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Credit : Bahno Jung


ジャンルの枠にとらわれない韓国のバンド SE SO NEON が、ニューアルバム『NOW』を8/15(金)にリリースする。


プロデューサー/マルチプレイヤー/シンガーであるソユン率いるバンドは、ブルース、サイケデリック・ロック、ニューウェーブ、シンセポップなど多様な音楽性を融合させたローファイかつヴィンテージなサウンドが特徴。


「みんな私のエネルギーと魂を感じてくれるはず」とソユンが語るように、最新作『NOW』も韓国語を主としながらも、現代的であり自然とも深く結びついており、言語の壁を越えて共感を呼ぶ作品となっている。


『NOW』の発表と同時に、収録曲の中から新曲「Remember!」の韓国語・英語バージョンも公開。


本楽曲はソユンと、Jon Nellen(Nick Hakimとの共作でも知られるアーティスト)が共同プロデュースし、Nathan Boddy(Pink Pantheress、Geordie Greep を担当するエンジニア)がミックスを担当。感情の起伏が大きく内省的な静けさと力強いピークを行き来する構成が、ノスタルジックなテーマと同時にハートフルな雰囲気を伝えている。


ソユンは本作について「私は他人の死を通して、自分自身を理解することがある」と語り、親交のあった坂本龍一との別れから深いインスピレーションを得たことを明かしている。



【Comment by Soyoon】


「悲しいことに、私は他人の死を通して自分自身を理解することがあります。たぶん、私自身が死というものを多く経験していないからこそ、その影響がとても大きいのだと思います。友人であり、メンターであり、尊敬する音楽家でもあった坂本龍一さんが亡くなったとき、私が感じた感情を忘れたくないと思いました。彼の死を通して、“自分が誰なのか”を忘れないこと、そして彼の支えの中で、時間と音楽に完全に身を委ねようとする決意が芽生えました。そして彼を記憶するということは、この気持ちを持ち続けることなのです。」



【What kind of band is SE SO NEON?】


これまでに全世界で1億4500万回以上のストリーミング再生を記録し、Japanese BreakfastやBTSのRMとのコラボレーションでも既に高い注目を集めているSE SO NEON。日本でも坂本龍一トリビュートライブへの出演や、細野晴臣のカヴァー、KIRINJIとのフィーチャリングでその音楽性を存分に発揮。


Soyoon個人としてもLevi’s、Adidas、Metaのブランドモデルや、UGGのグローバルアンバサダーを務めており、その活躍の場は韓国・アジアから世界へと広げている。今秋にはニューヨークのBrooklyn Steel、ロサンゼルスのThe Wilternなど、全米の主要都市を巡るヘッドライナーツアーも開催。世界へ羽ばたくSE SO NEON の活躍を見逃すな!





■ アーティスト名:SE SO NEON (セソニョン)

■ 曲名:Remember! (リメンバー )

■ レーベル:ASTERI ENTERTAINMENT

■ 形態:ストリーミング&ダウンロード

■ URL:https://asteri.lnk.to/SESONEON_Remember


ロサンゼルスを拠点に活動するクリエイター、Evalynが夏の到来を予感させるポップバンガー「The Feeling」をミュージックビデオと同時にリリースした。

この曲は、2010年代の多幸感溢れるサウンドにインスパイアされた、アドレナリン全開のサウンドだ。 このトラックは、脈打つビートと熱を帯びたベースラインの上に、高鳴る印象的なフックで満たされており、究極のダンスフロア・アンセムを作り出している。 

このトラックは、彼女の最も野心的な作品であるアルバム『A Quiet Life』の初リリースとなる。 Evalynは、Spotifyだけで1億3,000万回以上のストリーミングを記録し、Billboard、PAPER、NYLONなどの出版物で賞賛されている。 また、コーチェラやグリーク・シアターでもパフォーマンスを行っている。


エヴァリンは10年以上にわたり、個人的な動揺をポップなカタルシスに変えてきた。 ロサンゼルスを拠点に活動し、Spotifyで1億3,000万回以上のストリーミングを記録している彼女が、最も野心的なプロジェクト「A Quiet Life」を携えて帰ってきた。

生々しい感情の激しさを魅力的なメロディーで包み込むことで知られるエヴァリンは、ルイ・ザ・チャイルドのブレイク・トラック「Fire」の歌声として聴衆を魅了した後、引っ張りだこのコラボレーターとして、また手強いソロ・アーティストとしての地位を確立した。 

2018年に発表したサイケデリック・ポップ・アルバム『Salvation』は、彼女の芸術的名刺代わりとなる自己救済のテーマを探求し、熱狂的なファンを育てた。 2024年にリリースされた新曲入りの再発盤は、ダンスフロアの下にある深みを求めるファンの間で、彼女の永続的な共感を証明した。
 
『A Quiet Life』は、エイフェックス・ツイン、ARCA、グライムスの不協和音の周波数から制作上のインスピレーションを得て、コンセプチュアルな領域にさらに踏み込んでいる。 
 
ほぼ全曲が彼女の最初の妊娠中に書かれ、レコーディングされたこの13曲入りの作品集は、不安による吐き気、終わりのないスクロールのノイズ、新しい生命を生み出しながら自分自身を見失う眩暈など、変容の物理的・心理的な混沌を映し出す。 ロサンゼルスで最も革新的なプロデューサーと共同制作したこの作品は、意識、緊張、降伏をテーマにした音の物語を紡ぎ出している。



ライブ・パフォーマーとして、エヴァリンは親密な会場からフェスティバルのメイン・ステージまで、あらゆるステージを支配する。 ジャイ・ウルフとともにコーチェラのサハラ・テントを飾り、グリーク・シアターでパフォーマンスを行い、SXSWやCRSSDでは観衆を魅了した。 

