外感から解放する働きをもたらすようなアルバムを制作したかったという。


実際的に、これらは観念的な世界から生み出されたものではない。友人の家がFBIに捜査され、監視下に置かれたのだった。レコーディングに関しても、独特な切迫感をもたらし、漏電などの脅威もあったという。おのずとこのアルバムはアンダーグランドなロックソングの響きがあるが、同時に、その中で作り事ではないリアリズムのサウンドが全般を通じて体現されているように思える。

 

アルバムは「Disconnection」で始まるが、これらは、80−90年代のブリット・ポップのサウンドと共鳴する何かがある。同時に、Guided By Voices、Pavement、Galaxie 500、Sebadohのような最初のオルタナティヴロックソングと通じるものがある。悲しみに満ちたアコースティックサウンドで始まるが、ローファイなロックサウンドの中で、独特な内向きの熱狂性を生み出している。


これらは必ずしも、感情が昂じたり高ぶることなく、ほどよいテンションを保ちながら、USインディーロックらしい雰囲気を呼び覚ます。曲の全般はダークな雰囲気に満ちているが、聞いていると不思議と癒やしがあり、同時に勇気づけられる感覚がある。基本的にはニッチなインディーロックに属しているが、彼らのサウンドには何かしら説得力がある。これらはフィクションとしてのサウンドにはあらず、現実の延長線上に、アトランタの3人組、Sword Ⅱの音楽性が構築されていることを伺わせる。また、その主要なサウンドは、ガレージ・ロック色には乏しいものの、Bar Italiaのサウンドに通じるものがあることを感じ取っていただけるのではないか。

 

同時に、このトリオは、分担制のボーカルスタイルを取る。これが曲の印象にバラエティを付与しているのは事実だろう。「Swenty」では女性ボーカルに変わり、ネオ・アコースティックやアノラック風のサウンドに傾倒する。それは同時にジャングルポップやトゥイーポップのようなサウンドの側面を強調付ける。この曲には、甘酸っぱい感じもあり、Vaselinesのようなサウンドを楽しむことが出来る。 アルバムの冒頭では、さらにロック的な知識量の豊富さを顕示し、バロックポップのような70年代風のサウンドを続く「Under the Scare」に捉えることが出来るはずだ。そうした中で、独特なオリジナリティが出てくることがある。この曲の明るい感じのするコーラスワークは、このバンドの持ち味や長所が目に見える形で出てきた瞬間でもある。

 

ロックバンドとしての性質にとどまらず、MUNAのようなインディーポップサウンドのセンスを発揮することもある。「Sugarcane」は注目の一曲となっている。甘口のアルトポップソングをお望みの方に最適なトラックとなる。 また、それらのポップサウンドには、シューゲイズからの影響もわずかに感じられる。独特なアナログシンセのような音色は、MBVのロックサウンドのような独特な甘酸っぱさに満ちている。これらが最終的に、ドリーム・ポップバンドとしてのSword Ⅱの姿を浮かび上がらせる。ツインボーカルの楽曲は、ロンドンのWhitelandsのサウンドを彷彿とさせることも。これらの田舎性と都会性の混在したロックサウンドが醍醐味である。

 

90年代のブリット・ポップや、USオルタナティヴロックを踏襲した上で、ローファイやヒップホップのイディオムを的確に踏まえ、「Gun You Hold」では新鮮味のあるサウンドを作り出している。静かなアルトフォークサウンドから、ロック的な轟音のサビ/コーラスが対比されるという点ではやはり、Bar Italiaに近い性質をもった楽曲と言える部分もあるかもしれない。これらはまだ最終的な形になったとまでは言えないが、曲の後半ではじんわりとした感覚をもたらす。


鐘の音のイントロで始まる「Passionate Nun」もセンス抜群のサウンドである。以前として全体的には、ボーカルの節回しを見るかぎり、ブリット・ポップからの影響が色濃いように思えるが、その中で最もユニークな性質がサビ/コーラスの箇所で登場する。これはアトランタのサウンドなのか、それとも、このトリオの持つスペシャリティなのか、よくわからないので、面白い。続く「Halogen」は、ドリーム・ポップ/シューゲイズの楽曲で、現在のインディーズロックの主流のスタイルに準じている。その中で、スコットランドのネオ・アコースティックやシアトルのグランジの要素を織り交ぜながら、Sword Ⅱとしての唯一無二のサウンドを探求している。

 

今後、どのようなバンドになるのか読めないという点で、Sword Ⅱに大きな期待を感じる。アルバムの後半ではほとんどジャンルを度外視し、冒険に満ちたサウンドを追求している。「Violence of the Star」では、Let's Eat Gramma、MUNAのような甘口のポップサウンドを提示しているが、その後は、まったく予想がつかず、そして展開が読めない。藪から蛇といった感じだ。


「Who's Giving Your Love」では、荒削りな感じのあるガレージロックをベースにした高速パンクチューンを制作している。また、アルバムのクローズ「Even if it's Just a Dream」ではアルバムの序盤や中盤に見出されるブリット・ポップを中心としたバラード風のインディーロックソングへと舞い戻る。このアルバムの全体に通底するバラエティ性こそ、このバンドの最大の魅力であるとともに、USインディーロック特有の性質でもある。今後のトリオの活躍にも注目したい。

 

 

80/100

 

 

 

「Gun You Hold」 

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