テレサ・ジャービスは不安や抑うつ状態など、自身のメンタルヘルスの問題から、 それらをモチーフにしたロックソングを書いてきた。YONAKAは他のロックバンドと同じように、問題を抱える人の心を鼓舞し、最も暗い場所から立ち上がる手がかりを与える。そしてジャービスは自分と同じような問題を抱えるリスナーに”孤独ではないこと”を伝えようとしてきた。それらのメッセージがひとつの集大成となったのが昨年に発表された『Welcome To My House』だった。
今週末、LAVAからリリースされた「Fight For Right「権利のために闘う」)では、ボーカリストのテレサ・ジャーヴィスはシンプルに自分たちの権利を守るために歌を歌っている。ここには主張性を削ぎ落とした結果、ニュートラルになったバンドとは全く異なる何かが含まれている。彼らは口をつぐむことをやめ、叫ぶことを是としたのだ。
トリオは昨年までのロックバンドとしての姿を留めていたが、年明けのシングル「Predator」と合わせて聴くと、全然異なるバンドへと変貌を遂げたことがわかる。ライブイベントやファンとの交流の中で、”ファンの声を聞き、それを自分たちの音楽に取り入れることが出来た”と話すテレサ・ジャービスが導き出した答えは、YONAKAがニューメタルバンドとしての道を歩みだすことだったのだろうか。「Fight For Right」は彼らが書いてきた中で、最もグルーヴィな一曲。彼らはトレンドから完全に背を向けているが、その一方、最もサプライズなナンバーだった。誰にでも幸福になる権利があり、そしてそれは時に戦うことにより獲得せねばならない。
2023年、ユニバーサルミュージックから発表されたEP『Welcome To My House』では、マンチェスターのPale Wavesのように、ポップ・パンクとハイパー・ポップを融合させたスタイルで話題を呼んだ四人組。だが、YONAKAを単なる「ニューライザー」等と称する段階は過ぎているのではないだろうか。Evanescence(エヴァネッセンス)を基調としたメタルコアに近い音楽性、チャーリーXCXのハイパーポップ、現代的なUKラップを吸収し、それらをポピュラーミュージックとして昇華したスタイルは劇的である。今後さらに多くのファンベースを獲得しても不思議ではない。昨年のG2、Jeris Johnsonとのコラボレーション曲「Detonate」の進化系がニューシングル「Predator」で遂にお目見えとなった。問題無用のベストニュートラックだ。
二曲目以降は、NWOHMの要素が強くなっていき、「Supercell」では『British Steel』や『Screaming For Vengeance』の時代のジューダス・プリーストの影響を交えた渋すぎるメタルサウンドで、そのエンジンのギアをアップしていく。彼らはロブ・ハルフォードに次ぐメタル・ゴッドの二代目の称号を得ようとしているのか、そこまではわからないことだが、キング・ギザードの演奏は、真正直か愚直ともいうべきブリッティシュ・メタルのオマージュやイミテーションを通じて展開されていく。80年代のメタル・フリークにとってはコメディーのような雰囲気があるため、ニヤリとさせるものがある。しかし、それらの硬派で気難しげなメタル・サウンドへのオマージュやイミテーションの中にも、じっくりと聞かせる何かが込められていることも理解できるはずである。なぜ、これらのB級メタルサウンドの中に聞かせるものが存在するのだろうか。それはキング・ギザードのバンドの演奏力が世界的に見ても際立って高いこと、ライブ・セッションの面白みをそつなくレコーディングの中に取り入れているからなのだろう。
さらにキング・ギザードの面々は、80年代のメタル・サウンドの最深部へと下りていく。アルバムの先行シングルとして公開された「Gila Monster」は、メタリカの『Ride The Lightning』に近い音楽性を選択し、北欧メタルへの親和性を示している。メタリカのこの曲に見られたアラビア風の旋律の影響を交えたギター・ソロは必聴で、ツインリードの流麗さと、ベタなフレーズを復刻しようとしている。この曲は、現代の簡略化されたメタルサウンドへの強いアンチテーゼともなっている。彼らは、あえて無駄と思われることを合理主義的な世界の中で勇敢に行おうというのだろうか。その中には消費主義に対するバンドの反駁的な思いも読み取ることが出来る。