彼女のコラボレーションは、エレクトロニック・ミュージックの最前線で活躍する人物の名前を並べたようなものだ。 Dillon Francis、San Holo、Tritonal、It's Murph、RACなどが、デジタル領域に人間性を注入する彼女の特異な能力を利用している。

HBOからSpotifyの人気プレイリスト(New Music Friday、Young & Free、Metropolis)まで、あらゆる場所で音楽が紹介され、Billboard、Paper、Nylonといった大手出版社からも支持を得ているエヴァリンは、ポップなアクセシビリティと芸術的野心の境界線を曖昧にし続けている。


『A Quiet Life』では、彼女の最も大胆不敵な姿が見られ、リスナーは残骸から自分なりの意味を見つけ出すことになる。 形式通り、彼女は安易な答えを提示せず、ただ大声ですべてを感じることを許可している。

新曲「The Feeling」は、2010年代の多幸感溢れるサウンドにインスパイアされた、アドレナリン全開のサウンドだ。  このトラックは、一種のメインとなる魅惑的なミュージック・ビデオとともに公開された。 

「この曲は、感情や生の本能に支配されることを歌っていて、私たちはそれを動きで表現したかったの。 私は妊娠6ヶ月で、ヒールとピンクのタイツで床を這っていたの。それが混沌を表現するのに役立ったと思う」 

「ザ・フィーリング」は、脈打つビートと熱を帯びたベースラインの上に印象的なフックが舞い上がり、究極のダンスフロア・アンセムを作り出している。 
 
 
 
 
 「The Feeling」
 
 
 


Evalyn 「The Feelings」-  New Single
 


 
Evalyn has spent over a decade transforming personal turbulence into pop catharsis. The Los Angeles-based artist, whose work has amassed over 130 million streams on Spotify, returns with her most ambitious project yet—A Quiet Life, an album that captures the existential unraveling of modern consciousness through the lens of impending motherhood.

Known for wrapping raw emotional intensity in irresistible melodies, Evalyn first captivated audiences as the voice behind Louis the Child's breakout track "Fire," before establishing herself as both a sought-after collaborator and formidable solo artist. Her 2018 psychedelic pop opus Salvation cultivated a devoted following, exploring themes of self-rescue that would become her artistic calling card. The album's 2024 vinyl re-release, featuring new material, proved her enduring resonance with fans seeking depth beneath the dance floor.

A Quiet Life pushes further into conceptual territory, drawing production inspiration from the dissonant frequencies of Aphex Twin, ARCA, and Grimes. Written and recorded almost entirely during her first pregnancy, the 13-track collection mirrors the physical and psychological chaos of transformation—the nausea of anxiety, the noise of endless scrolling, the vertigo of losing oneself while creating new life. It's her most visceral work yet, co-created with some of Los Angeles' most innovative producers to weave a sonic narrative of consciousness, tension, and surrender.

As a live performer, Evalyn commands stages from intimate venues to festival main stages. She's graced Coachella's Sahara tent with Jai Wolf, performed at The Greek Theater, and captivated crowds at SXSW and CRSSD. Her collaborations read like a who's who of electronic music's vanguard: Dillon Francis, San Holo, Tritonal, It's Murph and RAC have all tapped into her singular ability to inject humanity into the digital realm.

With music featured everywhere from HBO to Spotify's most coveted playlists (New Music Friday, Young & Free, Metropolis), and support from major publications such as Billboard, Paper and Nylon, Evalyn continues to blur the lines between pop accessibility and artistic ambition. A Quiet Life sees her at her most fearless, inviting listeners to piece together their own meaning from the wreckage. True to form, she offers no easy answers—only the permission to feel everything, loudly.

Her new single "The Feeling" is a sonic adrenaline rush inspired by the euphoric sounds of the 2010’s.  The track is shared alongside an enthralling music video that represents a kind of maina.  Evalyn confides, "This song is really about being taken over by a feeling or a raw instinct and we wanted to create that through movement. I was 6 months pregnant and crawling on the floor in heels and pink tights - I think that helped capture the chaos." "The Feeling" is filled with soaring memorable hooks over pulsating beats and feverish basslines creating the ultimate dance-floor anthem. 


 

ニューカッスルのルース・リヨンは、社会規範に挑戦し、自己受容とエンパワーメントへの旅に火をつけながら、弱さの中の強さと不完全さの魅力を讃える。フィオナ・アップル、オルダス・ハーディング、レジーナ・スペクターなどの影響を受けた彼女のソウルフルなボーカルと、ウィットに富みながらも生々しいリリックが奏でるオフビートなアンチフォークが、すべてを解きほぐす。


リヨンはノース・ヨークシャーで育ち、ファッション・デザインを学ぶためにニューカッスル/アポン・タインに移り住んだ。その間、カルト的人気を誇るフォーク・ロック・バンド、ホーリー・モリ&ザ・クラッカーズの前座を務め、イギリスとヨーロッパを精力的にツアーした。


2020年、グラスハウスのアーティスト・イン・レジデンスに招かれ、ソロ活動を開始。その後すぐにロックダウンが訪れ、彼女は遮蔽物に囲まれながら、ベッドルームでゆっくりと新しい音楽的アイデンティティを築いていった。前作『Direct Debit To Vogue』(2022年)では、PJハーヴェイ、オルダス・ハーディング、ディス・イズ・ザ・キットを手掛けたブリストルのプロデューサー、ジョン・パリッシュとコラボレートした。


もうひとつの重要なインスピレーションは、リヨンが2022年3月のSXSW TXでアメリカデビューを果たしたときにもたらされた。彼女は、オーストラリアとアメリカの障害者アーティスト、イライザ・ハルとラチとともにパネルに登壇し、ショーケースでパフォーマンスを披露した。ここで彼女は、コミュニティとアクセシビリティに関するまったく新しい視点を聞き、仲間のアーティストたちが自らの経験を語るパフォーマンスを目の当たりにして、深く感動した。「私にとっては、ほとんどスピリチュアルなことのようでした。帰ってきて、このキャリアは自分自身よりもずっと大きなものだと気づいた。自分には、このキャリアをできる限り押し進め、できる限り正直になる義務があると思う」


