YONAKA 『Welcome to My House』- Review

 YONAKA 『Welcome to My House』

 


 

Label: Republic/ UMG

Release: 2023/7/28

 


 

 

Review


今、ロンドンとともに面白いバンドが次々と出てくるのがブライトンである。四人組インディーロックバンド、YONAKAも注目のグループの一つ。2014年にYONAKAは結成されたが、Bring Me Horizonのサポートアクトを務めるなど、着実にファンベースを広げている。もちろん、評論筋からも評判は良く、Kerrang!誌が2019年の新人賞にノミネートしている。


近年、Fueled By Ramenからリリースを行っていたバンドは新たにRepublic/UMGと契約を結び、よりワールドワイドな活躍の期待をその背に担うことになった。Yeah Yeah YeahsやRoyal Bloodに近い音楽性が挙げられる場合もあるようだが、サウンドの志向性はシカゴのFall Out Boyにも近い。

 

つまり、スタジアム級のポップパンク性を掲げながら、アリーナの観客のボルテージをどれだけ掻き立てられるかが、YONAKAの現在のバンドとしての課題のようである。また、近作のアルバムにおいてライブサウンドと音源を結びつけるオルトロックサウンドを展開させていた。2021年の続編となる3rdアルバムは、よりソングラインティングの面で磨きがかかり、またバンドサウンドとしても洗練され、スピーカーの向こうにいるオーディエンスに熱狂性を与えるに値している。


オープニングを飾る「By The Time You're Reading This」を見るとわかる通り、ロンドンのPale Wavesのパンキッシュな音楽性と同郷のポップスター、メイジー・ピータースのポップ性を絡めて、親しみやすいポップバンガーを作り出している。と同時に、フォール・アウト・ボーイズから受け継いだエモ・ポップの要素を絡め、パンチ力のあるバンガーを生み出すことになった。


二曲目の「PANIC」では「YMCA」のような遊び心を入れ、それらをポップバンガーへと結びつけている。この曲の中で繰り広げられるテレサ・シャーヴィスのボーカル/シャウトは明らかに聴衆を扇動するために、また、観客との一体感を生み出すために存在している。ある意味ではシリアスになりがちなリスナーはこの曲を聴くと、憑き物が落ちたように適度なコンフォートな気持ちになれるはず。また、シャーヴィスのボーカルは、実際に現実性のシリアスさやつまらなさを打開するためにある。あえてシャーヴィスがボーカリストとしての愚者を演ずるのは、ファンの心をほぐすためで、またファンとの近さや親近感を持ってもらうためであることがわかる。こういった俳優のようなアクティヴィティに関しては共感性をリスナーにもたらす。

 

 三曲目のタイトル曲は、以前よりもバンドの音楽性に奥行きがもたらされた結果となっている。UKのオーバーグラウンド・ラップの王者であるStormzyの影響を絡め、それをアンセミックなポップスに昇華している。こういった音楽性は一歩間違うとチープになりがちだが、この曲はその限りではない。シャーヴィスのボーカルは商業性を意識しているものの、決して表向きの印象だけで敬遠すべきものではない。そのボーカルの中には真摯なものがあり、リスナーの耳を捉え、この曲を印象深くすることに成功している。さらにUKのラップの影響に加え、80年代のディスコ・ポップの影響はこの曲に乗りの良さとフックをもたらしている。 

 


不思議なのは、キャッチーさに重点が置かれているサウンドなのに、感覚の鋭さと聴き応えがあるということ。これは彼らが何らかのメッセージ性を歌詞や曲の中に込めている証拠かもしれない。YONAKAが称するホームとは、一般的には褒められないような空間かもしれない。けれどもそれは現実の中の欺瞞を打ち破る力があり、それらの現実性に溶け込みがたい人々のために存在している。その家に入るも入らないも聞き手の自由ではあるが、そこには現実とは異なる何かが存在していることもまた事実である。つまり、それらの概念的な空間が秀逸なポップネスという形で、曲の全般には還流している。それこそが彼らの成長であり、進化なのだろう。

 

アルバムの前半では、パンチ力のある曲で聞き手を惹きつけるが、YONAKAの魅力はそれだけにとどまらない。また「Give Me My Halo」バンドという活動形態ではありながら、テレサ・シャーヴィスのソロシンガーとしての実力が伺える。イントロはしっとりしたバラードで始まる曲は、表題に示されるように、光背が指すような神々しさのあるポップソングへと変遷を辿る。ここには一曲を大切に書こうとしているバンド/シンガーのシリアスな姿勢が伺える。それはサビの後半において清らかな結晶に変化する。そして、タイトルと曲が結びつけ、それらの抽象的な概念を聞き手の脳裏に呼び覚ますようなイメージの喚起力も持ち合わせている。

 

ただ、YONAKAが神妙な感じでは終わるはずもない。その後、ロンドンのSports Teamのようなポスト・パンクの影響を絡めた「I Want More」が続いている。前の曲とは正反対に現世的な欲望を剥き出しにしたポスト・パンクサウンドは、Sport Team/Hot Chipのようなエレクトロ・サウンドと合致を果たし、想像を絶するクライマックスへと移行する。ボーカルはもとより、バンドサウンドにも野性味があり、サビでは苛烈なメッセージ性に変化する。スタジアムのアリーナでのライブに相応しく、今夏を乗り切るための必聴曲ともなりそうだ。


「I Don't Care」は何かの出来事に対する反動とも読み解ける。それは反体制的なパンクサウンドとして現出し、拡声器を通したようなボーカルは扇動的なイメージを帯びる。曲の途中から、シャーヴィスのボーカルはアジテーションに近い雰囲気になっていくが、怒りの本質的な生命力が乗り移ったポップバンガーはより多くのリスナーを獲得するための原動力ともなるはずだ。

 

クローズ曲「Hands Off My Money」は、テレサ・シャーヴィスのシャウトにより始まり、ヴォルテージが最高潮に達する。ヤー・ヤー・ヤーズがTouch&GoからセルフタイトルのEPをリリースした頃のサウンドを彷彿とさせる、硬質なガレージロックサウンド/ポスト・パンクサウンドへとこの曲は変遷を辿ってゆく。

 

 

79/100