New Album Review Jon Balke Siwan「Hafla」

 Jon Balke  Siwan 「Hafla」

 


Label:ECM

Release:April 22,2022


2007年の「Book Of Velocity」で、プリペイドピアノ、アバンギャルドジャズの金字塔を打ち立てたノルウェーのジャズピアノ演奏家ヨン・バルケは、次作「Siwan」からエキゾチックジャズの領域に踏み入れていった。

 

ソロアーティストとして発表した2007年の傑作「Book Of Velocity」は、ドイツのECMのレコードの屈指の名作として挙げられますが、このアーティストの全盛期を象徴するハリのある演奏力、アバンギャルドジャズの最高峰をこの作品で踏破したせいか、その後、ヤン・バルケはどちらかと言えば、シンセサイザー/ピアニストとして落ち着いた演奏を求めるようになり、楽曲としての世界観を最重要視するようになった。以後、バルケは、知性を探訪し、歴史学的な強い興味を持ち続け、付け焼き刃ではない最古の文明を、前衛音楽、民族音楽、モダンジャズと多彩な局面からアートとして表現しようと努めている演奏家です。

 

4月22日に、お馴染みのECMからリリースされたヨン・バルケの最新作「Siwan-Halfla」は、表題から察するに、2009年の「Siwan」の続編とも呼べるアルバムです。ここで、ヤン・バルケは、同レーベルの特色の一つ、2000年代に盛んだったジャズと民族音楽の融合に再挑戦しています。これは、エキゾチックジャズというような呼び名で親しまれていたもので、バルケが率いている音楽グループ、「シワン」としての五年ぶりの作品となります。このアルバムに収録されている歌詞は、何でも、ウマイヤ朝の王女、ワラダ・ビント・アル・ムスタクフィー、イブン・サラ・アス・サンタリニのⅩⅠ世紀の十一世紀の詩が取り上げられ、ゲストボーカルのマン・ブチェバクがイスラム情緒たっぷりに歌い上げる。「Halfia」は、2021年の5月から6月に掛けて、デンマーク・コペンハーゲンのVillage Recording Studioで録音が行われている。

 

このアルバム「Halfa」は、ポンゴ、ストリングス、ホーン、さらに、複数のアラビアの民族楽器のフューチャーしたイスラム情緒たっぷりな旋律の中、バルケはシンセサイザー奏者として音楽の世界を綿密につくりあげていく。それは一曲から作品世界が拡張されていくというより、複数の楽曲が組み合わさって、その世界を強固にしていく。全盛期の「Book Of Velocity」のようなアヴァンギャルド性こそ薄れているものの、熟慮に熟慮を重ねた知性あふれる演奏家、作曲家、音楽家としての慎重なバルケの表情が伺える。

 

そして、今作にゲストボーカルとして参加したマン・ブチェバクの歌というのも、語弊があるかもしれないが、イスラムのポエトリー・リーディングのような洗練された文学性の雰囲気がほんのり漂っている。イスラム文化におけるエキゾチズム性は、多くの人にとって馴染みないものであるが、その中には、中国、東洋の旋律的な特徴に似た性質が込められているため、ヨーロッパ(トルコ近辺をのぞく)のリスナーにとっては異国情緒を感じさせ、アジアのリスナーにとっては淡いノスタルジアすら感じさせる。また、中国の民族楽器、胡弓のような楽器が取り入れられているのにも注目である。

 

また、イスラムの民族音楽や文学性を引き継いだ楽曲が目立つ中、「Dailogo en la Noche」では、シワンというグループの命題であるアンダルシアの雰囲気が引き出され、ジャズソング風にアレンジされている。さらに、エンディングを彩る「is there no way」では、民族音楽とバラードの融合に挑戦しており、これが硬派な楽曲が際立つアルバムの中、ちょっとした華やかさと贅沢な安らぎを与えてくれる瞬間でもあります。他にも、イスラム、アンダルシアの民族音楽の特性を引き出した、複雑で前衛的なリズム性が引き出された楽曲が数多く見受けられる。そもそもジャズというのは、一つの型の踏襲であるとともに、音楽の持つ表現の可能性を無限に押し広げるためのジャンルでもあり、この作品は、そのことを象徴付ける概念が提示される。音楽集団として多国籍のルーツを持ち、各々が異なる音楽的背景や文化性を持つグループらしい独特な作風、エキゾチック・ジャズの入門編としても最良の一枚といえるのではないか。

 

(Score:82/100)