帰国後、彼女はこのことを一気に書き上げ、自分の本物の声への新たなコミットメントとともに『Direct Debit To Vogue』を完成させた。彼女は言う。「腹にパンチを入れるような音楽の感覚を呼び起こしたかった」


リリース以来、リヨンはPRS Women Make Musicなどから賞賛を受け、BBC Radio 1と6 Musicからオンエアされ、グレート・エスケープ、ラティテュード・フェスティバル、シークレット・ガーデン・パーティー、グリーンベルト、グラストンベリーにも招待されている。2025年リリースのデビュー・アルバムを再びジョン・パリッシュとレコーディングし、アビー・ロードでBBCの独占ライブ・セッションを収録した。


長年にわたり、リヨンはニューカッスルの音楽シーンの重要かつ活発なメンバーとしての地位を確立してきた。「ニューカッスルにはあまり産業がないため、成功するにはロンドンに移らなければならないように感じることもある。しかし、私は、私たちが北部で成功し、良い芸術を作ることができるように、それを作ろうとしているミュージシャンを本当に誇りに思っています」


デビュー・アルバム『ポエム&ノンフィクション』は、繊細さと力強さのバランスを保った芸術性で、深く喚起させる物語と力強い瞑想を織り成すパワフルなライターの道標。 障害を持つ女性としての体験と、生涯にわたる他者意識によって鍛えられた彼女は、存在の美しい混乱を探求し、社会規範に挑戦し、自己受容、エンパワーメント、そしておそらく最も重要な希望への旅に火をつける。「これらの歌に込められた生々しい正直さに自分でも驚いている、これらの物語が癒しと成長を促してくれることを願っています」


高名なプロデューサー、ジョン・パリッシュ(pjハーヴェイ、オルダス・ハーディング)と仕事をし、エイドリアン・レンカー、フィオナ・アップル、ムーンドッグといったアーティストの影響を受けたこの曲は、詩的なニュアンスに富み、若い人生を力強く生きた型破りな洞察力に満ちている。抽象的、原型的、そして赤裸々な真実の間を揺れ動きながら、表面下の意味を掬い出す。


ニューヨーク・シティ・ホールでのダニー・アワード受賞、ブライトンのグレート・エスケープ・インターナショナル・ショーケース、グラストンベリー・フェスティバルなど、世界各地でコンサートを行い、pplモメンタメンタントグラグラントを受賞、パワーにも選出された。



『Poems & Non-Fiction』のリードシングルは、寓話的なオマージュであり、単に『Books』と呼ばれている。 "ベッドのそばに本の山があるの "と歌う彼女は、"フォントや色に感心するけど、私は読まないわ "と告白する。


複雑な構造レベルではあるが、音楽自体が見事に実現されている一方、その巧みなメタファーには現地の評論家も息を巻くほど。 「私と本との関係は難しい。 読書は本当に疲れるものだけど、本は大好き。でも、詩はもっと直感的な体験で、書かれた言葉にもっと親しみやすい方法として好きなんだ。 私は詩をたくさん書くけれど、旅行もたくさんするし、海で泳ぐのも好きだし、ガーデニングも好きだし、鳥や自然も好き。これらの断片を集めて、リズムやメロディーを考え出し、それにどんな詩が合うかを考える。 かなりカオスなプロセスになってしまう」


アルバムのプロデュースはジョン・パリッシュ(PJハーヴェイ、オルダス・ハーディング)。 「ジョンは世界一忍耐強い男で、決してノーとは言わない! アルバムには奇妙な音がたくさん入っているけど、それはジョンが私にいろいろと試させてくれた。 彼は私の音楽的解釈者のようなもの。 作曲は、話すことではなかなかできない自己表現の方法として使っている。 しゃべるのは好きなのだけど、しゃべりすぎると大きなノイズのようになってしまうことがあるので」


「このアルバムは2023年にレコーディングしたんだけど、1年かけて自分のことをどれだけ詰め込めるか考えたの。 抽象的だけど、正直で本物。 抽象的な表現を使っているのは、聴き手の解釈の余地を残しておきたかったから。 私のこと、私の人生、私の人生経験を知る必要はないし、もちろん、私の友人である必要もない。 ただ、私が望むのは、私のことを少しでも知ってもらうことです。人々が自分の物語や感情を織り込んで、自分に語りかける部分とつながることができるように、十分な余白を残しておきたかった。聴く人に何かを語りかけてくれることを願っています。 私は、個人的で抽象的で、何かを感じさせてくれる音楽の方が好きなんです」




Ruth Lyon 『Poems & Non Fiction』 -Pink Lane



ルース・リヨンによる記念すべきデビュー・アルバム『Poem & Non Fiction』は、大人のためのポップスといえる。このアルバムで、ニューキャッスルのSSWは、表側には出せないため息のような感覚を、アンニュイなポピュラーソングにより発露している。BBC Radioからプッシュを受けるルース・リヨン。世界的にはシンガーソングライターとしての全容は明らかになっていない。しかし、幸運にもグラストンベリーフェスティバルで彼女の姿を目撃した方もいるはずだ。


デビューアルバムは、PJハーヴェイ、フィオナ・アップル、オルダス・ハーディングの系統に属する女性シンガーらしい、本音を巧妙に隠したアルバムである。リヨンは上記の著名なシンガーと同様、メインストリームではなく、そしてアンダーグラウンドでもない、その中間層の音楽を探求している。

 

