Album of the year 2021 ーSinger-Songwriterー

Album of the year 2021 

 

ーSinger-Songwriterー 

 

 



 

・Angel Olsen

 

「Aisles」 jagujaguwar

 

 


 

通称、シンガーソングライターというのは、男性アーティストにしろ、女性アーティストにしろ、そのミュージシャンの個性、キャラクターがバンド形態よりはるかに色濃く出る場合がある。


そのことをこれまでの快作において示してきたのが、素晴らしい声量、そして伸びのある美しい歌声を持つ、ノースカロライナ州アシュビル出身のシンガーソングライター、Angel Olsenである。


エンジェル・オルスンは、ジョアンナ・ニューサム以降のフォーク・ロック、オルタナ・カントリーの系譜から登場したと言われていて、作品のプロモーションビデオごとに様変わりするド派手なキャラクターを演じるユニークなアーティストだ。


表向きの演出に加え、音楽性についても個性的であり、カントリー、フォーク、グラムロック、シンセ・ポップ、グランジ、1960年代から1990年代までの、幅広いポピュラー音楽を自由自在に縦断し、新鮮味あふれる未来のポップス/ロックの作風を、これまでの作品において展開している。そのスター性は、ミネアポリスサウンドの立役者Princeのド派手な雰囲気に近い、と言っても差し支えないかもしれない。

 

8月にjagujaguwarからリリースされたEP「Aisles」は、シャロン・ヴァン・エッテンとのコラボレートした名シングル「Like I Used To」に続く作品で、1980年代のクラシックソングのカバーで構成されている。


「Aisles」は、2020年の冬、アッシュビルのDrop of Sun Studioでレコーディングされ、エンジニア、Adam Mcdanielをと共に制作された一作である。


アダム・マクダニエルの妻のエミリーは、自宅を提供し、エンジェル・オルソンに実際の録音を始めるまで、様々な創造性と安心感を与えた。


その甲斐あってか、この作品は、全てカバー曲で構成されているが、シンセサイザーを介して自由性の高いアレンジメントが行われている。さらに、それに加えて、この夫妻とともに睦まじい時間を過ごしたエンジェル・オルセンの、のびのびとした歌声を全曲に渡って聴くことができる。


特に、オリジナル曲から想像だにできない独創的なアレンジが行われていることに注目である。その点については、作品中の一曲、「Gloria」についてのエンジェル・オルセン自身のコメントに共感を見出していただけるはず。



「クリスマスで家族で集まったときにはじめて、”Gloria"を聴いたのですが、皆が立ち上がって踊りまくっているのに驚きました。そこで、スローモーションで踊って皆が笑っている姿を想像してみたら、なんだか楽しそうで、実際にこんなふうにやってみようかなと思いついたんです」

  


 




 

 


・Sam Fender 

 

「Seventeen Going Under」Polydor



 


Seventeen Going Under  

 

 

サム・フェンダーは、イギリス、ノースシールズ出身のシンガーソングライター。


個人的にこのアーティストを何度か推すのは、ヴォーカリストとして高音のビブラートの伸びが独特であること、そして、歌詞についても、若者がぜひともいわなければならないことをまったく気後れなく歌っており、監視社会、フェイクニュース、セクシャル・ハラスメント、と、社会的な問題について、自分なりの考えを歌詞を通じて歌っているアーティストであるがゆえなのだ。


特に、今夏にリリースされた「Seventeen Going Under」はアルバムとして聴いても粒ぞろいの楽曲ばかりで聴き応えも十分といえるし、また、現代の歌手らしいメッセージ性溢れる傑作といえる。

表題曲の「Seventeen Going Under」は、イギリスのミュージックシーンの新たな象徴的な楽曲ともいえる影響力を持った一曲。国内の若者の苦悩に寄り添ったヒットナンバーのひとつで、サム・フェンダーは、社会全体の若者の苦悩を自らの体験に根ざし、明るい側面ではなく暗い側面をあるがままに見据え、それを秀逸なポップソングとして昇華しているのが見事である。


サム・フェンダーは、既にブリットアワードの批評家賞を受賞していて、UKの音楽評論家の評価についてはお墨付きといえるが、これから一般のリスナーにも、その楽曲の持つ良さが理解されていくはず。未だブリット・ポップというジャンルはイギリスに健在であること、そして、自分が気骨あるアーティストだと示してみせたのが「Seventeen Going Under」なのである。

 

