Weekly Recommnedation Father John Misty 「Chloë and the Next 20th Century」


 

Father John Misty(J・Tillman)


ジョシュア・マイケル・ティルマンは、1981年生まれのファーザー・ジョン・ミスティの活動名で知られるアメリカ・メリーランド州・ロックビル出身のシンガーソングライター、ギタリスト、ドラマーである。

 

2003年に自身初となる公式アルバム「Untitled No.1」をリリース。この時点では、J・ティルマン名義でアルバムリリースを行っていた。その後、2010年までの約7年間で8枚の作品を発表した。2008年からはソロ活動を中断し、フリート・フォクシーズにドラマーとして加入する。

 

2012年には、フリート・フォクシーズのメンバーとして東京公演を行ったが、その後、バンドを脱退し、ソロプロジェクト、ファーザー・ジョン・ミスティ名義での活動に専念する。その後、J・ティルマンは2012年4月30日にアルバム「Fear Fun」をリリース、この作品でティルマンは最初の成功を収め、米ビルボード200に初登場123位にランクインを果たした。

 

FJMは、その後、順調にソロアーティストとしてキャリアを積み上げていった。2017年にアルバム「Pure Comedy」をリリースし、米・ビルボード200で初登場10位を記録。2018年6月に発表されたアルバム「God’s Favorite Customer」をリリースする。この作品もアメリカ国内で好評を博し、米・ビルボード・チャートで発登場18位を記録している。現在、イギリスとアメリカを中心に、世界で最も注目を浴びているシンガーソングライターである。

 


Father John Misty 「Chloë and the Next 20th Century」

 


             


 

Rebel:Sub Pop/Bella Union


Release:4/8 2022


Tracklisting

 

1.Chloë

2.Goodbye Mr. Blue

3.Kiss Me

4.Her Love

5.Buddy's  Rendezvous

6.Q4

7.Olvidado

8.Funny Girl

9.Only A Fool

10.We Could Be A Stranger

11.The Next 20th Century


Listen/Stream



「Chloë and the Next 20th Century」は、ファーザー・ジョン・ミスティの通算五作目のアルバムで、まさに、20世紀のブロードウェイ・ミュージカルを芳醇な音楽として2022年に復刻してみせた傑作と言えるでしょう。本作は、アルバムジャケットに表現されるとおり、モノクロの雰囲気、まさに、ジャズ・スタンダード、フォーク、チェンバーポップ、ボサノバと、FJMの音楽性の間口の広さを感じさせる作品で、それがノスタルジーたっぷりに展開されていきます。

 

2018年の「God's Favorite Customer」以来のフルレングスアルバムに取り掛かるにあたって、FJMは、2020年の春にアルバムの楽曲のソングライティングに着手しています。最初に「Kiss Me(I Loved You)」「We Could be Strangers」「Buddy's Rendezvous」「The Next 20th Century」と、アルバムの根幹となる楽曲を書いた後に、8月にスタジオ入りし、レコーディング作業を開始しています。J・ティルマンは、これらのテーマ曲を書いた後、アルバムの全体的な印象がどうなるのか念頭に置かずに、長年の制作パートナーであるジョナサン・ティルマンとともに、じっくりとスタジオアルバムの制作に取り組んでいきました。

 

ウィルソンの所有するファイブスター・スタジオで最初に2曲のアルバムの根幹をなす二曲のレコーディングが行われます。今回のアルバムでは、ブロードウェイミュージカルの色合いを強くするため、弦楽器、金管楽器、トランペットの対旋律のアレンジメントを力強く導入しています。サックス奏者のダン・ビギンズ、トランペット奏者のウェイン・バージェロンの楽曲アレンジは、ユナイテッド・レコーディングスのセッションで念入りに生み出されました。

 

アルバムの全体には、他の海外の著名な音楽メディアのレビューで指摘されていますように、二十世紀前半の古いモノクロ映画の色合いにまみれています。それに加え、20世紀のブロードウェイ・ミュージカルに感じられる華やかさが独特な化学反応を起こし、モノクロ的でありながら色彩的でもあるという相反する要素を持った作品です。

 

音楽的な観点から述べますと、ここには、FJMの長年の音楽上の経験や蓄積が一挙に放出されているわけです。それが、ニール・ヤングの「Harvest Moon」のアメリカらしいワイルドなフォーク音楽に回帰を果たし、その上にビートルズの「Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band」や「White Album」で見受けられるようなコンセプトアルバムの性質、オーケストラとポップを融合したチェンバーポップに対する深い憧憬が滲んでいるように感じられます。それが、FJMの俳優のようにアルバムの中で歌い手を演じることで、音の世界が緻密に構成されていき、重層的な連なりを作り、喩えるなら、そこにブロードウェイ・ミュージカルの舞台が組み上がっていくわけです。

 

また、さらに、驚くべきなのは、アルバムの楽曲を次々と進めるごとに、FJMは、一人のブロードウェイの舞台俳優を演じているのではない、ということにきっとこの音楽に触れた皆さんはお気づきになるかもしれません。彼は、時にシリアスな役柄を演じ、また、あるときには、ユニークな役柄を演じ、その他にも、性別を越え、21世紀と20世紀の間を音楽によって自在に飛び回るのです。これは、コロナパンデミック時代の束縛の強い、分離感の強い時代に生み出されるべくして生み出された傑作です。実に、本当に、本当に、素晴らしいのは、この作品において、FJMは、音楽という概念的手法を介して、人は、自由自在にどのような場所にだって行けることを、さらに、時には、過去にも遡りさえ出来るということを、軽やかに証明付けているのです。

 

84/100

 

 

            

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