正直言えば、少し地味なポピュラーアルバムかもしれないと思った。ただ、どちらかといえば、聴けば聴くほどに、その本質がにじみ出てくる。リヨンは人間的な感覚を渋いポップソングで体現させる。アルバムは、全般的にマイナー調の曲が多く、そのボーカルはほのかなペーソスを感じさせる。そして、時々、ヨーロッパのテイストを漂わせるフォークロックを聞かせてくれるという点では、ラフ・トレードに所属するフランスのシンガー、This Is The Kit(それは時々、実験的な音楽性に近づく場合もある)を思い出す方もいらっしゃるかもしれない。ルース・リヨンはリリックに関して、ストレートな言葉を避け、出来る限り抽象的な言葉を選んでいる。それが言葉に奥行きをもたせることは言うまでもない。

 

アルバムの冒頭曲「Artist」はピアノの演奏で始まり、ソフトな歌声が続いている。ビリー・ジョエルの系譜にある標準的なピアノバラード。曲の背景に薄いビートを反復させ、ドラム、ギターや アコーディオンのような音色を絡めながら、ルース・リヨンの歌声が浮かび上がってくる。しかし、その中には理想的な自己像と対象的に、現実的な自己像の間に揺れ動きながら、その理想的な姿に恋い焦がれるようなアーティストの姿を見いだせる。それらは儚く、切ないような感覚を表現する。ただ意図してそうしているわけではないと思う。二つのボーカルを登場させ、それらの自己のアイデンティティの暗喩的な存在として音楽の中をゆらゆら揺れ動いていく。まるで外的な環境に左右される自己像をバラードソングとして体現させたかのようである。

 

承前という言葉がふさわしく、『Poem& Non Fiction」は前の曲の作風を受け継いだ「Wickerman」が続く。同じようなタイプの曲で籠もった音色を生かしたピアノ、そしてアンサンブルの性質が強いドラムを中心に構成される。しかし、この曲の方がブルージーな味わいを感じさせる。人生の渋みといっては少し語弊があるかもしれない。ところが、この曲全般に漂う、孤独感や疎外感といった感覚は、イギリスの若い人々に共鳴するエモーションがあるのではないかと思う。ルース・リヨンのソングライティングは、まるでモラトリアムのような感覚を持って空間をさまよい、しばらくすると、その長いため息のようなものがいつの間にか消えている。彼女の歌声はブルース風のギターによって、そのムードがよりリアリティ溢れるものになる。そして、この曲でも、メインとコーラスという二つの声が二つの内的な声の反映となっている。

 

 

「Books」は、私は詳しくないが、ケイト・ブッシュの往年の楽曲に近いという評判。シンガーのやるせない思い、そして嫉妬の感情が淡くゆらめく。 ルース・リヨンは、この曲において、日常的な生活を日記のように描き、その中で内側の悶々とした思いを、憂いのあるフォークロックに乗せて歌いあげる。曲の途中に薄くアレンジで導入されるストリングス、それはシンガーの内側に隠された涙、そして、憂いのムードを引き上げるような働きをなす。そして一般的な人々に対するジェラシーのような感覚が自然な形であふれでてくるのである。


一方、続く「Perfect」は、そういった憂いの領域から抜け出し、軽快な心境に至る道筋をつなげる。簡潔な3分のポップソングは、ゆったりとしたアルバムの冒頭の二曲とはきわめて対象的に、シンセポップのような軽快な軽やかさを持ち、聴覚をとらえる。

 

 

 「Perfect」

 

 

 

ルース・リヨンは、バロックポップの曲を書くこともある。「Hill」は、歌詞が秀逸であり、聖なる亡霊が登場する。実際的な現実性を描いたものなのか、それとも、純粋な幻想性を盛り込んだものなのか。この曲は、ベス・ギボンズのソングライティングのように情景的な音楽を孕んでいる。エレクトリック・ピアノも用いて、バロックポップのゆったりとしたリズムを作り出した上で、その構成の中でフォーク・ロックともブルースとも付かないアンニュイなUKポップソングを歌い上げる。古典的なイギリスの詩からの影響は、幻想性と現実性の合間を揺れ動き、文学的な枠組みを作り出す。丘の幽霊というモチーフはまさしく英国文学の重要な主題の一と言えるだろう。

 

ニューヨークの伝説的なミュージシャン、Moondogの系統にある曲もある。20世紀初頭のアウトサイダージャズ、そしてジプシー音楽のようなストリートミュージックの発祥を、現代的なポップソングとして再訪している。「Confetti」は明確なイントロを設け、一度休符を挟んでから曲が始まる。その後、サックスフォンのソロを挟み、リヨンは音程をぼかし、スポークンワードに近い淡々とした歌を歌う。しかし、卒のない感じがスムース・ジャズのような音楽性を作り出し、肩で風を切って歩くようなかっこいい感覚を生み出す。金管楽器のハーモニーがジャズの雰囲気を作り出すという点では、ビッグバンドふうのジャズバラードとして聴くことが出来るはずである。


続く「Caesar」は「Hill」と同じようにバロックポップタイプだが、この曲はよりイエイエに近いボーカルスタイルが選ばれ、どちらかといえばセルジュ・ゲンスブールの往年のソングライティングを彷彿とさせる。

 

このアルバムは、まるで日めくりカレンダーのように、収録曲がある日の出来事の反映となっているような気がする。そして結局、曲を書いたのは、だいぶ後になってからだと思われる。いわば''後日談''のような音楽になっている。 アルバムの冒頭では、やや淡白なソングライティングになってしまっているが、中盤から後半に至ると、音楽的なムードがかなり深い領域に達する。


「November」ではインドのシタール、あるいは、ドイツのZitherのようなフォルテピアノの制作のヒントになったヨーロッパの古典的な音色を活かす。その時、持ち前のマイナー調を中心とする憂いのあるソングライティングが変質し、単なる暗鬱とは異なる硬質な感情性が音楽に転移していく。いわば映画のサントラのムードを持つ雰囲気たっぷりの音楽へと変化するのである。この曲は、他の曲に比べて力強さがあり、本作のハイライトとも呼ぶべきだ。ビートルズの最初期のマイナー調の曲、あるいはフロイドの「Echoes」の楽曲に近づく。