これまで、サム・フェンダーがボブ・ディランやニール・ヤングといった大御所のサポート・アクトを務めているのには明確な理由があって、それは、UKの音楽シーンが彼に大きな期待を寄せているからなのだ。これから、世界で大きな人気を獲得しそうな雰囲気のあるアーティストとしても注目である。

 

 

 

 

 




・Courtney Barnett 

 

「Thinking Take Time,Take Time」Marathon Artists


 



Things Take Time, Take Time

 


Covid19のパンデミック、それに伴う社会的活動の制限という抜き差しならぬ問題は、私達一般の市民はもとより、アーティストにも何らかの行き止まりに突き当たらせ、そして、そこで、新しい考えに転換を図らざるをえなくなる契機となった。しかし、一方で、それは何らかの重要な教えをもたらすことでもあった。そのことを示すのが、オーストラリア、メルボルン出身のシンガーソングライター、コットニー・バーネットの最新作「Things,Take Time,Take Time」といえる。

 

コットニー・バーネットは、私達が日々直面する問題や障壁について、それほど重苦しく考えず、長く生きていると、そういった出来事もあるんだから、そのことについてそれほど重く思い悩む必要などない、気長にやっていこう、というメッセージをこのアルバム自体にこめているように思える。


それは表題にある通り、「なにかをなすのには長い、長い時間を要する」と銘打たれている通りで、バーネット自身が音楽を完成させること、アーティスト活動を通じて、物事がより良い方に向かうには、それなりの長い時間の経過が必要であることを熟知しているから。この作品で展開されるサウンドアプローチは、これまでのコットニー・バーネットの作風に通じるもので、Pavementを始めとする、1990年代のインディーロックに対する深い愛情が込められていて、それがゆったりして穏やかなローファイ感あふれるニュアンスと見事な融合を果たしている。

 

そして、この作品が、2021年に生きる、それから2022年以降を生きていく人にとってマストアイテムともなりえるのは、ひとつひとつの問題についてあまりにも現代の人はその瞬間にすぐさま解決へ導こうとしていて、それがそのまま社会の疲弊につながっているのはないか、ということにあらためて気が付かせてくれるからなのだ。偶には、時間にゆとりをもち、本当の意味でのゆったりとした時間を大切にすることが幸福に繋がる。

 

コットニー・バーネットの新作「Thinking Take Time,Take Time」は、なにも、おおそれた幸福ばかりではなく、目の前にあるささやかな幸せ、そういうものも尊いということにあらためて気付かせてくれる。


もちろん、そういった難しい問題を度外視したとしても、この作品の素晴らしさは、失われることはない。「Write A List Of The Things To Looking Foward To」を始め、インディーロックの名曲が数多く収録された2021年の隠れた傑作として挙げておきたい。

 

 

 

 



 

 

 

・Oscar Lang

 

「Chew The Scenery」 Dirty Hit



 


 Chew The Scenery [Explicit]

 

 


オスカー・ラングは、「インディーロック界の鬼才」とも呼ばれている、今最も注目するべきシンガーソングライターのひとりだ。

 

今年、華々しいデビューを飾ったばかりの18歳のイギリスロンドン出身のシンガーソングライターである。


サイケデリックをはじめ、ピアノポップ、ローファイ、多種多様なサウンドを自在にクロスオーバーした楽曲を、これまでに四枚のEPを通じて発表している。今まさにUKのミュージックシーンの中でもホットで話題性あふれるアーティストと言えるだろう。


オスカー・ラングのデビューアルバム「Chew The Scenery」は、ギターロックにノイズ性を交え、そこに絶妙なポップセンスが加味された作品で、あふれんばかりの創造性がこの作品には溢れ出ている。


もちろん、ノイズ性を徹底的に押し出したロックサウンドというのは、表面的にサイケデリック、いくらかアヴァンギャルドの色合いさえ併せ持つのだが、何と言っても、この作品を魅力的にしているのは、オスカー・ラングの天性のポップセンス、ブリット・ポップの時代を彷彿とさせるノスタルジア感満載の旋律を次々に生み出す、類まれなるソングライティング能力。それにくわえて、無尽蔵のはちきれんばかりのクリエイティヴィティを感じさせるギターの演奏の迫力にある。

 

2020年代のニューミュージックというべきフレッシュな音楽性を引っさげて台頭したユニークなシンガーソングライター、オスカー・ラングのデビューアルバム「Chew The Scenery」を聞き逃すことなかれ。UKロンドンのミュージックシーンにあざやかな息吹を吹き込んでみせた痛快な作品と呼べる。

 


 


 

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