 

現時点のソングライティングの問題は、音楽全体の曲風がステレオタイプに陥る場合があるということである。しかし、それすらも見方を変えれば、現在のアーティストのスペシャリティとも言えるかもしれない。その音楽的な性質の連続は、アシッドハウスのごとき全般的な循環性を生み出す。もちろん、それはEDMではなく、ポピュラーソングとしての話であるが......。


「Cover」は、フィオナ・アップル、ハーヴェイのようなシンガーの音楽性を彷彿とさせ、やはりムーンドッグタイプの金管楽器の室内楽のような趣を持つアレンジメントがリズミカルな効果を及ぼしている。他の曲と同じタイプであるが、アウトロの部分で聞かせるものがあり、瞑想的な感覚に至る。ジョン・レノンのソロアルバムのバラードソングと同じような典型的な終止形を用いて、深い感覚を呼び覚ますのである。

 

アルバムの中で最も悲しく、しかし、最も心を揺さぶられるのが「Weather」である。まるでこの曲は、絶望の淵にいるアーティスト(仮託された他者のことを歌う場合もあるかもしれない)と天候がリンクするように、まるで終わりのない深い霧や靄の中を歩くような茫漠とした感覚が歌われる。


哀感のあるエレクトリック・ピアノの演奏、その悲しみを引き立てるようなストリングス(Violinのレガートを中心にCelloのピチカートも入る)、しかし、そういった悲しみに飲まれまいとするシンガーの歌声が、都会の雑踏で知られざる生活を送るシンガーソングライターの写し身になっている。それがシンガー自身が述べているように、リアリティがあるがゆえ、心を揺さぶるものがある。しかし、その悲しみと涙を飲み干すように、アルバムのクローズでは再び活力を取り直す。「Seasons」ではまたひとつ季節が一巡りし、再びゆっくりと前に進んでいく人間のたくましさが歌われる。

 

 

 

82/100

 

 

「Books」

 

 

  

▪Ruth Lyonのニューアルバム『Poem & Non Fiction』はPink Laneから本日発売。ストリーミングはこちらから。

 


 

オリヴィア・ディーンがニューシングル『Nice To Each Other』をリリースした。複数のBRIT賞とマーキュリー賞にノミネートされたアーティストのソウルフルなヴォーカルを、爽やかなギターに乗せたこの曲は、リアン・ラ・ハヴァスやピンク・パンテレスなどのアーティストとの仕事で知られるマット・ヘイルズとザック・ナホームと共にレコーディングされ、ジェイク・アーランドが監督したワンテイクショット・ビデオは以下の通り。 ディーンはこう語っています。


"Nice To Each Other "は、デートにおける自分の自立を探ることの押しと引きについて歌った曲だ。 この曲は、今現在の誰かを楽しむこと、そしてそれが軽快で有意義なものになることを歌っているんだ。 この曲とビデオは、私の中の遊び心を表していると思う。


「Nice To Each Other」は、キャピトル・レコードから9月26日にリリースされるディーンのセカンド・アルバム『The Art of Loving』に収録されます。 


ディーンはこの夏、ロンドン、ニューカッスル、マンチェスター、エディンバラで開催されるサム・フェンダーのUK公演をサポートし、6月11日にはロンドンのO2シェパーズ・ブッシュ・エンパイアで故郷を祝う新たなギグを行なう。 チケットは6月9日(月)午前10時より一般発売開始。 また、7月6日にはロンドンのBSTハイド・パークでサブリナ・カーペンターをサポートする。 その後、彼女は夏のAcross The Atlantic北米ツアーに出発する。


「Nice To Each Other」



『The Art of Loving』は、2023年のデビュー作『Messy』に続く作品となる。 デビュー・アルバムはイギリスのオフィシャル・アルバム・チャートで4位を記録し、同年のマーキュリー・プライズにノミネートされたが、最終的にエズラ・コレクティヴの『Where I'm Meant to Be』に敗れた。 


今年初め、ディーンは『ブリジット・ジョーンズ』でフィーチャーされた「It Isn't Perfect But It Might Be」をリリース。 マッド・アバウト・ザ・ボーイ』でフィーチャーされ、オフィシャルシングルチャート36位にランクインしました。 この曲が今度のアルバムに収録されるかは未定です。


Olivia Dean  『The Art of Living』


Label: Capital

Release: 2025年9月26日


*収録曲は未公開



Gina Zoのニューシングル「Dirty Habits」は究極のポップ・ロック・サマー・アンセム。アメリカの音楽エージェンシーグループいわく、”私たちはこの夏のガールズ・ソングと呼んでいる!”という。

 

フィリー・ロック・バンド、ヴェルヴェット・ルージュを脱退した彼女は、感染力のある80年代シンセサイザーとハイエナジーなポップ・ロックを融合させた、フレッシュで楽しいサウンドを取り入れ、新しい「カリフォルニア・ガール」の感覚を表現している。



グラミー賞受賞プロデューサーのジャスティン・ミラー(ザック・ブライアン、ジャズミン・サリヴァン)とティム・ソネフェルド(アッシャー)がプロデュースしたこの曲は、2026年初頭にリリース予定のデビュー・アルバムからのファースト・シングルだ。

 

「”Dirty Habits”は、夢と現実の間の緊張感をテーマにしており、決してかなわないかもしれない何かを追い求めるスリルを、セクシーな笑顔と抵抗できないビートで表現している。遊び心のある歌詞、キャッチーなフック、そしてアンセミックなコーラスが特徴。ドラマ仕立てのミュージックビデオは下記よりご覧ください。

 

ジーナ・ゾーは、フィラデルフィア郊外出身で、現在はLAで活躍するパワフルなヴォーカリストである。

 

2023年のアンセム「Faking It」でバイセクシュアルであることを大胆に宣言したジーナは、個人的な旅をLGBTQIA+コミュニティのための力強い物語へと変貌させ、真のアイデンティティとは型にはまったものに対する反抗の一形態であること、そして自分が本当に所属している場所とは共に走る仲間であることを証明した。

 

彼女の旅は、チーム・ブレイクのメンバーとして『ザ・ヴォイス』に出演したことでさらに形づくられた。グウェン・ステファニーの指導により、彼女は自分自身の中にあるユニークな真正性を発見する。



ノラ・ジョーンズのソウルフルな系統からスティーヴィー・ニックスの神秘的な魅力に至るまで、彼女が影響を受けた音楽は、若い頃から彼女の芸術性を形作った。彼女の青春時代、祖父母との家族のひとときは、懐中電灯をストロボライトにして踊り、その場しのぎのマイクに向かって歌うことに費やされ、後に彼女のキャリアに火をつける情熱の基礎を築いた。ジーナの活動初期は、自家製ビデオや即興パフォーマンスの渦中にあり、彼女の不屈の精神の証でもあった。


2024年にリリースされたヴェルヴェット・ルージュのデビューEPは、ジーナの魂を貫く直感的な旅である。「Lonely Since The Day We Met」の、愛したことのない人と一緒にいるという胸に迫る真実から、「I Don't Know Why」の、自分が何者なのか、何になるべきなのかわからないという深い葛藤にいたるまで、このEPは生々しく、率直な感情で共鳴している。尊敬するブライアン・マクティアーとエイミー・モリッシー(ザ・ウォー・オン・ドラッグス、ドクター・ドッグ、シャロン・ヴァン・エッテン)がプロデュースしたこのEPは、2000年代初期のロックと90年代の硬質なエッセンスを取り入れ、自分探しの葛藤と勝利のサウンドトラックとなっている。



ジーナの業界への復帰は、単なるカムバックではなく、革命だった。ヴェルヴェット・ルージュで、彼女は音楽界の女性が直面する制度的障壁に立ち向かう先頭に立ち、ステージ上でも舞台裏でも変化を提唱している。ローレン・シューラーがデザインした2023年のグラミー賞のドレスは、エレガンスと反骨精神の融合を体現し、ファッションを超越したステートメントとなった。



2022年末にフィリーのベスト・ロック・バンドに選ばれ、フィリー・スタイル・マガジンで「フィリーで最もホットなロック・バンド」として賞賛されたヴェルヴェット・ルージュの影響力は否定できない。


XPoNential Fest、MusikFest、Beardfestなどのフェスティバルでのパワフルなパフォーマンス、NPRのNational Public Radio DayやWXPNのFree At Noonでの特集は、ロック・ジャンルの先駆者としての彼らの役割を示している。



ジーナ・ゾーは、グラミー賞受賞プロデューサーのジャスティン・ミラー(ジャズミン・サリヴァン、ザック・ブライアン)とティム・ソネフェルド(アッシャー)を迎え、夢は現実よりも素晴らしいというロック・ポップ・バラード「Dirty Habits」をデビュー・レコードとファースト・シングルとして発表した。彼女は、愛、アイデンティティ、忍耐という生の真実をさらに深く掘り下げている。

 

LAに住む彼女は、一から料理を作り、シルバーレイク貯水池を散歩し、殺人小説に没頭することに癒しを見出している。(元彼を殺そうと企んでいるというわけではないことを約束しよう)

 

ジーナ・ゾーにとって、音楽はキャリア以上の存在である。若い女性たちが本当の自分を受け入れ、アイデンティティ、セクシュアリティ、キャリアにおいて自分たちを閉じ込めようとする型にはまることを拒絶するよう鼓舞するプラットフォームである。大胆不敵な芸術性と不屈の精神を通して、ジーナ・ゾーは、ルールを塗り替え、ポップ・ロック界の革命をリードしていく。

 

 

 



 

 

・Gina Zo: A Fearless Symphony of Identity, Rebellion, and Empowerment

 

Gina Zo, a powerhouse vocalist hailing from the suburbs of Philadelphia and now making waves in LA, is not just a rock-pop singer-songwriter—she’s a beacon of authenticity and empowerment within every performance, song, and beat. With her bisexuality boldly declared in her 2023 anthem “Faking It,” Gina has transformed her personal journey into a powerful narrative for the LGBTQIA+ community, proving that true identity is a form of rebellion against conformity and that the tribe you ride with is where you truly belong. 

 

Her journey was further shaped by her time on The Voice as a member of Team Blake, where Gwen Stefani's mentorship led her to discover a unique authenticity within herself—so profound that it brought her to tears after their first meeting, as Stefani challenged her to be more genuine.



Her musical influences, from the soulful strains of Norah Jones to the mystical allure of Stevie Nicks, shaped her artistry from a young age. Family moments with her grandparents in her youth were spent dancing with flashlights as strobe lights and singing into makeshift microphones laid the foundation for a passion that would later ignite her career. Gina’s early days were a whirlwind of homemade videos and impromptu performances, a testament to her unyielding spirit.



At just 18, Gina signed with an indie label in Philadelphia, where she soon faced the harsh realities of the music industry. Disillusioned by its darker side, she stepped away, only to feel an undeniable pull back to her true calling after a breakup that left her reaching for her lost identity. Reuniting with her original band, she forged Velvet Rouge, a rock band that embodies defiance and the pursuit of artistic freedom.

Velvet Rouge’s debut EP, released in 2024, is a visceral journey through Gina’s soul. From the haunting truth of being with someone you never loved in “Lonely Since The Day We Met” to the deep conflict of not knowing who you are or what you should be in  “I Don’t Know Why,” the EP resonates with raw, unapologetic emotion. 

 

Produced by the esteemed Brian McTear and Amy Morrissey (The War on Drugs, Dr. Dog, Sharon Van Etten), it channels the gritty essence of early 2000s rock and ‘90s grit, offering a soundtrack to the struggles and triumphs of self-discovery.



Gina's return to the industry was not just a comeback but a revolution. With Velvet Rouge, she’s leading a charge against the systemic barriers faced by women in music, advocating for change both on stage and behind the scenes. Gina’s focus is to champion young artists in all mediums: her 2023 Grammy dress, designed by Lauren Schuler, embodied her fusion of elegance and rebellious spirit, making a statement that transcends fashion. 



Honored as Best Rock Band in Philly in late 2022 and celebrated in Philly Style Magazine as "Philly's Hottest Rock Band," Velvet Rouge’s impact is undeniable. Their powerful performances at festivals such as XPoNential Fest, MusikFest, and Beardfest; along with features on NPR’s National Public Radio Day and WXPN’s Free At Noon showcase their role as trailblazers in the rock genre.


Gina Zo has unveiled her debut record and first single, "Dirty Habits", a rock-pop ballad all about how our dreams are better than reality, with Grammy-winning producers Justin Miller (Jazmine Sullivan and Zach Bryan) and Tim Sonnefeld (Usher). She has delved even deeper into the raw truths of love, identity, and perseverance. 

 

Living in LA, she finds solace in cooking from scratch, strolling around Silver Lake Reservoir, and immersing herself in murder novels (she promises she is not plotting to kill an ex). For Gina Zo, music is more than a career—it’s a platform to inspire young women to embrace their true selves and to reject any mold that seeks to confine them in their identity, sexuality, and career. Through her fearless artistry and unbreakable spirit, Gina Zo is rewriting the rules and leading a revolution in the world of pop-rock music. 



 Billy Nomates 『Metal Horse』


 

Label: Invada

Release: 2025年5月16日

 

 

Review

 

ビリー・ノメイツ(Billy Nomates)はイギリス/レスター出身のシンガーソングライター。 元はバンドで活動していたが、なかなか芽が出なかった。しかし、スリーフォード・モッズのライブギグを見た後、ボーンマスに転居し、再びシンガーソングライターとしての道を歩むようになった。そして再起までの数年間が彼女の音楽に不屈の精神をもたらすことになった。2023年には『CACTI』をリリースし、話題を呼んだ。

 

前回のアルバムは、当サイトではリリース情報を扱うのみだったが、今回は素晴らしいのでレビューでご紹介します。『Metal Horse』はビリー・ノメイツの代表的なカタログが登場したと言って良いかもしれない。『CACTI』よりも遥かにパワフルで、そしてセンチメンタルなアルバム。

 

『Metal Horse』は、ソロアルバムとしては初めてフル・バンドでスタジオ制作された。ベース奏者のマンディ・クラーク(KTタンストール、ザ・ゴー!チーム)とドラマーのリアム・チャップマン(ロジ・プレイン、BMXバンディッツ)が参加、さらにストラングラーズのフロントマン、ヒュー・コーンウェルが「Dark Horse Friend」で特別参加している。共同制作者も豪華なメンバーで占められている。

 

ビリー・ノメイツのサウンドはニューウェイブとポストパンク、そして全般的なポピュラーの中間に位置付けられる。そして力強い華やかな歌声を前作アルバムでは聴くことが出来た。もちろん、シンガーとしての従来から培われた性質は維持した上で、『Metal Horse』では、彼女の良質なメロディーメイカーとしての才覚が遺憾なく発揮されている。前作『CACTI』では、商業的な音楽が中心だったが、今作はビリー・ノメイツが本当に好きな音楽を追求したという気がする。それがゆえ、なにかしら心を揺さぶられるものがある。

 

このアルバムは、ニューウェイブ史上最も静けさを感じさせる。それは音量的なものではなく、耳を澄ました時、その向こうに浮かんでくる瞑想的な静けさ。そしてなぜ、静かな印象があるのかといえば、それは極力楽器や音符を絞り、音の要素を削ぎ落としたことに理由がある。

 

ボーカルもコーラスが入っているとはいえ、非常に洗練されている。そしてニューウェイブ風の作品でありながら、フォーク、ブルース、AOR(現代風に言えば、ソフィスティポップ)を織り交ぜ、個性的なアルバムが作り出された。そして、全般的にはシンディ・ローパーのポップソングに近い雰囲気に満ちている。もちろん、ローパーほどにはエキセントリックではないのだが、ノメイツの歌手としての個性が80年代のスターシンガーに劣っているとはいいがたい。

 

 

アルバムにはシンセサイザー、ギター、ドラム、ベースを中心にシンガーのパワフルなボーカルをバンドセクションで支えている。アルバムの冒頭を飾る「Metal Horse」ではノメイツのブルースを意識したボーカルに、ジョン・スクワイアを彷彿とさせる渋いギターリフが戯れるようにコールアンドレスポンスを重ねる。うねるようなグルーブを作り出し、オルガンのシンセにより三拍子のリズムを強調させたり、ボーカルの録音をいくつか入念に重ねたり、そして抽象的な旋律のラインを描きながら、見事な構造のポップソングを作り上げている。この曲の音楽は上がったり下がったりを繰り返しながら、徐々に余韻を残しながらフェードアウトしていく。

 

アルバムの曲を聴いていると、なぜかスタイリッシュなイメージを感じさせる。まるでノメイツは肩で風を切って歩くような勇壮なイメージをボーカルで表現している。「Nothin Worth Winnin」では規則的なマシンビートを背景に、シンセサイザーのメロディーと呼応するような形でノメイツは美しいハーモニーを作り出す。曲全体が波のようにうねり、グルーブを作り上げ、そして聞き手の心を和ませたり、時には勇気づけてくれたりもする。この瞬間、ビリー・ノメイツのソングライティングは個人的な感覚から離れ、共有される感覚という強固な意義を持つ。

 

 

今回のアルバムでは、前回よりもAORの性質が強く、それがニューウェイブやポスト・パンクの音楽に干渉し、聴きやすい曲が生み出された。続く二曲はその好例となりえる。「The Test」、「Override」ではいずれも80年代のドン・ヘンリーのような爽やかな音楽をヒントにし、それらを現代的なポップソングに置き換えている。これらは2020年代の感覚で聴くと、ややバブリーな印象を覚えるが、オーバードライヴのかかったベースやそれほど世間ずれしないノメイツの現実的なボーカルは、むしろ、ザ・1975、The Japanese House以降のロックやポップに慣れ親しんだリスナーにも共感を覚えるなにがあるかもしれない。音楽的には80年代やMTVの商業的なポップスのリバイバルであるが、ノメイツの歌は誰の真似にもならない。まるで自らの生き方を示すかのようなクールな歌声で、バックバンドと楽曲全体をリードする。

 

特に、素晴らしいのが続く「Dark Horse Friend」である。この曲は、ニューウェイブ・リバイバルの名曲と言っても過言ではない。このあたりは音楽的な蓄積が並み居るシンガーとの格の違いを見せつけている感じである。特に、このシンガーは繊細な脆さ、言い換えれば、センチメンタルでブルーな感覚をメロディーに昇華する術に長けている。イントロからニューウェイブ風の淡い雰囲気を持つシンセに馴染むようなムードを持つ巧みなボーカルを披露している。


しかもフレーズの繰り返しのあと、パーカッションだけでサビに持っていく。力技とも言えるが、この単純さがむしろ軽快さをもたらす。そして、そのサビに力強い印象を及ぼすのが、ヒュー・コーンウェルの渋いボーカルだ。彼のボーカルは、ノメイツと見事なコントラスを描き、「You're Dark Horse Friend」というフレーズを心地よくしている。その後のボーカルのやりとり、コーラスも息がぴったり取れている。コラボレーションのお手本を彼らは示している。

 

ノメイツはこのアルバムの録音において、強い決意を表明するかのように、勇敢なボーカルを披露している。それらが見事なバラードソングとして昇華されたのが「Life's Under」である。オルガンの演奏を背景に、エルトン・ジョン級の堂々たるソングライティングの腕前を披露している。その中で、ゴスペル、ブルースといった渋い音楽のテイストを添えて、いよいよビリー・ノメイツの音楽の世界は盤石となる。この曲は、徐々に精妙な雰囲気を増し、一分後半の箇所でのコーラスを交えたフレーズで最高潮に達する。非常に大掛かりな曲想を精緻に組み上げている。曲の後半では、三拍子のリズムが浮かび上がり、幻想的な雰囲気に縁取られフェードアウトしていく。かと思えば、一転して、軽快な楽曲「Plans」が続いている。曲の収録順にアップダウンやメリハリがある。まるで軽快にドライヴをするようなアップテンポで陽気で直情的なロックソングが紡がれる。80年代に流行したブライアン・アダムスのような軽快なロックソングを見事に受けつぐ。

 

 

 

アルバムの後半は、ビリー・ノメイツの趣味が満載で、とてもファニーだ。「Gas」はニューウェイブ/ニューロマンティック風の曲で、レトロなドリーム・ポップともいうべき曲である。ただ、やはり、ベースラインの強固さが際立ち、オーバードライヴの効いたファジーなベースがノメイツのボーカルと鋭いコントラストを形作る。そしてサビでは、むしろ典型的なメタル/ハードロック風のシンガーに変化する。EUROPEのような熱血な雰囲気を帯びた80年代のメタル/ロックソングへと曲の印象が移り変わる。かと思えば、「Comedic Timing」では精神的に円熟したシンガーとしての気配を見せる。一作の中で歌手としての性格を絶えず様変わりさせるのは、ムービースターさながらといえるかもしれない。この曲では、心あたたまるようなハートウォーミングな音楽性を垣間見させる。

 

 アルバムの後半でも、個性派のシンガーとしての性質が影を潜めることはまったくない。「Strande Gift」では、ブルースを下地にし、美しいポピュラーソングを作り上げている。しかし、あらためて、美しさとは何かといえば、丹念に制作に取り組んでいること、自分の真心から制作に情熱を注ぐこと、それ以外には存在しないのではないか。それがミニチュアや織物のように精細であるほど、あるいは、それとは対照的に、広大でダイナミックであるほど、人は大きな感動を覚える。それほど複雑な楽曲構成ではないし、難解な音楽理論も用いていないと思われるが、琴線に触れるエモーションが随所に出現する。過去を振り返るように、あるいは、現在を踏みしめるかのように、シンガーの人生のワンシーンが脳裏をよぎる。本作の最後の楽曲「Moon Explode」では、ノメイツが生粋のロックシンガーであることを暗にほのめかしている。

 

どうやら、このアルバムの真価は、理論や理知では語り尽くせないらしい。いや、果たして、良い音楽が単純な言葉や理論だけで解き明かせたことがこれまで一度でもあったろうか。良い音楽は、常に理知を超越し、我々の常識を塗り替えるような力を持つ。


ビリー・ノメイツの『Metal Horse』を聴くと、シンガーソングライターというのは、ある種の生き方そのものであるということがよくわかる。その姿を見ると、頼もしくなる。有為転変.......、苦しみや喜び、悩みとそれからの解放、優しさや労り、そのほか、人生にまつわる様々な感情を体験した歌手や音楽家にしか表現しえないものがこの世には実在する。それこそが『Metal Horse』の本質、あるいは魅力なのであろう。

 

 

 

85/100

 

 

Best Track- 「Dark Horse Friend」